文明の異質と共通
様々な文明……『現実』でも、起源がかなり深く違う大規模文明を乱暴に言っても、中国、インド、中東、エジプト、中米、南米といくつもあります。ユーラシア草原、サハラ以南アフリカなども文明扱いしていいかもしれませんし、北アメリカも総人口は多く大規模定住も複数ありました。
それぞれ、異質であると同時に共通点もあります。
『現実』ではすべて地球人であるという巨大な共通点。同じ地球で、大気成分や温度条件も極めて似通っており、気候も近い場に発生しています。
最も大きな違いがあるとすれば、新大陸と旧大陸……作物・家畜の違い。さらに偶然かどうかはともかく、金属と文字の発達にも大きな違いがありました。
ならばSFの無数の文明、さらに言えば『現実』でもあるかもしれない地球外文明は、それ以上の異質さがあるでしょう。
ただし、『三体』ではありとあらゆる文明の共通点として存続と物資……その陰の前提として超光速・時空制御による無限資源など特定技術の不可能性……が共通だとし、そこから暗黒の森を導きました。
弱肉強食、力が宇宙普遍の掟だとズォーダー大帝もディンギルも信じています。
『銀河英雄伝説』のゴールデンバウム朝も、弱肉強食を天界の法則とし、皇帝はその守護者でもあります。ラインハルトも弱肉強食を疑いません。
異質、違うということ。それは人間には、恐怖と敵意、憎悪さえ作り出します。
新大陸に接したときの、スペイン征服者の圧倒的な憎悪。必要、損得とははるか遠いもの。十字軍の延長、異教徒を皆殺しにしなければ神が怒って災いをもたらすという人間の根源的な感情。奴隷化・文化破壊の圧倒的な快感、正義感情。
その後の、徹底した異教との闘い……あらゆる文化、言葉、作物、儀式を禁じ、書物を焼き、食べるもの・着るものもすべてスペインと同じにしようとしました。
スペイン以外も、いくつもの文明が同化という名であらゆる人々を破壊しました。カナダやオーストラリアで近年問題になる先住民の子供を親から引き離し教育するなど、善意が含まれることさえあって、それが計画的に拷問虐殺するよりまだひどい結果になるのが救えない話です。
同化が成功しても下の人間であることには変わらない、人種観念が体制と一体化したということも人間の性です。
また、異質、特に弱者に対してどんな態度をとるか……人間をそれによって分けることもある程度できるでしょう。
たとえば、異星人、異質な存在に対して交渉することを考えず、まず戦おうとする軍人。かなり類型的にどこにでも出てくる話でもあります。
『星系出雲の兵站』は利用していない準惑星に拠点を作られたらとにかく奪回しようと軍を送り続けます。通信も続けながらですが。文明の、忘れられたほど古い部分に異星人と戦うことが仕込まれているからでもあります。
『宇宙兵志願』も、相手がやることもひどいのですが、地球人も交渉を模索する態度が低いように見えます。
ただし『老人と宇宙』のように、見当違いに平和を求めるのもいい結果にはなりませんが。
『彷徨える艦隊』のギアリーの異星人に対する態度は、平和を求めつつ攻撃されれば戦う、片手に剣片手にオリーブと称賛されます。
基本的に軍人、男性に、とにかく戦う、殺す、という態度が強いことが目立ちます。
『三体シリーズ』では、とにかくぶった切るウェイドと、引き金を引けないチェン・シン、ぎりぎりの線を保ち続けるルオ・ジーの対照があり、三体人の側も正確にそれを把握しました。それはルオ・ジーに対する尊敬にもなりました。
『ネアンデルタール・パララックス』は男性が皆殺しをたくらみ、その結果犠牲も出してグリクシンの男性はあちらに行けなくなりました。男性であること自体が悪だ、と言わんばかりです。実際問題人類のオスは、ものすごく犯罪率などが高いのですが。
『スターゲイト』でも何の意味もなく学者をいじめる兵士が描かれました。
『最後の宇宙飛行士』でも軍人はとにかく殺す態度が強くなり、本国と遠すぎる環境でそれが暴走していきました。
『ヴォルコシガン・サガ』では、強いミュータント嫌悪があるバラヤーの下町で、手足が短いという見た目の違いがあるマークが強い敵意にさらされ、チンピラである若い男を殺しかけました。
地球人以外は、征服はしますが同化・強制改宗にこだわる例はあまり思い出せません。
ガトランティスは使い捨てに全滅させるイメージがあります。
『スターウォーズ』非正史のユージャン・ヴォングは宗教が強いですが、これまた根絶型です。
『タイラー』の「無責任カルテット」シリーズのブラック・セラフィムは美形の若い男のみ、生き改宗することを許します。
『叛逆航路』シリーズでは、秘儀を皇帝に公開することを条件に被征服民の宗教を容認します。その条件だとユダヤ人は玉砕するでしょう。文化的にもかなり同化を進める感じがあります。
同じ人類でそれなら、異星人であれば?
その「違う」ことに対する憎悪は、実際にはフィクションであっても発動します。
『ガンダム』宇宙世紀では、遺伝子的には同じ地球人でもアースノイドとスペースノイドという差で無限の憎悪が循環しています。
文明の「違い」となる、特に深い層として、科学・法・論理・数学などを少し探求してみようと思います。
ノンフィクション『近代科学はなぜ東洋でなく西洋で誕生したか|(菅野礼司)』にはギリシャ・ローマ以外、中国やインド、イスラム圏の、科学・論理学・数学についてかなり詳しい紹介があります。少し風土という考えが強すぎますが。
『東の科学 西の科学|(菅野礼司 他)』にも膨大な、中国やインドの科学の歴史があります。
それと、ある程度大きい法思想史を合わせれば、中国と、ギリシャ・ローマを由来とする近代欧米の考え方がどれほど異質かある程度わかるでしょう。
何もかもが違うのです。
中国には三段論法や証明のような、体系的な論理学がないそうです。始皇帝の焚書坑儒のためだとか。ちゃんとした論理学は、仏教に頼ってしまっていたそうです。
中国の『九章算術』は具体的事物、具体的数値に即した例題であり、その理由の説明はありません。円周率の近似値は高精度に出しましたが、無理数の概念はありません。概念の抽象化もなく、記号代数にも発展しませんでした。
天文学もモデルと観測の照合がなく、数値計算のみで日蝕などはかなり予測してました。
算木、算盤という独自の道具が発達したことも特徴です。
ただし、明朝で高度な数学が嫌われ衰退したそうです。
日本の数学、和算は当時の西洋をはるかに引き離し、線形代数・微分積分という現代数学の基礎にまで至っていたことも知られています。実用とつながることはありませんでしたが。
インド、ナーガールジュナ・仏教の論理学も、ギリシャ由来の排中律……現代の、集合と補集合、数学基礎論にもつながる……とはかなり違う、より多くの組み合わせがあるようです。
中国や日本、またインドの昔の知者に、現代の数学、特に集合論や、論理学を見せたらどれほど多くの違いを訴えることでしょう。
古代ギリシャでさえ、ピタゴラス教団は無理数を拒絶し発見者を粛清したといわれているのです。彼らが複素数や、定規とコンパスだけで角を三等分することが不可能であることの証明を、受け入れるとは思えません。
中国の「法家」は、西洋の「法の支配」と根本的に異質……『政治の起源』では繰り返しそれを強調します。
法源。これも比較できます。以前軽く触れましたが。
法源で印象的なのは、『銀河英雄伝説』のベーネミュンデ侯爵夫人の最期。自裁を命じる権力が、ルドルフの法に逆らうのか、と。
皇祖ルドルフが、法そのものの根源でもある。
……ローエングラム朝はどうするのでしょうね。ラインハルトには残念ながら、ナポレオンのように法典を大成する時間はありませんでした。同盟法を中心にし、法源は銀河連邦とするのか、それともラインハルトを法源に新しく法を編纂するのか……ヒルダとミッターマイヤーどころかアレクの代でも終わる事業でしょうか。それができる知識人層はあるでしょうか?
ルドルフを法源とするというのは、神によって与えられたユダヤの律法、その延長であるイスラム法とは対照的です。
西洋は、「自然法」と「キリスト教」両方を法の源とします。市民革命・啓蒙以降は、自然法に社会契約が加えられています。英米では判例が法源とされます。
ただし腹が立つのは、キリスト教も自然法も啓蒙思想もその後の法も、大航海時代以降はとにかく先住民から土地を取り上げ奴隷化し皆殺しにする理由になったことです。
キリスト教が強ければ十字軍の延長、キリスト教徒以外は人間じゃないから所有権などない征服していい。
自然法の時代には、一夫多妻とかやってる奴らは自然法違反なので所有する資格がない。
啓蒙思想からでも土地をちゃんと利用してない奴らは所有してるといえないので奪ってよし。
より近代的な法になっても、借金のかたに土地をいただくのは当然だし、労働契約は自由だからどんな扱いをしてもかまわない、というか議会がちゃんと土地所有は白人だけと決めたんだから正式な法だ、と。
ここを考えると、「人間として認める条件」という底なしの問題が出てきます。
たとえば古代ローマの歴史では、ローマ市民権というものが重要な要因になります。カラカラ帝が全属州民に市民権を認めたことが衰退の始まりだ、とも言われます。
聖書の使徒言行録|(使徒行伝)にあるように、ローマ市民権というのは水戸黄門の印籠並みに大きな権力です。殴られ出るところに引きずり出されたパウロが、自分はローマ市民だ、といえば皆が恐れおののき待遇を一変させます。そしてパウロは、カエサル=皇帝に上訴します、と言ってローマに旅立ったのです。その旅を、どこの権力者も、キリスト教徒を憎むユダヤ人たちも止めることはできませんでした。
宗教とも関係があります。
たとえばユダヤ教は血縁、割礼という儀式、律法順守などで複雑な条件があります。
キリスト教はその条件を大きく緩和したことで世界宗教となりました。
イスラム教はさらに実践しやすい行に限ることで、入信を容易にして急拡大しました。実践しやすさによる急拡大は仏教の念仏・題目にも共通します。
逆に入ることに厳しい試練が求められることもあります。特に軍隊は厳しい新兵訓練などがあります。
『宇宙の戦士』では最初の実戦前ではお客様、という態度が露骨に描かれました。
『デューン』では砂漠の民に加わるためにいろいろな試練が要求されました。
異星人に対する人権、逮捕に関する権利などは、いくつかの推理小説を絡めた作品で出てきます。
また、身分によって人権が保障されることも多くあります。
『叛逆航路シリーズ』では様々な身分がややこしい問題を作ります。
貴族制をとる作品では、要するに貴族=人間であり、それ以外は人間ではない、となります。
当然それは種族にも関係するわけです。
教育・軍務などが貴族に入るための通過儀礼・高貴なる義務の面を持つ作品も多くあります。『レッド・ライジング』の実際に死ぬバトルロワイヤルや、『スコーリア戦史』の軍務など。
『銀河英雄伝説』で大貴族の若い男子も軍に行くことが多いのもそれもあるでしょう……本来は。
『銀河市民』では主人公が市民かどうかが問題になり、その確認からとんでもない素性が明らかになります。
『カエアンの聖衣』では、ある種族の間ではすごい服を着ているというだけで貴族として認められ、どんなパーティにも出られるし、何を飲み食いしても無料です。
異星人は人種にとても似た話であり、下の人種は人間ではない、という人間にあまりにも深くある心情を出してしまいます。
特に『スターウォーズ』のパルパティーン帝国はそれを利用し、人間至上主義・エイリアン迫害で帝国をまとめているようです。
伝染病も同じような感情を作ります。
また、ナショナリズムを含む宗教も同様の感情を作ります。
人間である、というのはそのまま、兄弟・同胞というのに近い……逆にそうではない者は人間ではない、という古めの道徳が強い人たちは、「そうではない」者は奪っても犯しても殺してもいい、むしろ穢れだから皆殺しにするほうが善、となり、あらゆる悪行が正当化されます。
さらに善意であっても完全に同化してやらなければ地獄に落ちてしまうから、と底なしに責め抜くことにもなります。
法源に話を戻しますと、中国の法源も異質です。
中国は神……少なくともギリシャやユダヤ型の、神話で人間らしい活動をする神々・神を直接の法源としないようです。皇帝が天に様々な儀式をすることはある程度あるようですが。
法家は皇帝の命令・支配者の利益のために徹し、後世でも多くの人が納得できることを法の目的とします。それで個別性が高い。
哲学においても、中国はトロッコ問題に関心がないと言われる……常に個別判断を重視するから、と。
ユダヤやインドの、神を源とする法は大げさに言えば人間などというゴミがどう思おうが何を言おうが知ったことではない、のですが。
ヨーロッパでは、「その場のクガタチや決闘」、古代ゲルマンなど野蛮部族の段階から伝統がある集団合意……陪審制にも……、ユダヤ教から市民革命以来の主権権力が制定する法、と分かれます。
ユダヤ教、イスラム教の、神の命令・託宣としての法。
古代ローマ、本来はギリシャのソロンやスパルタは伝統、神の命令の要素も強かったが、多くの慣習法を集めました。
ゲルマンの、集団で作る慣習法も、後には自然法として法源となりました。
といってもインド文明の法、インカ帝国の法などがどんなものだったか、何を法源としていたのかはろくに知りません。
目には目を、歯には歯をで有名な最古の精緻な法律、バビロニアのハンムラビ法典……ちなみに同害復讐は、際限のない相手血縁皆殺し抗争を抑止する、それがなければもっとひどくなる人道的な法……その碑文はまず神があります。王と神が一体で、だからこそ王の征服は正しいことだし、神の力があったから勝利したのだし、法も神=王の命令だから従え、という論理。
中国と日本も、実はとんでもなく異質。日本は中国から律令、国家制度を習って国を作り始めたので似ているだろうと思ったら大違い。日本での別姓からの婿養子、同姓不婚にこだわらないことなどは、中国や韓国から見れば汚物に暮らす虫にも劣る。
法を比較しよう、とすると、たとえば西洋の正戦論の歴史を知れば、日本・中国・インド、イスラムそれぞれに似たものがあったんだろうか、となります。
ではどうすればそれを知れるか。
たとえば戦国の終わり、秦が楚を滅ぼした戦争で、のちの始皇帝はどんな理由をつけ、どんな手紙を送ったのか。
元寇は。秀吉の明・朝鮮侵略は。
江戸時代に日本が北海道のアイヌを苦しめた、その法的根拠は。
イスラム帝国、古代ペルシャなどそれぞれ、どんな「これから征服するけど俺が正しいからな」手紙を送って攻めたのか、あるいは手紙も何もなかったか。
何も知らないし、納得がいくまで調べたら何年もかかるでしょう。
それでも、人間には大きな共通点があります。
人間以外の異星人でも。
地球人はとりあえず首を斬り落とせば死ぬ、という絶対の共通点があります。
女は犯せます、現実には。
奴隷化も多くはできます。ただし、イギリスとその子孫は北アメリカやオーストラリアなどで、奴隷化するのではなく皆殺し・居留地押し込みを選びました。
北アメリカ先住民は文化的に奴隷化に対する抵抗が強かったから、なのか、イギリス系の西洋人が、奴隷にするより殺すことを選ぶほどに嫌悪感や恐怖が強かったのか……
スペイン人が先住民を奴隷化できた中南米にはより進歩した帝国があったことを考えると、文化面が強いと思われます。
ただし、ハワイやフィリピンのアメリカ、インドでのイギリスも、露骨に徹底した奴隷化をしていないのは……年代によるものか、それともイギリス・アメリカの文化によるものか……
少なくともイギリス・アメリカには、混血を極度に嫌うという、スペイン系とは違う部分があることは確かです。
どんな異星人であっても物質は消費するし、指数関数で増えていく、ということが『三体』の暗黒森林理論の根源にあります。
素数もあらゆる文明に共通すると考えられます。
……かなりの見切り発車です。まだ読んでいる・学んでいる最中です。
知りたいこと、読むべき本は実に多数あります。触れるべきSFもあれとこれがあるだろう、という怒鳴り声が聞こえるようです。
ですがとりあえず出して、後にまたいろいろ学んだら書き直すこともあるかもしれません。




