2.小悪魔ベイビー
はぁぁ……。
だめだ、愛美が可愛すぎて直視できねえ。
アタシは物分かりがわるいほうじゃない。
自分の気持ちにも常に素直だ。
そう。
つまり。
この感情は……。
アタシは、愛美に恋をしてしまったんだーー!!!
ぜぜ、絶っ対にそうだ!
恋なんてしたことねえけど、この張り裂けそうな胸のドキドキ、もはや絶対に恋だ!
な、なんてことだ……。
今まで人に興味なんか湧いたことねえのに、あろうことか同じ女子を好きになっちまうなんて……!
お、恐るべし、愛美のエンジェルスマイルッ!
ーーチラ。
はああ、ダメだ!
顔を見るだけで頭がどうにかなりそうなほどドキドキしちまう!
こ、これはまずい……。
こんな調子じゃ勉強なんか手につかず、赤点続きで留年確定だ。そうなれば、愛美と一緒に卒業ができない!
それを避けるためには、まずはなんとしてでも平常心を取り戻すことが必要だ。
よし、とりあえずどうでもいヤツを見て心を落ち着かせよう!
えっと、そうだな……。
お、あのガリ勉メガネの男子がちょうどいい。いかにも人畜無害そうでまったく興味がわかねえ。
じっ〜〜〜。
ふう……いいぞ。
どうでもいいヤツすぎて心が落ち着いてきた。
この調子で今日一日を乗り切るぞ!
「……けほっ、けほっ」
せ、咳いいいっーー⁉︎
い、今、愛美が咳を?
まさか、おとといの風邪がぶり返したとか?
あああ、振り返りたい!
今すぐにでも愛美の体調を確認したい!
でも、愛美の顔を見たら、せっかくガリ勉メガネ君を見て落ち着いた心がまた荒ぶっちまう!
れ、冷静になれアタシ。
今の咳が風邪によるものとは限らない。
もしかしたら、コッソリおやつに持って来たピーナッツを食べてむせてしまっただけかもしれない!
うん、きっとそうに違いない!
よし、心が落ち着いてきた……。
「……くしゅん」
ク、クシャミィィィーー⁉︎
な、なんてことだ!
これはもう、風邪がぶり返してること確定じゃないか!
あああ、ダメだ!
ガリ勉メガネ君を見てる場合なんかじゃない!
もう我慢の限界だ!
待ってろ愛美!
今、振り返るぜーー!(※注 百合子は「今、振り返る」のかっこいい使い方を間違えています)
あ、やばい。
振り向きざまに思いっきり愛美と目が合ってしまった。
「ご、ごめん、こんな至近距離で咳やクシャミしちゃって……マスク、するね⁉︎」
「そ、そんなことはどうでもいいっーー!」
「えっ……⁉︎(おびえる目でビクッ)」
「マスクなんかどうでもいい、それより、体調は大丈夫なのかっ⁉︎」
「あっ? う、うん、大丈夫……だと、思う」
「な、なんかあったら、いつでも言え!」
「え……?」
「ほ、保健室に、連れて行ってやる!」
「っ…………」
えっ?
な、なに、その沈黙?
今言える精一杯の言葉掛けだったのに、不自然だったのか?
やばい、印象をわるくしたかもしれないーー!
「……ふふっ」
えっ?
わ、笑い?
どういうこと?
ど、どういうことだ、それ⁉︎
「優しいんだね、百合ちゃん」
「は、はっ……?」
「じゃあ……私が倒れたら、お姫様抱っこで保健室に連れて行ってね?(小悪魔系スパイスが配合された超絶甘々なエンジェルスマイルでニコッ♡」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。