9-2・その真名は『杏』後編
部屋に帰ってまずは愛猫に挨拶する。
「ただいまキキ、杏様のお帰りだぞ」
「にゃにゃ」
そのまますぐに『正装』に着替えようとしたが、
キキが窓の枠に飛び乗ったので目で追うと、ふと窓の外にも目が行く
すると隣の庭で伸太が修行しているのを発見する
「あ、ししょーが修行してる」
着替えを止めて庭へとかけ出る
前に修行を興味津々に眺めてたら、一緒にやってみる?
と誘われたのがきっかけで、師弟関係になりよく話すようになった
「ししょー、こんにちは。今日はなんの修行っすか?」
伸太は、杏子が普通に会話できる数少ない中の一人である
「お、杏子ちゃんこんにちは。今はまりょ・・・」
言いかけて少し考える
今はまだ魔力の事は内緒にしておかないとまずそうだな
「えーと、体内の気?を安定させて、体の表面にうまく循環、定着させる感じかな」
「うおー、今回のはなんか具体的っすね。何かの達人みたいっす!」
語尾に 何々っす と付ければ敬語になると思っている杏子だが
伸太は特に気にした様子もなく話をしてるのでこれが定着した
「でもね、理解はできても、いざやろうとすると難しいんだこれが」
「わかるっす!前にも話した魔法の理なんですが、
理屈では大体わかってきたんですが手段が見つからないっす」
前に聞いた魔法の理・・・
確か物語の中だと精霊から借りたり大地のマナを使ったり、
体内に眠る魔力を変換、または魔導書などから学ぶ
とかそんな感じだったっけ?
しかしこの世界にはそのどれも該当するものは見つけられてない
だから杏子ちゃんなりにこの世界での魔法の理を構築してるとかなんとか
まあ魔力は実際あったんだけど杏子ちゃんが望んでる魔力かどうかは分からない
「科学的根拠を交えて、脳に実行可能だと解らせるっす
よく物語では科学と魔術は相反する存在だと設定されてるっすけど
科学的に解明できるなら実践も可能なんじゃないかと信じ込むっす!
信じてやり続ければいつかはできるようになるっす!」
最後は根性論に変わった。科学的根拠とはいったい・・・
「例えば、空気中の水分を一箇所に纏めて玉を作り、
それを飛ばすのが[水玉]ウォーターボールっす」
「なるほどねー」
「更にその水玉を細長くして周りの温度を急速に冷やし凍らせて先を尖らす
これが[氷槍]アイススピアになるっス」
「おおー、なるほどなー」
「逆に燃えやすくした何かの塊、できれば魔力に、太陽光を凝縮して熱を加えれば、」
「[火玉]ファイヤーボールになるわけか!」
「その通りっす!流石っす!」
「へー、これが杏子ちゃんが考えるこの世界の『魔法の理』ってやつなんだね」
「そうっす、道具を使えばどれも形は作れるけどそれはもう魔法じゃないっす
魔法にするにはあと一歩、やっぱ何か不思議な力が必要になるっす」
眉に少しシワをよせワナワナと杏子は悔しそうにうなだれる。
その時左眼の周りの空気が揺らぎ僅かな魔力か漏れ出す
伸太はその僅かな魔力を見逃さなかった
ふっ、とその魔力は無くなり杏子は話を続ける
「あと魔法にはよく詠唱するものがあるじゃないっすか」
後で報告すればいかと伸太も話に戻る
「清らかなる生命の風よ、とか、天地あまねく精霊たちよ、みたいなやつだね」
「それっす。私の場合、理を復唱してしっかりと認識させることで
詠唱の代わりとすることにしたっす」
「ほー、でもなんか詠唱っぽくないね」
「そうなんです。それならいっそ頭の中で理を巡らせて理解させ、
無詠唱で発動させることも考えたっす」
「無詠唱魔法、いいね、強者っぽい。」
「そこで目をつけたのがバッチファイルなんすよ」
「前にもバッチで変わりにとかなんか言ってたけど、
そのバッチがなにかボクには解らないんだ」
「えっとですね、私も最近かじった程度っすけど、パソコンでコマンドを打って
色んな命令を実行させる事ができるテキストファイルとかそんな感じっす」
「ごめん、パソコンあんま詳しくないからわかんないや」
「それではこれで説明してみますね」
杏子は服をめくってお腹から一冊のノートを取り出した
そのノートには 地水火風と書かれている。
更に背中からも、もう一冊取り出す。
そこには光闇と書いてある。
「そのノートいつも持ち歩いてるの?」
「はいっす。いつも肌身離さず持ち歩いてるっす!
それで、まずこの地水火風は基本の四属性っす。
それと光闇はその上位の属性とされることが多いっす」
「ふむ、ゲームとかでもよく見かける組み合わせだね」
「このノートの中身ですが、その属性の数の分均等にページを振り分けてるっす
最初のページに地と書いて5ページ後に水、更に5ページ後に火みたいに。
光闇は半々で分けてるっす。すぐ開けるように付箋も貼ってあるっす。」
「ほうほう、なるほど」
「パソコンにも、このノートと同じく二種類のフォルダを作るとするっす
そしたらその中に地のファルダ、水のフォルダと分けていくっす」
「ふむふむ?」
「そしてここを見てくださいっす」
地水火風のノートの火のページをめくって見せてきた
「えーっと、火のすぐ下にあるこれだね、どれどれ」
ファイヤーボール
[火玉]
可燃性の魔力を凝縮して、熱を与えることにより火の玉が出来上がる
太陽が出ている時は太陽光を集める事により出も早く威力も上がる
雨の日は威力が下がり、使用できないこともある。
思ってたより細く設定が書いてあった
「これをっすね、パソコンだと[火玉]から始まる全部の説明文を
テキストファイルに書き込んで、テキスト名をファイヤーボールにするっす
普通なら拡張子を.txtから.batに変換するとバッチにかわるんですが、
そこで私の考えたオリジナル拡張子[.magi]に変えて火のフォルダに入れるっす」
「ふむふむなるほど?」
全くわからん
「ファイヤーボール.magiの中身は設定が書かれてるので詠唱の代わりになり、
後はcallで呼び出すだけでその魔法が発動するって考えっす。
今はこのノートが代わりとなり、使いたい魔法のページを
すぐ開いて説明文を瞬時に目で追ってから魔法を唱えるってわけっす」
「ほえー凄い色々と考えてるんだね。殆ど理解できてなくてごめんね」
「いえ、しっかり話を聞いてくれるだけでも有り難いっす
ほかにまともに取り合ってくれる人居ないっすから・・・」
興味の対象や設定が覚醒時の能力に大きく影響すると聞いたので
暴走時のリスクも考えると広げすぎるのも危険だ
頼子ちゃんも立場的に話をあまり聞けなかったんだろうな
気は進まないがボクも少し抑えたほうがいいかもしれないな
「うんうんわかるよその気持ち。とは言うものの
最近ボクも静香のために世間体を気にして少し控えめにしてるんだ
これが大人になるって事なのかな。切ないね」
「がーん、そうなんすか。ちょっとショックっす
でも、何となく分かるっす。頼子ちゃんが望むなら控えるかもっす・・・」
「まあボクは杏子ちゃんと話すの楽しいし、これからも遠慮せず声かけていいよ」
「ありがとうっす!ではもう一つ、私が考えた名乗り口上を聞いて欲しいっす」
「お、我が名は~とかそんな感じのやつだね。いいねそそるね」
「ではいくっす」
手のひらを顔に覆って指の隙間から左目を覗かせる
「我が真名は『杏』、現代に魔法を顕現させし唯一の大魔法使い!
究極の爆裂魔法をとくと味わうがいい!わーっはっはっはっはぁ」
「いいじゃんいじゃん、じゃあこんなのとかどうかな?」
右手を垂直に伸ばして90度曲げる。
手のひらを手前に向けて小指を曲げ、左手で右手の手首を掴む
「我が名は『シン』、黒龍の使い手にして闇の世界の王子である!」
だいたいあっているのである
「くわーいいっすね!闇の世界!憧れるっす!一度行ってみたいっす!」
今度行く予定だけど一緒に行くかい?
と流れで言いそうになるがなんとか思いとどまった
「おっと、もうすぐご飯の時間かな。そろそろ戻るね」
「あ、修行の邪魔しちゃたっすかね、すみませんっす・・・」
「いいよいいよ気にしないで、またいつでも声かけてよ」
「はいっす!ではこの辺で失礼するっす!」
「うん、じゃあねー」
杏子を見送った後、依澄家の塀の方へ歩き出す。
塀に近づくと、伸太は塀の向こうに声を掛けた
「護衛の方いらっしゃいますか?」
「はい、いかがしましたか?」
「杏子ちゃんの左目から、わずかだけど魔力を感じたので
念の為、頼子ちゃんとお祖母様にこの事をお伝え下さい」
「その旨、承知いたしました。」
「では、お願いします。」
それだけ伝えて家に戻る
大事にならないと良いが、と心配する伸太。
その心配とは裏腹に、魔力のせいか杏子は体調を少し崩すのであった。
次回 【魔法少女 マジカル アンズ爆誕】 乞うご期待。
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