貨幣・税
それこそ、あらゆる『史実』の国や文明、またSF作品諸国を、
〇国名
〇総人口
〇存続期間
〇言語・文字
〇貨幣・税制・財政・金融・簿記
〇度量衡
〇暦・元号制
〇法源・法制度・奴隷制
〇社会制度
〇通信
〇金属・家畜など技術水準
〇移動手段・エンジン・移動可能範囲
〇衣食住の素材
〇人工知能水準
〇最大兵器の威力
〇最大建造物の規模
などで比較した一覧表を作れれば……筆者がやろうとすると今まで読んだ、SFと歴史書の両方を全部読み返さないと……いや読まなきゃいけない未邦訳書だって多数……
もちろん今回も、利子・恐慌など様々なこれまでの話と重複します。
文字・数字は、貨幣とも直結します。
文字のもととして、取引のトークン、税の記録がもっとも古いともされます。貨幣には数字が書かれます。数字そのものが貨幣でもあります。
貨幣も、あらゆるSF作品にあります。『現実』の多くの国にも。
それこそ、あらゆる作品のあらゆる国の通貨を並べれば、暦・年号同様に、それ自体が一冊の本になるでしょう。『現実』にもそういう本は、全世界でも一国でもたくさんあります。
それを考えると、貨幣・度量衡・文字・法、道路の幅……荷車・馬戦車を北方中国の黄土で走らせると、レールのように固い轍(わだち)=溝が掘られる、それこそ未来の鉄道時代の軌間にも等しい……さえ統一した秦の始皇帝がどれほどとんでもない存在か、あらためてわかります。西洋などにおける、それと変わらないことをした人々も。
『銀河英雄伝説』の帝国マルク、同盟のディナール。これも暦や言語と同じように、各国のアイデンティティでもあります。そして帝国による同盟征服後、貨幣統一も重要な問題になるでしょう。それは史実の東西ドイツ、アメリカ南北戦争後などの統一でも見られる難題です。
『タイラー』では統一による強引な貨幣統一がハイパーインフレにつながり、タイラーはそれを暴走させることで人々の目を災害からそらしました。
秦の始皇帝の大きな事績に貨幣統一もあります。ほかにも明治維新も、フランス革命も、ドイツ帝国も、ありとあらゆる国の統一と貨幣の統一は不可分でしょう。
ポル・ポトの究極の愚行は、貨幣もなくしたことにあります。
『スターウォーズ』の帝国通貨はクレジット。クレジット、の貨幣名である作品もかなり多くあります。
『ヴォルコシガン・サガ』では後進国バラヤーの通貨は評価が低く、ベータ・ドルを稼いでくるとまったく別の目で見られます。
『量子怪盗』の火星都市ウブリエットでは、時間が通貨となりました。
『スタートレック』は貨幣がないことが特徴とされますが、フェレンギなど貨幣経済が生きている場もあります。
貨幣がある世界かない世界か、で分けることもできるでしょう。貨幣がないのは少数派ですが。
貨幣がなくなる世界は、上述ですがロボットが無限に生産してくれる『断絶への航海』があります。
『所有せざる人々』も古典です。
また貨幣にかわり評価が用いられる『マジック・キングダムで落ちぶれて(コリイ・ドクトロウ)』も先見性の高い作品です。
それらは、ものがたくさんあれば、資源・生産が豊穣であれば、希少性がなくなり、それで貨幣は無意味になる……が根本になります。
ただし、評価や時間はどうしても希少性を保ちますし、貨幣は希少と交換だけではないのかもしれません……呪術、支配。
『現実』のノンフィクションの世界で貨幣の意味について大きな石を投じたのが、グレーバーの『負債論』でしょう。
貨幣の前史としての物々交換を否定し、奴隷化の手段・将兵への分配として貨幣史を再構成しました。それがどれほど正しいかはともかく。
2023年3月である最近は貨幣の意味について、MMT論争もあります。『21世紀の貨幣論(フェリックス・マーティン)』、柄谷行人や斉藤幸平もさまざまな考えを出しています。
最近筆者が結構多く読んだのが、『反穀物の人類史|(ジェームズ・C・スコット)』『Humankind 希望の歴史(ルトガー・ブレグマン)』『文明が不幸をもたらす(クリストファー・ライアン)』のような、現実の歴史そのもの、都市・穀物・文明そのものを悪と断じるような書物です。日本の知識人の間でも反文明はかなり強い心情です。
貨幣の本質を最も強烈に表現しているのが、『北斗の拳』の冒頭。核戦争後、賊と化した人々が金持ちを襲って殺し食物や水を奪い、スーツケースの札束をぶちまけて尻を拭く価値もないと叫ぶ。
多くの、核戦争後に権威主義となったSF作品が、それを過去として経験しているでしょう。
金貨や銀貨、また紙幣、いや暗号通貨に至るまで、貨幣は「物」であり、情報・抽象的な記号・人々の心の中にだけある、「心」でもあります。純粋に情報と言える暗号通貨も、多数のコンピュータや光ファイバー、膨大な電力を消費するサーバー、基地局などがなければ存在できません。
まさに心と物の橋の重要な一つ。
古代における貨幣は、洋の東西で大きく形を異にします。
地球人の歴史では、以前はほぼ硬貨です。
西洋では、金銀やその合金をもととし、銅貨は補助的でした。また多くは人の顔を打撃で刻む方法で作られた、穴のない円形です。
中国は金銀貨があまり使われず、銅の円形、四角形の穴があり鋳造で漢字四文字の形。『銭形平次捕物控|(野村胡堂)』で知られるような、紐を穴に通してまとめるものです。千枚、一貫が基本単位で、米10キログラムぐらいの体積で重さは何倍もありそうな大荷物を担ぐ代物でした。日本の江戸時代の金銀も、「両」という単位にあるように重量でした。それこそ「金1グラム」を貨幣単位にするようなもの。といってもそれも、改鋳で金(ゴールド)は減りました……貴金属価値と切り離された、数字情報貨幣の面が強かったと。
金属そのものを掘り出し所有できる量に制限がある、それが貨幣発行量を自然と制限していた、とも言えます。
近代でも金本位制が長く行われ、強く支持されたのも、紙幣と違って無限発行ができないからでもあります。
『現実』の地球人を客観的に見ると、もっとも豊富で便利な金属だった鉄はさびやすく、古代技術でも入手しやすく加工も容易な金・銀・銅が使われました。銅は錫がなければほぼ役立たずになるという問題もあります。
常に金と銀があり、その交換は複雑な両替問題を作ります。金銀交換比の違いは幕末の日本で、日本から膨大な金が流出し庶民を苦しめ、逆に日本に行った西洋人がぼろ儲けしたようなことにもなります。
さびにくく加工しやすい金銀銅の硬貨は、特に地面に埋めて略奪から逃れるという処世術があることもあり、また副葬品としても価値が大きいため、考古学遺物としてもきわめて重要になります。
そして貴金属の硬貨はほぼ永久に保存できます。腐りません。
狩猟採集生活の経済では、特に食料の保存は実質不可能です。群れを追って崖から落とすやり方で何百もの古代馬やマンモスを狩ることができても、食べきれず大半は腐ります。石器で切って風にさらして乾かそうとしても、腐敗するまえに加工できるのはわずかです。
それが、穀物は何年も保存でき、さらに硬貨は事実上永久に保存できる……加えて貨幣は、腐る肉と違って大量に、事実上無限に保有できるようになりました。
無限の欲望を可能にするのも、貨幣の本質の一つです。
貨幣が紙幣になるとより便利になります。さらに電子情報になれば。
それでも、硬貨でも紙幣でも、あるいは数字でもなんでも、改鋳・貨幣発行益(シニョリッジ)~インフレ・財政破綻という問題が出てきます。
戦争や贅沢をしたい国が、金貨であれば不純物を混ぜて金を減らした新硬貨を出すのです。
特に古代ローマ帝国がそれを繰り返したことは知られていますが、どの国もやっています。
民も、金でできている金貨の周囲を削って集めて金として売る……だから今の日本でも、「貨幣を傷つける」ことは犯罪なのです。それこそ貨幣の公職を任されたニュートンが多くの人を死刑にしたように。だから周囲に溝がある硬貨が多いのです、削られたらわかるように。
といっても地金としての価値がない硬貨にすると、削られないかわりに偽物を作れば儲かってしまいます。どちらにしてもだめという。
地金としての硬貨といえば、『無責任三国志』で、硬貨の金属組成が組み合わせ次第で軍需金属になる、戦時になれば回収する備えだと見抜いた話があります。
さらに、貨幣も商品の一つと考えると、多ければ安くなり少なければ高くなる。サンマが不漁だと高くなり豊漁だと安くなるのと同じく。
それで新大陸で膨大な金銀を手に入れたスペインは衰退したのです。それまでにヨーロッパにある金銀の何倍も流れ込んだら、手に入れても手に入れても、新しく手に入れた金銀の価値は下がっていったのです。
カソリックと戦争征服にしか興味がないスペイン王はそれを理解することができませんでした。
そして、中国ではモンゴル・元から何度も紙幣が失敗、いや亡国にさえ至ったのは、政府が紙幣をたくさん印刷して贅沢や軍事費に回す誘惑に勝てなかったからです。
それをしてしまうとハイパーインフレ……紙幣が価値を失い、それこそ死刑でも金銀を使ったり、信頼できる仲間での貨幣を使わない取引に徹したりになり、国家経済が崩壊していくのです。
ドイツ・ワイマール共和国がハイパーインフレで皆苦しみ、ナチスドイツに魂を売った……またジンバブエなど、多くの国で悲惨なハイパーインフレが起きます。
『タイラー』での意図的なハイパーインフレは何度も触れた話題です。
そして多くの国が財政破綻に苦しみ、フランス革命以前のフランスやスペインでは貸し手の商人を死刑にすることもよくありました。日本の江戸時代でも大商人を全財産没収刑にすることは多くありました。
簡単に貨幣を増やす……改鋳でも輪転機でも……しないこと、簡単にデフォルトしないこと。それができるシステムになったのも、イギリスが勝者になった重要な理由の一つです。
議会が適度に強い。東欧のように貴族が好き勝手するための議会ではなく、王も適度に強い。かといってスペインやフランスのように王がとことん好き勝手をするわけではない。特に税金や借金にはうるさい。
それこそ、議会で議論説明投票する権利も無いのに税金だけ取るなんて嫌だ=代表なくして税なし、とアメリカは独立したのです。
逆に、民主主義だろうと君主制だろうと、国家が貨幣を増やすことを自制することができるかが、存亡に深く関わっていると言えるでしょう。
硬貨は呪術的な意味も大きいと言えるでしょう。
『北斗の拳』の冒頭のように貨幣は信用・情報が本質。数円の費用しかかからない印刷された紙でしかない一万円札が、米30キログラムと交換できたり最低賃金約一日半の労働の対価になったりするのです。
信用、人間を集める心の働き……それは呪術、また宗教とも関係は深いでしょう。国家それ自体を魔術・宗教と考えてもいいですし。
人が貨幣を信用するのがどれほど難しいか、それは中国史で繰り返し出ます。銅貨の信頼が強すぎて、紙幣を受け容れさせるのが困難、他にも銀貨も金貨も苦労します。
日本では独自に信用される貨幣を作れず、中国の銅銭を輸入し続けました。それほどもったいないことはありません。
貨幣の信頼で面白いのが、オーストリアの金貨です。本国ではとっくに発行をやめたハプスブルク帝国の金貨が、アフリカ東海岸から中東にかけて長いこと通用したことがあります。
信用、信頼……「信」……それは何でしょうか。論語で孔子は、軍備・食料・信が大切だと言い、どれかをあきらめるならと言われれば軍、さらに食すら捨てました。生命よりも信が大切だと。
神風特攻もさせる、生命より上の、国家・軍に対する忠誠……国家を形成する「信」、それと貨幣は密接に結びついています。
国が信を失えば、貨幣も価値を失います。
貴金属や宝石の価値の高さ、それには宗教・魔術の面も強くあるでしょう。神殿の類は貴金属や宝石を多く使います。
大航海時代のスペイン・コンキスタドールの黄金に対する妄執は、単なる物欲だけではなく黄金それ自体の魅力もあるでしょう。
また皇帝の顔を刻印した金貨、それは今の日本でよく売られる、金メッキの小さい仏像が入ったお守りに似ていないでしょうか?
魔術護符としての貨幣、また中国の紙銭……紙で作り死者に捧げるために焼く模造貨幣……も貨幣の世界では相当重要な話です。
貨幣・税というものは、『負債論』にもあったように、奴隷と直結します。税や借金が。
貨幣の本質的な意味の一つに、税を払う手段があります。税務署から納税通知書が来たので金地金を持って行ってもダメと言われるでしょう。日本円しか許されません。あらゆる税金がそうなります。
古代ローマの法では借金を返せなければ奴隷とするのは当然でした。また近代と言っていい時代でも、借金を返せないと債務者監獄=刑務所に入れられ、とんでもなく残酷なめにあわされます。
中国や日本でも、法がどうあれ、税がきつい~借金する~奴隷や小作人になる、が自然な流れであり、それで荘園や不在地主が増えていったものです。
東西を問わず、貴族が多くの土地を手に入れ、多くの農民を従わせるのは、税を取る国などから守るということもありました。どちらにしても奴隷なのですが。
税や借金を払えなければ奴隷、も普遍的……でも、結果あらゆる人が奴隷になったら?
悪い意味の焼き畑と同じ?ある地域がダメになったら別の地域に行けばいい、ある地域の人々を奴隷化して全滅させ、別の地域に行けばいい?
それが文明の衰退でしょうか?
強い地主ができれば、それは軍事力も手に入れて反乱予備軍となります。
また、ゴールデンバウム朝は民の多くを奴隷化しつつ急激に人口が減る……多くの連邦民が反逆・共和思想やその連座で流刑囚とされ、また門閥貴族が多くの農奴を酷使する……
奴隷は常に新しく入れなければならない、繁殖しにくい/繁殖可能な生活水準だと損益分岐点を切る、という経済構造だった時代・地域もあります。伝染病もありますが、先住民があっという間に減っていったコロンブス後の中南米とか。あるいはベルギーがコンゴを支配してやらかしたときとか。
中南米では常に新しい奴隷を必要とした、先住民・三角貿易という安い奴隷が大航海時代・産業革命~近代・資本主義を可能とさせた、ともいわれます。
死亡率が高い残忍な奴隷制は、技術水準が低くても、非常に大きな富を作り出すようです。
ひどい搾取になる必然的な理由は、短期間で死亡する仕事が実際に多いこともあります。また新大陸・熱帯など、伝染病が多いこともあります。
鉱業は坑道崩落もありますし、ガス爆発もつきものです。鉱物の化学物質で汚染された水、粉塵の空気などがあります。
売春は性病。
熱帯での農業は蚊による伝染病。
どれも今は、鉱業ならマスクとゴム手袋、売春は検査とコンドーム、熱帯農業は防虫剤と水たまり潰しなどで防げますが、当時はそんな知識がない。
そのような、死亡率が高い状況はそれ自体、奴隷の扱いが残忍になる理由にもなるでしょう。
残忍な奴隷、極端に下層の生活水準が低い経済になってしまっている作品も『真紅の戦場』や『ヤマト』の白色彗星帝国、『ガンダム』の宇宙世紀、『彷徨える艦隊』のシンディック、『航空宇宙軍史』など多くあります。『火の鳥』も復活編など未来の宇宙開拓時代では植民惑星の生活水準が非常に低いことが感じられます。
それは労働力に価値があるからですが。
人を奴隷にするときには、奴隷を支配する地主が反乱予備軍になる、以外にも人を奴隷化すると価値が低下するという根本的な問題があります。
鍛冶屋が金槌を持っていれば大きい価値がある。
鍛冶屋を鉱山奴隷、金槌を地金と薪にしたら、その合計はとんでもなく低い価値になる。
ユヴァル・ノア・ハラリが繰り返し書くことに、中国がシリコンバレーを征服してもシリコン鉱山はない、価値は人の集まり・知識にある、があります。
しかし人は、損をしてでも征服と奴隷化を好むのです。鍛冶屋から金槌を奪うことを。
建築物や本を焼くのも。畑を荒らすのも。まして灌漑設備を破壊するという愚行の極み。知識を、都市や図書館を破壊し、人を虐殺し奴隷にすることをとても好むのです。
世界そのものの価値が大きく低下するのに。
そうなるともう、経済合理性ではなく、軍事的な感情や宗教的使命などが目的になってしまっているのでしょう。
また、奴隷を残酷に使い捨てるのがもっとも、いや唯一利益を得られる方法である……前に検討したように、利子を払える唯一の方法でもあるのでしょう。
生物、生命などを使い捨てるのもそれに似た構造があります。
鉱物資源は本質的に枯渇するものです。
大型動物は絶滅しやすいものです。生まれてから子を産むまでの時間が長く、一度に産む子の数が少なく、子が育つまでに必要な水や食料が多いので。それこそrではない、K戦略繁殖だから。
人類はわずかな利益・貨幣のために、無造作に多くの動物を絶滅させてきました。リョコウバト、オオウミガラス、ステラーダイカイギュウ……幾多の悲劇があります。
多くの土地も荒廃させてきました。
利益を前にすると良心を失う人間の姿も、ハラリなど多くの形で告発されています。利益も、人間にとって強力なバックドアになるのです。
奴隷の使い捨てが不利益になる、で思うのが、税が重すぎても取る側にとっても不利益になりかねないのでは、という疑問です。
江戸時代の日本でも、農民の逃散という形で重すぎる税から農民が逃げ、領主が損をしたことがあります。
産業が栄えられないほど税が重くなれば、それこそ税収は減るのでは……
『銀河英雄伝説』で同盟の経済成長が鈍ったのは、戦争の負担のためともされます。他の多くのSFの世界でも。
特にそれが愚行に思えるのが、『ガンダム』宇宙世紀、『航空宇宙軍史』『月は無慈悲な夜の女王』など重税植民地型の世界です。
それは、それこそ『負債論』で告発されるマダガスカルを始め多くの途上国の債務からも感じます。
貨幣、利益は、人類にとってかなり至上と言っていい目的・動機と言えます。
SFでも多くの人物は貨幣を求めて冒険に出ます。傭兵や暗殺者などは貨幣が戦う理由となります。『銀河英雄伝説』のヤンも年金のためだと公言し、ファーレンハイトも食うためだと言います。
『スタートレック』では貨幣のかわりに、何か創造したり発見したりすることが動機になるとされます。
貨幣を目的にすることは、宗教や戦争、国家、反共などと違い、それ自体が本質的に権威主義から反科学になるわけではありません。ただし資本主義と科学の進歩の関係はやや怪しいものがありますが。特に独占巨大企業もイノベーションを抑圧することが。
税についていくつか付け加えます。
税には、献上の面もあるでしょう。神にいけにえを捧げる、宝物を奉納する、という儀式はとても普遍性があります。
暴力的な男子集団は、富を上位者に献上させ、上位者がその富を下に分配する、という構造が普遍的です。それこそ武装集団、帝国の最初もそうして始まるものです。
古代ギリシャのアテネ帝国は、各国が神殿に貴金属を預けて共同防衛に使うことから生じました。
江戸時代の日本でも、各地の美味しい物などが将軍に献上され、それ以外の売買消費が禁じられました。
『現実』の中国は伝統として他国との交易を、朝貢、劣った文明の国々から優れた文明|(中華)である中国皇帝に貢物を献上し、それに対して温情として貢物より価値が大きい贈り物を与える、という貿易しか許しませんでした。それが近代において、西洋諸国と争いの種になりました。
『ヴォルコシガン・サガ』では、貴族が皇帝にさほど価値がない物を捧げる儀式が描かれています。
『タイラー』では、捕虜となったタイラーは皇帝アザリンにペットとして献上されました。
税はフランス革命、フランスやスペインの歴史でも様々な興味深い面を見せます。
フランス革命の大きな動機に塩税があるとされます。
塩税は世界史的に普遍的です。歴史の大半で、人口の大半は自給自足の生活を送っており、食物も服も家具も多くは作れます。しかし食物を保存し冬を越すためには、塩が必要になります。その塩は出る場所がとても限られるため、管理し税を取るのが容易です。
中国でも『水滸伝』や塩商人の反乱が多くあり、近代日本でも最近まで塩の専売制があり、イギリス領インドではガンジーが塩を作ることで抵抗を訴えました。そして革命前のフランスでも厳しい塩税があり、それが恨みとなって革命につながりました。
他にも近代日本でも重要な財源だった酒やタバコなど、とても多くの必須で管理しやすい商品が専売とされ重税を課され、違反者を厳しく罰するものとなります。
むしろ、何を作り何を売るのも、すべて「特権」がなければ許されないことなのです。
フランスやスペインとイギリスの違いに、免税特権・売官制があります。
貴族などが王に金を出し、そのかわりに特権や仕事を得る。
ただそれは、王は一時金を手に入れることができますが、長い目で見ると税を取れる人や土地や産業を失い衰退していくことになります。王が座るときの足乗せを用意する仕事のようなバカバカしい高給仕事が多数できれば財政破綻になり、いい投資ではなく、人材も無駄になります。
ゴールデンバウム帝国にはその面はなかったのでしょうか?カストロプは膨大な金を集め潰されましたが。
近世のスペインと言えば、普通ではない収入も重要です。スペイン王室にとって、新大陸の金銀は特殊な収入であり、それゆえに好き勝手に戦争して衰退しました。
ラインハルトが手に入れた門閥貴族財産もそれに近いものではないでしょうか?
関税も普遍的に、政府が手にすることができる財源です。塩税なども。
ただし関税が多い、昔のライン河のように多くの貴族に分割され下るまでに何度も税を取られるようでは交易自体が衰退します。交易の衰退、海賊山賊は巨大帝国・文明が衰退崩壊する典型的な症状です。
フランス革命などの近代化は、そのような小さい領土ごとの関税をなくす効果もあります。
ラインハルトが同盟に勝った、バーラトの和約には安全保障税があります。それは高すぎれば同盟の産業が崩壊することにもなったでしょうが……
同盟は、軍備の多くを廃し、軍人の多くは安い年金で解雇するかわり、新兵訓練で新しい服と靴と艦艇を買う必要がなくなりました。
国の支出が減り、工業需要も減りました。それは財政をどうしたでしょう?
食べる口自体は減らなくなりました。敗戦前ですが、労働力が欲しいと民間からの声もありました。解雇された軍人が民間に行きわたり、問題となった交通の不具合などもよくなったでしょうか?
同盟で、戦中は労働力不足に不満があった=自動化はされていません。自動化できる技術自体がないようです。
安全保障税のようなことが、敵国を貶めることが目的になることもあります。
第一次世界大戦後、フランスがドイツからとんでもない額の賠償金を取ったのには、ドイツが二度と戦えないように工業化できない、貧困な農業国におとしめるという目的がありました。
第二次世界大戦後、アメリカなどは日本も貧困農業国として再工業化を防ぐつもりがあったそうです。ソ連との冷戦で予定は変更されましたが。
『銀河英雄伝説』では、自由惑星同盟の生活水準、産業水準はどうするのか……それこそ安全保障税の税率だけでもそれを変えられるのです。
またラインハルト死後、ヒルダら帝国中枢、もしかしたら皇帝家自体が|(スペイン王家が新大陸からの金銀を独占するように)安全保障税・貿易関税、もしかしたら塩税や酒税を独占するでしょう。
それが、リップシュタットで没収した貴族財産の続きになり、帝国平民・農奴層の生活水準向上の原資となる~ひきかえに帝国平民・農奴層の支持になる、それでうまく回るでしょうか。
『星界』シリーズでは、アーヴによる人類帝国は星間交易を支配して繁栄しています。惑星表面での人の活動には干渉せず。
変わった税として、少し上述ですが『禅銃』では軍は独立をたくらむ国に、天才を税として出せ、と命じました。
古代中国では、租庸調、食料・布・労働力が税でしたが、それこそ人や家畜を税としたほうが濃縮されていて費用対効果が高かったのでは……
『スコーリア戦史』の、サディストである貴族が下層の人々の中から人を選んで拉致し拷問して楽しむのも、ある種の税と言えるでしょうか。
『最果ての銀河船団(ヴァーナー・ヴィンジ)』でも権力者の一人は、人を拷問することを必要というほど好み、上の人に与えてもらっていました。
税とは少しずれますが、歴史の中では、富が大きく移動することも多いものです。
ヒトラーはユダヤ人などから膨大な財産を没収しました。
宗教改革では教会財産が没収されました。それが近代国家の原資ともなったと言われます。
民族浄化の主な動機は、常に敵とされた民族を皆殺しにするか住む土地から追って、支持者に土地財産を分配することにあります。
それこそ北アメリカやオーストラリア、南アフリカなどでは、白人は容赦なく先住民を、殺すでも追い出すでもとにかく土地から消して、仲間に分配しました。
近代国家における税の使い道にはインフラ整備、教育、科学研究なども重要なのですが……
古代帝国でもインフラ整備、道路や港湾、運河や用水路などは常に重要です。
巨大な神殿を建設し聖職者が贅沢することにも使われますが、同時に天体観測を維持し、暦を精密にすることにも使われます。
貨幣、特にバブルについて調べていると思うのですが、バブルの歴史では不動産の重要性が目立ちます。
それは、特に宇宙SFでバブル経済があるときに矛盾になる可能性があります。
近代以降、多くの経済危機に土地があります。土地に資金が集中し、土地価格が暴騰し、土地が担保となって大きな借金が生じ、土地が暴落してその借金が不良債権と化します。
日本の1990年代バブルでも、2008年のアメリカサブプライムでも。
土地は担いで逃げられないから徴税の基礎、最良の担保になります。
また近代日本は、地租改正という形で土地の農業生産と貨幣経済をくっつけて税としました。
土地の希少性。『ヤマト』でガミラスがわざわざ地球を攻めたように、それほど惑星、土地が希少であり価値がある、と。
しかし、未来技術では土地は容易に実質無限にできます……スペースコロニー。
いや、『現実』でもメガフロートや、砂漠に海水淡水化で水を供給する……エネルギーさえあれば……ことで、土地は事実上無限大にすることもできるでしょう。それがタブーであるかのようにやらないというだけ……太陽光・風力発電が石炭より安くなるというのが本当だったら、砂漠の土地を通じて世界経済を破壊する可能性が……
人は土地があって初めて生きられる、が今のところ『現実』でも当たり前の現実の真実です。
筆者個人は、イエローストーンなど超巨大火山を考えれば、地球の陸地で農牧業をやって食べていること自体がお花畑だと思っていますけど。できるだけ早く、核融合炉の電力で水と空気をブドウ糖やアミノ酸に変え、それで細胞を培養して神戸牛を米より安くすべきだと思っています。その前の段階として、海水に肥料を混ぜて日光を当てて藻類を養殖し、ろ過してナマズに与える、と。海水で育つ稲でも。
都市だけでも、ある程度土地のない人を可能とします。いや、貨幣そのものが、土地・親族集団から離れた人を可能にしたのです。
とても広い土地を、普通の所有とは違う感覚で使うのが遊牧民です。だから常に、農業帝国とは争いになります。遊牧民、また「無主の地」、土地私有の概念がない原住民たちもあり、それも農業帝国とは不倶戴天となります。
農業帝国の人の管理・税の徴収のためには土地と人の一対一対応が必要です。中国文化圏、今では日本と台湾に限られますが、戸籍はその極端なものです。
近代の国際法を見ると、国家というのは土地と人からなる、と定義されています。
宇宙開発やスペースコロニーはどのようにそれを破壊するでしょう?メガフロートは?ドラえもん式の「タンスに張ればドアの向こうに大陸」は?さらにもっと上の技術になったら?
そしてプランテーションと「土地を奪う」の関係は?土地を奪って自作農になる文化とプランテーションにする文化?プランテーションと奴隷の歴史、農奴の歴史、それ自体もっと知るべきでしょう……焚書の歴史同様嫌な話ですが。
また、歴史の上では農業が重要すぎる、穀物があまりにも売れる商品であることも重要です。
ソ連も中国も、膨大な人を餓死させて穀物を輸出し、それを原資として近代化を進めました。産業革命の時代には、東欧は膨大な穀物を輸出しました。アイルランド飢饉も、膨大な麦を地主が奪って本国に売り小作人を餓死させました。その構造は普遍的にあります。
といっても、それは交通が発達していればです。中国のように水路がいきわたっているとか、エジプトのように河に流されて下り帆を張って上ればいいとか、近代的な船ができるとか。
交通が不便で穀物を運んで売ることができなければ、飢えた地域を助けることも、農村を飢えさせて穀物を売って機械を買うこともできません。
歴史の大半で、生きている人の大半は小規模農民|(小作人・農奴?)であることも、何度も言いましたがしっかり理解すべきでしょう。『銀河英雄伝説』では未来であってもその状態であるように感じます。焦土作戦で容易に食料を運び出せてしまうことなど。
食料、穀物の特徴の一つが、収穫時期が限られるのでその時にまとめて奪えることがあります。だから税になりやすく、だから権力者が好む……
悪く解釈すれば、例えばサゴヤシのような作物はそれゆえに権力者に嫌われる、があるかもしれません。
農業の本質の一つに、労働が必要とされる時期が限られることもあります。今もアメリカでは、メキシコからの不法労働者がいなければ果物の収穫ができない、と騒ぎます。水田稲作でも、田植え・稲刈りの二つに圧倒多数のマンパワーが必要とされます。
それもいくつかの作物でですが、巨大機械農業が壊しています。
都市化、小規模農民が都市に出て働く世界的な人口の流れがどう世界を変えるか。それは多くのSF作品でもある動きでしょう。それこそ、『銀河英雄伝説』の原作後、自由惑星同盟の技術が流入した帝国の旧貴族領でものすごい人口流出が起きる可能性もあります。
穀物生産に限れば、『銀河英雄伝説』の同盟と帝国の生産量は次元が違うはずです。総生産も、一人当たり生産も。
特に、「氷小惑星に穴を掘る」が容認されさえすれば。
宇宙戦艦を作れるのに巨大コンバインが作れないはずはないのですが。
そして一人で何億人分も穀物を作るのは容易。
穀物は、最大の富。人口にもつながる。同じやり方で繊維材料も。
帝国は人件費が安いけれど、超大規模巨大機械露天掘り、超大規模コンバイン農業などがあれば追いつけるはずです。
そうならない、たかが二倍の生産性比でしかないことが、『銀河英雄伝説』の特におかしいことです。
貨幣は常に、土地と穀物と結びついている……そう考えるべきでしょうか。
何を税とするか。穀物そのものが税にしやすい、だから穀物栽培生活が強制された、という考えも最近よく見ます。一つの時期に収穫して倉庫に積む、だからそこを襲えばまとめて奪えるし、それ以外の食料入手が無理なら生殺与奪を奪える。ついでにどの時期でも焼くと脅すことができる。
ただし、上述のように税を穀物とすると運搬コストが大きくなります。
羊毛や綿花も税にしやすいと言われ、重要な税収でした。
酒やタバコも。
貴金属貨幣や紙幣はそれらの問題に対するいい答えだったのかもしれませんが、同時に多くの問題が出てきます。
貨幣には、権力とつながるという性質もあります。
金があると権力が増え、権力は金になるの循環。
権力を持つ人がやる様々な仕事が、そのままもっとも儲かる仕事でもある。逆にそれ以外で金を得ることが事実上不可能にすらなる。
また貨幣だけだと、権力に潰されます。いつでも一族全員死刑・全財産没収になります。
権力抗争の大きな動機ともなります。相手の財産を奪うこともできることが。
『彷徨える艦隊』のシンディックは、スターリン時代のソ連のような恐怖帝国ですが、何もかもが金で動きます。
賄賂であらゆることが動き、また星系内で味方の軍艦を修理する民間企業が、無駄な費用になるからと逃げてしまいます。
だからこそ人は強く貨幣を求めるのでしょう。貨幣で権力が買えるのなら。
今は、貨幣で軍隊は買えないようですが、それもいつまででしょうか?今のアメリカでは権力が理不尽に超金持ちから財産を奪うことも、超金持ちが軍を作って反乱することもないようですが……歴史的にはそれは異例です。実際問題中国やロシアでは多くの金持ちが財産を没収され粛清されています。
貨幣経済を呪う声も歴史的に多くあります。イエスも全財産を捨てなければ神の国には入れないと言い、インドも全財産を捨てることを常に要求します。
だからこそ、SFでも貨幣のない世界を夢見る人たちがいます。
貨幣に苦しめられている人が多くいるからです。貨幣が可能にする無限の欲望が、ばかげているにもかかわらず人を、呪うように暴走させてしまうからです。
しかし、貨幣経済なしに、貨幣という報酬なしに、膨大な兵器生産、新しい兵器を開発し世界をより理解する科学技術の進歩が可能でしょうか?大人口が生きるだけの食料を生産し、医学水準を保つことさえも?
もちろん、集合精神型の異星人は貨幣という報酬を必要とせず、それを理解しません。しかし集合精神型の異星人は、本当に進歩できるのでしょうか?
上述のように、貨幣、それも借金と利子は、多くの人の力を集めて一人ではできない事業を行う、という面もあるのです。宗教や軍隊もできますが、いやそれと深く絡み合って。
ただ、国・人間社会というのは、戦艦を作るためだけにあるのではない……孔子は信なくば立たず、イエスは人はパンだけで生きるものではない、と。
でも戦艦がなく皆殺しにされれば……
『火の鳥』が否定する人の欲望。でもそこを突き詰めても、どうしようもないジレンマばかり……




