料理するのは命懸け?
俺はキッチンで、食料庫の棚の中にある物を片っ端から調べていた。
「せっかくなら二人に、もう少し、どっしりと腹に溜まるような、食べ応えのある物を食べさせてやりたいな」
棚の中から、食材らしき物を全て、作業台に取り出して見たけれど、
「やっぱり見ただけじゃ、わからないな」
品数はさほどないのだけれど……
「粉類があるのはいいが、薄力粉なのか強力粉なのかは、俺にはわからんぞ?」
さすがに、片栗粉と、コーンスターチは、質感が違うから分かる。
「コーンスターチも、コーンの絵が描いてなきゃ、片栗粉との違いはわからなかったかもな」
舐めて見た感じ、間違いはなさそうだ。
「パッケージにイラストがあれば、何となくわかるけど、この世界、見た目が違う事も多いから、気をつけなきゃ間違うよな」
とりあえず調味料ですら、片っ端から、味見してみるしかないのかもしれない。
「瓶詰めのラベルにある文字も、見た事ない文字だから読めないし……1人だと詰んだよな」
加工された物をパッケージで判断するより、もはや、葉っぱや草の方が分かりやすい。
「食材ならば、香りもあるし、かじってみれば大体分かる。まさか、熱で変化しないよな?」
魔物肉の、加熱すると見た目が変わるように、味も変わるなら、もうお手上げだ。
「いまのところ、ここにある香草類は、ローズマリー、ローリエ、バジルに香りが似ている物だけか……」
俺が知っている香草とは、色やサイズが異なったので、さっき、料理前に軽く香りだけ確認したので、今度は齧ってみよう。
ローズマリーに似た木は、さっき、削って使ったから、もう齧らなくても分かる。
ローリエに似た香りの葉っぱは、なんて言うか、ロール状に巻きついている。
「シナモンスティックみたいな見た目だな」
齧れば、青臭く独特な香りがし、苦味の中にピリっとスパイシーさを感じた。
「うん、香りも強いな。まんま同じだな」
違うとすれば、緑色な事くらいだ。
「本命は、この丸くて、端がフリルになっている葉っぱだな」
この味はよく知ったもので、ほんのりとした甘さとスパイシーさを感じる爽やかな香り。
——バジルは助かる!!
「俺は基本的に、バジルが好きなんだよな」
分からないなりに、味覚を使って調べていたら、鼻に抜ける慣れ親しんだ香りを堪能した。
出会いに感動し、心から神に感謝していたら
「ユージン、なんか困ってる?」
俺が感動に震え、微動だにしなかったので、ピコラが心配になったのか、食べ終わった皿を手に持って近寄ってきた。
「うん、ここにある物は、ほとんどが初めて見るし、味と香りで判断出来るのもあるけど、粉と瓶詰めは、文字がちょっとね?」
俺は、隠しても仕方がないので、ピコラには正直に文字などは分からない事を伝えた。
「そっか、じゃあ教えるね?メモいる?」
ピコラはおもむろに、鞄から紙束を取り出した。普段から、メモする癖があるのだろう。
真面目な子だな。
「いや、一度見たらわかるから大丈夫だよ」
ピコラが目を丸くしている。
「そうなの?ユージンすごいね!」
ログハウスに来て、初めてピコラに尊敬の目を向けられた気がする。俺は少しだけ、得意になって自慢話をした。
「俺、昔から食材だけは、一度見れば、味も香りも、特徴も忘れないんだ。特技といってもいい。ただ、他の事はまるっきりダメだけど」
特技があっても現実は……
話をしていて急に現実を思い出した。
だから仕事では……
いかん、余計なことは忘れよう。
「凄い!さすが料理人だね!」
ピコラに手放しで褒められたけど、結局店もダメにしたので、正直、俺は大したことないから、苦笑いしたい気持ちだ。
「とりあえず、今ある食材を教えてくれる?石芋みたいに扱いも教えてくれると助かるよ」
俺は、ピコラに片っ端から、今、棚にある食材類の特徴を聞いた。
いつのまにか、食べ終わった怪我人も、一緒になって、ここには無い食材のレクチャーもしてくれていた。
「そういえば、名前、なんていうの?」
話の最中、ピコラに名を聞かれた男は、一瞬躊躇して見せ、スッと目をそらしたが、何かを決意したように向き直ると、
「俺の名前はマハトだ。お前達の名前を聞いてもいいか?」
と、名乗ってくれた。
ボロボロになっていたし、もしかして、名前を言いにくい理由でもあったのだろうか?
「俺は、倉持遊人だ。よろしく」
余計な事に踏み込むのは気が引けるので、俺は名前を名乗り、後はピコラに任せようとしたら、ピコラが青い顔をしたまま固まっていた。
「ピコラ?どうした。お腹でも痛いのか?」
まさか、うさぎだからニンニクで中毒にでもなったのだろうか?
——食べ合わせが悪かったか?
心配になって、ピコラの顔をのぞいたら、
「……あっ、だ、大丈夫。ピ、ピコラ、です」
ピコラは下を向いて、しどろもどろになっている。
今更、人見知りなんてことはないよな?
もしかして、知ってる人だったのか?
「……ユージンとピコラだな……大丈夫だ」
マハトは、ピコラに向かって深くうなずくと、ピコラは、ふーっと息を吐いた。
そう言えば人間との争いの中、ピコラも逃げた末での行倒れだし、マハトも怪我をしていたし、何か関係があるのかもしれない。
「……ごめんなさい」
と、小さな声でマハトに謝っていた。
「あれは、仕方がなかった。お前のせいじゃない。気に病むなよ」
マハトとピコラは、小さな声で話をしてる。
俺の知らない世界の話だから、相手から話して来るまでは、余計な詮索はしないでおこう。
「薄力粉と強力粉で、パスタでも作るか」
教えて貰ったので、今ある食材を理解できたから、とりあえず料理をしよう。
俺は持ってきた大鍋に、薄力粉と強力粉を適当な量をぶち込んだ。
「状態保存があるなら、作れる時にたくさん作って保存しておこう」
俺は一心不乱に、ランバグラスを、包丁でひたすら細かく微塵切りにしていたら、
「何をしているの?」
話を終えたのか、気持ちを立て直したピコラが、横から顔を出してきた。
「これを、ペースト状になるまで、ひたすら細かくするんだよ」
と、伝えたら、
「ふーん、だったら……これ、使えるかも。薬草をすり潰すのに使うんだ」
ピコラは鞄を、ゴソゴソして、すり鉢とすりこぎを取り出して渡してきた。
「お!いいね、これがあるなら早いよ」
俺は、すり鉢の中に、刻んだランバグラスを入れて、ゴリゴリとすり潰し始めた。
「力仕事なら変わろう」
俺が、必死にすり潰しているのを見たマハトが、俺に替わってやってくれるらしい。
「……体は平気か?」
仮にも、マハトはケガ人のはずだが、
「なに、これくらいはなんてことないよ」
そういって、本当に何てことなく気楽にすりつぶしている。
「マハトのすり潰す動き、やたら早いな」
あっという間に終わりそうなので、俺は、急いで他の材料の準備をした。
水と塩とオリーブオイル。以上。
「ユージン、液体になったが……これはどのくらいやればいいんだ?」
即座にマハトに声をかけられ「液体?」と驚き、すり鉢を覗くと、見事に緑色のペーストが出来ていた。
「本当に早いな、これでいいよ。ありがとう」
俺は緑のペーストの中に、水と塩とオリーブオイルを混ぜ、粉の中に注ぎ入れると、ひたすら捏ねた。
俺の作業を、横から興味深そうにじっと見ているマハトに、
「やるか?」
と聞いてみたら、マハトは急いで手を洗っていた。
——あいつ、案外、ちゃんとしてるんだな。
「ピコラ、一緒にナッツを剥こうか」
名前を聞かれたあたりから、少し元気がなくなってしまったピコラに、声をかけると、
「どのナッツ?」
パッと気持ちを切り替えて、興味津々で俺に近づいてきた。
ナッツは3種類ある。
「種類は……わからんな。ピコラの知っているナッツはある?」
ナッツも他の食材同様に、あちらの世界と、見た目もサイズも全く違うから困る。
「これは、知ってるけど……」
ピコラは、なぜか恐る恐る触らないように、ひとつのナッツを指さした。
「これ?とりあえず割ればいいのかな?」
一見どんぐりのみたいな殻のナッツだ。
これなら簡単に割れそうだな、と思って手を伸ばしたら、
「ダメ!危ない!」
咄嗟にピコラのツタが下から出てきて、俺の手を一瞬で巻き取り、動けなくなった。
「っびっくりしたぁ……急にどうした?」
いきなりツタに巻き付かれ、全力でピコラが止めてきたせいで、俺の鼓動は今ドキドキしている。
「ユージン、すまん!処理してから渡せばよかったな。そのナッツは、普通に剥くと爆発するんだ」
マハトも慌てながら寄ってきて、さらっと、とんでもない事を口走っている。
「怖っ!爆発?魔法食材ヤバすぎる」
巻きついていたツタが外れたけれど、もう怖くてナッツは触れない。
「それ、最初に火魔法で炙ってから剥くんだ。ボク、火魔法は苦手だから、ごめん」
ピコラは責任を感じたのか、しゅんとしょげてしまった。
「ピコラ、それならマハトと交代してくれる?あれは、こねるのにちょっと力がいるから大変なんだ。頼むよ」
俺はピコラを頼って仕事をお願いしてみた。
ピコラは、ウキウキしながらマハトから説明されて、生地をこねる役を交代していた。
「なんか、却って済まないことをしたか?」
マハトは、少しだけ申し訳なさそうだ。
「いや?教えてくれてありがとう。もしかして、他の食材も間違えると危険なのか?」
さっき、ある程度の食材の、下処理のやり方は聞いたけど……
「ああ、大概の食材が間違えると爆発するか、電流で痺れるな。刺すやつもいるし。危険が少ないヤツは、基本逃げるか消えるぞ」
大概が問題だらけだと?!
「ちょっと待て!食材の下処理だけで、どんだけ危険なんだよ!!」
俺、この世界で生きていけるかな?
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