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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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16/21

釣れたのは、半魚人ラマンティーヌ

 今にも湖に引きずり込まれそうだったアルプを、何とか保護し、今にも折れてしまいそうな竿を、マハトが持ち上げた。



 水面に、ゆらりと大きな影が上がってきた。



「……擬似餌の魔法で眠っているな」



 マハトが、頭を掴んでずるりと引き上げた。


 デッキに横たわるように置かれたのは……



「……半魚人だな」



 くるくるとした巻き毛のブロンド頭の魚人。


 閉じられた瞳を縁取るまつ毛は長く、水から上げられたばかりで、水滴を乗せている。



 ——つけまつげか?



 肌のキメは細かく、見た感じでは触れると、ムッチリと吸い付くような質感だ。



「半魚人……?」



 視線を下げると、豊満な胸元は、薄手の布に包まれ、布の先は首の後ろで、リボン状に結ばれている。



 デカいはデカいけど……



 さらに下がると、腰回りには、ヒラヒラしたオーガンジーの薄いパレオを巻いている。



 その先は……




「マハト、もう一度聞く。なんだコレは?」




 くびれもない。足もない。


 なんなら、首すら怪しい。


 ドテッと横たわる姿はまるで……




「あー、半魚人ラマンティーヌだな」




 マハトは半魚人と言うが、イメージと違う。


「半魚人?こいつの種族は本当に半分魚か?確かに足先?はヒレだが……」



 コレ間違いなく、魚じゃないぞ?



「問題はそれだけじゃない。マハト、これの性別はどっちだ?」



 胸周りより、腹回りの方が太い。



「おばさんか?いや、横と後ろが刈り上がってる……でも、まつ毛バシバシだし」



 俺には、おばさんぽいおじさんと、おじさんぽいおばさんの見分けは付かない。



 コレは、どっちなんだ?!



「多分、今は自称雌メス。間違えて扱うとかなりヤバい」



 マハトは困ったような顔をして、額を手で押さえている。




 自称メス?まさか、おネェなのか?!



「……了解」


 おネェを男と間違えたら……そら怒るわな



「コイツらは、雌雄同体だから、とりあえずはレディとして扱えば間違いない」



 雌雄同体?個人的思想の問題じゃないのか。



「コイツら?この個体だけの問題じゃないのか。そもそも種族的に、コレなんだな?」



 まさか、全員こんな感じなのか?



 俺は怖い物見たさで、バチバチのまつ毛に、真っ赤な唇の『膨らませたマリリンモンロー』みたいな魚人を見た。



「コイツらは、気分によって変化するんだ。だから同じ個体でも、タイミングによって、性別が違うのは当たり前なんだ」



 そんなに自由に変化するのか?



「なんか、ややこしいな」


 会う度に性別がちがうとか、扱い難いだろ



「だから、基本的にレディとして扱うのが正解だ。派手な見た目と違って繊細だぞ」


 そう言って、マハトは魚人の手に握られていた擬似餌をそっと外し、針で傷ついた怪我を、魔法で治していた。



「繊細ねぇ……」



 まあ、なんだ、ワガママボディを見る感じ、種族的にマナティが1番近いのか?



 人魚だっけ?それもどうかと思う。



 マナティのボディで、胸元を布で隠し、腰にはパレオを巻いているおネェ……



「絶対に魚じゃないよなぁ」


 コレを半魚人と呼ぶと、魚の概念が崩れるから、魚とは認めたくない。



「マハト、これ起こす?このまま、そっと湖にリリースする?」


 出来れば、お知り合いになる前に、リリースしてしまいたい。



「起こす。このまま戻すと、後から集団で文句言いにくるぞ」



 俺は、巨漢のおネェ集団に囲まれるのを想像してしまい、足がすくんでしまった。



「……コレ、どうすれば起きるんだ?」


 1匹でも濃いのに、沢山を相手にするのは、俺には絶対に、精神的に無理だ。


 勝手に起きてくれないかな……



「声を掛ければ、普通に起きるぞ」


 マハトは腕を組んだまま、魚人を見下ろして俺に伝えている。



「分かった……って、俺が起こすのか?!」


 何で俺?嫌だよ


「ユージンは今後、ここで釣りするだろ?起こすなら、絶対、お前の方がいいぞ」


 マハトなりに、先を心配してくれたようだ。


「あー、挨拶しとけって事だよな?まあ、お隣さんみたいなもんか」



 なら、仕方がないか……



「……もしもーし、大丈夫ですかー」


 諦めた俺は、頭の横にしゃがんで、首?肩?をペシペシ叩いてみた。



 ——半魚人の肌はモチモチスベスベだった。



 知りたくなかった……




「うぅ……うふん♡」



 ぶるんと、肉が躍動したのをみて、俺は本能的に恐れを覚え、立ち上がった。



「ねえ……やっぱり変わってくれない?」


 なんていうか……怖い


 コレは、起こしちゃダメな気がして、マハトとアルプに助けを求めてみたが



「無理だな」


「無理ですね」



 こんな時だけ、主従は仲良く、手を振り渋顔で拒否してきた。




「はぁ、おーい、起きろ、大丈夫かー?」


 俺は諦めて、立ったまま、おネェの半魚人に声を掛けた。


 肌に触れるのは、俺の心がダメだと言ったし、なんだか怖いので、やめておいた。




「うんん?……ハッ!」


 バチンと、フサフサまつ毛の目が開き、その瞳が、俺を捉えた。



 俺は後退り、さらに一歩下がった。



「え〜うそ!嫌だぁ♡貴方もしかして、アタシを助けてくれちゃったりしたわけ?」


 巨漢のおネェは、気怠げに状態を起こし、前髪を掻き上げ、くねりとシナを作りながら、上目遣いで、まつ毛をフサフサしてきた。



 あ、このタイプなら大丈夫か?



「あー、その、大丈夫か?」


 分かりやすく開放的で、あっさりした性格なら、多分付き合いやすいはずだ。



「大丈夫よぉ、ちょっと意識がなかったみたいだけど……あら、なんでかしら?」


 彼女?は眉間をギュンと寄せて、かなり迫力のある悪人顔をした。



 ——顔、怖っ



 余りの悪人顔に、さらに一歩下がった。



「ユージン、大丈夫だ。おいジェリコ、お前はまた擬似餌に釣られたんだよ。何度目だ?いい加減見分けろ」


 悪人顔を見て怯えた俺をなだめ、マハトが巨漢のおネェに話しかけた。



 マハト、知り合いだったのか……



 だったら、コイツを起こすのは、マハトでよかったよな?



「あら、やだーぁん。マハトじゃない。相変わらず、今日もいい男ねぇ。擬似餌?ああ、目の前にエビがいたから……つい♡」


 ジェリコは、小首を傾げたが、そもそも首がない。肉の中を、顔のパーツが移動しただけだった。



 マハトは、コレに触れたくなくて、俺に理由をつけて押し付けたんだと察してしまった。



「あなたは、一向に学びませんね」


 アルプがジェリコを見て、ウンザリしながらあからさまにため息をついた。



 ジェリコは、アルプが視界に入るや否や、急に雄のスイッチが入った。



 ——さっきまでと、目付きが全く違う?!



「あぁ?テメェこの羊風情が!マハトの枕だからって偉そうにしてると、丸焼きにして頭から食っちまうぞ!」


 ジェリコはアルプを掴むと、野太い声で、喋り方まで変わり、柄の悪いオッサンになった。



 なるほど、コレはかなりややこしいな。



 胸ぐらを掴まれ、ジタバタしているアルプを見ても、マハトは助ける気はないようだ。


 毎回、マハトに無視されて可哀想なので、俺は、アルプに助け船を出す事にした。



「初めまして、呼び方はジェリコさんでいいのか?俺はユージン、ここには昨日来たが、暫くはこの家にいるから、よろしく」


 まずはとりあえず、挨拶だけしておこう。


「まぁ!あなた優しいだけじゃなくて、紳士的なのねぇ、素敵だわぁ♡どっかのクソ羊とはえらい違いだわ」


 彼女?はアルプを掴んだまま、こちらを振り向き、クネクネした後、ジェリコは掴んでいたアルプを「フン!」と湖に放り投げた。



「あーーーぁ!」



 ぼちゃんっ




 ジェリコは軽く投げたのだろうが、腕力が強いのか、アルプは湖の中頃まで飛んだ。



「あっ、アルプ!ちょっ大丈夫か?!」


 羊って泳げたっけ?毛が水吸っても平気なのだろうか。



「まぁ、アルプは慣れてるから平気だな」


 マハトは気にせず、平然としたままだ。



 ——慣れてる?


 あいつ、そんなに水没してるのか……


 俺の中でアルプの不憫度が、また上がった



「2人はお友達なのねぇ?いいわぁ素敵な男が友情を育むだなんて……滾るわぁ」


 なんとも言えないねっとりした視線を向けられて、俺の肝がキュウっと縮こまった。



「マハト……なんとかして」


 さらに一歩下がり、マハトの後ろに逃げたかったのに、マハトも同時に下がったせいで逃げれなかった。



「あの状態のジェリコは……俺も無理だ」


 平然とドラゴンに乗る、強そうなマハトでも、ジェリコには太刀打ち出来ないようだ。



「うふん♡怯える姿もいいわぁ」


 ジェリコの妄想に晒され、怯えながら様子を伺っていたら、アルプが、ベショベショになって水面から上がって来た。



「アルプの毛が水を吸って潰れてる……」


 萎んでぺたんこになり、アルプは見るも無惨な姿になっている。



「全く、半魚人のくせに、私を水に沈めようなど、無礼にも程がある」


 アルプは目一杯ブルブルと体を振るわせ、羊毛にじっとりと含んだ水分を、ジェリコに向かって飛ばしていた。



「イヤン!ちょっとぉ、冷たいじゃないの!何すんのよもぅ」


 ジェリコは、顔にかかった水を手のひらで、ワイルドに拭いながら、文句を言った。



「問題ありますか?あなたが住んでる湖の水なので、お返し致します」


 アルプはフンと横を向き、魔法で羊毛を乾かすと、すぐにフワモコに戻っていた。 



「全くもぅ……そんな事より、ユージンちゃん。あなた、このお家に住んでいるのよね?トビ族じゃないなら、人間?」


 ジェリコは、この家がトビ族の物だと知っているようだ。



 ピコラも、コイツを知ってるのか?



「俺は人だが、この家の持ち主はトビ族だよ。俺は居候だな」


 食事を作るしか出来ないけどな。



「まぁ、居候なの?お家がないなら、アタシの家に来る?もてなしちゃうわよん♡」


 俺は足元から、忘れていた恐怖が這い上がってきて、思わずブルっと震えが来た。



「いや、俺は水中では生活できないから、遠慮しておこう」



 そう、俺は人間だ!!残念だったな!



「そうなの?残念ね」


 ジェリコはあっさり引き下がった。



 諦めが早くて助かる。さっきのも社交辞令が上手いだけだ……多分。



 まだジトっと見つめられているのは、


 人間が珍しいからだ。


 ……そうだよな?



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― 新着の感想 ―
Xの挿絵のインパクトが強すぎて私も釣られてしまいました。 まさか種族全体が巨漢とは……恐ろしい……。 二話先まで読みましたが、ジェリコとのやりとりと圧の強さに引き込まれました。 勝手なイメージですがア…
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