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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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13/21

お前は本来、食われる側だよな?

 俺を見下ろしているドラゴンの顔が、スローモーションで近づいて来る。



 ——せめて痛くありませんように



 そう願って、俺は諦めて目を閉じた。



 フシュー、グフグフ、フシュー


 ドラゴンは、いきなりガブリと齧りはせずに、念入りに俺の匂いを嗅いでいる。


 グフグフ、フシュー


 ——いっそ、一思いにやってくれ!!


 冷静になり、時間が経つほど恐怖が足元から駆け上がって来る。


 ガクガクと膝が震え、その場に立っている事が難しくなって来た時


「こらぁー、ダメだぞフリーゲン、そんなに鼻息を当てたら、相手が怖がるだろう」


 どことなく間が抜けた声が聞こえて来た。


 ……鼻息って


 俺はうっすらと目を開けてみたら


 俺の目前にドラゴンの鼻があり、その下には齧られたらひと噛みであの世行き出来る、立派な牙が……


 グフグフ、フシュー


「はわぁー……」


 牙を目にして、鼻息を顔に吹きかけられた事で現実味が増し、情け無い声を上げると同時に俺は腰が抜けた。


「おい!大丈夫か?」


 知らない声が聞こえて来たので、助けかと目を向けたら、ドラゴンの背中から、モコモコの服を着ている羊が降りて来た。


「……危ない。早く逃げて」


 大きな声を出したら、ドラゴンを刺激するかもしれない。


 俺は冷静かつ静かに、急いで逃げるように羊に伝えた。


 羊はトテトテと、俺に近寄って来ると


「人間、何を言っているのだ。このドラゴンは人は食わないぞ……多分」


 驚きの事実たけど……多分だと?


 一瞬、気を許しかけたが、多分と聞いて、俺のドラゴンに対する緊張感は再来した。


 ガチガチに固まっていたら


 ベロン、ガジ……


 ドラゴンに舐められ、甘噛みされ……


「ヒィッ!!」ドサリ


 俺はその場で気絶した。


 ***


 トストス、ドスドス、ドスドスドス


 痛い、何か固い物が俺を叩いてる……


「……い、おーい、死んだかー?死んだなら、このままフリーゲンに食わせるぞー」


 ……食われる?そうだ!ドラゴン!!


「生きてる!生きてるから、食わないで!」


 俺は、さっきから体に当たる牙のように固い物を跳ね飛ばして、慌てて飛び起きた。


「おーいー、起こしてやったのに、吹き飛ばすとか、ひどいんじゃないかぁ?」


 俺に吹き飛ばされた羊は、トテトテと俺に近寄って来ると


「人間、私の名前はアルプだ。マハト様はどこにいる?」


 と、偉そうに聞いて来た。


「マハトなら、部屋の中に……」


 俺が最後まで伝えるよりも先に


 ブルルルル!フシュ、バサッバサバサッ


 釣竿を手に家から出て来たマハトを見つけたドラゴンが、大興奮して鼻を鳴らし、羽を大きく震わせた。


「ユージン、お待たせって、おー、フリーゲンもう迎えに来たのか。ん?アルプも一緒なのか?」


 マハトは2人を見た後に、地面にへたり込んだ俺を見て


「こら、フリーゲン、お前は又人間を驚かせたのか?アルプ、お前が一緒に居たのなら、何をしていたんだ」


 マハトに叱られた2匹は、悲しそうにしょぼんと俯いている。


「マ、ハト、の、迎え、なの、か?」


 いまだに、さっきドラゴンに甘噛みされた、感触を忘れる事ができず、俺のメンタルは、既にボロボロだ。


「ユージン済まんな。フリーゲンは、ドラゴンだけど人間が好きなんだ。口下手だからすぐに戯れつくんだが……」


「……甘噛み、は、戯れ、ていたの、か?」


 俺はガクガクしながら、マハトに確認した。


「そのはずだよ。……フリーゲン、ユージンは俺の友達だ。驚かせたんだから、ちゃんと謝りなさい」


 マハトが、ドラゴンの鼻先を"ペシン"と弾き、謝罪を促している。



「グルル、グル、ゴメンチャイ」


 ——ドラゴンが!喋った!?



「え?ゴメンチャイ???」


 あれ?ドラゴンの威厳は?


「コラ!フリーゲン!なんだその言い方は!ちゃんと謝らんか!」


 アルプは、長い指揮棒のような物を振り回して、ドラゴンをピシピシ叩いている。


 わ全く効いていないけど。


「あ、あの、大丈夫だから、その、叩かないでやってくれ」


 羊がドラゴンを叩くだなんて、見てるこっちがヒヤヒヤする。


 丸呑みされたら、一貫の終わりだろう。


「グルル、ユジン、ヤサシイナ。アリガテ」


 ドラゴンは、ちょっと、言葉が下手くそな様子だ。


「この通り、フリーゲンは口下手だから、行動が先に出る。脅かして済まなかったな」


 マハトは、どうしたもんかと、困ったような顔をして謝っている。


「もう大丈夫だから、気にするなよ。言葉が通じるなら、怖くはない……か、な?」


 怖くないと聞いた途端に、フリーゲンは嬉しかったのか


 頭からアグっと甘噛み、いや、丸呑み?!



「ぎぃやあああああぁーーーー!!」


 俺は、パニックだ。


「こら!やめないか!!」


 マハトも、さすがに慌てている。


 フリーゲンの口腔から救出されると、ヨダレ塗れだったのでマハトに洗浄された。



「このバカドラゴン!やめなきゃ丸焼きにして、食っちまうぞ!!」


 羊が再度、指揮棒でペシンペシンとドラゴンを叩いている。



「……アルプ、お前は、食われる側だよな?」


 念の為、鑑定してみたら



 ▪️悪夢魔サキュバスの亜種 雄羊(食用種)


 家畜の羊肉と、さほど変わらない。


 ◻︎使い方


 香草と煮る

 余分な油を落としながら焼くと絶品。


 *食べすぎると、副作用で怠惰を招く



 この世界の使い方が載っているが……


 そうか、お前、食用種だったのか……



 何とも切ない気分になった。



「ユージン、アルプは種族はアレだけど、悪夢魔サキュバスとしての能力は、かなり高いからな?」


 マハトは、種族も理解しているようだ。



 ——悪夢魔サキュバスってなんだ?



「ただ、能力は高いが、コイツは食欲旺盛過ぎて、悪夢だけでなく、深層心理の負の感情まで食べてしまうんだ」


 マハトは苦笑いしている。


「それって、何かダメなのか?」


 そもそも、サキュバスって、エッチなイメージだったのに……



「アルプの術を喰らうと、夢見は悪いが、目が覚めると気分スッキリなんだ……」



 あー、羊が1匹、羊が2匹って感じかな。



「だからアルプは、俺の……えっと、そう、付き人なんだ」


 マハトは気まずそうに、目を逸らしながら、しどろもどろで教えてくれた。



「ああ、安眠枕の代わりかな?」


 もふもふだし、よく眠れそうだな。

 

「ユージン違うぞ!私の実力を知りたいのならば、お前の根底にあるネガティブも、ついでに根こそぎ食ってやろうか?」


 アルプは三日月型の目を細め、魔法で俺の内面を覗き込んだのか、ニヤリと笑うと


 ペロリと舌なめずりをした。

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― 新着の感想 ―
お付き?の人がいるマハト、何者!? 気になるー!
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