魔法調理は命の危険が伴う
第一部は後2話です。
「……い、おい!ユージン!!」
誰かから、しきりに頬をペチペチと叩かれ、俺は目を覚ました。
目を開けると、俺は逞しくがっしりした腕に抱きしめられ、いまにも鼻が当たりそうな近さでマハトと目があった。
「……マハト、近い」
俺は、マハトの顔を思わず手で押し除けた。
マハトはかなり整った顔をしているとは思うが、俺は今のところ、男には興味はないので、近すぎる距離は、煩わしさしか感じない。
「ぐむっ、はぁーぁ、よかった。お前、今、魔力の使い過ぎて死にかけたんだぞ」
俺の手で、顔が歪むほど押さえつけられた状態のマハトは、安心したのか、拒否された事には一言も文句を言わなかった。
だが、発言が、聞き捨てならない。
「マジか、死にかけたのか?」
全く記憶にないが、危なかったらしい。
「はい、そうです。マハト様がポーションを強引に飲ませなければ、ユージンは今頃……注意事項の伝達が足りず、申し訳ありませんでした」
アルプが身を小さく縮こませながら、頭を下げていた。
「アルプのせいじゃないよ。俺が調子に乗っただけだ」
良く考えたら、生クリームの抽出の時、ごそっと何かが抜けた気がした。あれは、魔力が一気になくなったんだな……
「何か細かい作業でもしたか?」
マハトは真剣な表情で尋ねてきた。
そりゃ、死にかけたら理由が気になるよな?
「ああ、分離はちょっと難しかったな。なにせ初めてだし、上手くコントロールできなかったんだと思う」
そんな事より……
「マハト、そろそろ暑苦しい」
俺は、さっきからずっと、マハトの腕の中に抱擁されているんだが?
死にかけたわけだし、心配かけたのだからと、我慢はしていたが……
——さすがに、もう限界だ!
「ああ、すまん……あと……すまん」
マハトは謝りながら俺を離すと、気まずそうにそっぽを向いた後に、こちらに向かって頭を下げて謝ってきた。
「ん?マハトは何に謝ってるんだ?」
頭を下げているマハトを見ても意味が分からず、不思議に思ってアルプに尋ねてみたら
「わ、わた、私の口からはとても……」
と言って、なぜか顔を赤くしながら、両手の蹄で口元を押さえている。
——その行動が、全てを物語っていた。
「……分かった。大丈夫だ。医療行為ならば仕方がない。マハト、寧ろ済まなかった」
要するに……そういうことだろう。
「「ジェリコがいなくて良かった」」
俺とマハトは、同時に同じ言葉を口にした。
二人の心は完全に一致していた。
「ユージン、慣れるまでは、魔法を使うのは少しにしろ。魔力を含む物を毎日食べていれば、魔力の総量はいずれ上がるはずだ」
そう言って、マハトは無言のまま、アルプの頭に生えているツノをガシッと掴むと、森の奥へ向かった。
——アルプ、八つ当たりされるんだろうな
「さて、作るか」
アルプが不憫なのは、既に知ったことなので、気にしなくてもいいだろう。
「既に、食材の大まかな下処理が済んでいるから、後は順に火を通すだけだな」
鞄には魔法が施されているから、出来上がり次第、鞄に出来立てを保存できる。
「保温が効くとか、便利だよなぁ」
俺は、カニの太い脚の殻の表面を削り取った物を、グリルの上に並べた。
殻から覗いているカニの身は、みっちり詰まって見るからにプリプリしている。
「この足、めちゃくちゃ身詰まりいいよな」
カニの隣には、串打ちをしておいたエビと、魚に塩を振っただけの物を並べる。
「やっぱり新鮮なら、塩焼きは必須だよな」
複雑な味付けに慣れてないジェリコでも、塩焼きなら、きっと食べやすいだろう。
「よし、とりあえず次は、ヴィアジのポタージュだな」
鍋にオリーブオイルを回しいれ、シュクレルートの薄切りを投入し、透き通るまで気長にじっくり炒める。
辺りに、炒めた玉ねぎの香りが漂ってきた。
「裏ごし器はさすがにないよな。魔力は、今ならあるから……」
シュクレルートは、炒めてもタケノコのような食感が残るので、魔法でペーストにした。
そこにマッシュした芋も加え、低脂肪のミルクで伸ばし、塩胡椒で味を整えた。
「魔法で潰したから、再度裏ごしも必要なかったな。とりあえず、鍋ごとしまうか」
念のため味見をしてみたが、ちゃんと玉ねぎを使った時と同じ味になっていた。
ポタージュが完成したので、鍋ごとそのまま鞄に入れておく。
「次は、シュトローム(カニ)のクリームニョッキだな」
こちらは、倒れる前に粉と芋と塩を魔法で混ぜて、既にニョッキを形成してある。
「鍋の湯も魔法で沸かせるよな……やめとくか」
鍋にお湯を沸かすのは、コンロに任せることにした。
——また倒れるのはごめんだ。
「湯が沸く間に、さっさと次の作業だな」
オリーブオイルでカニを炒め、香りを出したら取り出す。
カニの身の味を知るために、一筋指でつまんで口に放り込むと……
ぷりぷりのカニの身から、うま味のたっぷりなエキスが口いっぱいに広がった。
「くあぁ!このまま塩振って食べたいなぁ!」
己の欲望を押さえながら、シュクレルートに甘味が出るまで炒めたら、ミルクを加えて温めて、塩胡椒で一旦味を整えて鞄にしまう。
「あいつら、どのぐらい食うんだろうな?」
隣の鍋で湯が沸いたので、片手間で大量のニョッキを茹でる。
浮き上がったら引き上げて、湯を切ったら、さっき鞄に入れたクリームソースの鍋を出し、そこにニョッキを投入。
「鍋自体が重いのか、ニョッキの量の問題か……」
マハトが用意した深めの大きなフライパンにたっぷりのニョッキはとにかく重い。
「はは、なんだか、給食のおばさんにでもなった気分だな」
本来はこんなに雑な管理で、しかも大量に作るような料理じゃないのはわかっている。
でも今の俺は、だからこそ背徳感があって、楽しいと感じてしまう。
「なんだか、料理を始めたばかりの時みたいな気分だな」
繊細さはないけど、ただ旨いものが作ってみたかった頃と、同じ感覚だ。
全体的にクリームソースがいい感じに絡んできたので、カニの身を戻して、軽く馴染ませて、フライパンごと鞄にしまった。
「次は、ガーリックスコンパリーレ(エビ)か」
要は、ガーリックシュリンプだな。
処理するときに、少し油断してしまい、一匹逃げられてしまったが、エビの下処理も全て済んでいる。
「ここの食材って、全体的に大きいよな?」
フライパンにオリーブオイルを引き、ニンニクとクリンウッドを入れて、軽く香りを出したら、エビを投入。
パチパチと弾ける音と共に、ニンニクとエビの香ばしい香りが飛んできて、どんどんと食欲を刺激させられていく。
「レモン汁は、食べる直前だな」
俺は、味見したいのをぐっと我慢して、これも出来立てのまま、鞄に入れる。
「串も、いい感じだな。くっ、このままつまみ食いがしたいな」
作業の合間に、焼き上がった串や、カニを鞄にしまいながら、追加の串も焼いていたが、これが最後の串だ。
最後に焼いた串を鞄にしまえば、グリルの上にはもう何もない。
「あ、そうだった」
俺は、生クリームを入れた鍋を取り出し、砂糖を加えて混ぜた後、鉄鍋を魔法で一気に冷やした。
イメージとしては、アイスクリームメーカーだけど、さらにもっと冷たくした。
「鉄鍋を触ると、手がやられるな」
エプロンを外し、分厚く重ねて、鍋を直接触らないように、注意深く混ぜていく。
周りが固まってきたら、泡立て器で剥がしながらぐるぐる混ぜる。
「結構、力がいるな」
混ぜ続け、塊が滑らかになったら、温度を少し緩ませて、レモン汁を加えさらに混ぜる。
「この位かな?」
若干シャリつくのは、ご愛嬌だな。
俺は、出来上がったクリームレモンアイスもエプロンごと鞄に入れた。
「下準備した食材は、全て使い切ったな。まあ、一旦は、こんなもんか?」
キッチンから出ると、マハトとアルプが寄って来た。
「ユージン、見てくれ!」
ニコニコなマハトが、腕を組んだまま、キッチンを指差している。
「キッチンがどうかしたのか?」
振り返ると、そこには既視感のあるカウンターテーブルが出来上がっていた。
「マハト、これ、さっきと違う……」
さっきは、質素な板だった。
「ああ、裏の森から持って来て作った。せっかくだし、オシャレにしてみたぞ」
満足そうに笑うマハトと、どうだ!と胸を張るアルプを見て、言葉に詰まっていた。
カウンターが、俺の店のカウンターと同じ
銀杏の木のカウンターになっていたんだ。
壁面は、ピコラのキッチンみたいに、モザイクタイルだけど、カウンターの色味が……
「……凄いな」
俺は、胸がいっぱいになって、気付けばカウンターを撫でていた。
「気に入ったか?」
マハトは、俺の雰囲気が気になったのか、静かなトーンで話しかけてきた。
「ああ、凄く気に入った。ここに並べるに相応しい料理を作らなきゃな」
胸の奥から、込み上げてくる思いがあった。
——また、このテーブルから始めよう。
「もう出来たなら、盛り付けるか?」
俺がカウンターを気に入った事に気付いたマハトは、配膳を手伝うつもりのようだが……
「いや、盛り付けは俺がする。皆が楽しく食べてる姿が見たいんだ」
——是非、俺の料理を楽しんでくれ。
俺がキッチンの内側に戻り、盛り付けのために皿やカトラリーの準備を始めたら
ダバジャーッ!
「たっだいまぁ〜♡お・ま・た・せ」
ジェリコが、水の中から丁度戻って来た。
周りに水が飛ぶ事に気を使ったのか、勢いを殺して上がって来たので、
彼女の登場は今回は控えめだった。
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