12.代行業務
キーンコーンカーンコーン♪
おっしゃあ、お待ちかねの昼休憩だぜ!
今日も愛美の隣りで昼ご飯、フッフッ〜ン♪
ガタッーー。
ん、愛美?
昼休憩に入った途端、席を立つなんてどうしたんだろ。
トイレかな?
こうしちゃいられない。
愛美に変な虫が寄って来ないよう、コッソリ後を追わなければ!
シュババババーー!(百合子も教室から脱出!)
ふう、よし。
愛美の姿を確認。
松城百合子、これより愛美の安全を後方より守ります!
あれ?
愛美、いったい、どこに向かってるんだ?
そっちはトイレの方向じゃないぞ。
右に曲がり……真っすぐ進む。
そして、左に曲がった。
……って。
待て。
そ、その先にあるのは。
その先にあるのはっ……!
お昼時間の合戦場こと、購買じゃないかーー!
ダ、ダメだよ、愛美!
あそこはお前には危険すぎる!
我を忘れた猛者どもの修羅場に巻き込まれるぞーー!
ダダダダダッ!(超速で愛美の近くに追いつきっ!)
よかった、まだあの血生臭い渦に飲み込まれてない!
「わ、わあ……(目の前の光景に、愛美ポカ〜ン)」
そ、そりゃそういうリアクションになるよ、愛美!
そして、そこで立ち止まって正解だ!
ここは妖精の少女が来る場所なんかじゃない。
屈強な戦士や武道家たちが、命を削り合う戦いの場なんだ!
……つ、つーか。
そもそも問題なのは、なぜ愛美がこんな場所に来たかということだ。
人生で1回は、この青春の修羅場を生で見てみたかったとか?
……いや。
貴重な昼休憩の時間を削ってまで、愛美がそんな興味本位の社会見学をするとは思えない。
と、いうことは。
愛美は、ここで昼ご飯をゲットするつもりだーー!
間違ってない。
間違ってないぞ、愛美。
だって、購買は昼ご飯をゲットするトコだもんな。
だが、しかしっ!
もし愛美があの血生臭い渦に飛び込もうモノなら、一瞬にして前後左右からの強烈な圧でペシャンコになっちゃうよーー!
「よ、よしっ……!(愛美がゴクリと生つばを飲みこみ、修羅場へと1歩ジリッ)」
ダ、ダメだーー!
愛美いぃぃーー!
よ、よしっ、じゃないってえ!
妖精の少女は、これ以上先に進んじゃいけないっ!
くそっ……。
愛美は覚悟を決めてしまったようだ。
だが、このままヤスヤスとお前を見殺しになんかはしないぜ!
アタシは、ありとあらゆるケースに対応できるよう常に準備をしている。
その1つとして、スカートのポケットには絶対に小銭を入れているのだ!
問題解決に当たり、金が必要な場合を想定してな!
待ってろ、愛美。
その尊いお腹を満たすため、この松城百合子がヒトハダ脱ぐぜ!
お前の代わりに、アタシがなんか買ってきてやる!
ズンズンズンッ!(百合子が鋭い目つきで愛美の横を通りすぎっ)
「えっ? ゆ、百合ちゃん……⁉︎」
さあ、いっちょやりますか。
お先のお客様どもには申し訳ないが、ちょっとグイグイ行かせてもらうぜ!(武者ぶるい代わりに、特大の咳払いをンンンッッッ!)
っっっーー⁉︎(咳払いを聞いた生徒たちが、ピタッと動きを止めて百合子の方に振り向き! そしてーー)
シ〜ン…………(振り向いた生徒たちが、カキーンと固まって百合子を凝視っ)
え。
あ、あれ?
なにコレ。
ど、どうした、どうした?
お前ら、どうした?
サアアアアッ〜!(揉み合っていた生徒たちが、百合子に道を譲るがごとく左右に移動っ!)
え、えええええっっっーー⁉︎
ま、まるで海がパッカーンって割れるように、アタシの前に道ができたあああ!
い、いや、どういうこと⁉︎ コレ!
なんでそんなご丁寧に道をあけてくれんのっ⁉︎
ア、アタシは別にズルするつもりはないぞ!
正々堂々、チカラとチカラで戦うつもりですけど⁉︎
スッ…………(道をあけた生徒たちが「どうぞ、お進みください!」とばかりに、廊下に向けて手を差し出しっ)
い、いや、だからそういうの望んでないってーー!
なんでそんな特別扱いすんのおぉぉ⁉︎
「っ…………!(目の前の光景に、愛美が口に両手を当てて驚嘆っ)」
ま、愛美ぃぃぃ!
なんだよ、そのリアクションはあああっ⁉︎
み、見てたよなっ?
アタシが指示したワケじゃなく、こいつらが勝手にこんなことしたの見てたよなーー⁉︎
ああ……。
なんかもう、どういうこと、コレ?
つーか。
もう、後には引けない。
目の前に安全な道は開けども、ここを通れとなんか愛美に言える雰囲気じゃない。
ここはやはり、腹をくくってアタシが愛美の代わりに昼ご飯をゲットするほかない。
……と、通りづらっ。
強烈に通りづらいんですけど。
でも、行ってやるぜ!
愛美のためなら、アタシにできないことなどない!
スタスタスタ……。
つ、突き刺さる。
左右から、数多の視線が突き刺さる。
そして、遠い。
商品棚までの数メートルが、数キロに思えるほど遠い。
くそ、最強パイセンたちをのした影響はどこまで計り知れないんだ?
ふう……ようやく商品棚に到着したぜ。
さあ、愛美に最適な昼ご飯を選ぶぞ!
ええっと、どれがいいかな?
愛美が好きそうなモノは……っと。
お、これなんかどうだ?
森のキノコの絶品グラタンパン!
妖精の少女には抜群に似合うぜ〜♪
よし、コレにしよう!
スッ……(百合子の手がパンに近づきっ)
「おおおおおっっっーー⁉︎(後ろで見守る生徒たちから、いっせいにドヨメキッ)」
おわあっ!(ビクウッ!)
な、なんだ、今のリアクションは⁉︎
そして、なぜみんなそんなに「し、信じらないっ……!」的な顔をしてるんだああっ⁉︎
ーーはっ!
そ、そうか。
こいつらにとって、アタシはこの学校最強のヤンキー。
森のキノコの絶品グラタンパンとか、イメージからかけ離れすぎてるんだ!
いや。
つーか。
そんなにかたずを飲んで見られたら、選びづらいだろうがーー!
べ、別にいいだろ、アタシがなにを買おうと。
そこはちょっと、ソッとしといてほしいんですけど⁉︎
……で、どうする?
か、買うか?
買うのか?
買うぞ?
森のキノコの絶品グラタンパンを、買っちゃうぞっ?
ーーはっ!
いや、待て。
アタシは今、森のキノコの絶品グラタンパンを買おうとしているが、そもそも愛美がキノコとか好きじゃなかったら、どうする……?
もしそうだった時は、愛美はパンを食べれないわ、アタシは影で「森の毒キノコさん」とか変なあだ名で呼ばれるようになるわで、目も当てられない状況になるぞーー⁉︎
くっ、ど、どうする……?。
このまま突っ走るには少々リスクが高い。
アタシのイメージはどうでもいいが、愛美がキノコ好きじゃなかったら申し訳ない。
こ、ここは別のパンに変えようかな。
好き嫌いがわかれやすいキノコより、誰でも食べれそうなパン……。
……あんパン?
ちょうど、森のキノコの絶品グラタンパンの横に、あんパンがある。
あ、あんパンは大丈夫かな?
とりあえず、あんパン、取りま〜す……(あんパンにゆっくり手をスッ)
「おおぉぉぉ……(後ろで見守る生徒たちが、納得するように頷きっ)」
あ、あんパンはいいんだあっーー⁉︎
いや、つーか。
なんだよ、その納得具合!
アタシはいったい、お前らの中でどんなイメージなんだ⁉︎
ま、まあいい。
とりあえず、あんパンはゲット……っと。
そういえばゴールデンウィークの時、粒あんの鯛焼きを買ったって言ってたよな、愛美。(※第6話参照)
よし、やっぱりあんパンは間違いない。
だけど。
さすがにこれ1つじゃあ、愛美のお腹は満たされないよな。
もう1つぐらい別のパンを買おう。
ええっと、どれにしようかな……。
お、これなんかどうだ?
昔ながらのチーズ蒸しパン!
このフニフニとしたなんとも言えないやわらかさが、愛美の可憐な雰囲気とマッチするぜ〜♪
よし、チーズ蒸しパンに決めた!(百合子の手がパンに近づきっ)
「おおおおおっっっーー⁉︎(後ろで見守る生徒たちから、いっせいにドヨメキッ)」
おわあっ!(ビクウッ!)
だ、だからなんだよ、そのリアクションはっ⁉︎
チ、チーズ蒸しパンもダメなの⁉︎
チーズ蒸しパンはセーフだろっ?
アタシ、チーズ蒸しパンも食べちゃダメなキャラなんすかあ⁉︎
どど、どうする?
いくか?
いっちゃうか? チーズ蒸しパン!
ーーはっ!
いや、待て。
チーズも以外と苦手なヤツが多い食材。
もしも愛美がチーズ好きじゃなかったら、どうする?
もしそうだった時は、愛美はパンを食べれないわ、アタシは影で「激臭チーズちゃん」とか変なあだ名で呼ばれるようになるわで、やはり目も当てられない状況になるーー!
くそ、不本意だがまた別のパンに切り替えるか……。
…………。
焼きそばパン?
惣菜パンのど定番、焼きそばパンならどうだ?
アタシの記憶上、焼きそばパンが嫌いというヤツに出くわしたことはない。
あんパンが甘い系だから、もう1つはガツンとした惣菜パンだとバランスはいいな。
よ、よし。
じゃあ、焼きそばパン、と、取るぞ?(焼きそばパンにゆっくり手をスッ)
「おおぉぉぉ……(後ろで見守る生徒たちが、納得するように頷きっ)」
い、いいんだあ⁉︎
焼きそばパンはいいんだあっ?
な、なんかもう、お前らの基準がよくわかんねえわ。
まあ、なにはともあれ焼きそばパンをゲットした。
愛美が食べる分にはこの2個で十分だろう。
あとは飲み物だな。
飲み物のセレクトはもう決まってる。
迷う必要もない。
そう。
妖精の少女にうってつけの飲み物。
いちごミルクーー!
ああ……。
優雅に花の蜜を吸うかのごとく、いちごミルクを飲む妖精の少女。
想像するだけで、ありとあらゆるモノが浄化されていくぜえ〜。
……だが。
しかし。
もう、わかってますよ。
皆のみなさま。
アタシが〜。
いちごミルクに〜。
手を伸ばすと〜?(スッ)
「おおおおおっっっーー⁉︎(後ろで見守る生徒たちから、いっせいにドヨメキッ)」
ですよね〜っ(泣笑)
わかってます。
わかってますけど、一応やってみただけですって。
ああ……。
もう、ここまで来たらトコトンお前らのイメージに付き合ってやろうか?
だいたいわかるぜ。
お前らが納得するような飲み物。
それに、これなら愛美もたぶん飲めるだろう。
◇◆◇◆◇
「はい。それじゃあ、あんパンと焼きそばパン、それにコーヒー牛乳で400円です」
……はい、無事に買えました〜、っと。
で、結局。
あんパン。
焼きそばパン。
コーヒー牛乳。
どんだけ気弱なキャラが不良にパシられる時の定番で固められてんだ、このラインナップ。
やっぱ、アタシのイメージは「超ド」がつくほどのヤンキーだということをマザマザと思い知らされたぜ、トホホ……。
はあ……疲れた。
さて。
では、帰るとしますか(支払いをすませてクルッ)
ペ、ペコリッーー(後ろで見守っていた生徒たちが、いっせいに頭を下げて礼っ!)
や、やめてええぇぇぇ⁉︎
なんでっ?
なんで、そんなことすんのおーー⁉︎
いいから!
そういうの、もういいから!
あ、頭を!
頭をあげてよ、ねえ、みんなーー!
「っ…………!(愛美が口に右手を当て、なんとも言えない表情っ)」
ち、違うんだあっ、愛美ーー!
見てたよなっ?
こいつらが勝手に頭を下げたの、見てたよなっ⁉︎
ああ、もう……。
なにコレ。
なぜアタシは、こんなどこぞやの親分みてえな扱いを受けてんだ?
と、通るけど。
ここを通らないと帰れないから、通るけども。
はあ……。
最後の最後まで、このさらし者のような恥辱責め。
アタシはただ、愛美の昼ご飯をゲットしたかっただけなんですけどぉ〜(トボトボ&泣)
スッーー(百合子が愛美の横を通りすぎっ)
愛美お嬢様。
この百合子、あなた様のために昼ご飯をゲットして無事に帰還いたしました!(心の中で愛美に向けて敬礼っ!)
ふう……疲れた。
激烈に疲れた。
だが、やることはやりきった。
そして、アタシがハケたことりより……。
「わああああっっっ!(百合子を見送った生徒たちが、再び合戦を開始っ!)」
はい、現場が通常の姿を取り戻しました〜。
メデタシ、メデタシ……と。
おっと、のんきに一息ついてる場合じゃなかった。
うかうかしてっと、愛美があの修羅場に飛び込んでしまうぞ。
チョン、チョン(百合子が愛美の背中を人差し指で突っつきっ)
「え……? あ、ゆ、百合ちゃんっ?」
クイッ、クイッ(購買から見えない方へと百合子が親指を向けて誘導っ)
「ど、どうしたの?」
「いや、あのさ……コレ、やる」
「えっ? で、でもコレ、百合ちゃんのじゃ?」
「アタシ、今日昼メシ持って来てんの忘れて買っちまったから。お前、昼メシないんだろ? だから……やる」
「い、いや、でも、わるいよっ?」
「……嫌い、だったかな?」
「……えっ?」
「あんパンと、焼きそばパンと、コーヒー牛乳」
「っ…………」
……やば。
もしかして。
どれも、あんまり好きじゃなかったのかなーー。
「……大好き」
「え、えっーー⁉︎(ドキンッ⭐︎)」
「あ……ううん。どれも、大好きだよ」
「そ、そっか。それは、よかった」
バ、バカか、アタシは!
つい自分に向けて大好きって言われたと思って、赤面しちまったじゃねえか。
「えっと、じゃあ……ほら」
「……ありがとう。ホントに、いいの?」
「おう、気にすんな。遠慮なく食え」
「……うん(百合子からパンとコーヒー牛乳が入った袋を受け取って、優しくニコッ)」
……ふふ。
なんか、色々あったけど。
最後に見れた愛美の優しい笑顔。
やっぱ。
買ってよかったーー。
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(翌日、下校の時間)
おっしゃ、今日も1日おわったぜ!
さあて、コッソリ愛美を見送って帰るとするかな。
「百合ちゃん」
「んっ?」
どうした、愛美?
「あの……コレ(可愛らしい紙袋をスッ)
「え、コ、コレは?」
「……昨日の、お礼」
「お、お礼?」
「うん、受け取って。返品不可だよ?」
な、なんだよ、急に改まって。
それに、お礼って……(愛美から紙袋を受け取り、中を確認っ)
「っーー! コ、コレ……」
グラタンパンに、チーズ蒸しパン。
それに、いちごミルクーー。
「昨日もらったお昼ご飯がとても美味しかったから、そのお礼」
コ、コレッて……。
全部、アタシが昨日、最初に買おうとした……。
「購買と全く同じのではないけど……私が、1番好きなやつ」
「……えっ?」
「百合ちゃんも、私と同じように好きでいてくれたら……嬉しいな?(さて、その「好き」の対象っていうのは、パンといちごミルクのことなのか、それとも別のことなのか……どちらでしょう? 的な意味深エンジェルスマイルでニコッ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。




