3ヶ月後まで、どうする私!?
図書室の静寂の中、優里は拓真の横顔をチラチラ盗み見ていた。
拓真が本の背表紙をなぞる仕草や、ふとした瞬間に見せる笑顔。
それだけで優里の胸はキュッとなる。
図書委員の活動は、優里にとって密かな楽しみだった。
拓真と一緒にいられる。
ただそれだけで、図書室が特別な場所になった。
でも、この気持ちを伝える勇気はない。
言葉にすれば、今の関係が壊れちゃうかもしれないから。
「優里、ちょっといい?」
優里の部屋に遊びに来ていた親友の礼子が、机の引き出しを指差した。
礼子が見つけたのは、優里が大切にしまっていた拓真の写真だった。
「ねぇ、もしかして、拓真のこと好きなの?」
礼子の問いに、優里は顔を赤くして俯いた。
「うん......」
認めてしまえば、もう隠せない。
優里は礼子に全てを打ち明けた。
そして、誰にも、絶対に内緒にしてほしいと懇願した。
数日後。
「優里、拓真の件なんだけど。ちょっと健吾に相談してみたんだ」
礼子の彼氏の健吾は、拓真の親友だった。
まさか健吾に話してしまうなんて......!
優里は礼子を責めた。
しかし、礼子は悪びれる様子もなく続ける。
「健吾が、拓真に好きな人がいるか聞いてくれるって!」
「えぇ、なんてことを!?」
放課後。
礼子に連れられ、優里は校舎の中の廊下にいた。
礼子が指差したのは、窓際の壁。
その窓の向こう、校舎裏のベンチには、健吾に呼び出された拓真がいるらしい。
窓は少し開いていて、もしかしたら外の会話が聞こえてくるかもしれない。
「え? まさか、盗み聞きするの?」
優里が驚くと、礼子はニヤリと笑った。
礼子は静かに優里を壁の陰に座らせると、自分も窓の下に身を潜めた。
ドキドキしながら、優里は耳を澄ませる。
聞こえてきたのは、健吾の声だった。
「なぁ、拓真って誰か好きな人っている?」
(あのバカ! 直球で聞くなんて......!)
礼子が焦る。
優里は心臓が飛び出しそうになった。
「どうしたんだ、急に?」
拓真の少し戸惑った声が聞こえる。
拓真の声が聞こえると、優里の心臓がますます早鐘を打った。
「いやぁ、いい子がいるんだけどさぁ、オマエに紹介したいなぁなんて思ってさ」
健吾の声は明るく提案する。
「んー、あぁ。いや、いいかな」
「え、興味ないのか!?」
健吾が驚く。
「興味ないというか、好きな子はいるよ」
優里の体が固まる。
「え、そうなの? 残念だなぁ。ちなみに誰?」
(健吾のバカ! そんな聞き方で言うわけないでしょ!)
礼子が心の中で怒り心頭だった。
「あぁ、一緒に図書委員やってる......」
優里の上半身がビクっと跳ね起き、心臓が凍り付く。
(言っちゃうんか~い!)礼子が心の中でツッコミを入れる。
「木下優里なんだけどね、知ってる?」
優里が完全にフリーズした。
目は見開かれ、思考が停止している。
「えー、マジで? その子を紹介しようと思ってたんだよ!」
「え、そうなの?」
「オレの彼女の礼子がさぁ、その子の幼馴染なんだよ」
礼子もフリーズする。
「へぇ、そうだったんだ。木下ってさぁ、カワイイよね。優しくて素直だし。あの控えめな感じがまたいいんだよねぇ。小学校の時からずっと好きでさぁ、図書委員やるっていうんでオレも立候補したんだよ」
拓真の言葉ひとつひとつが、優里の心を撃ち抜く。
たまらず優里は顔を伏せた。
頬が熱い。
礼子が優里を見た。
顔は見えないが、耳が真っ赤になっているのが分かった。
「どストライクなんだよね。実は、今年の文化祭の時に告白しようと思ってるんだ」
え? 告白? 文化祭で?
優里の心臓は、今度こそ本当に飛び出してしまいそうだ。
「ええぇ!? マジか! オレ、応援するよ。っていうか絶対に成功すると思うよ! 間違いないって!」
健吾の声は、いつもよりずっと大きく聞こえた。
(あー、これ以上は喋らないで!)
礼子のハラハラした声が聞こえてくる。
「そうかなぁ? でも、ありがと。あ、オレ塾だからもう帰んなきゃ」
「そうか、じゃあオレも帰るよ。一緒に帰ろうぜ」
二人の足音が遠ざかっていく。
礼子が壁から顔を出した。
そして、優里に向かって満面の笑みで言った。
「優里、良かったね!」
優里は真っ赤に火照った顔をゆっくりと上げた。
「良くないよぉぉ」
優里は半泣きだった。
「なんでなんで?」
「だって、文化祭まで3カ月もあるのに、どうやって接したらいいのぉ......(泣)」