23.秘密の現場
「はい、それでは20円のお返しになります。ありがとうございました、またお越しください」
……買った。
その名も。
スキンレボリューション⭐︎ピチピチパープルハニー。
……なんじゃ、それ(苦笑)
母親に頼まれて百貨店におつかい。
小学生の時以来、実に3年ぶり。
お肌にイイということで、アラフォー世代を中心にどうもSNSでバズってるらしい。
通販では手に入らない店舗購入特典の美顔ローラーも高評価。
……って。
いくら自分に外せない予定があるからって、こんなもん娘に買いに行かせるなっつーの!
アタシが使うワケでもねえのに、究極に恥ずかしかったじゃねえか!
つーか。
紫色のハチミツって……どうなんっ?
見た目、完全に魔女の作ったヤバイ薬だろ……(ゴクリ)
……ま。
そんな文句を言いつつも、無事にミッション完了。
あとは、お駄賃代わりに渡されたこの百貨店で使える1000円分の商品券をどう使うかってことなんだけど。
う〜ん……。
なんにも思いつかん。
なんせ、アタシは物欲がないに等しいからな。
こんなもん渡されたって、どう処理すりゃイイかわかんねえよ。
あ〜あ、どうしよっかな。
…………あ。
そうだ。
そうだよっーー!
愛美のために使えばイイじゃないか!
自分に欲しいモノがないなら、愛美のために使えばイイんだよ!
さっすがアタシ、ナイスひらめきだぜっ!
え〜と。
愛美が喜びそうなモノってなんだろう?
そうだな……。
うん。
やっぱ、アレだな!
よし、そうと決まればレッツラゴー!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(百合子、3階に移動っ)
よし、ここだな。
ラブリー書店。
愛美が喜びそうなモノ。
そう。
それは。
やっぱ、本っしょーー!
愛美、休憩時間はいつも小説を読んでるもんな。
だったら、小説をプレゼントすれば間違いないよ!
え〜と、どんなのにすっかな?
…………。
あれ。
そういえば。
愛美って、普段どんな小説を読んでんだっーー⁉︎
いつもブックカバーをつけて読んでるから、小説のタイトルとかわかんねえぞっ?
こ、これは思わぬ誤算……!
適当に選んでも、好きなジャンルじゃなかったらアリガタ迷惑になるだけだ!
か、考えろ。
誰よりも愛美LOVEであるアタシなら、きっと好きなジャンルもわかるはずだ。
やっぱり、重厚感のある純文学かな?
それよりも、緻密にデザインされた推理系か……。
う〜ん、意外とホラー系だったりするかも。
いや、実は1番イメージとかけ離れたラノベとか?
ーー結論。
分からんっ(チーン)
も、もうイイや。
こうなれば、表紙やタイトルを見てインスピレーションで決めよう。
心をこめて決めたモノなら、きっと愛美も喜んでくれるはず!
よし、とりあえず小説コーナーを探すか。
え〜と、どっちかな……(ブラブラ)
お、あそこだな。
ん?
あれ……?
あれあれあれっーー⁉︎
あそこにいるのって……。
もしかして……!
愛美いぃっっっっっっーー⁉︎
ま、間違いないっ。
あの可憐さがダダ漏れしてる佇まい、まさに愛美だあっ!
わわわっ!
ど、どうしよう⁉︎
まさか、こんなトコで愛美に逢えるなんて……。
ああ、お母様!
今日アタシにおつかいを頼んでくれて、ありがとうございますうぅ〜!
なにやら、真剣な表情で本をながめてるぞ。
新しい小説でも買うつもりかな?
ううぅ、今すぐ近づいて好みを確認したい〜!
いや、ダメだ!
それじゃ、ノゾキ見と一緒になっちまう!
よ、よし。
じゃあこうしよう。
もし愛美が小説を手に取ったら、偶然を装ってアタシが登場する。
そして、この1000円分の商品券をさっそうと渡して使ってもらう。
うん、完璧な流れだ!
これなら愛美は好きな小説を格安か自腹ナシでゲットできるし、アタシもそれに貢献できる。
まさにWin-Winなカタチだぜ!
あっーー!
そうこうしてる内に、愛美が小説に手を伸ばしたぞ!
あれ……?
でも、なんかすごいキョロキョロ周りを見てるな。
いったい、なにをそんなに警戒してるんだ?
ピッーー!(愛美、1冊の小説を光速で手に取り、隠すように両手で抱えっ)
はっ、ついに愛美が小説を手に取ったぞ!
今だ!
偶然を装って、アタシ出動!
……で、でも。
正面から行くのはちょっと恥ずかしくて照れるから、後ろに回ろうっと。
ササッ!(百合子、愛美の後ろに回り込み完了っ)
よし、ポジションOK!
そ、それじゃあ声をかけるぞ……!
「よよよ、ようっ……!(超絶照れっ&声震えっ)」
「ひっっっーー⁉︎(ドッキリーーンッッッ⭐︎)」
ソロ〜リ……(愛美、恐るおそる後ろに振り向きっ)
「っっっーー!!! ゆゆゆっ、ゆっ、百合ちゃあああんっっっ……⁉︎」
「ぐ、偶然だな」
「あっ、ああ、そ、そう……だね!」
あれ。
なに?
この変な空気。
シ〜ン…………。
「あ、えっと……偶然だな(2回目)」
アホかっーー!
なんじゃっ⁉︎
その謎の2回目はっ!
いくら変な空気に間がもたなかったとはいえ、2回言う必要とかねえだろ!
い、いかん。
これはマズイぞ!
アタシのテンパリ具合が思った以上にひどい!
そして、愛美のリアクションもなんか微妙だ!
ここはサッサと本題を切り出そう!
「あ、新しい小説でも買うのか?」
「へっっっーー⁉︎ あっ、いや、これはっ……!(愛美、アタフタしながら急いで小説を背中の方に隠しっ! でも、焦りすぎて手元から小説が床にポロリッ!)」
「あっ、落ちたぞ(百合子、すかさず拾おうと小説に手をスッ)」
「だっはあぁぁぁっっっっっっーー!!!」
ズバッコオォォォォォーーンッッッ!(愛美、落とした小説を思いっきりキイィィッッック!)
えっ、えええええっっっっっっーー⁉︎
ま、愛美が、小説を蹴り飛ばしたっーー!
「お、おいっ、ど、どうしたんだっ……⁉︎」
「えっ? あ、いや……! ちょっと、足がすべっちゃったみたいっ!」
す、すべった……⁉︎
いや、そうは見えなかったぞっ!
それはもう、プロサッカー選手がミドルレンジから強烈な弾丸シュートを放つがごとく、豪快に右足を振り抜いたように見えたんですけどっ……!
だ、だが。
愛美がそう言うなら、ホントにすべったに違いない。
とりあえず、向こうにぶっ飛んだ愛美の大切な小説を拾ってあげなきゃ!
「そ、そうか。じゃあ、拾ってきてやるよ」
「っーー! ダッ、ダッメえぇぇっっっーー!!!」
ひ、ひいぃっっっ⁉︎(ビクウッ!)
「そっ、そういうのは、店員がやるからっ!!!」
「へ、へっ……?」
な、なにを言ってるんだ、愛美っ?
購入前の商品を蹴り飛ばしたあげく、その後始末を店員に任せるだと⁉︎
ま、愛美はこの世で最も親切で礼儀正しい大天使様のはず……。
なのに!
いったい、どうなされてしまったのですかっ⁉︎
愛美お嬢様ぁぁぁ〜!!!
「で、でも、買うつもりで手に取ったんじゃ……」
「ええっ⁉︎ いや、別に、買おうとしてたというか、なんというか……勝手に、本が、手に、くっついてきた? みたいな……」
「は、はぇ……?」
な、なにそれ?
なんか愛美、よくわかんねえ力技でねじ伏せにかかってきてねっ⁉︎
「とっ、ところで、百合ちゃんは、どうして、今日、ここにっ……⁉︎」
「えっ? ああ……ちょっと、親に買物を頼まれて」
「そ、そうなんだぁ! もう、終わったの?」
「ああ」
「そっかあ〜! あっ、じゃあさ、せっかくだから今からお茶でもしないっ? 私も用事がすんだから!」
えっ?
愛美とお茶?
…………。
するするうぅっっっーー!
ヒャッホオォォォォイッッッ!
「べ、別にイイけど?」
「よかったあ(ホッ……)、じゃあ行こっか」
なんか展開が超めまぐるしいけど、そんなのもう、どうだってイイや!
愛美とお茶、お茶ぁ!
ふっふっ〜ん♪(※注 小さいことは気にしないピュアガール、それが百合子です)
あ。
でも。
やっぱ、愛美はあの落とした小説を買うつもりだったんだよな?
どんなのを買おうとしたんだろ。
今後の参考として、ジャンルだけでも確認しとこうかな?(愛美が小説を手に取った本棚上部の、ジャンル案内表示をチラ)
「じ、『GL』……?」
「っっっーー!!! ドゥワッホオォォォォォーーイッッッ!!!(※注 こちら、百合子ではなく愛美の雄叫びでございます)」
ひいぃぃぃーー⁉︎(ビクウッ!)
「い、今、なんか、言った……? てゆーか、どこか、見たっ⁉︎」
「えっ? いや、あそこの『GL』って表示を……」
「ああっ! あれっ⁉︎ あれねっ! あれさあ、グッドラックって意味らしいよっ!」
「グ、グッドラック……?」
「そうっ! 私も気になって店員に聞いたんだけどさあ、この本屋へ来てくれた人に幸アレっていうメッセージなんだってえっ!」
「へ、へえぇぇ……」
そ、そうなの?
ジャンル案内ではなく、そういうメッセージなの?
「さあ、そんなことより早くお茶しに行こうよっ!」
「あ、ああっ……!」
な、なんか愛美、ずっと声デカくね⁉︎
それに、めちゃくちゃ焦ってるし……。
でも。
そんなことより、愛美とおっ茶ぁ〜!
ホッホッ〜ウ♪(※注 繰り返しますが、小さいことは気にしないピュアガール、それが百合子なのです)
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(百合子&愛美、1階のカフェに移動っ)
はああ……。
愛美と対面で飲むカフェモカ、最高に美味しひぃ〜!
「まさか、こんなトコで百合ちゃんに逢うとは思わなかったよ……(愛美、アールグレイを一口含んでグッタリ)」
えっっっーー⁉︎
な、なに?
ひどく疲れきった表情で、そのコメント……。
プライベートな時間に話しかけちゃったから、実は怒ってるとか……?
あうう……。
ごめんなしゃい……。
ア、アタシはただ、愛美が好きな小説を買うのに貢献したくて……(超絶、涙目っ)
つ、罪滅ぼしにならないかもしれないけど……。
せめて、この1000円分の商品券を愛美に渡して、いつか使ってもらおう(グスッ)
「あ、あのさ……コレ、やる」
「え? こ、これは?」
「ここの百貨店で使える商品券。アタシ、持ってても欲しいモノねえから」
「そ、そんなのワルイよ!」
「イイんだよ。またいつか、ここの本屋で買う時のために取っといてくれ。その方が、商品券も喜ぶだろうから」
「で、でも……」
「つーか、最初からそう決めてたんだ。今日ここで逢ったのは、ホントに偶然だったんだけど(へへっ……的に微笑みっ)
「っ…………」
もらっらてくれないかな。
……っぽいな。
それならそれで、仕方ない。
無理やり押しつけるワケにはいかねえもんな。
「……もう、バカっ!」
「へっーー⁉︎」
「……そんなこと言われたら、余計に好きになっちゃうじゃん!」
「えっ? な、なにが……?」
「そ、それは…………小説(真っ赤な顔でボソッ)」
ああ……小説。
そっか。
それは、よかった……。
「あの……それじゃあ、お言葉に甘えてホントにもらってもイイかな?」
「えっ? あ……ああ、もちろん!」
はは……よかった、受け取ってもらえて!
「でも、もったいなくて使えそうにないかも」
「ん? なんで?」
「だって……百合ちゃんの手と心の温もりが詰まった、世界で1つだけの宝物だから……!(商品券を両手で胸に当て、嬉し涙がにじむスーパーエンジェルスマイルでニコッ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。
また、愛美の勢いに飲まれた百合子は知らなかった。
『GL』の本当の意味は、グッドラックではなく『ガールズラブ』であったことを。
そして。
愛美が買おうとした小説が、1番イメージとかけ離れたラノベであったことを。
その、小説のタイトルーー。
『みなしヤンキー × エンジェルガール』




