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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
移る。そして出会う。

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22/24

地に足つけて始めよう


「あーっ!!フリーゲン見て!家の横になんか出来てるよ」


 バサリと風を切る羽音と共に、ピコラの驚きに満ちた叫び声が聞こえてきた。



「お、丁度戻って来たな。おい、ピコラ!今から昼飯食うぞ!」


 マハトが、屋根の外側に顔を出し、ピコラを迎えに行った。


 アルプも立ち上がり、フリーゲンの元まで走っていった。



「あらやだわぁ、どんな子なのかと思っていたら、ずいぶんと可愛らしい、うさぎちゃんじゃないのぉ♡」


 ジェリコはピコラを見て、両手の拳を顎の下に添えた状態で、くねくねブニブニと全身の肉を揺らしている。


「ジェリコは、ピコラとは、会ったことはないのか?」


 もしも初めてなら、ピコラが恐怖で泣かないといいが……


「あの子には会った事ないわねぇ〜。アタシがここに上がってくる時は、マハトは別として、いつも誰もいないもの」


 マハトとは、やっぱり定期的に会っていたのかもしれないな?




「ジェリコ、初めてだよな?こいつはトビ族のピコラで、今あの家の持ち主だ。挨拶できてよかったな」


 マハトの後ろから付いてきたピコラは、ジェリコを見た途端、ガチッと固まった。



 ——だよな?子供にはちょっと怖いよな



 マハトに背中を押され、よろよろと一歩前に出たピコラは、


「も、もしかして、あの、半魚人のジェリコさんですか?!」


 ピコラは、固まった後、興奮したときと同じく顔を紅潮させ、キラキラした瞳でジェリコを見詰めている。



 ——待て、なんだその目は?



「ピコラは、ジェリコを知っているのか?」


 思っていた反応と、余りにも違ったので、俺は驚いてピコラに話しかけた。



「知っているも何も、ジェリコさんは"超有名人"だよ!!ボクの憧れの人だよ!」


 ピコラは、その場で足踏みをするくらい、そわそわと落ち着かない様子だ。



「憧れ?ジェリコを?」


 フリーゲンへの憧れといい、身体の小さなピコラはきっと、強さに憧れがあるのだろう。


 俺の中で、認めたくない気持ちと、なんとなく理解できる気持ちがせめぎあっている。




「あら〜ん♡ピコラったら、よくわかっているじゃな〜い!嬉しいけれど、初めましてのご挨拶が先よ?」


 ジェリコは、微笑みながらも、子供に対する教育は怠らないタイプのようだった。


「ハッ!しつれいしました!ボクはトビ族のピコラで、この家の継承者です。これからよろしくお願いします!」


 ピコラは頭を下げ、ちゃんと挨拶をした。


「はぁ〜い。よくできました。アタシの事は知ってるわよね『半魚人ラマンティーヌ』のジェリコよ。ピコラは可愛いから、ジェリたん♡って呼んでいいわよ」


 くねっと体を傾けて、ピコラにジェリたんと呼べと言っている……



 やっぱり、殴ってもいいだろうか?



「ジェリたん♡えっと……挨拶に抱き着いてもいい?」


 何とピコラは、果敢にもジェリコに抱擁をしようとしている。



「いいわよぉ♡いらっしゃい」


 ジェリコはブンと両手を広げ、受け止める姿勢になった。



 それを見たピコラは、勢いよくジャンプしてジェリコの胸(腹)に飛び込んだ。



「やったー!!わーい!ジェリたん、すごいふわふわだ~」


 飛び込んだピコラを、抱きとめたジェリコの肉がポヨンと波打った。



「んもぅ!ピコラったら、可愛いぃ!!これからよろしくね?あら、ユーちゃん。あなたもアタシとハグするぅ?幸せにするわよ♡」


 軽々とピコラを肩(首)に乗せたジェリコは、俺を見ながら片手を広げると、バチンとウインクをしてきた。


「ジェリたんは、すごくふかふかで気持ちいいよ!ユージンもハグしてもらいなよ」


 ピコラは無邪気にジェリコとのハグを進めてくるが、申し訳ないが考えたくもない。


 キッチンの中に入ってきて、俺の横で笑いをこらえているマハトにムカついた。


 肘を勢いよくぶつけてやったが、鍛え方が違うのか、全くのノーダメージだった。


「俺は間に合っているから、ピコラがジェリコにいっぱいハグして貰うといい」


 俺は、ピコラとジェリコを見るのを止めた。


 アルプに目を向けてみたら、丁度戻ってきて、席に着いたところだった。



「あれ?フリーゲンは?」


 さっきいた場所にフリーゲンがいない。飛んで行ってしまったのだろうか?



「いえ、ここにいますよ。フリーゲンもユージンのご飯が食べたいというものですから、小さくなって貰いました」


 アルプは、自分の隣を指さしているが、カウンターのせいでよく見えない。



「小さく?どういうことだ?」


 俺は、体を伸ばしてキッチンからカウンターをのぞき込んだら……



「ユージン、ゴハン、タベタイ、イイ?」


 カウンターテーブルに、高さ30cmくらいのフリーゲンがしっぽを振っていた。



「おまえ……小さいと、なんかめちゃくちゃかわいいな?」


 首をかしげた姿が、圧倒的にかわいかった。



「アリガト、ゴハン、イイ?」


 フリーゲンはそんな事よりゴハンらしい。



「いいぞ、皆と一緒に食べような?食べれないものはあるか?」


 火を噴くドラゴンて、普段何喰ってるんだ?



「ナイ!ナンデモ、ダイジョウブ」


 そわそわしているドラゴンに、心をもっていかれつつも、皆に料理をふるまう時間だ。


「マハト、はやく席に就け。料理を出すぞ」



 俺も、もう待ちきれないんだ!


 早く、皆に食べさせたい!



「ああ、すまない。でも、本当に手伝わなくてもいいのか?」


 マハトは、申し訳なさそうに訪ねてくる。


「大丈夫だ、慣れている」


 俺はニヤリと笑うと、ピコラとマハトが席に着いたのを確認した。



 ——営業開始だ。



 俺は、分厚いガラスのコップに、皆の飲み物を満たす。



 コトリ、コトリと、カウンターにドリンクを並べていく。



「ドリンクは、クリンウッド水になります。少々酸味がありますので、苦手であれば、砂糖をお入れします。お気軽にお申し付けください」


 料理の説明をし、次を出そうとしたら



「ユージン!カッコいい!」


 ピコラがパアアッ!と万遍の笑顔になった。



「おお、なんか、高級店に来たみたいだな」


 マハトは、少し姿勢を正した。



「なんと、自然な……やはりユージンは有能なのですね」


 ここに来てアルプから、尊敬のまなざしを貰えた。



「はは、仕事の顔ってやつですよ。どうぞゆっくりお楽しみください」


 なんだか気恥ずかしくて、営業モードのままで対応していたら、



「は~ん♡まさか、ユーちゃんがアタシの理想の王子様……」


 ジェリコが目を♡にして熱い視線を送ってきているが……無視だ。



「コレ、ウマイ、オカワリ、イイ?」


 そんな中、フリーゲンはマイペースにドリンクを飲んで、オカワリを所望した。



「大丈夫ですが、あまり飲みすぎると食べれなくなりますよ」


 そう言って、フリーゲンのグラスに半分だけ注いでやった。



「最初の品は、新鮮素材の直火焼きです。素材そのままの味を損なわぬよう、じっくり火を通しました。大変熱いので、お気を付けください」


 皆の前に、カニ、エビ、シビレマス、ドンパーチを、少しずつ盛りつけた皿を出した。



「4種の中に気に入ったものがあれば、お伝えいただけましたら、後に大きなままで、ご提供させていただきます」


 色々食べたい人と、お気に入りを食べたい人がいるだろうから、最初は味見だ。



「いや~ん!何よこれ!あたしの今まで食べていたものって何だったの?え?ゴミ?」


 ジェリコは直火焼きは気に入ったようだ。



「うーん、シンプルに旨いな。焼き方がいいのか?俺じゃこうはならんぞ」


 マハトは、うなりながら食べている。



 俺は、腹の底からこみ上げる気持ちに、思わず叫びだしたくなったが……



 まだ始まったばかりだと、ぐっと堪えた。



「……火加減の違いと、塩の塩梅かと思われますよ。後でお伝えいたしますね」


 俺は、皆のお皿の進み具合を見ながら、これだけで満腹になって貰っては困るので、次の皿を出した。



「お次の皿からが本日のお料理の本番です」



 ——さあ、楽しんでくれ



「こちら、ヴィアジのポタージュです。召し上がる前にドリンクで口内をリセットすると、味が混ざらなくなるのでお勧めですよ」



 真剣に魚を食べていた皆は、ふわりと漂う優しい香りに顔をあげた。



 焼き魚とポタージュなんて、基本的には、本来なら一緒に食べない。


 直火焼きは、料理を食べた事がないジェリコの為だから、今は気にしちゃだめだ。



「ふあ~」

「ほう?いいな」

「ふう、素晴らしい」

「ウマイ」

「はぁ~ん♡」


 皆うっとりしたり、目を閉じたり、身をよじったりと、表現は様々だ。



 ——そうだ、その顔だ。



 俺の料理を、食べてくれてありがとう。



「お次はメインの品と一緒に、2品同時にご提供させていただきます」


 俺は、大皿にワンプレートにして盛られた皿を、各自の前に置きながら


「こちらは、ガーリックスコンパリーレと、アルプ様からのご提供と、リクエストにお応えした、メインの品、シュトロームのクリームニョッキとなります」




 俺が料理を配膳した後は、会話をする者は誰もいなかった。




 誰もが真剣に料理に向き合って、大切そうに口に運び、恍惚として咀嚼し、飲みこむ事を惜しみながら皿の中が空になるまで、


 その行為は粛々と続き……


 なくなった後も、皆、魂が抜けたような顔をしていた。



 ——これ以上の幸せ、他にあるだろうか?



「デザートまでが、一連の流れとなります。一旦、お出ししてもよろしいでしょうか?」


 絶対皆まだ食べれると思うが、ここは、流れでデザートまで食べて欲しい。



「ああ、頼む」


 真っ先に意識を取り戻したマハトの許可を得て、皆の前にデザートを置いていった。



「こちらは、クリームレモンのアイスです。お口の中を優しく癒してくれますよ。冷たいので、少しずつお召し上がりください」



 目の前に提供されたアイスを見て、皆ハッとし、そっと、宝物に触れるように、アイスの器を手に取った。



 俺は、すべての料理を出し切ることが出来ただけで、満足で既に泣きそうだった。



「ふはあぁ……」

「おおぉ……」

「はふぅ……」

「ああ、もぅ♡……」

「グルグル……」


 皆揃って、頭を振ったり、口元を押えたり、目元に手を当てたり、やっぱり様々な動きをしている。



 それを見ることができて、俺は幸せだ。



 もう一度、ここから、地に足をつけて料理と向き合おうと、心から思えた。



 ——器は、もうちょっと考えなきゃだな。



 なんたって、木の小鉢だ。悪くはないけど、もう少しレパートリーが欲しいな。



 皆、それぞれ食べ終ったのに、いつまでも器をのぞき込んだり、味を反芻しているのか遠い目をしている。



「ユージン、素晴らしい料理の数々で幸せだった。こんなに美味い物を食べたのは、長年生きてきたが、初めてだ。ありがとう。本当に美味しかった」



 マハトが、代表するかのように、賛辞の言葉をかけてきてくれたから……



 俺の涙腺は、そこで決壊した。

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