30.シアターバトル!(白熱の決戦編)
ここか……。
決戦の場、3番スクリーン!
……匂う。
匂いぜっ!
この薄暗い空間に、危険なカオリがプンプンと充満してるのが!
「ここだね、Hの列」
「ああ……うん」
「ヨイショ……っと(草中くん、1番通路側のH7の座席に座りっ)」
……え?
はい?
…………。
はいぃぃっっっっっっーー⁉︎
な、なにやってんの、コイツゥッッッ!!!
ふつう、奥側の座席の人を先に通すのがマナーだろ!
それを当たり前のように自分が先に座りやがった!
「凛咲さんも、どうぞ(草中くん、H6の座席に右手を向けて着席を促しっ)」
ピッキィィィィィィンッッッーー!(百合子、怒りで頬が引きつりっ)
こっ……。
こんの、ロールキャベツくそ野郎があっーー!!!
わかったぜ、テメエの肉汁くせえ策略がっ!
自分が通路側の座席を選んだのは、もし愛美が上映中に席立ちした際、自分の前を通ることを利用してボディ接触を狙うためなのは推理ずみだ(※前話参照)。
でもっ!
上映中に愛美が席を立つかどうかは未知数……。
つまり、席を立たない可能性もある。
そうなると、愛美が自分の前を通ることがなくなり、愛美とボディ接触するチャンスが断たれる。
ーーだから!
今ここで、最低でも1回は愛美とのボディ接触を果たそうって魂胆なんだろっ!
ゲスいっ……!
初っ端から、ゲスアクセル全開で攻めてきやがるぜ!
だがっっっ!
このアタシがここにいる限り、テメエの思いどおりにはいかねえんだよ!
ササッーー!(百合子、愛美の前に移動っ)
「えっ……?(愛美、キョトン)」
ズウゥゥゥン……!!!(百合子、草中くんの横に仁王立ちっ)
「ジャマだ……どけっ!!!」
「ひいぃっっっーー!(草中くん、ビクウッ)」
シ〜ン……。
「聞こえなかったのか……? どけっつってんだろっ!!!(サングラス越しに眼力ドォォォン!)」
「はいぃ!(草中くん、席を立って通路に避けっ)」
ふん、2回も言わせんじゃねえよ。
……おっと。
そんなことより今の内だ!
「お前(=愛美)も、この列の席なんだろ?」
「あ、ああ、はい……」
「道が開いたぞ、着いてこい」
「は、はあ……」
「えっ? いや、ちょっと……!(草中くん、想定外なんですけどっ? 的な表情っ)」
ストン……ストン。
よし、無事に愛美をエスコート完了!
ふん。
案の定、ロールキャベツくそ野郎が不服そうな顔をしてやがるぜ。
ザマアみやがれっ!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(上映開始っ)
つ、ついに上映が始まった。
まだ予告映画のCM段階だというのに、この手に汗を握る緊張感……!
だが、安心しろ愛美。
必ず最後までお前を守ってみせるぜ!
「凛咲さんも、よかったらポップコーン食べて?(草中くん、ポップコーンを愛美に差し出しっ)」
ピクッッッーー!
「あ……いや、私は、いいかな……」
「そう言わずにさ。僕だけじゃ食べきれないし、一緒に食べてくれたら嬉しいな」
「っ…………(愛美、困惑っ)」
「ちなみに、最初に塩味を食べてからバター味を食べるのがオススメだよ。塩がバターのコクをより引き立ててくれるんだ」
なっ……!
なに言ってんだ、コイツゥッッッ⁉︎
意味わかんねえグルメ発言をしやがって、今度はいったいどんなことを企んでるんだっ?
ーーはっ!
わ、わかったぞ……。
ロールキャベツくそ野郎の狙いが!
人はポップコーンを食べる時、ほぼ100パーセントの確率で指先も一緒にハムって唇に触れてしまう。
ロールキャベツくそ野郎のヤツ、その法則を利用してゲスプランを発動させる気だな!
つまり、こういうことだ。
まず、愛美が塩味を食べた時に指がハムって唇に触れる。
そして、その唇に触れた指で2口目のバター味を取る。
するとーー!
当然その時に、唇に触れた指がまわりのポップコーンにも当たる。
……要するに。
ロールキャベツくそ野郎は、その愛美の唇に触れた指が当たったポップコーンを食べて、間接キスをするつもりなんだぁっっっーー!(※注 現在、百合子の推理IQは激チートモードに突入しております)
な、なんてヤロウだ……!
わざわざ塩バターを選んだのも、2口に分けて食べさせるための巧妙なワナだったんだ!
ゲ、ゲスいっ!
もう、ホントにドゲスいっっっ!
あまりにもゲスすぎて、この世の全てのゲス指数計が刹那にバーストして粉々に砕け散ってしまったぜ!
「さあ、ほら……早くっ(ニコォォォ……)」
「あ、あぁぁ……!(愛美、怯えるように困惑っ)」
ブゥッチィィィィィィンッッッーー!!!
こっ……!
こんのぉ、ロールキャベツくそ野郎がぁっっっ!!!
イヤだと断れない愛美の優しさを、テメエの欲望で汚すんじゃねえっっっ!
ドバッコォォォォォォンッッッーー!!!(百合子、左腕を伸ばして草中くんが持つポップコーン容器を全力で正拳突きっ!)
「ひいぃっっっーー!(愛美&草中くん、ビックウゥゥンッ)」
ポロポロポロ……(ポップコーン、床に散乱っ)」
「……ワリィ、手が滑ったわ」
「は、はあ……(愛美&草中くん、ポカ〜ン)」
「おい、そこの男っ」
「は、はいっ⁉︎」
「ぶちまけたポップコーン、本編が始まる前に拾っとけよ(理不尽っ)」
「へっっっ⁉︎」
「聞こえなかったのか……? そのポップコーン、さっさと拾っとけっつったんだ!」
「で、でも、コレ、あなたが……」
「あぁぁあんっっっ……⁉︎(百合子、サングラス越しに怒りの眼力ドォォォン!)」
「あっ、ああ! 拾って、おきます、ねぇ……!(草中くん、平和的解決を選択っ)」
けっ。
一丁前に口ごたえしやがって。
いりもしねえポップコーンを買って押しつけたのはテメエだろ!
それぐらい拾って当然だ!
……まあ。
ポップコーンは1粒残らず吹っ飛ばした。
さすがのロールキャベツくそ野郎も、床に落ちたポップコーンを食べろとまでは言わないだろう。
ふう……。
とりあえず、目の前の地雷は取り除きましたぞ!
愛美お嬢様〜!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(本編開始っ)
うん……。
本編が始まって、すでに1時間半以上が経過した。
好きな小説が原作の映画とあって、愛美も席を立たずに集中して観ている。
ここまでは、ロールキャベツくそ野郎もおとなしくしているな。
だが。
めぇっ……ちゃくちゃ、懸念されることが1つある。
それは。
愛美が映画にガッツリ没入しちゃって、少しずつ体勢が前に傾いてきていることだっーー!
映画がクライマックスを迎え、きっと興奮もマックスなんだろう。
まるでスクリーンに引き寄せられるがごとく、愛美の上半身が前に傾いてきているんだ!
……で。
おそらく。
このままいくと。
前のめりになりそうな上半身を支えるため、愛美は無意識のうちに両サイドの肘掛けに手を置いてしまうだろう。
そうなるとっ!!!
肘掛けに置かれた愛美の左手を狙い、ロールキャベツくそ野郎が動くことは必至ーー!
だって!
ほら!
すでにっっっ!
ロールキャベツくそ野郎が、横目で愛美の動きをガッツリ凝視してるんですけどっーー!!!
きっと、愛美が肘掛けに手を置いた瞬間に自分も手を置き、手と手を触れさせるつもりなんだ!
映画の世界にのめり込んだ結果、自然と手が動いてしまっただけなんですぅ〜的に!
スッーー(草中くん、右側の肘掛けに自分の右手を置きっ)
えっ?
なっ……。
なにいぃぃっっっっっっーー⁉︎
ロールキャベツくそ野郎のほうが、先に手を置いただとぉぉぉ⁉︎
ーーはっ!
わ、わかったぞ!
ロールキャベツくそ野郎の弾き出した計算がっ!
愛美が肘掛けに手を置くことはもう確実だから、先手を打ってきたんだな⁉︎
『先に手を置いていたのは、僕だよーー?』
みてえな状況にして、下心がないことを強調するつもりなんだ!
クソッ……!
ど、どうする?
どう対処するっ⁉︎
ハンマーと化したアタシの拳を、ロールキャベツくそ野郎の手に真上からフルパワーで叩きこむかっ?
いや、ダメだっ……!
そんなことしたら、ロールキャベツくそ野郎の右手が粉々に粉砕骨折してしまう!
……あ。
でも、別にいっか。
ロールキャベツくそ野郎だし。
……って。
いやいやいや、やっぱりダメだ!
それはさすがに訴訟問題モノになっちまう!
だが、このままではっ……!
スゥ〜……(ついに、愛美の両手が傾いた上半身を支えるべく肘掛けにゆっくりと伸びっ)
ひゃあっ!!
とうとう愛美の手が、肘掛けに向かって動き出しちゃったぁぁぁ〜!
ダメだ、愛美!
その肘掛けには、ゲス・ブラックホールが待ち構えている!
一度吸い込まれたら最後、2度とコッチの世界に戻れなくなるぞ!
ああっ、もう!
どうすりゃイイんだ……!
そうだ、咳払いをするか⁉︎
特大の咳払いで気を引き、肘掛けに手を置くことから意識をずらすかっ⁉︎
……いや、ダメだ!
映画のクライマックスなのに、そんなことしたら雰囲気ブチ壊しで愛美やほかの客に迷惑をかけちまう!(※注 意外としっかり常識人。それが百合子です)
だけど、別の方法っつったって……!
あ、焦るなアタシ!
大丈夫だ、必ずほかに方法はあるはずだ!
よし、考えるぞ!
ポクポクポクポクポクポクポクポクポク、チーンッ!(シンキングビート、10倍早送りで刻みっ)
ダメだあっ!!!
全然思いつかないぃっっっ!!!
はわわぁ!
そうこうしてるウチに、愛美の左手がロールキャベツくそ野郎の右手に触れる5秒前ぇぇぇ!
ああっ、もう!
どうするっ?
どうするっつったって、どうするうぅっっっ⁉︎(※注 百合子は人生最大の混乱に陥っております)
ひえぇぇぇ!
あ、あと3秒ぉぉぉ!
も、もう、こうなりゃなんでもイイ!
かくなる上はぁ!!!
バッーー!(百合子、キャップ帽を脱ぎっ)
シュッーー!(百合子、ポニーテールをほどきっ)
ピッーー!(百合子、サングラスを外しっ)
スッーー!(百合子、マスクを取りっ)
…………ちょんちょん。
「あ、えっ……⁉︎(愛美、不意に右腕をつっつかれてビクッ)」
ソ、ソロ〜リ(愛美、ゆっくり右隣りに顔を向けっ)
「……よ、よう(百合子、控えめに左手をあげっ)」
「っーー! ゆ、百合ちゃんっ……!」
禁断の最終奥義、もう正体をバラして直接話しかけるの術ーー!
ホントは正体を隠したままスマートに愛美を守りたかったけど、これ以外に方法が浮かばなかった……。
だがっ!
おかげで、ビックリした愛美が両手を口に当てたっ!
それにより、左側の肘掛けに発生したゲス・ブラックホールに吸い込まれるのを回避することに成功だぜ!
「あ、あれ……?(草中くん、暇を持て余した右手をワキワキしながら愛美の右隣りを確認っ)
ギンッッッ!!!(百合子、ちょっとバツがわるそうに眼力ドォォォンッ)
「っっっーー!!! まま、まま、まっ、まっ、まっ、まあぁっっっ!(草中くん、驚きのあまり「松城さん」のフレーズが出ずっ)
はあ……。
結局、2人ともにバレてしまった。
……でも。
ま。
愛美を守れたんなら、結果オーライってことで……。
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(映画終了&ロビーにてっ)
「ま、松城さんも、来てたんだ……?」
「……ワリィかよ?」
「い、いや、別に! ぐ、偶然、だね……」
ふん。
想定外のアタシ登場にキョドってやがるぜ。
ザマアみろってんだ。
……だが。
問題はここからだ!
「僕と凛咲さんは、2人で映画を観に来てたんだ」
そうら、きた!
ちょうど時間もお昼時。
ロールキャベツくそ野郎が、このまま解散しようとするはずがない。
どうせこのあと愛美をランチに誘うつもりなんだろ?
わざわざ2人で来たことをアピールしたのも、そのランチからアタシを排除するためだ!
「ねえ、凛咲さん」
「えっ?」
「よかったら、このあと2人でご飯でもどうかな? 近くに美味しいお店を知ってるんだ」
はいぃぃ!
きっちりアタシを無視して、2人きりのランチに誘いましたぁ!
しかしーー!
正体がバレた今、怖いものなどなにもない!
どんな理不尽な形をとってでも、必ずそのランチにアタシもご一緒させていただくぜっ!
「…………ごめん(愛美、ペコリ)」
「へっ……?(草中くん、口を開けてポカ〜ン)」
あ、あれ……?
断った?
愛美お嬢様、まさかの、お断り系……?
「このあと、ほかに予定が入ってるの。だから……ゴメンね」
「は、はあ……そう……なの?」
「じゃあ、今日はこれで……」
「あ、ああ……」
……うん。
これはチョット意外だったぞ。
まさか、愛美がキッパリ断るなんて……。
でも。
ほかに予定が入っててよかった。
そういうのがないと、愛美もきちんと断れなかっただろうからな。
……つーか。
いつまで名残惜しそうに突っ立ってんだ?
この、ロールキャベツくそ野郎がっ!
「おい!」
「は、はいっ⁉︎(草中くん、ビクウッ)」
「用がすんだんなら、さっさと帰れよっ……⁉︎(眼力ドォォォン!)」
「ああ、はいぃ!(草中くん、早歩きでピュ〜ッ)」
ふう、ヤレヤレ……。
危険因子は去った。
これでようやく安泰な日曜日をすごせますぞ、愛美お嬢様!
「ゆ、百合ちゃんも来てたんだね?」
「ああ……まあ、チョット、暇だったから(照れくさそうに頭ポリポリ)」
「……ずっと……隣りにいてくれたんだね。ありがとうーー(ボソッ)」
「え? な、なんて?」
「……ううん、なんでもない」
「ああ……そっか」
シ〜ン……(どこか、甘酸っぱい沈黙っ)
う、う〜む。
ロールキャベツくそ野郎がいたから気を張ってたけど……。
こうしていざ愛美と2人きりになると、なんかチョット照れるな。
この沈黙がなんともムズガユイ……。
な、なんかしゃべんねえと!
「このあと、予定があるのか?」
はわわあっ!
よ、よりによってそこ訊いちゃったあっ!
プライベートなことに踏み込んじゃダメだってわかってるのに、つい心の声が出てしまったあっ〜!
「あ、うん……予定があるっていうか……これから、つくりたいというか」
「は、はあ……?」
な、なんだ?
よくわかんねえけど、どういうことだ?
「百合ちゃんは、このあとどうするの?」
「ああ……アタシなら、帰る予定だけど」
「そうなんだ……じゃあ、もしよかったら2人でランチでもしない?」
「えっ?」
「ホントは予定もないのに、あるって言って草中くんに断っちゃったから……」
「そ、そうなのか?」
「うん。だから、私のウソを事実に変える協力をしてくれたら……助かります(モジモジ)」
……ヒャ。
ヒャッホォォォォォォイッッッ!
な、なんという神展開っ!
休日に愛美とランチなんて、行くに決まってんでしょうがあぁぁ〜!
「ま、まあ、別にイイけど?」
「ホントっ? やったあ! あ、でも……」
「ん……?」
「こんなダラシない格好の女と一緒で……恥ずかしくない?」
「……はぁ……アホかっ」
「え?」
「全然ダラシなくなんかねえよ。つーか……アタシは、好きだけど(照れっ)」
「っ…………(カアァァァ)」
や、やべっ!
ホントのこととはいえ、ついクサイ台詞を言ってしまったあ!
ひ、引かれなかったかなっ……⁉︎
「……よかった。じゃあ、行こっか!」
「おっ、おう」
よ、よかった。
引かれてはないみたいだ……!
「ねえ、百合ちゃん」
「あ、あん?」
「今度は……2人で映画に来ようね、約束っ!(拒否権なしっ! もしウソついたら針千本飲ますんだからね? 的に左手小指を差し出して、エンジェル指切りげんまん催促っ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。(これにてシアターバトル編、完結っ♪)
……ちなみに。
百合子がちゃんと指切りげんまんをしたのかは、みなさまのご想像にお任せします⭐︎




