5・覚醒2
(姫・・・離れないで・・・)
走り出す依澄を追いかけるべく、伸太も走り出そうとした瞬間
「解!」
古川は伸太目掛けて宝石を3つ投げた
宝石は伸太の足元に転がり、約2m間隔で配置された
宝石3つを線で繋ぐと正三角形になり、その中心に伸太がいる
その線の外側の中央辺りに、伸太を囲うように三人は素早く配置についた
「「「三角陣神聖結界」」」
三人の前に三角の透明な壁が現れ、ピラミッドのように伸太を包み込む
「う、が?ぐおおおぉぉぉ」
結界の中心で伸太が呻き、動きが止まる
「豪くんの神域で更に強度が上がってるぞ!
これなら例え相手がAランクだったとしても決して破れないでしょ」
さっきまで震えてた古川に少し余裕が戻る
「勝ったな!ガッハッハ」
武田はそれに合わせてあげるように笑ってみせた
「おい、油断するな。武田も聖力あまり残ってないんだろ?」
そう言う浦秀も先程のダメージが残っているのか、辛そうに肩で息をしている。
「まあ、あと数分くらいは大丈夫だ。このまま伸太の動きを・・・」
(姫・・・待って・・・)
「ぐぅ・・うお・・・おお”お”お”お”ぉぉお”」
強引に動こうとする伸太
「くっ、結界内だと言うのにすごい力だ・・・」
「ひ・・め・・・ひぃ、めえぇぇぇぇぇぇぇ」
雄叫びと共に、伸太の額に第三の眼が開かれる
邪 眼 開 放
瞬間、辺り一面に物凄い魔力が溢れ出す
その尋常じゃない魔力に気づいて、依澄は足が止まり振り返る
「な、んだこれは、邪眼は封じたんじゃなかったのか・・?」
いや、依澄が止めさせたのは右目の眼帯、
額ってことはあのバンダナも封印呪具だったのか、くそっ
「あわわわなんですかこれ たすけてママー うぉえぇぇ」
古川は再び震え上がり吐き気を催す
「いやはや、参りましたねこれは・・・」
浦秀は強力な魔力に当てられて、先ほどやられた傷口から血が滲み出す
邪眼は 全てを 見通す
結界の僅かな綻びも見逃さない
怪我で弱っている浦秀の結界は他よりも脆くなっていた
瞬間、浦秀目掛けて鋭い蹴りが放たれる
結界は決壊し、またもや吹っ飛ばされた浦秀は、
依澄の横の壁に激突し、ぐったりしていた
後を追うように駆け出した伸太は浦秀目掛けて貫手突きを放つ
「だめ!やめなさい!」
依澄は叫びながら間に割って入る
ブシャー っと赤黒い何かが飛び散る
伸太の貫手は、依澄の胸の辺りを貫通した
かのように見えたが、胸に触れた瞬間、手はピタッと止まり
伸太を覆っていた赤黒いモヤが依澄に触れた所から
血のように飛び散り消えてゆく
先程飛び散った赤黒い何かの正体はこのモヤだった
「伸ちゃん!」
右手のモヤは殆ど消えたため、依澄はまだモヤに覆われている左手を掴む
そのモヤは熱を持っているのか、触れた場所からジュッと音がして少し火傷した
「つっ!伸ちゃん!戻ってきて!ねえ、さっさと戻りなさい!」
左手のモヤもブワッと消滅し、伸太の上半身から次第にモヤが消え去っていく
伸太の顔からも完全にモヤが消えていき
額の眼もなくなり意識を取り戻す
「ぁれ、姫?、これは一体・・・頭が、痛い・・」
「もおっ、ばかばかばかっ」
涙ぐみながらポカポカと胸のあたりを叩いてくる
そんな姫を見てフフッと軽く笑みを漏らしてしまった
足元がまだおぼつかないせいもあって、ポカポカでちょっとふらつき
依澄から少し離れてしまった。
その瞬間、足元にまだ残っていたモヤが再び伸太を侵食していく
「うわっ!なんだこれ!」
「依澄さん!早く伸太に触れて命令しろ!調教プレイを思い出せ!」
こちらに駆け寄りながら武田が叫ぶ
依澄は伸太の腕をガシッと掴み叫んだ
「戻りなさい!・・・いい?落ち着いて、忠誠のポーズを取りなさい」
言われるがまま跪く
「そう、いい子ね。そのまま本来の自分を思い出して・・・」
頭を撫でられながら優しく囁かれる
するとモヤは全身からすっかり無くなっていた
巫女の能力の一つに、触れた相手の精神に干渉し、
対象の動きを制限させるというものがある。
触れる時間が長ければ長いほど効果は高まり、
次第に操る事もできるようになるとされている。
一度離れても長い年月が経過しない限り、時間は蓄積されていく。
たまに椅子にされていたのも、今回のようなケースのための予行練習だったのだ。
「ふう、これでもう大丈夫かしら?早く影敏の治療をしないと」
手を放し浦秀の治療に向かおうとした瞬間、伸太の右腕に痛みが走る
先ほどのモヤが右手から渦を巻きながらぼんやりと浮かんできた
「くっ、こ、れは・・・黒き龍・・・黒龍の力、なのか・・・?は、ふふふ」
そんなこと呟きながら、不敵な笑みを浮かべる伸太
「だめ!」
すぐにパシッと手を掴み直すとモヤはまた消えていった
「おいおい、依澄さんが触れてないとすぐ暴走しちまうのか?」
「仕方ないわね・・・」
手を繋いだまま浦秀に近づいて、もう片方の手をかざし治療を始める
そこに援軍が駆けつける。
顔の下半分を黒い布かなんかで覆っている金髪の男性だ。
「すまねー、少し遅れたかな。それで今どういう状況なんだ?」
「それでは自分が説明します。それと救護班の手配を急いでお願いします。」
武田は一礼し説明しようとする
「ああ、それなら安心せい。もうすぐ主が来る頃だ。」
この人も覚醒者のようだ。主とはこの人が仕える巫女様なのだろう。
安全に覚醒できた者の中には、戦闘員として組織に雇われる者も居る。
「ものすげー魔力を感じたから先に向かうよう言われたって訳さ。
そんでもってその魔力の元はどうなったんだい?」
武田は事の経由と現状をざっくりだが説明する。
「へー、あの子がその覚醒者なのね。ふ~んどれどれ」
ジーっと睨むように見ながら時折匂いを嗅いでいる
「火に、闇、か無難なとこだな」
なにやらぶつくさ呟いている
視線を感じたのか、伸太がこちらへ振り向く
「お、え?あれって邪眼もちじゃねーのか?おめーらよく生きてたな~」
武田の背中をバシバシ叩きながらケラケラ笑っている
「ええ、巫女のお陰で今は力を封じております。
離れると暴走してしまいますが・・・」
「まじ?あれを抑えられるのか!一体どんな調教してきたんだよ」
そう言ってケラケラ笑う男に武田は調教の内容も説明する
「アッハッハ、何だよ馬乗りって、最近の中学生は過激だなーおい」
「直系の巫女様の行いなのでそれが普通かと思い
一緒になって囃し立ててましたが・・・」
「うちの時なんか、お手々繋いでお買い物ーとか終始すげー健全だったぞ」
そんな話をしていると、その巫女様が到着する
見た目は中学生くらいでおっとりとした小さな女の子だ
「おまたせー、戦闘は終わった感じかな?」
「おう、来たらもう終わってた。それより怪我人の回復頼むわ。」
「はーい、今行くねー」
巫女二人の治療で浦秀は動けるくらいには回復した
「・・・静香様申し訳ございませんでした。そちらの巫女様も感謝いたします。」
「いいのよ~気にしないで」
「そうよ、任務だし浦秀が謝るようなことじゃないわ」
「なんかすまん、あまり記憶にないがこれボクのせいなんだろ?」
依澄と手を繋ぎながら伸太は謝る
その繋いでる手を見て浦秀は表情が強張る
「僕も君に攻撃する時は死んでも構わないくらいには殺気を込めたからな、
お互い様だ」
「え、ああ、そうなのか・・・」
気まずい雰囲気になるが、続々と救援が到着し、
怪我の治りきってない浦秀は組織の病院へ搬送される
ついでに魔力に当てられ震えてうずくまってた古川も一緒に連れていかれた
それを見送ってから、依澄はうーんと唸り、繋いだ手を掲げる
「後はこれをどうするかが問題ね」
「ずっとこのままじゃ何かと不便そうだな」
武田はそのまんまの感想を言う
「ボクはずっと姫と手を繋いでるのも悪くないけど」
「んなっ!ちょっと真面目に考えなさいよ、もー」
顔を少し赤らめてまんざらでもない様子
「とりあえず俺が居ても役に立たなそうだし、頸の様子でも見に行くわ」
じゃあな、と武田も病院へ向かった
「仕方がないわね、お祖母様に相談しましょう」
二人は依澄の家に向かうのであった。