零所為外伝 魔法と黄金少女
麗庶飽希とは
麗庶飽希は、元人間の金属っ娘。年はまだ12ほどで、背も小さい。
しかし、人体実験に巻き込まれヒトではなくなり、驚異的な再生能力と運動能力を手に入れていた。
その後諸々があり、特殊部隊の隊長として殺すことに対して強く悩みながら日々を過ごしている。
辺りに遍くのは一面の青空。
「ん…うん〜っ」
「あ~…よくねたぁ…」
「あ…あれ…!?」
少女は動揺していた。
そこにあるのは一面のマリーゴールド。
まるで少女の骸と同化するような景色だ。
「もしかして…私…死んじゃった?」
「あれ…何をしていたんだっけ?」
少女の理解は追いつかず、ただ呆然とするあまり。
たしか…、任務の最中で…。
捕まって…えっと…
何かの光をみた気がする…
少女は記憶を回帰する。
「ま…まあちょっと散策してみましょう。」
そう言うと少女はふゅっと立ち上がった。
「まあ…綺麗です」
あたりは広い草原だ。
そこにぽつんとマリーゴールドが沢山生えている。
「装備は…いつもと変わりない。」
「うーん…」
本当にだだっ広く、果てしないという言葉の意のままの草原だ。
時折岩や木が生えており、まあなんとも生活しやすそうだ。
すた…すたっ
「…人くらいはいますよね…?」
少女は不安になりつつも一歩一歩歩いていく。
時折見える木には実が成っているが、その実は少女にとっては見たことのないもの。
「…だ」
微かな声が何処かから聞こえる。
『な…なにっ?』
その声は…助けを乞うような声。
「まって...!今すぐ行きます!!」
少女は、その声に対して本能のままに走り出す。
だっ…だっっ…
一歩一歩、靴の足型を土に溢しながら。
「たすけてぇ…」
少女がその声の場所に来ると、壊れた貨車のようなものと一人の少女が存在していた。
少女はひどく怯え、貨車に背中を合わせ、必死に囲まれないようにと密着させていた。
そして、それに迫るのは小鬼に似た緑がかった怪物。
「まって…その子に何を。」
麗庶は、その黄金の骸を晒しながら現れる。
「…ぁぁああ…も…もうおわり…」
女の子は更に錯乱したように悩みだす。
「キッキャァ…」
「クルッキャァ」
握った棍棒をみるに、少女の馬車を襲ったように見えた。
そして、これから…何をするのだろうか
「…その子に対して手を出さないでくださいっ…」
「クゥーキイ、イヴッ」
その怪物共はどうも分が悪そうに呟く。
「クルッ、キヤーッ」
しかし、その黄金の姿をみた瞬間に怪物のどす黒い瞳は麗庶に移る。
「あ…これ私が狙われて…」
少女はポケットに入れたサバイバルナイフを手に持って、臨戦態勢に上がる。
そのバトルスーツとちっちゃな身体は矛盾するように最早波の戦闘は容易であると…風格を示す。
「クルギャーッ!!」
すると、数匹が一斉に麗庶に飛びかかった。
「わっ…!」
爪は鋭く、このバトルスーツでさえ撃たれりゃすぐに裂けるほどにしなやか。
カキッッ!!!
それが少女の持つナイフとぶつかりあう。
「まずい…一方に手を取られては…ダメっ!」
麗庶はその拮抗するナイフに両手を当てる。
だが、それだけでは数匹には…対応できない。
「ごめんなさいっ…!」
少女はそんな声を響かせて、足を45度程上げゴブリンめがけて叩きつける
「グギャッ!」
若干紫の血液を少女の靴に付けながら、その怪物の一匹は少しばかり遠くへ飛んでいった。
「ごめんなさいっ…」
少女は申し訳なさそうに見つめる。
だが、その少女の裏には例の怪物が。
「お…おもひっ」
微かに少女の肌に空気が伝っている。
それが意味することは…
少女の背中にはその怪物が手を伸ばし乗っかっていた。
「クイーッギャッ」
緑色の手が、少女の目線に伝い、そしてその鋭利な爪が少女の首筋を這う。
「キヤーッヒャー」
「死角を…っ」
首筋からは血は垂れない。ただ、痛みがビリビリと染みるだけ。
「んいっ…っ゙」
「…一か八かっ」
少女は呼吸を止めたように静かになり…
「キヤ?」
そのまま直立不動の体制を維持したままに
「キッヤアアアアアアア!!」
少女の重い身体は地面へとタッチダウンする。
ズドンッ!!!
ぶちゃぁ
酷く鈍い音が響いた。
「はーっ…はーっ。いっ゙」
少女は背中を強打した痛みで倒れこむ。
だが、重みがじわーっと迫る。
「キッッキャアアアアア!」
威圧するような声。まだ一匹残っていた。
必死に顔を上げて、身体の様子を探す。
例の怪物が麗庶の身体に乗りかかり、その鋭利な爪をバトルスーツに突き刺そうとした。
「だ…だめ…」
「ヒ…ヒッ…ヒャアアア!」
その爪は、少女の腹部を穿つ。
「いっ゙ああああああ!」
まるで、ハンマーで腹部を殴られたように、少女は痛みに叫ぶ。
まるであの時の空と同じように青い空。命運は終わりのようなものだが。
…だが、その痛みはすぐにおさまった。
「フェルヒャ・フロー」
誰かの呪文のような声が世界に滾る。
その瞬間、その青空の視界の下側に微かな光が灯る。
それは
「ヒーヒャアアアアア!」
怪物の断末魔とともに、その光は空の青の全てを光に変えた。
「や…やったぁ…で、でもさっきの呪文は…」
女の子の声が響く。
『じゅ…呪文…?』
それは麗庶が守ろうとした、小さな少女の声。
「あ…ごめんなさい。守れなくて…」
麗庶は情けなさそうに言う。
そして手をぎゅっと地面に乗せて麗庶は立ち上がる。
「ありがとうございます。」
その少女の姿は麗庶と同じ程の背丈で、同じほどの顔。
しかし、似ているのは体格だけ。
「い、いやさっきのは偶然で…」
「あ…でもあなたは」
その女の子は、麗庶の顔を見る。
「魔術ゴーレム!?」
「やっぱり…私は…おわり…だぁ…」
麗庶を守った少女はまた泣き始めた。
「ま…まって、泣かないで」
「わ…私は人間です…こんな身なりだけど…」
麗庶はそう呟くと、女の子の頭をよしよしと撫でる。
「でも…わるいモノじゃない…」
「あ…ごめん…」
少女は泣くのをやめて、麗庶の顔をもう一回見る。
「私と…そんなに変わらないけど、何があったの…?」
「あんなに強かった、最後ちょっとしくじってたけど…」
そんな問いに対して麗庶は答える。
「話せば長くなるのです。」
「それに…ここはどこですか…?」
だが、麗庶は一考した後少し呟く。
「まあ、あそこの貨車を直してからにしましょう。」
すると少女はにっこりわらって
「そうだねぇ…あ、ありがと」
「ふふふっ。」
少しばかり仲良くなれそうと話す。
「あ、そうだ...まだ自己紹介してませんでしたね。」
麗庶はそう言う。
「あっ、たしかに。」
少しばかりの無音とともに風はびゅーっと吹き掛ける。
沢山の花が少女たちを取り囲み、麗庶は呟く。
「私は..麗庶飽希っていうのです。これからよろしくお願いしますっ!」
「私も...ロル・ミヤノギっていうの。あんまりお金があるわけでもないけど...よろしくね。」
二人はほんのりにっこりしながら、貨車に戻っていった。
エイプリルフールなので次回はありません。ごめん