10.妄想の花嫁
はあ……相変わらず、ジメジメ。
どうにかなんねえかな、この6月の蒸し暑さと湿気。
隣りに愛美がいなかったら、とっくにイライラで発狂してるところだぜ。
「来週さあ、私のお姉ちゃんの結婚式なんだよねー!(クラスの女子A)」
「そうなの? いいなあ、ジューンブライドじゃん!(クラスの女子B)」
ピクッーー。
「前撮りの写真も見たんだけどさ、ウェディングドレスが超ステキだったんだ」
「憧れるよねえ、ウェディングドレス。ああ……私も早く着てみた〜い」
ふん、おめでたいヤツらだな。
ウェディングドレスなんか全く興味ねえぜ。
あんなもん、誰が着てえかっつーの。
……ん?(横目に入った愛美が、羨ましそうに両手を握り合わせながらウットリ)
ま、愛美いっっっーー⁉︎
今の話、愛美も聞いてたのかっ?
な、なんか、ウェディングドレスへの憧れ感がダダ漏れなんですけどーー!
ま、まあ、そりゃそうか。
アタシは論外として、女子だったら可愛い花嫁に憧れて当然だもんな。
ああ……愛美のウェディングドレス姿、この世のものとは思えないほど可愛いんだろうな……。
純白の衣装に身を包む、汚れなき可憐な天使……。
って。
ダメだ、ダメだ、ダメだっっっーー!
ウ、ウェディングドレスを着るということは、愛美が誰かと結婚しちまうってことじゃないかー!
ヤ、ヤダよ、そんなの!
行かないでくれ、愛美!
ずっと、ずっとお前はアタシのそばに……。
ま、待ってくれ……!
待ってくれーー!
「ゆ、百合ちゃん?」
ーーはっ!
「ど、どうしたの?」
「あっ、い、いや、別に……!」
いかん、いかん。
つい愛美がほかの誰かのモノになっちまう妄想をしてしまった。
ああ……なんてカラダにわるい妄想なんだ。
愛美が純白のウェディングドレスを着るのは、このアタシのため……。
そうだよな? 愛美。
『当たり前だよ、ほかの人のためなんかに着るワケがない。だって……だって、私のすべては百合ちゃんだけのものーー』
ええっっっ⁉︎
『ねえ見て、このウェディングドレス……似合ってる、かな?』
あ、当たり前だろっ⁉︎
そんなの、この世で1番似合ってて可愛いに決まってんだろ!
『あはっ……嬉しい。でも、そんなにストレートに言われると、ちょっと、恥ずかしい……』
ば、ばっかやろう。
ホントのことを言って、なにがイケねえっつんだよ!(※注 皆さんお気づきのとおり、百合子は極度の興奮により妄想の世界へとフライトしております。ここからは、壊れた百合子にしばしお付き合いください)
『ね、ねえ、私のこと……好き?』
な、なにを今さら言ってんだよ。
好きに決まってんだろ!
『うん……でも、ちょっと怖くてーー』
こ、怖い?
なんでだ?
『だって、もし百合ちゃんに、もう好きじゃないって言われる日が来ないか心配で……』
はあ……(深い溜息っ)
そんな心配、してんじゃねえよ!
『えっ⁉︎(ビクンッ!)』
人類史上、お前を幸せにできるのは後にも先にもたった1人……このアタシだっ!
『っ……!』
そのアタシに、こうやってちゃんと出逢えたんだ。
だから、もうなにも心配はいらない。
『ゆ、百合ちゃんっ……!』
ダダダダダ、ガバッーー!(愛美が純白のウェディングドレス姿で百合子に駆け寄り、ギュッ!)
『ホ、ホントだよ? 絶対に……絶対に、私を幸せにしてっ?』
ああ、任せておけ。
お前は、アタシだけのものだ(百合子も愛美をギュッ!)
『……嬉しい……愛してる』
アタシもだ。
もう、この手を離さない。
『……ねえ』
ん?
『このウェディングドレス、純白で何色にも染まってない……よ?』
あ、ああ、そうだな。
『……問.1』
え、えっ?
『凛咲愛美が着ているこの純白のウェディングドレスを、松城百合子の好きな色に染め上げなさい。なお、その方法は問わない』
ま、愛美っ……⁉︎
ジ〜ッ(愛美がトロ〜ンと潤んだ目で百合子を見つめっ)
く、くそ……!
ずるいぜ、そんな目で見つめやがって。
早くアタシから離れねえと、お前になにするかわかんねえぞ⁉︎
『……じゃあ、離れない』
えっ?
『どんな方法で、どんな色に染め上げるのか、早く……答え合わせをしてーー』
ま、愛美いいいっっっーー!
なみいぃぃ……。
ぃぃぃ……。
「……ん……ちゃん……百合ちゃん……百合ちゃん⁉︎」
ーーはっ⁉︎
「だ、大丈夫っ? 百合ちゃん、どうしたの⁉︎」
「あ……いや、別に」
「そ、そう? なんか、虚な感じでボッ〜としてたから」
「あ、ああ……! ちょっと、眠たかっただけだ」
や、やばいやばい!
ついうっかり快楽の園にフライトしてしまっていた。
ナイス引き戻しだぜ、愛美!
「ねえ、百合ちゃん」
「あん?」
「百合ちゃんはさ、やっぱりウェディングドレスとか……憧れる?」
「はあ? そんなの憧れるワケねえだろ」
「はは、そっか。私は……ちょっと、憧れちゃうな」
や、やっぱりそうか。
まあ、でもその方が安心すると言えば安心する。
愛美がウェディングドレスに憧れないとか、ちょっとギャップがありすぎて受け入れられないかも。
「でもさ」
「……ん?」
「1番重要なのは、誰のためにウェディングドレスを着るのか……ってことだと、私は思う」
え?
な。
なにそれえぇぇっっっ⁉︎
いきなりの意味深発言に、リトル百合子は困惑マックスなんですけどーー!
い、いるのっ?
すでに愛美の中には、ウェディングドレス姿を捧げたいヤツがいるのぉぉぉ⁉︎(泣)
「私が、ウェディングドレス姿を見てほしいのは……」
ひいいいいっ!
き、聞きたくない!
でも、聞いときたいーー!
あああああ!
あああああっーー!(※注 百合子は壊れました)
「……百合ちゃん」
「……へっ?」
「な、なーんてね!(ホントか冗談かはあなたの想像に任せるね! 的な照れ照れエンジェルスマイルでニコッ♡)」
ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)
ーーその後、百合子が昇天したのは言うまでもない。




