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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖


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12/21

俺を食うのはやめてくれ!

「……、……」

「……?……よ」

「……は、……だった……に……だ」



 ——なんだ?誰かいるのか?



 俺は目覚めそうなタイミングで、何かが聞こえた気がして、起きるために寝返りを打った。

 

 電気のリモコンを探して、目を閉じたまま、ベッドのサイドテーブルに手を伸ばすが



 スカッ、ゴツッ 


「イテッ」



 サイドテーブルのあるはずの場所には、何もなく、俺の手は空を切り、ベッドのフレームの角に手をぶつけて、痛くて目が覚めた。



 目を開けると、自分の部屋ではない。



 ……ここ、どこだ?って、そうか!!



 バッと勢いよく起き上がり、見なれない部屋の中を見渡す。


 部屋の中には、見慣れた電化製品などは一切なく、家具もシンプルな木製の机と椅子、今眠っている二段ベットだけだ。


「ぶっちゃけ夢だと思っていたけど、やけにリアルだったし、やっぱり夢じゃなかったか」


 自らこのベッドに入って眠った事も、しっかり俺の記憶にはあった。



「異世界に、転移していたんだっけ……」



 うさぎと大男と一緒に、よくわからない食材で料理したのは、夢ではなかったようだ。



「ま、楽しかったし、異世界もアリなのかな?」


 俺の言葉は、ひとりのまだ見慣れていない部屋に、静かに消えた。


「さっき聞こえていた声は、リビングにいるピコラとマハトの話し声だよな?」


 マハトは昨夜、血だらけになる怪我したばかりだから心配だったので、念のため一晩泊まってもらった。


 今日の昼過ぎには、迎えが来るらしい。


「……よし、朝ごはん作るか」


 とりあえず、今は何時なんだろう?と思いながら、リビングに向かうと


「あ!ユージンおはよう!」


 ソファにいたピコラが、ぴょんと立ち上がり、こちらを見て元気に挨拶をしてくれた。


「おはようピコラ。今、何時かわかるか?」


 この国は、時間の概念があるのだろうか?


 「……せめて、普段から腕時計を付けていたら、よかったんだよな」


 いつもは水仕事だし、時計をしたままだと、衛生的ではないから、プライベートの時以外、時計はしないから、無理な話か。


「時計?時計ならユージンの後にあるよ」


 ピコラが指差している場所を、振り返って見たら、3本の棒グラフのようなものが、壁に貼り付いていた。



「……9時20分か?」


 それぞれの棒は、時・分・秒だろうか?


 何となく予測をつけて聞いてみたら



「ユージンは時計がわかるんだね!」


 ピコラは「すごーい!」と言って、マハトがいるキッチンに向かって、俺の起床の報告をするために走って行った。


「2人とも、ずいぶん馴染んだな……」


 昨日、名前を名乗る時に微妙な空気だったけど、今はもう問題なさそうだ。


 「マハト、すまん、随分寝坊したようだ。今から朝ご飯作るよ」


 俺は、急いでマハトがいるキッチンに、足を向けたが、


「お、ユージンおはよう。お前に出すのは恥ずかしいが、良かったらコレ食ってくれ」


 早くから起きていたマハトが、先に朝食用にスープを作ってくれたようだ。


「ありがとうマハト。お前、料理はできたんだな……ミルクスープか?ハーブの香りと、魚かな?この野菜は何だろう?」


 見ただけでは、この世界の食材はわからないから、味の想像は全く付かない。


「昨日釣ったシビレマスと、シュクレルートのスープだ」


 ……痺れます?シュクレ?理解できんぞ?


 とりあえず、スープボールに入っている野菜を一口食べてみると


「ん、なんだこれ?しゃくしゃくして、甘くて美味い。食感はタケノコみたいだけど……玉ねぎみたいな味がする?」


 味と、食感がイメージと違うからか、脳内で理解が追いつかない。


 ただ、味は旨い。魚は、ニジマスか?程よい塩味のミルクスープは、優しい味わいだ。



「それはシュクレルートだ。こいつだよ」


 マハトが見せてくれた『シュクレルート』は、手足の生えた、セクシー大根みたいな形をしていて……



 ——なぜか、ジタバタ暴れていた。



「それは……なんだ?」


 野菜って、動物だったかな?



 セクシー大根は、頭?葉っぱを掴まれているからか、手?を伸ばしてマハトの手を掴もうとしたり、ブンと勢いをつけて足?で蹴ろうとしたりしている。



「何って、シュクレルートだな。こいつは土から抜いて日光に晒されると、暴れるし逃げる。ただ、逃げてもすぐ捕まえられるぞ」


 マハトがパッと手を離すと、セクシー大根はシュタッと着地するや否や、慌てながらダッシュで、開いている扉から外に出て行った。



「あ、逃してもいいのか?」


 走り去ったセクシー大根を見て、俺が呆気に取られていると、


「まあ、見てなって。ほら、行くぞ」


 マハトに促されて、一緒に外まで出て行くと



「あ……」



 シュクレルートは、手で体を支えながら、器用に足を使って、必死になって土に体を捩じ込んでいる最中だった。


「アイツは、土ならなんでもいいんだ。何なら暗くて包まれてさえいればいい」


 マハトからセクシー大根の習性を聞いている間に、上部まですっぽり埋まった大根は、葉っぱをわさわささせた後、満足したのか大人しくなり、微動だにしなくなった。



「……なんか、可愛いな」


 ……俺、アイツ調理できるかな?



「アレは魔力の影響を受けただけだから、人間の野菜と変わらんぞ。動き回るだけで、知能は全くないからな」


 そうなのか、知能がないなら大丈夫か?



「あれ?人間の野菜って……」


 マハト、もしかして、俺が人間だって……



「魔力を吸収して成長すると、野菜やきのこは何でか動き回るようになるんだ。きのこなんかは、かなり足が早いぞ」


 マハトは笑いながら、昨日からいろいろな事を、惜しみなく教えてくれているけれど……



 そっか、俺が人間だって事に、とっくに気付いていたんだな。



「マハトは……魔族なの?」


 お前は人間の……敵なのか?

 

 だとしたら、悲しいし、嫌だな



「ユージン、種族の違いは気になるか?」


 マハトはさっきと変わらず、優しい目をしたまま、こちらを見つめている。


「どうだろう?見たことない種族には、初めは驚くだろうけど、種族が違っても、とりあえずマハトはマハトだな」


 俺にとっては、いい奴だから、種族間が揉めていても、なんら関係ないな。


「俺には良く分からないけど、種族の違いとかよりも、本人との関係の方が大事だな。同じ人間だって、良い奴も嫌な奴もいるからな」



 なんなら、俺は嫌な奴の部類だったよ。



「ははは、ユージンはそう言ってくれる気がしたよ。ありがとう。今は、魔族と人間は敵対してるけど……皆、望んではいないんだ」


 マハトは、少し苦しそうな顔をした。



「魔王……だけが望んでいるのか?」


 余計な事は聞かないつもりだったけど、俺の中で、ピコラとマハトは、もう、大切な友人の位置に置いてしまったんだ。



 ——大切な話を、無視はできない



「ああ、そうだ」


 マハトは、低く唸るように肯定すると、どこか遠くを鋭く睨みつけた。



 ——睨んだ方向に、マハトの敵がいるのか?

 


 そういえば、ピコラも『望んでいない』と、マハトと同じこと言っていたな……



「いつか、皆が仲良くなれるといいな?」


 俺には何も言う権利はないけれど、マハトが寂しそうに見えたから、気休めだけど声をかけておいた。


「……そうだな。よし、迎えまで少し時間があるから、ユージン一緒に釣りでもするか!」


 マハトはパッと切り替えて、釣竿を取りに室内に戻って行った。


 俺は、その背中を見て、何とも言えない胸が締め付けられるような、熱く沸るような


 ただ、純粋に頑張れと言いたくなった。


「……俺も、頑張らなきゃな」


 俺はマハトの背中を見送った後、セクシー大根をもう一度引き抜いて、また慌てて土に戻る姿を観察していた。



 ——これ、ずっと見ていられるな


 セクシー大根の必死な姿に癒されていたら



「ユージン、何やってるの?」


 ピコラが呆れた顔をしながら、裏の畑から、様々な草を持って戻って来た。



「今から、マハトと釣りをするんだぁ!」


 さすがに、いい年した大人が、大根で遊んでいる姿を見られていたのは、恥ずかしかったので、俺は湖のほとりまで走って逃げた。



 セクシー大根同様、穴があったら入りたい。



 まぬけなセクシー大根の気持ちが、理解できてしまったことに、うんざりしてしまった。



 青空を溶かしたような、澄み切ったブルーの水に、陽の光を反射してキラキラと輝いている湖を、ボーっと見ていたら……





 辺りが急に暗くなり——





 ズズゥン!! グルルルル、フシュー、





 地響きと共に、足元が揺れた。


 低く唸るように響く音、


 生暖かい風を頭上から感じる……





 ——ヤバイ、絶対ヤバイ。




 纏わりつく空気から、明らかに捕食者が、俺の真上から見下ろしていることだけは分かる。



 ポタリ、ポタリと、捕食者のよだれが俺の前方に落ちて来ている。




 ——上を見た瞬間、喰われる。


 本能がそう言っている。




 ——どうする?




 俺が声を出せば、ピコラやマハトも危ない。


 俺が食われる間に、2人は逃げられるか?



 そんなことを考える自分に驚いた。



 でも、ほんのひと時だったけど、


 俺の料理を「美味しい!」と言ってもらえて心底嬉しかったんだ。


 俺は、2人が美味しそうに食べてくれた姿を脳裏に思い出した。



 ——もっと、いろいろ美味しい物を食べさせてみたかったな。



 俺はせっかく、仲良くなれたのにと、残念に感じながら、覚悟を決めて頭上を仰ぎ見た。



 そこには、映画でしか見たことがないような


 立派な爪と羽を持つ『ドラゴン』がいた。




 ——あ、これ、俺死んだわ

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