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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
移る。そして出会う。

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19/23

夢魔の羊は有能だった。

 以前は人の国の王城にも出入りしていたと、マハトは平然と話をしている。


 ジェリコはそれを聞いても、何も感じていないのか、そんな事よりも、彼女は目の前のキッチンに興味津々のようだ。



「……マハトはもしかして、城に出入りするのが当然の立場なのか?」


 俺は独り言を呟いたが、声が小さかったからか、誰に気付かれなかった。



 ジェリコは、キッチンを相当気に入ったのか、ペタペタとキッチンを撫でている。


「オシャレなキッチンって乙女の夢よねぇ〜♡ あたしたちの所でも作れないかしら?」


 乙女の夢だったらしいが……さすがに、洞窟内で火を使うのは無理じゃないか?


「ジェリコの棲家は、洞窟なんだよな?」


 それとも、この世界は魔法があるから、一酸化炭素中毒にはならないのだろうか?


 俺は、大丈夫な可能性があるのかと思って、確認をしてみようとしたが……



「お前たちの家は洞窟だろう?これは換気が出来ないところで使うと、死ぬぞ?」


 マハトは、自称乙女に対して、遠回しに否定する優しさなどは、持ち合わせてないようで、


 ジェリコの乙女の夢を、真っ向から木っ端微塵に打ち砕いていた。



 ——マハトは……色々と凄いな。



 こちらの常識と、ジェリコの扱いをしっかり覚えないと、俺、いつか事故りそうだよな?



「え〜そうなの?やだぁ怖ぁ〜い。それなら、やめておくわ」


 ジェリコは、マハトから現実を突きつけられると、あっさり引き下がった。


 基本的にジェリコ達は、丸ごと食べるから、キッチンは無くても問題ないのだろう。



「お前がここに来て作ればよくないか?作ったものを持って帰ればいい」


 マハトは、カバンの中から次々と、大きいサイズの鍋を取り出している。



 ——普段から鍋を持ち歩いているのか?



「確かにそうねぇ、ユーちゃん、コレ、たまに貸してね?」


 ジェリコはキッチンを使いにくるみたいだが、そもそも使えるのだろうか?



「……水生生物が、火を使えるのか?そもそも、傍にいても平気か?」


 余り良いとは思えないよな……


 ジェリコはさっきも助けてくれたし、少しくらいは恩を返さないとな。


「言ってくれれば手が空いている時なら、材料をくれたら作るぞ?」


 めちゃくちゃ沢山食いそうだから、材料を持ってきてくれなければ困るがな。



「まあ♡ ユーちゃんたら優しいわねぇ。んもう!好きになっちゃうわ〜」


 ジェリコは、拳を上下にハッスルしているので、弾むように体が揺れている。


 縦揺れのせいで着地する度に。顔まで肉がせり上がっては落ちている。



「それは……断る」


 本当は声を大にして言いたいが、マハト曰く繊細らしいので、小声で留めておいた。


 内容に変わりはない。



「あらぁ、振られちゃったわぁ。あたし悲しいから、追加で食材見てくるわね〜」


 そう言ってジェリコは、ヨヨヨと、泣くふりをしながら水の中に戻って行った。



 まだ食材の追加が来るらしい。



「マハト様〜!これは、こちらでよろしいでしょうか?」


 アルプが、短い脚でトトトトと走ってきて、マハトにポーチを渡している。


 もう帰宅の準備をしていたのだろうか?



「ああ、これでいいだろう」


 マハトはポーチの中身を確認して、満足そうに頷いた。


 ……次はいつ頃会えるんだろうな?



「ユージン、おまえの荷物で足りないものはないか、確認してくれ」


 先程アルプから受け取った、腰に下げるポーチを、マハトは俺に渡してきた。


「え、俺の荷物?」


 俺はポーチを受け取ると、5つ連なるポーチの中身を、それぞれ確認してみた。



 1のポーチ


 コックコート・エプロン


 2のポーチ


 鍋・レードル・キッチンハサミ・ろうそく・マッチ・保存袋


 3のポーチ


 砂糖・塩・小麦粉類・レモン100%果汁・ブラックペッパー・オリーブオイル・ワインビネガー・おろしニンニク・ホールトマト缶


 4のポーチ


 ヴィアジ・ランバグラス・ルーチェグラス・クリンウッド・ルレグラス・シュクレルート・クナール・ソリッド


 5のポーチ


 魔豚の燻製・シビレマス切り身・ドンパーチ切り身



 どうやらアルプがポーチに整頓したのは、俺の荷物と、ピコラの家にある食材のようだ。


 使いやすいようにと、種別ごとポーチに仕分けをした上で届けてくれた。



 ——思ったよりずっと、アルプは有能だな



「わざわざ持って来てくれたのか?分けてあるから分かりやすいよ。ありがとう」


 調味料も一式あるし、調理器具はマハトが準備しているから、すぐにでも開始できるな。


「借りた鞄を、汚さないようにしないと」


 どこに置こうかと振り返ったら、いつの間にかマハトは作業台兼テーブルまで作っていた。



「マハトは、随分作るのが早いな?鞄を返すから、一旦ここに荷物を出してもいいか?」


 作業台の上に、俺の大鍋を取り出した。



「ん?そのポーチならお前にやるよ。それなら、いちいち机に出さなくてもいいだろう?」


 マハトは、ポーチをくれると言うけど、確か空間魔法の鞄は、そこそこ良い値段なはず。



「本当に貰ってもいいのか?これって買うと、結構高いんじゃなかったか?」


 たとえ中古でも、俺に金はない。


 労働も、料理くらいしか出来ないぞ?



「確かに状態保存付きは高いが、使ってない予備用のだから構わんよ。ユージンは持ってないだろう?黙って受け取れ」


 マハトは、俺に気を利かせたのだろう。


 押し付けるような物言いをして、自身の鞄から木を取り出し、黙々と作業を始めた。




「……ありがとう。助かるよ」



 なんか、恩ばかりが重なっていくな……



 嬉しいけど、少し心苦しくなる。と考えていたら、袖口をクイクイと下に引かれ、視線を俺の腰に落とすと



「ユージン……コレも、使えるか?」


 アルプが、瓶に入っているミルクを俺に捧げている。



「こんなに沢山、いいのか?」


 4リットルくらいの大瓶を、3本抱えているアルプは、重たいのかぶるぶるしている。



「私の好物なんです。その、可能ならこれを使った料理が……」


 アルプは、物凄く遠慮がちに頼んでくる。



 ——何だか最初の印象と、随分違うよな?



 不備属性だし、アルプは基本的には腰が低いのかもしれない。



「わかった。任せてくれ。アルプは苦手なものはあるか?」


 俺は、アルプの震える手からミルクを受け取り、食べられない物があるか訪ねてみた。



「なんでも食べますが、強いて言えば……生野菜が苦手ですかね?」



 ——お前、羊だよな?



 全力で物申したいが、今じゃないよな。



「……分かった。出来るだけ希望に沿うようにするよ」


 腑に落ちないとは感じたけど、俺はとりあえず料理を開始することにした。



「パスタは、きっと、皆が欲しいよな」


 作業台の上に並んでいる鍋の中から、中ぐらいの、とはいっても結構な大鍋に、石芋をゴロゴロと入れ、水を求め湖に向かおうとしたら、



「ユージン、水は魔法で出せるだろう?」


 マハトに言われ、そういえば、ここは魔法の世界だったと改めて思い出した。



「……どうやって出せばいいんだ?」


 俺はコッソリ、マハトに尋ねてみた。


「ああ、わからなかったか。アルプ!ユージンに魔法の使い方を教えてやれ!」


 マハトが、大声でアルプを呼びつけた。



「アルプにバレないか?大丈夫か?」


 異世界人であることは、アルプには内緒だ。関わるとバレないだろうか?


「人間は、平民の場合、能力に気づかないまま過ごすこともある。と聞くから問題ない」


 そうなのか?じゃあ大丈夫か。


「マハト様、この椅子を使ってもよろしいでしょうか?」


 近寄ってきたアルプは、作ったばかりの椅子に手をかけ、マハトに確認をしている。


「ああ、でも、これだと倒れたらまずいか。ちょっと待てよ」


 マハトはそう言って、左手は椅子に触れたまま、右手でパチンと指を鳴らした。


 すると、椅子はぐにゃりと形を歪め、ポアっと光ったと思ったら、その椅子は、3人くらい座れるベンチに変化していた。



「は?形が変わったぞ」


 俺は手品でも見ているような気分だった。


 ——魔法だよな?不思議なもんだな


 手品もマジックって言うし、もしかして、マジックは本来は魔法だったのかな。



「さすがマハト様。相変わらず素晴らしい形状変化ですね」


 アルプがコツコツと蹄を合わせ、マハトに賛辞を送っている。



「あれ?アルプは蹄なのか?そういえば、その手でどうやって物を掴んでいるんだ?」



 形状変化も凄いが、アルプの蹄の作りも気になった。


 考えてみたら、不思議な事ばかりだよな。



「どうって……このようにですよ」


 アルプは困惑しながら、作業台の上にある泡立て器を掴んで見せてくれた。



「くっ、なんでそれで掴めるんだよ」


 よく見ても分からない。パッと見では、泡立て器が蹄にくっついていた。



「なんでと言われましても……見たままですが、何かおかしいですか?」


 これ以上、余計な事を言うのはダメか?


 言っていい事と悪い事の判断が難しいな。



「いや、器用だなと思っただけだ」


 アルプの蹄は、いつか、解明してみよう。



「さ、それよりユージン、ここに座って、いや、横になってください」


 アルプがベンチをポコポコ叩いている。


 やっぱり俺は、アルプのちょっと硬そうな蹄の音が気になって仕方がないが、我慢だ。



「……何で横になるんだ?」


 魔法の練習をするんだよな?と思いながら、アルプに言われた通り、ベンチに横になった。



「私は、夢魔です。あまり時間がないので、今から夢で、魔法の全てをお教えいたします」


 アルプの言葉を聞きながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。

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