25.リベンジ・アップル
はああ……疲れた。
やっと、下校の時間。
1日なにもしてねえのに、身も心もグッタリ。
まさか、愛美が2日連続で欠席するとは……(※前話参照)
結局、ハチミツ大根はアタシが全部食った。
だけど、これじゃあ健康なアタシがさらに健康になっただけじゃねえか……トホホ。
……で、どうする?
明日には愛美も回復して来るかもしれない。
つーか。
来てくれないと、アタシは寂しくて死んじまうよ〜!
……ダメだ。
取り乱すな、アタシ。
明日こそ絶対に愛美は来る!
だから、今日も愛美のために愛情を込めたなにかを用意するんだ!
……だ、だが。
どうする?
またハチミツ大根を作るか?
……いや、無理だ。
今日は親の帰りもそんなに遅くない。
昨日みたいにずっと台所を占領したら、さすがに色々とツッコまれちまう。
かと言って、なんにもしないのはアタシの気持ちが収まらない。
あああっ!
いったいどうすればいいんだ⁉︎
……………。
そうだ。
リンゴーー!
リンゴはどうだ?
風邪の時はすりおろしリンゴが定番だ。
料理とは言えないかもしれないけど、リンゴをすりおろすぐらいならアタシでも簡単にできるじゃねえか!
……待て、それじゃあ見た目がよくない。
タッパーにすりおろしリンゴを入れたら、見た目が強烈に可愛くない。
ここは、やはりウサギさんのシルエットに切って渡したい!
……いや。
冷静になれ、アタシ。
「やりたいこと」と「できること」は違う。
可愛くウサギさんのシルエットには切りたい。
だが、ハチミツ大根の件からしてアタシにそんな芸当ができるとは到底思えない。
ならば、選択肢はただ1つ。
そう。
ーー普通に切る。
リンゴを普通に切るぐらい、動画とかに頼らずともアタシにだってできるはずだ。
それに、ハチミツ大根みてえに時間がかかることもないだろう。
よし、リンゴを買って帰るぞ〜!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(翌日、早朝)
……誰も起きてないな。
よし、昨日コッソリ冷蔵庫の奥に隠しておいた大玉リンゴを取り出して……と。
ふうう。
さて、やるか。
……で、どうする?
…………。
洗う?
とりあえず、洗う?
……洗うんだっけ? リンゴって。
…………。
と、とりあえず、洗ってみよう。
ジャ〜〜〜。
よし、洗った。
……で?
切る?
うん……。
とりあえず、半分に切ればいいのか?
うん……。
……うん……。
……………………。
マ、マジかあああっっっーー!!!
リ、リンゴへの第一発目の入刀の仕方がわからないいいっーー!
あ、あり得る⁉︎
高校生になって、リンゴの切り方がわからないとかあり得る⁉︎
やばい、やばすぎんだろっ!
つーか、今までどんだけ料理や台所仕事に無関心で生きてきたんだ、アタシは!
く、くそ、計算ミスだった……!
リンゴなんて出てきたものをなにも考えずに食べるだけだったから、切り方がサッパリわからない!
リンゴを切るぐらい楽勝だと思ってたのに、こんなに高等スキルが必要だったなんて……完全に誤算!(※注 百合子は今、大変貴重な人生勉強をしています)
これはもう、なりふりかまっていられない。
モタモタしてると親が起きちまう!
よし、今すぐ動画先生に頼るんだ!
……あ、あれ?
携帯が全然動かねえぞ。
…………。
じゅ、充電が切れてるーー!!!
な、なんてこった!
こんな時に限って充電を忘れるなんて!
ど、どうするっ⁉︎
頼れるモノはもうないぞ?
あるのは、自分のイマジネーションだけーー。
…………。
お、落ち着け、なんとかなる!
根拠はない。
でも、なんとかなる!
この愛美への溢れるLOVEがあれば、なんとかなる!
いや、なんとかしてみせる!
と、とりあえず、イチカバチカ半分に切ってみるんだ!
サクッ……トン。
うん、2個になった。
……えっと。
これを。
……もう1回?
半分に切る?
……うん。
やってみよう。
サクッ……トン、サクッ……トン。
うん、4個になった。
これで?
皮を剥く?
……いや、ダメだ。
アタシならともかく、おしとやかで上品な愛美の口にこのサイズは大きすぎる。
食べやすいように、もう半分ずつに切ってみよう!
サクッ……トン、サクッ……トン。
サクッ……トン、サクッ……トン。
……うん。
大きさは全然均等じゃねえが、とりあえず8個になった。これなら愛美も食べやすいはずだ。
よし、じゃあ皮を剥くぞ……!
…………。
どうやって?
…………。
わ、わっかんねえええっーー!!!
リンゴの皮を剥く時の、手の構えがわかんねえよぉ!
お、落ち着け!
えっと、確か包丁を持つ手の親指に向かって切っていくんだったっけ?
シャリ…………スパァァァァァァッン!!!
うぉあぁぁっっっっっっーー!
あ、あっぶねえっっっ!
力が入りすぎて、危うく自分の親指を切り落とすトコだった!
な、なんてことだ……。
リンゴの皮を剥くのが、こんなに危険な行為だったなんて……!
なんで国は、こんな危険な行為を無資格で許しているんだ⁉︎(※注 繰り返しますが、百合子は今、大変貴重な人生勉強をしています)
ま、間違ってもアタシの血で染めた赤リンゴなんて愛美に食べさせられない!
もう見た目とかどうでもいいから、とにかく安全第一で切ろう!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(翌日)
チラーー。
愛美、今日は来てるな。
ホッ……。
体調がよくなって安心したぜ。
……ただ。
リンゴが……ですね。
皮は剥いたが、あり得ないほどガタガタでいびつな形になってしまったワケでーー。
一応持っては来たが、こんな前衛的な形のリンゴ、ホントに渡してもイイのだろうか?
ああ、悩む……。
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(昼休憩の時間)
ど、どうする?
愛美が弁当を食べ始めたぞ⁉︎
……つーか。
そりゃ食べるよな、普通。
そこからして、すでに誤算だった……。
愛美に栄養をつけてほしいがゆえ、こんな大玉のリンゴをまるまる1個を渡そうとしてるアタシ。
……情けねえったらありゃしない。
弁当もあんのに、こんなボリュームのリンゴを渡されたらアリガタ迷惑でしかねえじゃねえか。
昨日のハチミツ大根なんて、もしあのボリュームで渡してたらと思うとゾッとするぜ。
どうしよう、渡すのやめよっかな……。
「ねえ、百合ちゃん」
「っーー! はは、はい? な、なんだっ⁉︎」
「いや……その保冷バッグ、なにか入ってるの?」
き、気づかれてしまったーー!
いや、そりゃそうだろ!
保冷剤をパンパンに敷き詰めたこんなデカい保冷バッグ、気づかない方がおかしい!
えっと……!
えっと、どうしようーー⁉︎
「あ、ああ、これは、その……」
「ん……?」
「……や、やるっ!(保冷バッグをズイッと差し出して受け取れのサイン)
ば、ばっかやろうーー!!!
アタシの、ばっかやろうーー!!!
もっと言い方があるだろうが!
なんの脈略もなしに、いきなり「やる」とか愛美を困らせるだけだろ!
「え、えっと、これ、は……?」
「リ、リンゴッ!」
「あっ、リンゴ……」
「風邪ん時は、これ食っときゃ元気になる!」
「あ、ああ……」
い、言ってしまったーー。
これでもう、後戻りはできない。
ああ、神様っ!
どうか、このガタガタのリンゴを見て愛美がショックで気を失いませんように……!
パカッ。
「わああっ……」
はわわわわあっっっー!
ま、愛美がビックリした一言を漏らしたあああっ!
もうだめだ、完全に引かれちまったーー。
「……これ、百合ちゃんが剥いてくれたの?」
「い、いや、別に、なんてゆーか、その……ちょっと、利き手じゃねえ手で剥いただけだ!」
あほかあっっっーー!!!
なんなんだ、その咄嗟の言い訳はっ!
つーか、わざわざ利き手じゃない手で剥く理由ってなにぃーー⁉︎
「……ふふ、そっか」
ああ……愛美の顔が見れない。
でも、きっと今のは呆れ顔で言ったに違いない。
シャリ……。
た、食べたっーー!
「ま、不味かったら無理して食うなよっ⁉︎」
「ううん、美味しい。甘くて……酸っぱい」
ホ、ホントか……?
「ううん、やっぱり……」
えっ?
や、やっぱり……⁉︎(ゴクリ)
「酸っぱくて……甘い」
は、はひいいいいいーー⁉︎
ななな、なにそれっ?
なにそれえぇっっっっっっ⁉︎
な、なんでそこ入れ替えたのぉぉぉ⁉︎
「甘くて酸っぱい」と「酸っぱくて甘い」って、なんか違うのおぉっっっ⁉︎
わ、わかんねえ……。
わっかんねえよおおおっっっ!
シャリ……。
ふ、二口目ーー!
食べてくれるってことは、ホントに不味くはねえのか?
「ありがとう、百合ちゃん」
「えっ?」
「世界一……美味しいよっ(目に嬉し涙を浮かべながら、偽りのない感謝が溢れるエンジェルスマイルでニコッ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。




