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1.未知の弾丸



……だりい。


今日からついに高校生。

また3年間、クッソつまんねえ授業漬けの日々が始まると思うとへドが出るぜ。


かと言って、特にやりたいこともない。

そんなこんなで結局は、女子高生という青春の枠組みに足を突っ込んでしまったわけで。


ーーとにかく。

なってしまったもんはしょうがない。

今日から3年間、適当にやり過ごすしかねー。




◇◆◇◆◇




はぁぁ……やっと入学式が終わったぜ。


だるい。

とにかくだるい。

あと、青春を謳歌してやろうという人間どものオーラがめっちゃウザい。

まっ、どいつもこいつも好きにやればいい。

アタシは誰とも群れずに気ままにやるだけだ。


「おい、てめえ」


あん?

アタシに言ったのか?

……っぽいな。

だりい、シカトしよう。


「おいコラ、なにシカトしてんだ、1年坊主!」


坊主って、アタシ男じゃねえし。

そんなことより、だるすぎて思わず舌打ちが出るわ。


振り返る前から大体予想がつくぜ、呼び止められた理由なんて。

それに、このままシカトしてもどうせ金魚の糞みてえにくっ付いてくるんだろ?

……だったらほら。

望み通り振り返ってやるぜーー!


「……なんすか?」

「てめえ、今こっちにガン飛ばしてきただろ?」


やっぱり。

またコレか。

今回は怖そうな女のパイセン2人組ですか。


アタシの目つきは鋭い。そして冷たい。

さらに、全身から気だるさ全開のオーラもバンバン出てる。

ゆえに、態度のわるいヤツだと目をつけられてヤンキーどもに絡まれることが日常茶飯事だ。


そういう時は、とりあえずアタシなりに平和的解決を試みてみる。

理由はもちろんただ1つ。だるいから。

ただーー。


「別に、ガンなんて飛ばしてないっすよ」

「そんな目つきしといてよく言うぜ。てめえ、なんて名前だ?」


とまあ、こんな感じで上手くいった試しはない。


……周りがザワつき始めたな。

ったく、入学初日からあんまり目立ちたくねえのによぉ。


「ねえ、あれ3年の浅宮あさみや天華てんか北浦きたうら椿つばきじゃない?」

「かわいそう……入学早々、最強のヤンキー2人にからまれてるよ、あの1年」


なるほど、コイツらこの学校の頭か。

ったく、いきなりとんでもねえ大物に目をつけられたもんだぜ。


「名乗るほどの者じゃないっすよ」

「はん、いつの時代の返ししてんだ? 御託はいいからサッサと言え」

「……松城まつしろ百合子ゆりこ

「ふん、名前だけは一丁前にお嬢様だな。ちょっとツラかせよ」

「なんでっすか?」

「イチイチうっせえんだよ、なんでもいいから付いてこい!」


そんなこと言われてホイホイ従うと思うか?

それに、アタシは気が長い方じゃねえぞ……!


「用があるなら、ここですませばいいんじゃねえの?」

「あん? なんだその口の聞き方は? 調子に乗ってんじゃねえぞ、この1年坊主がっーー!」


胸ぐら掴んで殴りかかってきたパイセン。

浅宮天華のほうか、北浦椿のほうかは知らん。


言っとくけど、先に武力行使してきたのはそっちだからなーー⁉︎




◇◆◇◆◇




1年A組。

アタシのクラス。

窓際から2番目の列。

その1番後ろがアタシの席。


自席につくアタシから、クラスメイトたちはこぞって視線を避ける。


……そりゃそうだ。

この学校で頭をはってる最強のヤンキー2人を軽くのしたんだからな。


アタシは男にだって負けたことがない。

いくら相手がケンカ自慢といっても、女2人なんて軽いもんだ。


……まっ、でも。

これで誰もアタシに寄り付くことはねえだろう。面倒くさい人間関係を避けられて結果オーライだ。


それにしても、どうせなら左隣りの席がよかったな。

窓際の列の1番後ろ。

窓の外なら一日中見てられる。

なんにも考えずに。

かったるい授業なんかよりよっぽどいい。


……つーか。

左隣りの席、誰も座ってねえじゃん。

入学式早々に欠席か?

まあ、別にどうでもいいけどーー。




◇◆◇◆◇




ーー翌日。


ふあぁぁ、だりい。

今日から授業開始かよ。

まったく、あくびしか出てこねえ。


……に、しても。


廊下を歩くだけで、どいつもこいつも壁際に避けていくのはなんなんだ?

昨日、最強のパイセン2人をのしたのがインパクト大だったのはわかるが、アタシはヤンキーでも女王様でもねえっつーの! 


……おっ、今日は左隣りの席のヤツ来てるじゃん。

見るからに地味で大人しそうな女だな。


あーあ。

やっぱ、窓際の列の1番後ろがよかったな。

こんな晴れた日、ずっと空を眺めてボーッとできるのにーー。




◇◆◇◆◇




ん……?

んん……。

やばい、寝てた。

昨日、遅くまでスマホゲームをやり過ぎた。


……って。




な、なにいいいいいいっーー⁉︎




や、やばい!

アタシとしたことが、机に大量のヨダレを垂らしちまってるじゃねえか!

しかも、まるで「池でも作ったんですか?」ってぐらい尋常じゃない量で!


ま、まずい……これはまずいぞ!

こんな失態を誰かに見られたら終わりだ!

オモテではケンカ最強と恐れられても、影では指を差されて笑われる3年間が確定してしまう!


だが、しかし!


こんな大量のヨダレ、どうやって処理したらいいんだ⁉︎

こんな日に限ってハンカチもポケットティッシュも持ってねえし……。


シ、シンプルに制服の袖で拭くか?


いや、ダメだ!

制服の素材じゃヨダレを吸わない!

無駄に袖にシミを作ったあげく、机も余計に汚らしくするだけだ!

じゃ、じゃあ、どうする?


か、考えろアタシ!

大丈夫だ!

冷静に考えれば、必ず手立てはあるはず!




ポクポクポクポクポクポクポク……チーン。




す、吸うーー?


口から出てしまったものは、もう一度口で吸い直せばいいんじゃないのか?

そ、それでいくか……。

全部吸えば、あとに残った程度のヨダレは制服の袖でも十分に拭き切れるだろう。


誰も見てないな?

よ、よし、いくぞ……!




「……ぷっ」




っっっっっっっっっっーー!!!


わ、笑い声……?

愕然としながら声のした方に振り向くアタシ。

そこには、口に手を当てて笑う、左隣りの席の女。




み、見られたあああああっーー!




な、なんてことだ……!

あろうことか、吸う直前のこんなタコみたいな口をした状態を見られてしまったあああ!


も、もうお終いだ……。

今日からアタシは3年間、間抜けな「ヨダレダコ女」のレッテルを貼られて生きていくしかないんだーー。




「これ……よかったら、使って」




えっ、ポ、ポケットティッシュ……?

まさかの救いの手だと?

神様かよ、こいつ!


ま、待て、これには裏があるんじゃねえのか?

優しく恩を売りつけといて、実はそれをネタに今後アタシをゆすり続けるつもりとか……。


ーーいや、でも。


そのつもりなら、わざわざポケットティッシュなんか恵まなくても「さっき、あの汚ったないヨダレの池を見ぃちゃった♪」ってな感じで、言葉攻めするだけでも十分なはずだ。

それに、見るからに気弱そうなこの女がそんなことをもくろんでいるとは考えにくい……。


ここは、素直にポケットティッシュを受け取るのが得策なのでは?


よ、よし、そうしよう!

もし予想を覆してこいつがアタシをゆすってきたら、そん時は力づくで黙らせてやるだけだ!




◇◆◇◆◇




……チーン。


ヨダレは拭けた。

机もピッカピカにきれいになった。


でも、初めて会った人様の新品ポケットティッシュを全部使い切ってしまったーー。

数枚でいけると思ったのに、ヨダレの量が多すぎてそれどころじゃなかった。


も……もういいや。

なんか、自分への情けなさで体裁とかどうでもよくなってきたぜ。

ここは素直に謝っとこう。

幸いなことに、もう下校の時間だ。こいつと顔を突き合わせるのも一瞬ですむし。


「おい」

「え……? あ、はいっ」

「すまん。ポケットティッシュ、全部使っちまった」

「あ、ううん、気にしないで。役に立ててよかった」


役に立てて?


……そうか。

こいつ、昨日休んでたからアタシが最強のパイセン2人をのしたこと知らねえんだな。

もし助け船を出した相手がそんなヤツだと知ったら、血の気が引くほど後悔するだろうなーー。


「それに……嬉しい」

「えっ?」

「私、昨日風邪で休んじゃったから、みんなと同じスタートを切れなくて……今日、周りのみんながワイワイ楽しそうにしてるのを見てたら不安で仕方がなかった。でも、隣りの人とこうして話ができてホッとしたというか……すごく安心した。だから、本当にありがとうーー」




トクンッーー。




えっ……?


な、なんだ?


今の、胸が、トクンッ……って。


人から感謝されたことなんて一度もねえのに、そんな混じり気のないピュアな顔で言われたら、なんか、リアクションに、困るーー。


「私、凛咲りんざき愛美まなみです。よかったら、お名前聞いてもいいですか?」

「あ、ああ……松城百合子」

「松城、百合子ちゃん……」


どうせ、あのパイセンたちみたいに名前だけはお嬢様とか思うんだろ?

……別に、慣れてるからいいけど。


「じゃあ……また明日ね、百合ちゃんっ(超絶エンジェルスマイルで優しくニコッ♡)」






ドズッキュゥウウウウウウウウウウウンッーー!






っーー。


ま、待て……。


いっ、今、アタシの胸のど真ん中を、でっかい弾丸が貫いていったぞ……?


な、なんなんだ、これは?


息が、できねえ……。


それに、サラッと百合ちゃんなんて呼びやがって……。

親にすら、そんなラブリーな呼び方されたことねえぞ?


つーか、そんなピュアな微笑みを喰らわせておいて、颯爽と帰ってんじゃねえよ!

この胸の痛みとドキドキは、いったいどう処理したらいいんだ⁉︎


……いや、大丈夫だ。


冷静になれ、アタシ。


きっと、慣れない場面に遭遇してちょっとパニクっただけだ。

時間が経てば、きれいさっぱり忘れるはず!

よし、帰るぞ!




◇◆◇◆◇




ピンポンパンポーン♪(翌朝)




ーーだめだぁ!


一睡もできなかった!

てゆーか、一秒たりとも愛美のことが頭から離れなかったあああ!


な、なんでなんだ……。

忘れようとすればするほど、まるでアタシを飲み込むように愛美の顔が大きくなって……。


あ、あろうことか、最終的にはモンモンして、妄想の中で愛美に「あんなこと」や「こんなこと」までしてしまった……!


い、いったいどうしちまったんだ?

アタシは誰とも群れない硬派な一匹狼だったはず……。

いつからこんなムッツリスケベ女に成り下がっちまったんだ⁉︎


…………。


大丈夫だ。


落ち着け、アタシ。

きっと、今日学校で会ったらこの感情は冷めるはずだ。「あれ? もう一回会ったら意外と普通じゃん」ってな感じで。


根拠はない。

でも、きっとそうなるはずだ!

よし、学校に行こう!




◇◆◇◆◇




チラーー。


愛美のヤツ、もう来てるな……。

うん、この距離間では平常心を保ててる。

いける、昨日のことはすべて忘れるんだ!

よし、着席!




「あ……おはよう、百合ちゃん(超絶ほんわかエンジェルスマイルでニコッ♡)」




ドボフンッッッーー!(※注 百合子の頭の中が爆発しました)




ーーこれは、ロンリーウルフなコワモテ女子の、不器用でピュアな初恋の物語である。




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