9-1・その真名は『杏』前編
さて、ここから始まる物語は、
この『中二病シンドローム』における『本編』となっております。
今までのお話は、この物語をより分かりやすくする為の、
言わば導入部分で御座います。
主役と趣向も変わりますので、御了承くださいませ。
諸葉杏子の朝は早い。
登校二時間くらい前に起きて飼っている黒猫に挨拶する。
「おはよう、キキ」
私の本当の名前は杏って言うのよ。あなたのご主人は杏よ
などといつも話しかけている。
知ってか知らずか、にゃにゃっと返事をするキキ
マントを羽織り、トンガリハットを被り、眼帯を装着する。
とある作品の魔法使いにそっくりである。
この格好で外に出ようとすると物凄く怒られるので、
部屋にいる間だけ、寝る時以外この格好で過ごす。
誰にも邪魔されず自由に過ごせるこの部屋は彼女にとって唯一安らげる場所。
彼女にとっての聖域である。
「我が真名は『杏』、現代唯一の大魔法使い!
・・・う~んなんか物足りないな・・・」
「我は・・・我こそは・・・」
と名乗り口上の練習も欠かせない
十数分練習すると次のステップに入る
スマホ弄りだし、魔法使いが登場する人気のアプリゲームを起動する。
もちろん育成するキャラはほぼ魔法使いと偏っている。
デイリーをこなしながらパソコンも起動する。
魔法に関するWeb小説や漫画の更新をチェック。
魔法系アニメの録画の確認も忘れない。
空いた時間で魔法に関する研究、持論や考察などをメモ帳に書き記す。
この時間が彼女にとっての生きがいである。
朝ご飯よと親に呼ばれ、食べ始める頃に決まってチャイムが鳴る。
いつものようにお母さんが対応し、玄関を開けると
「おはようございまーす!お迎えに来ましたー」
頼子ちゃんが挨拶する
「おはよう、いつもありがとね。お茶出すから上がって待っててね」
ほぼ毎日聞くやり取りである
「きょーちゃんおはよ。」
そう言っていつも通り隣に座る
成長の遅い杏子と成長の早い頼子が並ぶと親子くらいの差がある
「ん、おはよ。」
「今日はちょっとゆっくりだね。学校の時みたく私が食べさせてあげようか?」
「あらあら、あんまり甘やかさないでね。まるでお姉ちゃんみたいだわ」
うふふと母が笑いながら言う
「私がきょーちゃんのおねーちゃん!?いいね~それ
ほーらきょーちゃん、おねーちゃんって言ってごらんー」
頭をナデナデしながら絡んでくる
「んも~うっとしいよー、食べにくいじゃ~ん」
そうは言うもののされるがままで抵抗はしない
「んふふーごめんねー」
ご飯も食べ終わり学校へ行く支度も済ませる。
「「いってきまーす」」
いつものようにハモっていってきますの挨拶
「はい、いってらっしゃい。気をつけるのよ」
「じゃあ行こっか」
「ん、」
どちらともなく自然と手を繋ぎ歩く二人
最初は恥ずかしくて渋々だった杏子も、今ではこれが当たり前になる
二人を見送った後、母は嬉しさとも悲しさともつかない顔をする
「あの子にこんないいお友達ができるなんて・・・あんな子に・・・
頼子ちゃんありがとね・・・ほんと、ありがとう・・・」
頼子と杏子が仲良くなってから、時々安堵で涙ぐむ母の姿があった
他愛のない話をしつつ歩いていると同級生に挨拶される
「お二人共、おはようございます」
「おはよー華ちゃん」
「おはよ」
挨拶すると一歩後ろに引いて二人を見守りながら一緒に歩き出す。
後に詳しく説明するが彼女は護衛の一人である。
この護衛はたまーに会話に入るだけで基本そばに居るだけのことが多い。
教室では休み時間、基本杏子は一人で本を読んでいる。
そこに頼子が話しかけに行き、それを見守るのがこの三人の日常である。
「きょ~うちゃん、何読んでるの?」
後ろから抱きついて頬ずりする
「む~ひっつきすぎだってー。今流行りのラノベ」
とは言いつつも全く抵抗せず読み続ける
「どお?面白い?」
「魔法が少ないからちょいイマイチ」
周りには気にせずいつもこんな感じである
お昼休みも、相も変わらず小説を読む杏子
「ほーい、きょーちゃんお昼にしよー」
後ろから抱っこして、抱えたまま一緒に椅子に座る
頼子の膝の上に杏子が座って抱きかかえられてる
杏子ももう諦めたのか、特に抵抗もせずそのまま小説の続きを読む。
「はい、あーんして」
頼子はそのまま杏子にご飯を食べさせてあげる
「あー」
杏子は本を読みながら言われるがままにあーんする
「おいしい?」
「んー」
頭をナデナデしながらご飯を食べさせるその姿は
まさに赤ちゃんの面倒を見る母親である
フカフカで温かい椅子。首の辺りに極上の枕が二つ
そこに座って本を読んでるだけでご飯も食べさせて貰える
杏子にとってそこは、部屋と同じくらいくつろげる場所になっていた。
そんな有り様をいつも間近で見守る一人の女の子がいる
ではその女の子に視点を移そう
私の名前は村咲華子。小学六年生。
杏子ちゃんに対応する巫女様に付く、護衛の一人である。
本来小学生の覚醒候補には巫女のみが対応して護衛は付かないことが多い。
危険度が低ければ巫女も付かず監視のみになる場合もある。
しかし杏子ちゃんは事情が特殊で、ハイブリット覚醒者という者らしい。
暴走した場合の力は未知数。ということで、
まず教員に一人、高ランクの護衛が紛れていて、
その娘である私も念の為、身近での護衛を任されたのである。
杏子ちゃんは人見知りなのか、巫女の頼子ちゃん以外とはあまりしゃべらない
というか、頼子ちゃんが積極的に話しかけてスキンシップをとってるけど
杏子ちゃんはただ相槌をうってされるがままのようにも見える
私はたまーに輪に入る程度の、一歩引いた所で見守っている。
ご飯を食べ終わっても膝の上に座らせたまま二人はくっついている
頼子ちゃんはそのまま杏子ちゃんの頭の上で鼻から思いっきり深呼吸して、
杏子ちゃんの香りを楽しみながら恍惚に浸っていた。
その巫女様にあるまじき行為にも、杏子ちゃん本人は気づいていないようなので
私も特に何も言わずに見守り続けるのであった。
こんな感じで同性でいちゃいちゃいする本を姉が持っていたのを思い出す。
それは男の子同士だったけどね。これを読んだ時は衝撃が走ったわ。
その影響か、いろんな男の子同士の本を読み漁ったわね。
そう、私はBLが好きだ。BLが大好きだ。
この地上で創作されてるありとあらゆるBL作品が大好きだ
普通のカップルかと思ったら女性が男の娘だった時など心がおどる
ショタがメスお兄さんを押し倒した時など胸がすくような気持ちだった
ヘタレかと思いきや何度も何度も鬼畜攻めしている様など感動すら覚える
諸君 私は男の子同士を望んでいる
よろしい ならばBLだ
カップリングは男の子同士が至高。それに勝るものはなし。
・・・・・・
そんなふうに考えていた時期が私にもありました。
間近で毎日毎日可愛い女の子同士がいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと
目覚めるでしょ、こんなの。いやー眼福眼福。
この二人を見ていると自然と顔がにやけて、
とてもじゃないが周りには見せられない様な顔になってると思う。
そう、百合は心の清涼剤。万病に効くいい薬です。
そんな女の子同士のいちゃいちゃを、ただ毎日眺めてるだけで給料が、
っとじゃなかった、お小遣いがいっぱい貰えるだなんて約得すぎるでしょ
あと数年は百合を見守るだけでお金が貯まっていく生活が続くのね。
任務が終わるころに一体いくら百合貯金が貯まってるか楽しみだわ。
前世で一体どんな徳を積んだのよ私。人生イージーモードじゃない。
楽なレールに乗っちゃったなー 人生勝ち組だわー わーっはっはー
・・・後に大変な目にあうであろう事は、本人には知る由もない。
が、そこのあなたには容易に予想がついただろう。
視点は戻り放課後。いつものようにおてて繋いで一緒に下校である。
たまに帰り道、文字通りおんぶや抱っこをしてる時もあるが、
その見た目は完全に親子である。
なんとも微笑ましい気持ちになる。
朝の合流地点で華子と別れる
「それではお二人とも、ごきげんよう」
「じゃあねー華ちゃん、ばいばーい」
「んじゃねー」
二人は華子と別れの挨拶を済ましてまた歩き出す
杏子の家の前に着き、敷地に入ってすぐの所で二人は立ち止まる
垣根のおかげで周りからは見つかりにくい場所だ
そこで頼子は少し屈んで杏子と同じ目線になり、
顔をぐっと近づける
「それじゃあ、きょーちゃん。バイバイのちゅーしよ」
「ん〜ん」
流石の杏子もこれにはまだ慣れてないらしく、
プイッと横を向いて頬を突き出す
「もー、またほっぺなの?しょうがないなぁ」
そのままほっぺたにチュッとキスをする
このお別れのキスは、普段おでこか頬が多いが、
杏子の機嫌がいい時は、お口とお口でチュッチュッする
二人はそれから両手で恋人繋ぎをしておでこ同士をくっつける
「それじゃまた明日ね、きょーちゃん」
「ん、また明日。よりちゃん」
普段あまり名前を呼ばない杏子もこの時だけは名前で呼び合う
これが二人にいつの間にか日常化した、別れ際の儀式である。
こんな所を華子が見たら一体どうなってしまうのだろうか。
興奮しすぎて鼻血を吹き出してしまうかもしれない。
実際は鼻血では無いものが吹き出してしまったが
それはまた今度語りましょう。
次回は杏子が部屋に帰った後からのお話になります。
後編へ続く