26.クールなアイツ(前編)
ふあぁ〜あ。
愛美の隣りで昼メシ食ったら、身も心も満たされて眠くなってきちゃったぜ。
はあ〜、幸せ。
ーーガタッ(愛美、席立ちっ)
ん?
愛美が席を立ったぞ。
トイレかな?
こうしちゃいられない。
愛美に変な虫が寄って来ないよう、コッソリ後ろから見守らなければ!
ササッーー!(百合子、光速で愛美の後方に移動っ)
よし、見守りポジションOK。
今んトコ、異常なしだな。
ーードンッ!
「きゃっ!(愛美、廊下の曲がり角で誰かにぶつかりっ)」
ああっ!!!
愛美が誰かとぶつかった!
だ、大丈夫かっ?
くそっ、いったいどこの不届者だ⁉︎
ズウゥゥゥ……ンッ!(ぶつかった相手、上から見下ろすように愛美を睨みっ)
はっーー!
あ、あいつは、同じクラスのっ……。
爪大河 優史っーー!
あの冷たい目に睨まれたヤツは一瞬にして凍りつくという「絶対零度ウルフ」の異名をもつ正真正銘のヤンキーじゃねえか!
コワモテ面というだけにとどまらず、とにかく無口で無愛想。
優しさという感情を1ミリも持ち得ていないと専らウワサのアイツが、愛美のぶつかった相手だとっ……⁉︎
「つ、爪大河、くん……(愛美、ドッキドキ!)」
「…………(爪大河くん、無言で圧っ)」
「ご、ごめんなさい……い、痛く、なかった?」
「っ…………⁉︎(爪大河くん、驚いて目をパチクリッ)」
い、痛いワケねえだろっー!!!
むしろ、愛美のカラダのほうが心配だよ!
そして、なんてことだ……!
愛美の顔やカラダに、あのクソ野郎の服のホコリがついちまったじゃねえか!
ああっ、今すぐカラダ中を丁寧に洗ってあげたひ〜!
フイッ(爪大河くん、少し顔を赤くして立ち去りっ)
あっ、あの野郎!
愛美が心配してくれたというのに、なにも言わず立ち去りやがった!
ぐぬぬぬぬっっっ……!
どこまでも腹の立つ野郎だぜっ!
「あっ……(愛美、ぶつかった時に爪大河くんが落としたハンカチを足元で発見)」
ーーヒョイ。
ひゃあっっっ!!!
愛美が、爪大河の落としたハンカチを拾ったあっ!
まま、まさかっ!
そのハンカチを爪大河に渡してやるとかじゃねえよな?
なっっっ⁉︎
「あ、あの、爪大河、くんっ……」
あああぁぁぁーー!
呼び止めたあっっっ!
やっぱり、愛美はハンカチを渡してやるつもりだっ!
「こ、これ、落としたよ?」
「っ…………(爪大河くん、恥ずかしそうにハンカチを強めにピッと受け取って立ち去りっ)」
な……。
なっ……。
なっっっ……!
なんじゃ、その態度はあっっっーー!!!
愛美が拾って手渡してくれたというのに、ありがとうの一言も言えねえのかあぁぁーー!
ぐうぅぅぅ……!
ゆ、許せねえっ……!
アタシの怒りの火山は、もう爆発寸前だぜっ……!(※注 いえ、すでに爆発しております)
ーーだ、だが。
愛美と変にコミュニケーションを深めようとしなかったことだけは評価してやる。
もう2度と、愛美にぶつかってハンカチを落とすんじゃねえぞ!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(下校の時間)
「じゃあ、また明日ね。百合ちゃん」
「おう」
あうう……。
今日もまた、これで愛美とお別れ。
寂しゅうございまするぅ……。
おっと、そんな感傷にひたっている場合じゃない。
愛美を校門までコッソリ見送らなければ!
ササッーー!(百合子、光速で愛美の後方に移動っ)
ふむふむ。
今んトコ、変なヤツは周りにいねえな。
ーードンッ!
「きゃっ!(愛美、またまた廊下の曲がり角で誰かにぶつかりっ)」
ああっ!!!
愛美がまた誰かとぶつかった!
くそっ、今度はいったいどこのどいつだっ⁉︎
「……ってえな。どこ見て歩いてんだ、テメエ!」
「あっ、いや、その、ご、ごめんなさい……!(愛美、超絶オロオロッ)」
なっ……!
なんだとぉぉぉっっっーー⁉︎
ゴォラアァァァァァッッッッッッーー!!!
アタシの愛美にぶつかっておいて、その態度はなんだっっっーー!
あれは確か、1年C組のヤンキー男子……。
眼中に無さすぎて、名前すら知らんっ!
だが、そんなこたぁどうでもイイ!
罪のない愛美に恐怖の圧を与えたこと、アタシが今からイヤというほど後悔させてやるぜっ……!(指の骨、ポキポキィィッッッ!)
ーースッ(何者かが、百合子の横を通り過ぎっ)
あ、あんっ……?
なんだ? コイツ……。
……って。
おいおい、そのまま愛美の隣りに立ったぞ⁉︎
はっーー!
あ、あの後ろ姿はもしかして……。
つ、爪大河ぁっっっ⁉︎
「……テメエこそぶつかっておいて、なに偉そうに言ってんだ……⁉︎(爪大河くん、C組のヤンキー男子に冷徹眼力をドォォォン!)」
「あ、ああんっ? なんだテメエ、関係ねえヤツは引っ込んでろ!(C組のヤンキー男子、焦っ)
「……るっせえな。まだゴチャゴチャ言うつもりなら場所を変えて聞いてやろうか……? アアッッッ⁉︎」
「うぐっ……! ちっ!(C組のヤンキー男子、立ち去りっ)」
…………。
え。
待って。
……なに?
これ。
…………。
なにこれえぇぇっっっーー⁉︎
アタシがカッコよく愛美を助けるはずだったのに、なんか爪大河に全部もってかれたんですけどっ!!!
「あ、ありが、とう……(愛美、キョトン)」
「……別に。借りた恩を返しただけだ」
「お、恩……?」
「……コレ(爪大河くん、顔を赤くしながらズボンのポケットからハンカチをピッ)」
「あ…………」
「つーか、1日に2回も人にぶつかってんじゃねえよ。よく前を見て歩け」
「あ、うん……」
「じゃあな、もう誰にもぶつからず帰れよ(爪大河くん、立ち去りっ)」
…………。
はい?
はいぃぃぃぃぃぃっっっっっっーー⁉︎
な、なんじゃっ⁉︎
このっ、おとなし系少女とヤンキー男子が恋に落ちていく恋愛漫画の第1話的な展開はっーー!!!
それに、あんのヤロー!
ちゃっかり顔を赤くなんかしやがって、どういうつもりだっっっ⁉︎
愛美もまさか、爪大河を好きになったりしてないよなっ⁉︎
…………な?(力なく肩を落としてショボン)
「ゆ、百合……ちゃん?」
……へっ?
「百合ちゃんーー!」
タタタッ!(愛美、百合子のもとに駆け寄りっ)
「百合ちゃん、いつからここに?」
「あ、いや……つい、さっきから」
「そう……なんだ」
はうう……。
愛美が目の前にいるのに、全然活力がわかない……。
「どうしたの? なんか、ションボリ……してる?」
「っ……!」
や、やばい、バレてる。
……けど。
そりゃそうか。
こんだけわかりやすく肩を落としてたら当然だ。
……でも。
今回はちょっと、強がって取り繕えそうにないーー。
「……そ、そんなことより、よかったな」
「え……?」
「爪大河のヤツに、助けてもらえて」
「え……⁉︎ み、見てたの?」
「意外と優しい感じだったし……とにかく、よかったじゃねえか」
「っ…………」
なんだよ。
この、ヤキモチ感ダダ漏れな返しは。
そんなの言ったって、どうしようもないのにーー。
「……よくないよっ……!」
っっっーー⁉︎
「全然、よくないよ……」
「へっ……? な、なんで……?」
「そ、それは……」
あ、あれ?
なんだろう。
なんか、愛美の顔……赤い?
「……百合ちゃんが、よかったから(ボソッ)」
「え? な、なんて?」
「うぅ……! だ、だぁかぁら! 私は、百合ちゃんに助けてもらいたかったの!(もう、恥ずかしいから2度も言わせないでよ! 的に耳まで真っ赤にしながら頬をエンジェルプクっ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。
……って。
愛美を助けた爪大河くんに、もしかして甘酸っぱい感情が芽生えた予感ーー⁉︎(後編へ続くっ)




