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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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15/21

深い湖は、お魚天国

 青空に仲良く旅立った、ウサギとドラゴンを見送ることで、俺たちはやっと釣りが出来る。



「竿は、随分シンプルなんだな?」


 マハトに渡された竿は、パッと見は、ただの細い棒だけど、竹のようなしなやかさがある。


 びょんびょんと振ってみると、質感は釣り竿そのものだ。



「この湖だし、疑似餌はコレを使うから、竿は何でもいいんだよ」


 そう言いながら、俺の竿にエビに似た疑似餌をつけてくれた。


「マハトがわざわざそう言うって事は、この疑似餌、なんか特別なのか?」


 見た感じ、エビっぽいだけで、なんていうか、雑な作りだ。


「これには魔法陣が付いてる。水に入るとエビそっくりな動きをして、魚が食いつくと針に変化する。その時、魔法で魚を眠らせるんだ」



 おお、魔法世界、凄いな……でも。



「それ、釣りしてて楽しいか? 魚との駆け引きが何もないよな?」


 こう、命の駆け引き的な熱い戦いが……



「ハハハ、確かに。遊びならこのエサは使わないな。これは純粋に魚が食べたい時と、子供が使うんだ。今日はあまり時間がないからな」


 確かに、言われてみればそうだな。


「マハトはこの後帰るし、のんびり遊んでる時間はないよな」


 そっか、もう帰っちゃうんだよな……



「アルプは暇つぶしに、さっきから普通の釣りしているぞ」


 マハトが指さす先を見ると、アルプは先程の一連の騒動の最中、あろう事か、主人を差し置いて一人で釣りを楽しんでいる。



 ……釣りをする、服を着た羊って、シュールな見た目だな。



「本格的だね。どうりで静かだったはずだな」


 アルプは自分用の竿を、一本床置きにセッティングして、一本は手で揺らしている。



「アルプ、何か釣れたか?」


 アルプの横にある水桶を覗くと、手のひらサイズの魚が5匹ほど既に入っている。



 ——なんて魚だろう?



「さっきまでは、入れ食いだったのですけど、バレちゃったみたいです。浅瀬の魚たちが戻るのには、少し時間がかかるかもしれません」


 そう言って、自分の竿を上げると、手早く仕掛けを取り換えている。



「そうか、元々中層狙いの仕掛けを準備したから、丁度良かったよ」


 マハトはそう言って、アルプを挟んで俺の反対側に腰を下ろした。


 3人で並んでデッキに腰掛け、足をぶらぶらしながら、湖を見ながら釣竿を下げていた。



 急に竿の先がギュンとしなり、手元にぐっと重さが感じられた。



「お、魚が来た」



 ——アタリすら感じないのか?


 コツコツと引いてる感じが楽しいのに……



 俺は、少し不満を覚えつつ、竿を立て、リールを回し、糸を回収する。



 ——魔法で眠っているから、動きもないな。



 ちょっとつまらんなと思ったけど、今は食材の確保が大事だ。普通の釣りはまた今度だ。



「ユージン早いな? お、こっちもきたぞ。なんだ? デカいぞ!」


 マハトも、魚がかかったみたいだ。


 大きいと言っているけど、どのぐらいなのだろう?と思っていたら、


 俺に釣られた魚が、水面から顔を出した。



「へえ、綺麗な魚だな。しかもいいサイズだ。27cmぐらいかな?」


 銀色に輝く魚は、光を反射すると中央に虹色に光るラインが見える綺麗な魚だった。



 糸を掴んで、釣った魚を眺めていたら──



「ユージン!それ、絶対素手で触るなよ。アルプ!!ちょっと変わってやれ」


 マハトが慌てて、アルプに指示を出した。


 俺は訳が分からなかったので、寄ってきたアルプに魚を竿ごと渡した。



「ねえ、この魚なんかまずいの? 鑑定してみていい?……鑑定」



 ▪シビレマス(ニジマスに類似)


 魚肉はピンクとオレンジのグラデーション

 ほんのり甘く、柔らかい。

 脂乗りが良いのに上品な味わい

 剣サーモンによく似ている



 ▫使い方


 煮ても焼いても燻製にしても美味

 浄化すれば生食も可能



 *備考


 鱗に魔法の針が出ている。

 素手で触ると神経毒により痺れます

 命に関わらないが、3日は寝込む





「うわぁ……やだなぁ」


 美味しい食材をゲットできて上がったテンションも、最後の備考を見てダダ下がりだ。


 やれやれと思い、マハトの魚はどうなったのかと、様子を見ると、



「うわっ、その魚デカいな!」


 ちょうど今釣り上げられたのだろう、空中に80cmはありそうなでかい魚が、振り上げられ浮かび上がっていた。


 落下してくる魚を受け止めるのは、かなり重たそうだなと見ていたら──




 ドゴッ!




 マハトは、アルプの背中に向かって、フルスイングで魚の頭を殴り飛ばしていた。



「ちょっ、マハト! 魚の頭、消し飛んだ!!」



 あの勢いで地面にぶつかったら、可食部が残らない!!と思ったが、



 ボフッ



「マハト様! 毎回、私をクッションにするのはおやめください!」


 アルプのモコモコの毛のおかげで、魚は頭以外は無事だった。



「これで良し。アルプ、それも下処理頼む」


 マハトは毎度アルプの文句を聞く気がないのか、追加で魚の処理を頼んでいた。


「マハト、なんで魚殴ってんだ?イラついたにしても、アルプを虐めるのは程々にしないと、可哀そうだぞ?」


 ぶつぶつ言いながら、背を向けて魚を捌いているアルプが、なんだか不憫に思えた。



「ん? まあ、鑑定してみろ。あの魚、中々面白い特徴だぞ」


 マハトはそう言って座ると、また釣竿を湖に垂らし始めた。




「鑑定」


 マハトに勧められたので、今処理されている、頭の吹き飛んだでかい魚を鑑定してみた。



 ▪ドン・パーチ(パーチに類似)


 淡白でクセがない

 低脂肪であっさりしている

 香りは控えめ。非常に食べやすい

 弾力のある白身



 ▫使い方


 オイルやバターとの相性が抜群

 煮ても焼いても美味

 浄化すれば生食も可能



 *備考


 水揚げしたら10秒以内に即座に殴る。

 気絶させなければ、名前のとおり爆発する





 だから、殴ったのか……


「……いや、おかしいでしょ」



 なんでこの世界の食材は、なんでもかんでもこんなに物騒なんだよ!!



「このサイズだと、貴方の片足くらいなら、簡単に持ってかれますよ」



 ——そんなに威力があるのか?!


 俺、セクシー大根に癒しを求めそうだ……



 アルプに左足をツンツン突かれ、想像して、思わずぞっとした。



「怖っ、この魚釣るなら、棍棒が必要だな」


 なんで釣りをするのに、命がけなんだよ……



 足元で魚を捌いているアルプを見て、俺は、ふと、あることに気づいた。



「なあ、お前、刃物一切使ってないよな?どうやってるんだ?」


 アルプは、道具を一切使わずに、さっきから魚を捌いていた。



「なんですユージン、魔法の使い方がへたくそですか? ちゃんと勉強しなかったのですね?」


 アルプは仕方がない奴だ、とでも言いたそうな顔をしている。



「アルプ!呑気に 喋っていないで、さっさと処理しろ! ユージン! ちょっとこっちに来い」


 珍しく大声で呼びつけてきたので、アルプに色々聞きたいことはあったけど、諦めてマハトのところに向かった。



「急に大声なんか出して、どうしたんだよ?」


 マハトは俺が近くに行くと、肩に手を回して声を潜めた。



「ユージン、今はアルプに、異世界人だとはバレない方がいい」



 ——え? なんで知ってるんだ?


 俺は体にぐっと力が入り、警戒しながらマハトの顔を見た。



「警戒しなくていい。朝のうちに、ピコラから聞き出したんだ。昨日能力を見た時点で、異世界人かもと予想はしていた。だから隠さなくても大丈夫だ」


 そうだったのか、気付いていたに、普通にいてくれたんだな……


「そうか、ありがとう」


 俺は体の力を抜いたが、今度は、マハトの腕に力が入った。


「俺はいい。でもアルプには、俺がいいというまでは異世界人だとは言うな。人間であることは既に理解しているだろうが、余計なことは言わないでくれ」


 マハトは、真剣な表情で懇願するように言ってきた。


「良く分からんが、異世界人だとバレなければいいんだな? ただ、俺は、この世界の常識がない。何が良くて何がダメだか分からないんだ」


 うっかり口走りかねない。


「その辺は大丈夫だ。アルプは実際に人間と関わったことはないから、何があっても押し切れば『人間はそうなのか?』としか思わん」



 あ、意外と簡単だった……



「分かったよ。でも気をつけるよ」


 この調子だと、マハトは、ピコラにも口止めしているんだろうな。


「ユージンに嘘をつかせるのは申し訳ないが、今だけ、少しだけ時間をくれ」


 マハトは申し訳なさそうに「スマン」と言って俺を解放した。


「こっちこそ、気を使わせてごめん。教えてくれてありがとう。最初に会えたのが、ピコラとマハトでよかったよ」



 ——本当に俺は運がよかったな。



「フッ、そう言ってもらえてよかったよ。こっちも俺を助けてくれたのが、ユージンとピコラでよかった」


 マハトはそう言って笑うと、俺の背中をポンと叩いた。



「そうだ! なあマハト、この湖ってどのくらいの深さがあるんだ?」


 知っていたら、今後魚が釣りやすい。


「ああ、この湖は地下深くで、海に繋がっているからな。かなり深くに糸を落とすと、そこには海水魚もたまにいるぞ。深さは……とにかく深いな」


 深さは、マハトにも分からないらしい。


「……とりあえず、かなり深いんだな」



 まあ釣るなら、今と一緒でいいか。



「そうだな深いな。ああ、あと最深部には魚人がいるから……」


 マハトが、なんだか聞き捨てならないワードを口にした時——




「いあー! マハト様ぁ! お助け下さい!!」




 アルプの固定していた竿に、大物の引きが来たようだが、アルプは身体が小さいから、今にも湖に引きずり込まれそうだ。




「「アルプ?!」」




 俺とマハトは慌てて走っていき、とりあえずアルプの毛皮を引っ掴んだ。

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