11.ツワモノ!
ううう……ん!(背伸びっ)
今日も1日終わったぜ。
さあ、下校前の最終タスク。
愛美お嬢様をコッソリ校門までお見送りするぞ〜!
「ねえ、百合ちゃん」
「あん?」
「今から図書室に行くんだけど、よかったら一緒に行かない?」
「え? 今日って、図書委員活動の日だったっけ?」
「ううん。今日はね、ちょっと見たいものがあって」
見たいもの?
なんだろ。
でも。
愛美と一緒に放課後をすごせるなんてえええっ!
そんなの、行くに決まってんでしょうがぁ〜!
思いがけないアディショナルタイム!
愛美と一緒にイッチャイッチャするぅ〜♡
フゥフゥ! ヒャッホ〜ウ!
「べ、別にいいけど」
「あはっ、ありがとう! 実は、名湯原ナコ先生の原画が見たくって」
「名湯原……誰だ? それ」
「この学校出身の漫画家さんだよ。最近注目されてて、ジワジワ人気が出てるみたいなんだ」
「ふーん、そんなヤツいるんだ」
「うん。でね、その名湯原ナコ先生が漫画家デビューをした時、母校のためにサイン入り原画を描き下ろしたんだって。それが、図書室の一角に飾ってあるらしいの」
「へえ、そんなもん興味ねえから知らなかったな」
「実のところ、私も全然。でも、プロの漫画家さんって聞いたらなんだか見に行きたくなっちゃって……つい、誘っちゃった」
「まあ、別にいいぜ。帰っても暇なだけだし」
と、スカして言いつつも。
ああぁぁぁ〜!
名湯原ナコ先生、ありがとう!
あなたのことは全く知らねえけど、愛美とイチャつくキッカケをくれて!
ぶっちゃけ興味はないけど、今から愛美と見に行きますぅ〜!
◇◆◇◆◇
「あった、これだね」
「へえ……なんか、可愛らしい絵を描く人だな」
「そうだね。わあ……すごいなあ」
絵を見て心から感動する愛美。
でも。
そんな愛美の澄んだ横顔の方に、アタシは今、最高に感動してるよぉ〜!
「あなたたちも、この絵にご興味がおありですか?」
ーーはいぃぃぃ⁉︎(ビクウ!)
だ、誰だっ?
愛美とのイチャイチャタイムに割り込む不届き者は⁉︎
「おや、誰かと思えば同じクラスの松城さんと凛咲さんではないですか」
「あっ? え、ええっと……」
だ、だよな?
そういうリアクションになるよな?
間違ってないぞ、愛美!
アタシもこいつのこと、1ミリも思い出せねえし!
こ、こんなヤツ、同じクラスにいたっけ?
「はは、誰だかわかりませんか? いいですよ、別に。存在感はないに等しいと自覚していますので、全く問題ありません。むしろ、正常な反応といっていいでしょう」
な、なんだ?
この独特な雰囲気としゃべりは……。
まさか、こいつも愛美を狙う変な虫か⁉︎
……いや。
待て。
この牛乳瓶の底みてえにブ厚いレンズのガリ勉メガネ、どこかで見たような……。
ーーはっ!
そ、そうだ!
こいつは、かつてアタシが愛美への恋心を確信した時、アタフタする気持ちを落ち着かせるために利用したどうでもいいヤツーー!(※第2話参照)
「無意味ではありますが、一応、自己紹介しておきましょうかね。ワタクシ、虹野住人と申します。3秒後に忘れてくれてもいいですよ」
…………。
わ、忘れられるかよ。
こんな強烈な世界観を浴びせられといて。
「この原画はもう100回ほど見ましたが、何度見ても初見時の感動と衝撃が色あせることはありません」
「ひゃ、100回もっ⁉︎ す、すごい、ですね……」
「いえいえ、100回しか、ですよ。卒業までには軽く1000回を超えてるでしょう。それほどまでに、この原画はワタクシの鑑賞欲求を常にかき立ててくれるのです」
「へ、へえ〜、なるほどぉ……(汗タラリ)」
こ、困っている。
愛美が困っているぞ!
いかん、こんな強烈なキャラ、愛美にはちょっと刺激が強すぎる!
「ちなみに、これは名湯原先生のデビュー作にして今注目を集めている『SPAっと☆スーパーLOVE!』の原画です」
お、おい、ちょっと待て!
こいつ、頼んでもないのに解説を始める気か⁉︎
「いやあ、何度見ても素晴らしい。柔らかく繊細なタッチながら、キャラクターたちの持つ力強いエネルギーが3Dで伝わってきます。これまで数多の二次元作品に触れてきましたが、こんな画風に出逢ったのは初めてです。この作品の秀逸なところは……(ベラベラベラ)」
ああ……。
始まっちまった。
めっちゃ早口で、押し売り解説を始めやがった。
……ま、まさかとは思うが。
ひょっとして、こいつ。
自分の二次元に対する博識ぶりを見せつけて、愛美の気をひこうとする特殊なタイプの変な虫かっーー⁉︎
……い、いや。
でも。
どうも、違う。
なんというか。
こいつから、そういう下心が微塵も感じられない。
つーか。
三次元の女に対する興味が、全く感じられないーー!
そ、そうか……。
こいつ、さっき数多の二次元作品に触れてきたって言ってたけど、たぶん、長年にわたり二次元の世界にどっぷり浸かりすぎて、もはや自分が二次元の住人と化してしまったんだーー!
だから、きっと女も二次元のヤツにしか興味がねえんだな⁉︎
……と、いうか。
二次元世界の住人と化したこいつにとっては、もはや、この現実世界こそが異世界。
つまり。
こいつは。
リアル異世界転移野郎ーー!
な、なんてことだ……!
お前はいったい、なんの使命を請け負ってこの世界に転移して来たというんだ⁉︎
……あ。
てゆーか。
そういえば、こいつ。
いつまでベラベラとしゃべってんだあっ⁉︎
いい加減、愛美とのイチャイチャタイムを返せえ!
「……とまあ、ザッと簡単に説明するとこんな感じです。なにか、ご質問はありますか?」
な、なにい⁉︎
頼んでもない解説を聞かせといて質問タイムだとっ?
な、なんちゅう自己中心的なヤツなんだ!
「あ、え、ええっと……(汗タラ〜リ)」
か、考えてるーー!
愛美が一生懸命に質問を考えてるぅ!
い、いいんだよ、愛美!
そんなの真面目に考えなくても!
ないものはない!
ハッキリそう言えばいいんだよ〜!
「ええっと、その……(汗ダッラダラ〜)」
も、もう見ていられない!
くそっ、アタシの愛美をこんなに困らせやがって!
だが、もう大丈夫だ!
アタシが代わりにはっきり言ってやるぜ!(虹野くんの前にズズイッ!)
「おいっ!」
「はい、どんなご質問でしょうか?」
「質問なんて……ねえっ!(眼力ドォォォン!)」
…………。
あ、あれ?
なんだ?
この手応えのなさは……。
てゆーか、こいつ。
全然、ビビってねえぞっーー⁉︎
ウ、ウソだろ⁉︎
アタシの「眼力ドォォォン!」の圧を至近距離で受けときながら、全く動じてないだとっ?
そ、そんなヤツ、いまだかつて1人もいない!
ーーはっ!
そ、そうか……。
一瞬忘れてたが、こいつはリアル異世界転移野郎!
こいつがやって来た二次元の世界には、アタシみたいなブッ飛んだキャラはごまんといる!
そして、もっともっと強烈なシーンが日常茶飯事のように起こっている!
つまり。
ブッ飛びキャラやブッ飛びシーンへの免疫ができすぎてて、この程度の圧なんかじゃビクともしないんだ!
そ、その証拠に。
ほら、こいつ。
ほえ?
みてえな顔で、ポカ〜ンとしてやがる。
そ、その牛乳瓶の底みてえなガリ勉メガネの奥には、いったいどんな瞳が潜んでやがるんだ?
お、恐るべし、リアル異世界転移野郎……!
「はは、これは大変失礼しました。あなた方の興味関心を確認もせず一方的に解説し、あまつさえ、質問を募るとはちょっと無礼がすぎましたね。いいですよ、今の質問募集の件は忘れていただいて」
な、なんだ?
謝ってるのに、よくわからんこの上から目線は……。
1人だけケロッとしやがって、なんか、腹立つぜ!
……で。
なに?
この沈黙は。
荒らすだけ荒らしといて、アタシと愛美にいったいどう着地しろと⁉︎
「っ……(愛美が気まずそうに百合子をチラリ)」
……うん。
よし。
逃げよう!
こいつは、まだアタシたちのレベルじゃ倒せない!
よくわからんが、アタシの第六感がそう言ってる!
そうと決まれば退散だ!
「おい、帰るぞ!」
「えっ? あ、ああ……」
「おや、もう帰るのですか?」
「うっせえ!」
「あ、じゃ、じゃあ……」
もう帰るのか、だと⁉︎
ったりめえだろ!
これ以上、てめえのよくわからんペースに付き合ってられっか!
ああ、愛美とのイチャイチャタイムが……トホホ。
「……帰ってしまわれた。原画キャラたちとの会話はこれからだというのに……もったいない」
ゾクゾクッーー!
なな、なんだ⁉︎
今、なんか背中に寒気が走ったぞ?
ううう、ブルブル!
こ、このアタシがこんなに翻弄されるとは……。
改めて恐るべし、リアル異世界転移野郎〜!
◇◆◇◆◇
ピンポンパンポーン♪(翌朝)
「あ、おはよう百合ちゃん」
「おう」
はあ……。
朝イチのお楽しみ、愛美のエンジェル挨拶。
癒される〜。
……って。
あれ?
なんだこれ。
机の上になんかあんぞ?
「あ……それ、虹野くんから」
げげっ!
リ、リアル異世界転移野郎から⁉︎
「名湯原ナコ先生のオフィシャルファンブックだって。ぜひ、私と百合ちゃんの2人に……って」
な、なんちゅうヤツだ!
こんなもん押しつけやがって、どこまで自己中心的なんだ⁉︎
「ふ、2人にって……お前、もう読んだのか?」
「あはは……これ(苦笑いでもう1冊をピッ)」
な、なにいーー⁉︎
もう一冊だとおっっっ⁉︎
「なんか、上下巻あるんだって。私のは上巻のほう」
あ、呆れた……。
昨日、一方的な解説と質問募集を反省したんじゃねえのかよ?
……ひょっとして。
さては、あのリアル異世界転移野郎。
壮大な使命を請け負って転移してきた大物じゃなく、実はただのオタク系モブキャラだな?
職業「二次元普及活動者」で、この世界をチートでもするつもりだったのか?
そいつは、ちょっと無理があるぜ。
……結局のところ。
あいつは主人公級の上級キャラじゃなく、その日常や活躍がラノベ化されることはない下級転移者、って感じか。
……ま、それでも異世界転移者に変わりはねえけど。
「それ、よこせ」
「えっ?」
「アタシの下巻と一緒に突き返してきてやる」
「あ……だけど、まだ読んでないよ?」
「無理すんな。別に読みたいと思うほど興味ねえんだろ?」
「あは……バ、バレた?」
当ったり前でごさいます。
この百合子、愛美お嬢様の心の内などすべてお見通しですぞ!
「ほらよっ(虹野くんの机に、名湯原ナコ先生のオフィシャルファンブック上下巻をドサッ!)」
「あれ、もう読まれたのですか?」
「読むわけねえだろ、興味ねえから返すわ」
「あ、いや、しかし……」
「2度とこんな余計なことすんじゃねえぞ。あと、今後一切アタシと凛咲に関わるな。じゃあな」
ふう。
言ってやったぜ。
「眼力ドォォォン!」が効かねえから、普通に淡々と言っちまったけど。
「ふふ……まあ、想定内の展開です。いいですよ、別に。こういうマイナスのマイレージが貯まることにより、ハーレムチートな未来がやってくるフラグとなるのです(動じずにメガネを右手中指でカチャッ)」
ゾクゾクッーー!
うううっ!
な、なんだ、この背中に突き刺さる寒気は⁉︎
あのリアル異世界転移野郎、なんか変なことでも呟きやがったのかっ?
……いや。
振り返るな、アタシ。
そんなことしたら、変な世界に吸い込まれるぞ!
とりあえず、アタシと愛美に関わるなと釘を刺したことに違いはない。
性懲りも無く、もしまたちょっかいを出してきたら、そん時はコブシでわからせてやるぜ!
「あ、ありがとう。大丈夫だった?」
「おう、なんてことはない」
「虹野くん、気をわるくしてないかな……」
「んなわけねえだろ、あの異世界転移野郎がよ」
「え、なに?」
「あ……いや、なんでもない」
おっと。
つい口が滑っちまったぜ。
まあ、別に聞かれたところでどうでもよすぎる情報だけど。
「ねえ、百合ちゃん」
「あん?」
「あのさ……よかったら、今日もまた名湯原ナコ先生の原画を見に行かない?」
「えっ……?」
「絵自体はとても素敵だったし、もう少しゆっくり見たいな……って。どうかな?」
「お、おう、別にいいけど」
やあったあああああっーー!
2日連続で愛美と放課後イチャイチャタイムだ〜!
昨日堪能できなかった分、今日こそは心ゆくまで愛美とイチャイチャす・る・ん・だ・か・らあっ!
ああ、早く!
早く放課後になれ〜!
「なんだったら……毎日、行っちゃおっか?」
「へっ?」
「虹野くんの100回を超えちゃうぐらい、何回も……2人で(本当の目的は名湯原ナコ先生の原画じゃなく、あなたと2人きりになることなんだよ? 的なエンジェルスマイルでニコッ♡)
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
「……なーんてね、冗談だよ(照れっ)。あ、あれ? 百合ちゃん? ど、どうしたの⁉︎」
ーーその時、百合子が先走って昇天していたのは言うまでもない。




