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① 教室からプールサイドへ

外からセミの鳴き声が響く中、授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。教壇には、清楚な雰囲気を醸し出す女性教師が立っている。彼女は紺色のタイトスカートに白いブラウスを着こなし、高身長で色白な肌を持ちながらも、力強さを感じさせる引き締まった体形だ。真っ黒な髪は肩に届く長さで、毛先には自然なウェーブが施されている。彼女の後ろにある黒板には、先ほど熱心に解説した古文の内容がしっかりと書かれている。外からはセミの声が聞こえる中、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「はい、じゃあ、これで今日はおしまいねー」

女性教師は、生徒たちが礼を述べるのを見届けると、教科書を優雅に手に取って静かに教室を後にした。

「上村せんせー」

彼女が廊下を歩いていると、先ほどの教室から男子が追っかけてきた。

「授業の、この部分の訳が分からなかったんですが…」

「ここはね、いみじき、が素晴らしい、って意味だから…」

上村先生は畳みかけるように丁寧に説明を続けた。男子生徒は理解し、感謝の言葉を述べた。先生はそのまま職員室に戻り、自分の席に着くと教科書などを置いて、机の上を軽く片付けた。それから今度は、机の下からメッシュのナップサックを手にして、また職員室を出ていった。

「上村先生、今度は水泳の授業ですか。ご苦労様です」

通りかかった女性教員が声をかける。

「はい、そうなんです。今日は特に暑いから、みんな楽しみにしていると思いますわ」

と上村先生は応じた。そのまま廊下を進み、職員用の更衣室に向かっていった。更衣室の周辺は植え込みのせいで日陰になっているうえに、人通りも少ないこともあり静かだ。上村先生が更衣室に入りって扉を閉めると、また静寂が戻った。

しばらく経つと再び扉が開かれ、上村先生が姿を現した。彼女は上下ともにジャージ姿で、鮮やかなオレンジ色の生地がまぶしく輝いていた。上着の袖部分やパンツのサイドには、目を引く白のラインが二本走っており、そのデザインが、彼女が元から持っていたスポーティな体型を一層引き立てていた。セミロングの黒髪はスポーティなバスケットハットで軽やかにまとめられていた。

ジャージのパンツの裾から覗く素肌は白く、足元には軽やかなサンダルが履かれている。片方の腕には清潔感のある白いバスタオルを抱え、もう一方の手にはファイルとポーチをしっかりと握りしめている。そのまま屋外にあるプールへと向かっていった。

彼女の名前は上村聖子。この高校で務めている教員だ。専門教科は国語であり、本来は体育の教師ではない。しかし先日、水泳を担当していた加納先生が怪我でしばらく授業ができなくなった。そこで、聖子は高校時代に水泳部に所属していたことから、臨時でその授業を任されることになった。こうして彼女は7月から学期末まで水泳を教えることとなったのだった。

 校庭に出た聖子は、眩しそうに上を見上げた。雲一つない青空の下に夏の暑い日差しが降り注いでいる。こんな時間帯に校舎の外に出ることは、普段は教室で授業をしている聖子にはめったにないことだった。屋外プールの入り口には、聖子が本日担当する1年5組の生徒たちがすでに集まっている。彼らはすでに紺色のスクール水着に身を包み、楽しげな雰囲気を醸し出していた。

「みなさん、授業が始まりますよ! 集まってー」

聖子が声をかけると、生徒たちは彼女の元に集まった。

普段の教室では、制服を身にまとった女子たちが見慣れた光景を作り出しているが、今、目の前に広がるのは全員が同じデザインの紺色のスクール水着を着用し、白いスイムキャップをかぶった姿だ。この新たな一面を目にした聖子は、思わず驚きの感情が湧き上がる。そして、逆に自分自身の姿に少しばかりの恥じらいを感じることになった。だが、生徒たちはそのようなことには全く気を留めず、楽しそうに笑い声を響かせていた。

「今日から1学期の終わりまで、私が皆さんの水泳の授業を担当します。どうぞよろしくお願いしまーす!」

聖子は明るい声で挨拶した。すると、生徒たちも一斉に「よろしくお願いしまーす!」と元気に返した。お互いに女子ということで気軽な雰囲気が漂い、すぐに打ち解けた。

「わあ、先生、まるで本物の水泳コーチみたい!」

中村歩美が思わず声を上げた。普段は教室でスーツをきっちり着こなしている聖子が、今日は夏の太陽のように鮮やかなオレンジのジャージを着ているのが印象的だったのだろう。聖子は心からの笑みを浮かべながら、

「ありがとう、歩美さん。皆さんの泳ぎが少しでも上達するように、私もがんばります」

と力強く返した。 

「ねえ、聖子先生、どうして水着じゃないの?」

と今度はスイミングクラブに通う野口美晴が尋ねてきた。

「先生は泳がないんですか?」

と美晴と同じクラブの北野弥生も興味を持って声を掛けた。

「私は泳ぐつもりはないわ。だってみんなが楽しむために、サポートするのが私の役目だから」

と聖子はしっかりとした口調で言った。

「でも、先生、ずいぶん大きなタオル持ってますね」

隣に立っている京塚咲良が、不思議そうな表情で問いかけた。

「これは日差しから身を守るためのものなのよ。プールサイドで焼けてしまわないようにね」

と聖子は軽やかに応じた。京塚咲良は「なるほど」と頷きつつも、片手に握ったポーチに視線を落としていた。その時、授業開始を知らせるチャイムが高らかに響き渡ったため、聖子は話題を切り替えた。

「さあ、プールへ行きましょう!」

聖子は、スクール水着の生徒たちを引き連れ、プールへと足を運んでいった。まずはコンクリート製の階段を一段一段上がり、その後にゆっくりと降りると、目の前に広がるのはまるで青い宝石のように輝く大きなプールだった。太陽の光を受けて水面がまぶしく反射し、生徒たちの嬉しそうな声が鳴り響く。聖子の心も、そんな期待感で高揚していくのを感じていた。

「さあ、整列してね。皆、水に入りたい気持ちは分かるけれど、まずは準備運動を始めましょう!」

と聖子は生徒たちをプールサイドに並ばせ、動きやすくするために間隔を空けさせた。彼女はホイッスルを口にくわえてリズミカルに吹き鳴らしつつ、両手を広げて軽やかにストレッチの指導を開始した。

「まずは、腕を大きく回してー」

彼女の声が響き渡る中、生徒たちも一斉に動き出し、プールサイドには活気が満ち溢れていった。

「次は手首・足首をよーく回してー」

聖子の指示に従い、生徒たちはしっかりと体をほぐす準備運動を行っている。運動がひと段落すると、聖子は生徒たちをシャワースペースへと導いた。まずは聖子が蛇口をひねる。すると、一斉に水が勢いよく噴き出し、心地良いシャワーの音が周囲に広がった。生徒たちはその音に興奮し、歓声を上げながら降り注ぐ水の下へと駆け寄る。

「冷たいー!」

と女子生徒たちは楽しげに叫び、笑い声を交えながら、黒髪を濡らしつつ水着の腹部や足先にまで水が滴り落ちていく様子が、まるで夏のひとときを彩るように映し出されていた。

「しっかりと体をしっかりと体を洗ってから、プールに入るのよ」

と聖子は言った。

シャワースペースから出てきた生徒たちの水着は、しずくが光を受けてキラキラと輝いていた。待ちに待った本格的な水泳がついに始まる。しかも今回は、いつもの体育の先生ではなく、上村聖子先生だ。生徒たちはオレンジ色のジャージ姿の聖子の前に、最初の時のようにプールサイドに整列した。

「さて、みんな準備はいいですか?」

聖子は生徒たちを見渡しながら、明るく声をかけた。生徒たちは期待に満ちた表情で頷く。

「まずは、水に慣れるために、前列から順番に入って、ゆっくりと歩いてみてください」

と聖子は指示した。生徒たちは興奮しながらプールに足を踏み入れ、冷たい水に触れるたびに歓声を上げた。「楽しい!」

と声を上げる生徒たちの笑顔を見て、聖子も自分が担当することができてよかったと思った。

 全員がプールでの歩きを一通り終わると、次のステップに入る。

「今日は、バタフライの練習をします。まず、腕の動きから説明するわね」

聖子は生徒たちを見つめ、集中した表情で続けた。

「バタフライの基本は、両腕を同時に大きく回すことよ。まず、前に伸ばしてから、外側へ広げるの。しっかりと水を掴むイメージでね、こうやって、腕を大きく回すのよ」

と言いながら、プールサイドに立った聖子は実際にやって見せた。腕にフィットしたジャージの白い二本のラインが、その動きに合わせてしなやかに動く。

「それから息継ぎをするときは顔をそれから息継ぎをするときはこうやって顔を上げて、しっかりと空気を吸ってね,ぱっとあげる」

動きを強調するように、顔を上げてみせる。

「この時、首の動きも大事よ」

と言いながら、聖子は自分の顔を左右に動かした。生徒たちも同じように、腕や顔を動かしてみる。

「じゃあ、実際に水の中に入って練習してみてー」

生徒たちは、水中に飛び込み、バタフライの動きを試みる。水しぶきが上がり、彼女たちの歓声が響く。聖子はプールサイドからその様子を見守りながら、指導に集中していた。

「そう、もっと大きく動かして! 水を感じて!」

と声をかける。生徒たちは少しずつコツを掴み、楽しそうに泳ぎ続けた。

「さあ、次はペアになって互いにフォームをチェックし合ってくださーい」

聖子が指示を出すと、生徒たちは好き好きにペアを組み、プールに飛び込んでいった。聖子はテントの下のベンチに腰を下ろした。しばらくすると、ペアになった生徒たちの元気な声が響き渡った。水中で互いにフォームを確認し合い、時折笑い声も交じる。

「先生、わたしたちのフォーム、どう?」

野口美晴が水中から声を上げた。聖子は微笑みながら、しっかりと目を向けた。

「とてもいいわよ、美晴さん! 腕の動きがしっかりしてる。でも、もう少し顔を上げて息継ぎをするともっとよくなるかも」

美晴は頷き、すぐに指摘された点を意識して泳ぎ始めた。聖子はその姿を見守りながら、他のペアの様子にも目を配る。こうして観察していると、うまくアドバイスをし合っているペアもいる一方で、困惑している生徒たちもいることに気づく。そんな生徒を見つけると、すぐに声をかけることにしている。

「もっと大きく、こう腕を動かしてみて!」

聖子はプールサイドから生徒に声をかけ、腕の動きの見本を示した。最初の数回はうまくいくものの、すぐにフォームが崩れてしまう。

「もっと自信を持って泳いで!自分のペースで、そう、その調子!」

と聖子は笑顔で励まし続けた。生徒は一生懸命に応えようとするが、再び元の状態に戻ってしまう。

「やはり、難しいわね~」

聖子はため息をつき、テント下のバスタオルが置かれたベンチに腰を下ろした。校長からは泳いでいるのを見ているだけでいいと言われたものの、生徒たちの頑張りを見ていると、どうしても手を差し伸べたくなる。

しかし、プールサイドからどれだけ説明しても、生徒たちの泳ぎのフォームはなかなか改善されなかった。普段の国語の授業とは違って、泳ぎ方を教えるということがこんなにも難しいとは思わなかった。聖子はそのもどかしさを心の奥底で強く感じていた。

聖子はぼんやりとプールの水面を見つめていた。目の前には、自分が指導している生徒たちがペアを作って泳いでいる。その向こう側、聖子の視点から見てプールの反対側では、1年3組の女の子たちが水泳の授業に一生懸命取り組んでいた。ちょうどプールの縁に手をついてバタ足の練習に取り組んでいるところだった。

1年3組を担当しているのは、体育科の高畑由紀先生。聖子よりは2つくらい年下だ。高畑由紀先生は黒い生地の競泳水着に、シルバーのスイムキャップをかぶり、自らプールに入って生徒に指示をしていた。競泳水着から見える肌は小麦色に日焼けし、健康的な輝きを放っている。引き締まった筋肉が肩や背中、腕にしっかりと浮かび上がり、体全体が無駄のない美しいシルエットを作り出している。

「足首を動かしても、水面をただ叩くだけじゃ前には進まないから。しっかりと太ももから動かすことを心掛けなさい。わかった? 私が手本を見せるから、しっかり見ておくのよ」

 由紀先生はプールのふちに手をかけて、勢いよくバタ足をして見せた。

「さあ、今、わたしがしたように、やってみなさい」

 由紀先生がそう言ってホイッスルを吹くと、生徒たちはいっせいにバタ足を始めた。水しぶきが上がる。由紀先生はうまくできていない生徒に近づいて、足首をそっと手に取ると、

「こうやって、足首を柔らかく使うのよ」

と言いながら、正しいフォームになるように手助けをしている。

「さすがねぇ…」

聖子は思わず声を漏らす。由紀先生からは、自分には決して持ち合わせていないような力強さと揺るぎない自信が溢れ出ており、その魅力に自然と引き寄せられてしまう。しかし同時に、彼女と自分との間に存在する大きな隔たりも強く意識せざるを得なかった。5組の生徒たちもペアで教え合いながらも、遠くで行われている3組の様子に興味津々で目を向けていた。

「私はただプールサイドにいるだけしかできないのかな…」

気持ちが沈む聖子は、自分が履いているジャージのパンツ視線を注いでいた。その鮮やかなオレンジ色は、まるで自分の存在を際立たせるかのように感じられた。ズボンの裾からはサンダルを履いた素足が濡れたプールサイドの床に直に触れている。その目の前では、生徒たちや由紀先生が水着姿で楽しそうに水中で活発に泳いでいる。その中で唯一、服を着たままベンチに座っている自分は、まるで場違いのように感じられ、居心地の悪さと心の中のじれったさが増していくのだった。

中村歩美はジャージを着ている聖子のことを「本物のコーチみたい」と言ってくれたが、プールサイドから声をかけているだけの自分は、充分にその役割を果たせていない気がしてならなかった。聖子はジャージで覆われた腰の部分にそっと手を当てて、その生地の下にある自分の肌を感じ取るように撫でていた。

「聖子先生、見て! わたし、できるようになったよ!」

聖子がその声に引き寄せられて振り返ると、先ほどまでうまく泳げなかった生徒が、今や自信に溢れた顔で水面を滑るように近づいてきた。聖子が思い描いていた通りの、見事な足の動きで泳いでいる。

「すごーい、完璧よー!」

と声をかけると、生徒もさらに明るい笑顔を返してくれた。

こうして生徒たちの成長を見ていると、聖子の心も少しずつ晴れていく。自分の役割が果たせているという実感が彼女に新たな自信を与えた。

「この調子で、みんなどんどん上達していきましょう!」

そう励ましの言葉をかけると、生徒たちのやる気はさらに高まった。聖子は自分ができることを続けることが大切だと心に決め、次への挑戦を考え始めた。そして、彼女はホイッスルを高らかに鳴らし、生徒たちをプールサイドに呼び寄せ、整然と並ばせた。

「今度は今日の仕上げとして、50メートルを泳いでもらいます。途中で足を突いてもいいから、最後まで進んでね」

「聖子先生、わたし、絶対に泳ぎ切るから!」

と中村歩美が力強く宣言した。聖子はその意気込みに応え、

「じゃあ、全力でいってね!」

と笑顔で返した。生徒たちの目がキラキラ輝いている。聖子はホイッスルを力いっぱい吹いて、「スタート!」の合図をした。最前列の生徒が水に飛び込むと、プールに水しぶきが上がり、続けて次々と泳ぎ始めた。すいすい泳いでいく子、途中で立ち止まってしまう子、さまざまな姿が見える。聖子はその一人一人の頑張りを目に焼き付けるように見つめていた。


「上村先生、お疲れ様ですー」

背後から声が響き、振り返ると、そこには高畑由紀の姿があった。彼女が身にまとっている黒い水着は水を吸っているためにしっとりとした光沢を放ち、夏の強い日差しの下でその存在感を際立たせていた。競泳用にデザインされたその水着は、由紀の引き締まった腹筋や美しい胸のラインを一層際立たせており、まるで艶やかな魚のように見えた。日焼けした小麦色の肌が水しぶきに濡れ、太陽の光を浴びてまばゆく輝いている。由紀の自信に満ちた姿勢からは、目が離せなかった。

「高畑先生、ありがとうございます」

と聖子は少し恥じらいながら言った。由紀はその明るい表情を崩さず、

「聖子先生の生徒たち、楽しそうに泳いでいますね」

と微笑みながら返してくれた。

「でも、私がプールサイドで見守ることが精一杯で、泳ぎ方を教えるのは本当に難しいですね。やっぱり、高畑先生のように普段から泳いでいる人にはかなわないなと思います」

と聖子は本音を語った。

「そんなことはありませんよ、上村先生。生徒たちが楽しんでいることが一番大事ですから。私なんて、泳ぎが上手くなることばかり気にして、逆に厳しくしすぎることもあります。先生はいつも穏やかで素晴らしいですよ。聖子先生の優しさが、生徒たちを成長させているんですね」

と高畑由紀から言われて、聖子は嬉しくなった。

「そういえば、上村先生は、高校時代は、水泳部だったそうですね」

「ええ。でも途中で辞めてしまって、それ以来ずっと水泳とは無縁になっていましたから」

聖子はプールの向こう側を見つめながら、少し恥ずかしそうに答えた。

「それでも、聖子先生は、さっきも生徒たちにプールサイドから、的確にアドバイスをされていましたよ。きっと現役の時は、かなりの実力者だったのでしょうね」

高畑由紀は憧れのまなざしを向けながら言った。上村聖子はベンチの横に置いてあるバスタオルを優しくなでながら言った。

「そんなことはないですよ。だって、うまくいかなくて、すぐにやめちゃったものですから。それにしても、泳ぐことよりも教えることの方がずっと難しいものですね」

「いいえ、上村先生はいい指導者ですよ。それに、教えることが難しいって思うのは、先生が生徒のことを本当に大切に思っているからですよ。わたしも先生から学びたいことはたくさんあります」

 高畑由紀の言葉はお世辞ではない真剣さがこもっていた。聖子はその言葉に胸が熱くなりつつも、少しの気おくれと戸惑いを感じていた。高畑由紀は言葉をつづけた。

「……聖子先生、わたしたち、もっと一緒に教え合う時間を持ちませんか?」

高畑由紀の予想外の提案に、聖子は驚いたように目を丸くしていた。

「……教え合うって言われましても、どうすればいいのかしら? 私、そんなに経験はないですし…」

と聖子は戸惑いながら答えた。

「一緒に授業をやってみるのはどうですか?」

「…授業を?」

聖子は驚きを隠せずに尋ねた。高畑由紀はにっこり笑うと話を続けた。

「実はですね、今度の金曜日の放課後に水泳の課外授業を行うんです。よろしければ、上村先生に参加していただけないかなと思いまして。正規の時間じゃないから生徒も少なくて、気軽に取り組めると思いますし、放課後なら時間もたっぷりあるので安心です。それに、夕方には太陽も沈んで、少し涼しくなるので、いい環境でできると思いますよ」

高畑由紀からの提案を、聖子は心の中で嬉しく思った。新たな挑戦に対するワクワク感と同時に不安もあるが、ここまで情熱的に声をかけてくれる由紀の提案を無下にすることもできない、そう考えた。

「ぜひ、一緒にやらせてください」

聖子は心の高揚を抑えつつ、しっかりと答えた。高畑由紀の提案を受け入れることで心の中に少しずつ自信が芽生えてきたような気がした。

「本当ですか? ありがとうございます。聖子先生」

高畑由紀は深々とお辞儀をした。

「それじゃあ、金曜日の放課後に伺います」

と聖子が微笑みながら答えると、高畑由紀の目がキラリと輝いた。その反応に、聖子は自分の選択が正しかったと感じ、心の中で期待が膨らんでいく。来週の課外授業がどうなるのか、今から楽しみで仕方なかった。プールの水面が太陽の光を受けてキラキラと輝く中、聖子は新たな挑戦への一歩を踏み出す決意を固めていた。


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