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4.間接キス!



グゥゥゥゥゥ〜。


……やってしまった。

朝寝坊して、昼メシを買う余裕がなかった。


朝から全力ダッシュで登校したから腹ペコなのに、食べる物がない。

愛美が隣りにいるから心は満たされるけど、腹まではさすがに満たされない。

ああ、腹減ったあ〜……。


パカッ。


あ、愛美が弁当箱を開けた。

いつも美味しそうだなあ、愛美の弁当。

今日はなにから食べるのかな?


お、まずはピーマンからか。

そうだよな、まずは野菜からが体にいいもんな。

さすが愛美、心得てるぜ。


続いては……なるほど、たまご焼きか。

愛美のたまご焼き、フワフワで甘々で美味しいんだろうな。きっと、口の中でトロけてすぐになくなるに違いない。


さて、お次は……ウインナーか。

おっと、ここで米も一緒にいきますか!

だよなあ、ウインナーと米って最高のコンビネーションだもんな。

ああ、思わずほころぶ愛美の顔が天使すぎるぜ〜。


ん、今度はプチトマトか。

なるほど、ウインナーの油分をプチトマトで中和するんだな。


あ、愛美がプチトマトを右頬に頬張らせた!

わああ、まるでハムスターがひまわりの種を頬袋に溜めてるみたいだ!

かっわい〜い!


はあぁぁぁ……アタシもプチトマトになって、愛美に食べられたい。

まずは頬袋でじっくりとじらされ、そして、その舌で、丁寧に、ころがすように弄ばれて……(※注 百合子は空腹のあまり思考回路がバグり始めました)


グゥゥゥゥゥ〜。


「あ……百合ちゃん、お昼ご飯は?」

「えっ⁉︎ あ、ああ、ちょっと、忘れちまった」


や、やべっ。

お腹の音を鳴らしながら弁当を見てたから、愛美に気をつかわせちまった!


いかん、いかん。

こんな空腹ごときでダレてたまるか!

アタシはいついかなる時も、愛美をしっかり見守るんだ!(背筋を伸ばして姿勢ピーン!)


「そ、そうなんだ、購買とかは?」

「金なんか持ってねえよ。別にこっちのことはいいから気にすんな」

「っ……」


……ウソ。

ホントは昼メシ代ぐらいの金は持ってる。

だけど、購買に行ってる間に愛美へ変な虫が寄ってきたら大変だ。

腹を満たすことよりも、愛美の安全を守る方が大切に決まってる。

だから、1日ぐらい昼メシ抜きでも大丈夫なんだあ!


「あ、あの、百合ちゃん」

「ん?」

「よかったら、私の弁当、半分食べる……?」

「え……?」


愛美の、弁当を?

半分……。




ほ、ほっしいいいぃぃぃぃーー!!!




ままっ、愛美の弁当とか、絶対食べたいに決まってんじゃん!


いやーー!

だが、しかし!


ただでさえ可愛らしいサイズの弁当箱なのに、アタシが半分食べちまったら愛美の腹が満たされないじゃないか!

そ、それは本意じゃない。


……で、でも。


愛美の弁当を2人で半分コなんて、こんな千載一遇のチャンス、もう2度とやってこないかもしれない!


あああ!

でもでもでもっ!


食べたいよう!

愛美の弁当、食べたいよう!

でも、我慢しなきゃ!

あああ、それでも食べたいぃぃぃ!

いや、だからダメだってえええーー!


「い、いや、それは、わるいから……いい」


えらい!

えらいぞ、アタシ!


でも!

で、も!

心の中は、涙でビショ濡れだぜえ!


「あ……いや、でも……」


優しいな、愛美。

まだ粘ってくれるつもりなのか?

だけど。

皮肉にも、今はその優しい粘りがアタシをさらに苦しめちまうんだ。

いっそのこと、目の前でがっついて完食してくれ〜!


「でもね、私、今朝ちょっと食べすぎちゃって……だから、半分食べてくれたら嬉しいな」


ピクッーー!


そ、そうきましたか……。

愛美が朝から食べすぎなんてウソに決まってる。

だけど、そうまでしてアタシに弁当を分け与えてくれようとしている。

これはもう、愛美の優しさを無下にはできない!


すまん、愛美。

本来はお前の腹を満たすことがアタシの願い……。


だが、しかし!

今回はお前の優しいウソに、まんまとひっかからせてもらうぜーー!


「い、いいのか?」

「うん、どうぞ! あ、でも……」

「あん?」

「お箸、持ってないよね。どうしよう……」

「ああ……大丈夫だ、素手で食うから」

「そ、そんなのダメだよ! あ……よかったら、私のお箸を使って?」


ピクピクッーー!


は、箸……?

愛美の使った、箸を……⁉︎

そ、それは、つまり、いわゆる……。




か、間接キッスウッッッッッッーー!




「ちょっと待ってて、すぐに洗ってくるから」


ピクピクピクッーー!


「や、やめろっーー!」

「えっ⁉︎(ビクウッ!)」


そ、そんなことしたら、せっかくの間接キスが台無しになってしまうじゃないか!

それだけは、絶対に阻止せねばならない!


だが、しかし!

どうやって⁉︎


愛美の言うとおり、この状況で箸を洗うのはごく自然の流れ。それ以外は不自然だ。

たとえアタシは気にしないと言ったところで、愛美は絶対に気にするはずだし……。


ど、どうする?

どうすれば自然な形で箸を洗うのを回避できる……⁉︎


はっーー!


そうだ!


ゴソゴソゴソ……ばっ!(百合子のカバンから、ウェットティッシュがジャ〜ン!)


「これがあるから大丈夫だ、わざわざ洗いに行かなくていい」


そう!

昨日の学校帰り、ビラ配りをやってたヤツから手に入れた粗品のウェットティッシューー!

いつもならうっとうしくてスルーするのに、昨日はなぜだか受け取ってしまった。


だが!

それもきっと、この時のために用意された運命だったんだ!

ああ〜、神様、ありがとうございますぅ!


「ウ、ウェットティッシュ? そっ……か、それで拭くだけでいいの?」

「十分だ。アルコール成分も入ってる」

「わ、わかった。じゃあ……はい」


はああああ〜!

つ、ついに!

目の前に愛美の弁当と箸があああっ!


や、やばい、ドキドキしすぎて胸の音を聞かれちまいそうだ。

だが、まずはやらなきゃいけないミッションがある。


それは、愛美にバレないよう箸を拭いたフリをすることーー!


すまん、愛美!

アタシはこのウェットティッシュで箸を拭くつもりは全くないんだ!


だって!

絶対、絶対、ぜえええ、ったいに!

愛美と間接キスがしたいんだもんーー!


とりあえず1枚ピッと取って……と。

そして、これを絶対に箸につかないよう絶妙な握り具合でかまえる。

あとは、あたかもフキフキしてるように見せかけの手の動きをするだけだっ!

大丈夫、アタシならうまくやれる!

自分を信じるんだ、松城百合子!


フキフキフキ……。


よ、よし。

これぐらい拭いたように見せかけたら大丈夫だろ。

では、いざ、一口目を……(ゴクリ)。


ーーはっ!


ま、待て。

先に米やおかずに手をつけるよりも、まずはこの箸だけを単独で口にすることで、より濃厚な間接キスとなるのではーー⁉︎


な、なんてことだ……!

それはもう、間接キスを超えた、間接キスよりすごい間接キスじゃないか!(※注 要するに、間接キスです)


どど、どうしようっ⁉︎

いく?

いっちゃう?

もう、箸だけ単独でいっちゃう⁉︎


ああ……もう……ダメだ。

考えるよりも勝手に、箸を持つ手が口に吸い寄せられていく……!

ああ、ああ、あああああっっっ〜!




シャラララララララ〜ン♪(※注 ただいま、百合子が愛美の使った箸をハムッとくわえました)




っ、っっっ…………(百合子が内股で小刻みにプルプルプルッ)


「ゆ、百合ちゃん……?」

「…………(プルプル)」

「あ、あの、百合、ちゃん……?」

「…………(プルプル)」

「あの、だ、だから、百合、ちゃんっ……⁉︎」




はっーー!




し、しまった!

超絶なる興奮のあまり、夢の楽園へとイッてしまっていた!

箸だけくわえてプルプルするなんて、愛美にあやしまれたに違いない!

や、やばい、なんとかしてとりつくろわないと!

ええっと、ええっと……!


「あっ……いや、アタシ、まず箸を濡らすタイプだから!」

「へっ? あ、ああ、そう、なんだ……?」


むうっ……!

く、苦しい。

これは苦しい言い訳だぞ!


ま、まあいい。

こんなトコロで立ち止まってはいられない。

とりあえず、なんとなく誤魔化せたと信じよう!


そ、それよりも。




あああっっっ〜!!!

ま、愛美と間接キスしちゃたたあああっ!




はああ……体に今なお激しく残る、ピンク色の余韻!

ああ、ダメだ。

思い出しただけで、また夢の楽園にイッてしまいそうだ。


ーーはっ!


き、気をしっかり持てアタシ!

最高の時間はまだ幕を開けたにすぎない。

これから、愛美の弁当を食べるというスーパーハッピータイムが待っている!


ふわわぁ……どれから食べよう?

愛美と同じくピーマンからにしようかな?

唐揚げも美味そうだなぁ。


……でも。

そんなこと言いつつも、実はすでに心は決まってる。


たまご焼きーー!


きっとフワフワで甘々に違いないこの逸品が、ずっとキラキラの視線でアタシを誘ってたんだ!


そ、それでは。

たまご焼き様、いっただっきま〜す!(パクッ)




っっっーー!




…………。


う……。


うっ……!


うんまぁぁぁぁぁぁいっーー!




口の中で一瞬に溶けてなくなるほど柔らかく、そして、アタシをあたたかく包み込む優しすぎる甘さ!

想像以上に至高の逸品でございまするぅぅぅっ!


「ど、どう……かな?(ドキドキ)」

「……う、美味い」

「ホント? はあ……口に合わなかったら、どうしようかと思っちゃった(ホッ)」

「メ、メチャクチャ美味いに決まってんだろ!」

「よかった……それ、私の手作りだったから」


ピクピクピクピクッーー!


「て、てづ、くり……?」

「うん。ほかのは冷凍物や昨日の晩ご飯の残りなんだけど、たまご焼きだけは私が今朝作ったの」


ま、愛美の、てづ、くり……!


「それに、よかった」

「へ、へっ?」

「誰かに自分の手料理を食べてもらうなんて今までなかったから、美味しいって言ってもらえて」


えっ?

そ、それって、つまり……⁉︎


「初めての人が百合ちゃんで、その……すごく、嬉しい(大事な手料理バージンを捧げた相手があなたでよかった……的に顔を赤ながら、テレテレなエンジェルスマイルでニコッ♡)」




ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)




ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。




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