8・父の正体
家に帰ると、いつものように父さん(伸介)はパソコンの前に居た。
パソコンには触らないように言われてたが、ボクはパソコンに興味がなかった。
「父さんただいま。」
「おう、おかえり。飯はテーブルに置いてあるぞ」
いつものようにスーパーの弁当が置かれてた
「父さん、今話しいいかい?」
「・・・なんだ、改まって。どうしたんだ?」
「えと、なんて言ったらいいか、えっと、ボクには魔力があって、覚醒して、」
言い終わる前に父さんが
「そうか、予定よりだいぶ早かったな・・・」
遠い目をして呟いた
「え、やっぱなにか知ってるの?説明してほしいんだけど・・・」
「実はな・・・俺達は、血の繋がりはない。本当の親子じゃないんだ。」
「な、なんだって!?そんな、いったい、」
「拾われたんだ」
「ひ、拾われた?え、まさか」
「俺がな」
「・・・は?」
「父さんな、母さんに拾われて伸太を育てるように言われたんだ」
「え、母さんてボクを産んで死んじゃったんじゃ」
「そういうことにするように言われたんだ。今もまだ生きてるよ」
「生きて、る?・・・どういうことなの?」
「それにはまず父さんが何者かについて話さなきゃならないな。
俺はな、魔族落ちの村で生まれ育ったんだ」
「魔族落ち、の村?」
「魔族落ちって言うのはな、大まかに分けると二種類あってな、
一つ目は覚醒の時の暴走で、人を殺めてしまった者の事だな。」
「人を・・・」
もしあの時、浦秀が死んでたらボクもその扱いになってたのだろうか・・・
「ただ暴走しただけなら、なるべく傷つけずに捕縛らしいが、
人死にが出ると生死を問わず捕獲に変わり、
巫女を殺めてしまった場合はほぼ殺処分になるらしい。
それでな、暴走したけど、捕まらず逃げ切れた者達が集まる村が
魔族落ちの村というわけだ。」
「そうなんだ・・・でも逃げた人はどーしてその村にたどり着けるの?」
「そこでもう一つの魔族落ちの例だ。
魔力による後遺症でな、異世界に迷い込む者がいる」
「い、異世界だって!?あるの?ほんとに異世界あるの!?」
「はっはっは、凄い食いつきようだな。まあ落ち着けって。
異世界っていうのはな、この世界とそっくりな別の世界
んー、そーだな、少し座標のズレた隣り合わせの世界ってとこかな。
杉沢村、犬鳴村、きさらぎ駅なんかの有名な都市伝説があるだろ?
それらは見えないだけで実際にあってな、そこが異世界。
一度足を踏み入れたら普通の人間はまず戻ってこれない」
「じゃあ覚醒者は魔力を使い続けたら後遺症?でいずれ異世界に行くの?」
「ん~、後遺症と言っても、殆どが邪眼や魔眼と言った
『眼』に関する能力に目覚めた者達だ。
自分の認識する世界の情報は、目で見た情報が大半を占めている。
耳や鼻で得られる情報はその一部でしか無い。
一度記憶すれば見ただけで味や匂いが連想できるくらいだ。
そしてな、魔力を通して世界を見ると、普段見えないものまで
視えてしまう事がある。それが異世界の住人だ。
長く見続けると、それが視えるのが普通になってしまい、
そのうちあちらの世界しか視えなくなり、
その頃にはもう自分も異世界の住人さ。」
「ひえ、興味はあるけどなんか怖いね」
「だからお前もその邪眼はあまり使わないほうがいいぞ」
「え?ボクの能力はこの腕の黒竜で、邪眼なんてないけど・・・」
「ん?おかしいな、額のそれはまだ目覚めてなかったのか?」
「え、額?そんな、こと・・は・・・あ、あー」
思い・・・出した。ボクは開眼して、浦秀を蹴り飛ばした、あと、
姫を、姫に・・・
「姫、に・・・あ、ああ、お、」
「まずい!」
伸太から魔力が漏れ出す瞬間、伸介はすぐさま印を結ぶ
伸太の周りに薄っすらと膜が張られる
「間に合ったか?伸太、落ち着くんだ、この時期の覚醒は暴走したはずだ、
どうやって暴走を止めた?ゆっくり思い出すんだ」
「姫に、手を握られて・・・今は御守り、そう、御守りがある・・・」
伸太は朦朧としながら答える
「その御守りに集中するんだ。意識を全てその御守りに傾けろ。」
伸太は胸にある御守りに手を当て、何度も深呼吸する
「ふー、ごめん父さん、もう大丈夫。てか父さんも覚醒者だったんだね」
伸介も一息ついて印を解く
「俺のはちょいと違うがまあ同じようなもんかな
あっちだと生まれつき能力があってな、暴走なんかもしない
そんで俺の能力は、簡単に言うと異世界と現世を繋げられる能力でな、
両手の親指と人差指で輪っかを作った程度の穴を開けることができる。
今のは伸太の周辺だけ薄く伸ばした異世界で覆って、魔力が漏れても
周りにバレないように全部異世界に流れるようにしたんだ」
「え、そんな能力あるんだったらもっと前から使ってよ!
隣の杏子ちゃんなんかボクの魔力が感染しちゃったらしいよ?」
「え、だってすげー疲れるし、能力のことは知られたくなかったし、
あとこれな、結界術に近いから下手すりゃ寿命削れるんだわ」
「あ、そうなんだ・・・ごめん。」
「まあいいってことよ。それでな、魔眼持ちの中には俺と似たような
異世界と現世を繋いで、更に自由に行き来する能力を持ってるやつが居てな、
そいつが現世で魔族落ちした者を異世界に手引してるんだ」
「へー、なるほど。でもそんな都合よく近くにいるの?」
「魔力の暴走に敏感なやつが居てな、数日前から近くに潜んでるらしい
対象が暴走して、無事逃げられると確信した辺りで姿を見せて
異世界に連れて行くんだ。俺等は案内人と呼んでる。」
「その人に頼めば少し行ってこっちに戻って来れたりしないかな」
「てか伸太が無事覚醒したら向こうに送る約束だったんだよ
ただ予定では伸太が18歳くらいに育った頃だから
だいぶ早まってしまったな。」
「え!?送るってなんだよ、どういう事?説明してよ!」
「お前の母さんな、向こうの世界のお偉いさんの娘でな、
伸太はその息子だから、次期当主候補の一人なんだよ。」
「お偉いさんって・・・向こうにも貴族とかそんなのあるの?」
「異世界なりにも上流階級みたいなのがあってな、
お前のおじいさんは魔王みたいなことやってるんだよ」
「魔王!?え?これホントの話なの?流石のボクでもそれはちょっと・・・」
「おいおい、普段の好奇心はどーした。まあ信じられないのも無理ないか。
そんでな、跡目争いに巻き込まれそうになったところを
こっちに逃げて、少しでも戦えるようになるまで隠れてたってわけさ」
「うーん、それが本当だとして、追手は来なかったの?結構平和だったけど」
「こっちに来たときな、わざとここで魔力を放出したんだよ
組織に気づかせて近場に来てくれれば追手も動きにくくなるからな
そしたらまさかあの依澄家が隣に来てくれるとは思わなかったけどな」
そう言いワッハッハと笑いとばす
「ちょっと、笑い事じゃないでしょ・・・」
「向こうの住人はな、こっちでは魔力が弱まるし移動手段も限られる。
そんで近くに巫女の護衛が目を光らせてるから滅多のこともできない
そのおかげで俺は力を隠してのうのう暮らせたから楽な商売だったわ」
「そういやお金どうしてたの?仕事してるようには見えなかったけど、
深く追求しちゃ悪いかと思って今までスルーしてたけど・・・」
「子供がそんな気を使うなって。ちゃんとお母さんから毎月振り込まれてたぞ
伸太の食費と養育費は別で貰っててな、そっちに手を出したら多分首が飛んでた
もし伸太に仕事を聞かれたらな、トレーダーということにしてあったんだよ」
「そうなんだ・・・それで異世界にはどうやって行くの?」
「普段は週一で定時連絡してんだけどな、俺の能力で。
もし、その時が来たら緊急連絡で合図する算段になってるんだよ。
そしたら10分もしないうちに迎えが来ると思うぜ」
「その後父さんはどうなるの?」
「ああ、俺はこれでお役目御免。迎えが来るまで命をかけて死守するまでよ」
「え、死んじゃうってこと?そんな簡単に?」
「お前の母さんに拾われるまでは、生きてるか死んでるかすらわからない虚無でな
ほんとここでの暮らしは天国だった。パソコンでこの世界の常識を
勉強するように言われたこと以外は殆ど自由時間。
ごくたまーに遊ぶパチンコとスロットも良い娯楽だった
本当ならあと3~4年はこの生活が続くと思うと心残りだが悔いはない」
「じゃあさ、まだ連絡してないなら、無かったことにしない?」
「無かったこと?」
「そう、今話したこと全部無し。ボクは覚醒したことを黙ってた
父さんは覚醒にずっと気づかなかった。これでもう暫くは今まで通り」
「んーとてもいい提案だと思うけど・・・
実際今日言われなきゃ、なんか魔力の流れが少し変わったな
程度しか思わなかったからなぁ
でもバレたら絶対殺されるしなぁ」
「何いってんだよ、そうじゃなくても死ぬつもりだったじゃん!
それに静香と結婚の約束も決まったんだ!離れるなんてやだよ!
・・・父さんとも離れるの、やだよ・・・」
「伸太・・・結婚、するのか?・・・よし、わかった。」
うんうんと頷いた後、玄関のドアに向かって話しかける
「ってな話なんだけどさ、外の護衛さんは見逃してくれるのかい?」
「え?あ、護衛の人、そこに居るの?」
父さんに質問するとコクンと頷いた
伸太は玄関を開けて周りを見るが誰も居ない
「護衛の方居ますか?ちょっとお話があります」
するとすぐ横の暗がりからスーっと音もなく現れた
「うわ、びっくりした。凄いな、そんな事もできるのか
お話は、全部聞いてましたか?」
「ええ、所々ノイズで聞き取りにくい所はありましたが、
概ねの現状は把握しております。」
伸介が話した内容は、機関でも把握している情報はそのまま聞かせ、
案内人辺りの機密情報は異世界を経由し、
聞き取りづらくしてぼやかしていたのである
「今聞いたことは内緒にしてくれないでしょうか?」
「私めの一存ではなんとも決めかねますので、上への報告はさせて頂きます。
ですが、話を聞いてる限りではこのまま現状維持でも、
とくに問題は無いと思われますので、悪いようには報告いたしません。
そちらのお父様のお力ですが、巧妙に隠されていてD前後に偽装されてますが
本来はAに届くかどうかだと思われます。筋力は少なく戦闘経験もあまり無し
能力も戦闘向きではなく防御系統でしょうか。
何かあっても我々で対処できますので心配ないかと思われます。」
「わーお、流石本家巫女さんとこの護衛さんだ。いい目をしてらっしゃる」
伸介はケラケラ笑って拍手している
(だけど非戦闘向きってのは間違ってるなぁ)
伸介の能力は異世界と現世を繋ぐと言っていたが、
見える範囲で半径10m以内であれば、体の一部を異世界を経由して
瞬時に移動させることができる。
伸介は年中、袖の下がブカブカな羽織を着ていて、大体が腕を袖に閉まっている
袖の中で異世界に繋がる穴を作り出し、ほんの一瞬だけ手をその中に入れた
すると護衛の頭のすぐ上に一瞬、伸介の手が現れすぐに消えた
ほんのコンマ何秒、頭に触れるかどうかの瞬間に消えたので誰も気づかなかった
(はい、本当ならこれで一回死んじゃったよ。
この僅かな魔力の流れに気付けないようじゃまだまだだね)
袖の中には細長い針が隠してあり、高密度の魔力が込められている。
異世界の住人ならまだしもこちらの人間からすると猛毒である。
伸介が殺す気ならこの針が頭に刺さっていただろう。
(これなら伸太を送った後でも逃げ切れたかもしれねーがまあいいか)
「じゃあ緊急連絡は保留にしとくわ。
裏切ったようなもんだから何かあったら匿ってな」
「ではその件も持ち帰り、上と検討させていただきます。」
「父さんありがとう!護衛の方もありがとうございました!」
「いえ、それでは失礼いたします。」
スーッと影に消えていき、気配も無くなる。
「一度母さんに会いに異世界に行くにしても、こっちに戻る手段を考えないと。
後はいざという時のために、なるべく強くなっておかないとな」
「ここまできたら開き直るしか無いか、おう、伸太の修行手伝ってやるぞ」
「え、ほんとに?やった!どんな修行つけてくれるの?」
「んーまずは魔力制御辺りからやっとかないとかなー。取り敢えず明日からな」
「うん、わかった!普段は筋トレや武術の練習とかだったから楽しみだ」
異世界から無事に帰還するための手段を探しつつ、修行に励む伸太
一方で隣の杏子ちゃんに異変が起きる
次回 【その真名は『杏』】 お楽しみに