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08 魔法と大崩壊

 我々生物は生きる為に食べて呼吸をしている。

 肉体にに必要な物質を取り込み、大気中の酸素を使って生命活動に必要なエネルギーを生み出しているのだ。


 だが、地球上の生物の全てが酸素で呼吸をしてる訳ではない。

 現在のところ地球の生物は約35億年前に誕生したと言われているが、酸素を呼吸に用い始めたのは27億年前頃からというのが定説であり、現在でもごく一部ではあるが酸素をほとんど使わない生態系を維持している生物も確認されている。


 深海に住むメタンガスや硫化水素を使って生きる生物だ。


 【酸素】とは元々が生物にとって猛毒であり、酸素呼吸をしている生物は薪を酸化させている【燃焼】という状態に近い。

 高エネルギーを得られるが、現在でも使い方を誤ると【活性酸素】の様に身体に有害となる。

 事実、50%以上の酸素濃度を持つ大気中では人間にも生命の危機さえある。


 人間を含む我々の生態系は、そんな酸素を使って高エネルギーを得て多大な生態系を作り、社会を作っている。


 だが、高エネルギーを生み出す物は酸素しか無かったのだろうか?


 魔法を使える者は、エネルギーを生み出す酸素以外のものを【魔素(エレメンツ)】などと呼んでいる。



 ここで現世の魔法について、少し解説をしよう。


 中世から現代においても魔法の伝承はある。

 現代に伝わる魔法は、簡単に言うと【レーザー光線】などに近い。

 【レーザー】とは音の共鳴現象と同じで、同じ波長の光を重ねる事により波長の違いによる減衰を防ぎ、光の持つエネルギー値を高める技術だ。

 その出力は時間をかけて使用する電力(エネルギー)総量に比例する。


 あまり知られていないが、現実の人間が使っているとされる儀式魔術にも似た性質がある。

 例えば、風にまつわる色や数、神名や言葉を幾つも合わせて風に属する精霊を召喚したり、時間を掛けた祈りによる魔法を使うといった様に【共鳴】や【物量】を重視している点だ。

 そして、これにも時間と準備と労力を必要とする。


 物語りではない実際の魔術は、この様に前もって準備が必要であり、呪文ひとつで事象が変化した様に見えるのは前もって準備をしておいた【蓄積(バッファー)】による効果がある場合だけだろう。


 魔法の効果は、主に【呪い】と呼ばれる確率変動が主なものではあるが。


 だが当の精霊や、それに属する者は話が違う。

 彼等は現世の事象に直接干渉する|(しているように見える)(すべ)を持っているのだ。


 (いにしえ)の魔女達は、魔女集会(サバト)に参加して精霊や悪魔を呼びだし、自らの肉体を売り渡す契約をして、精霊達の能力を手に入れたと言う。


 重蔵や茜の様な使徒も似たような状況なので、精霊や後継者に準ずる能力を持つ事ができる。

 人間であるまま呪文だけで魔法を使うなど、人間が道具も使わず自力で空を飛ぶのに等しい【妄想】でしかない。


 その様な【絵空事】は、現実逃避の手段としては面白いのだろうが。





「長谷川。申し訳ないけど、グレーティア様の歓迎会の為に店を手配してくれないかしら?」

「それは嬉しいのぉ!できれば庶民の居酒屋に行ってみたいものじゃ。昼呑みのできる店は有るかのぉ?」

「分かりました探してみます。では、出掛けてまいりますので」


 シシスからの依頼に、長谷川は頷いて席を立った。

 彼等の能力からして、居ながらに予約を取るくらいは簡単なものなのだが、長谷川に聞かせたくない話をするのだろう。

 付き合いが長いので、彼もソレを察して部屋を出た。



 長谷川がビルを出たのを確認して話は続く。

 ここから先の話は、シシスと茜も聞いていない。


「先程は、『一つは』と言われましたが、他にも有ると言う事ですよね?」

「そうじゃったな。シシス殿も知っておるじゃろうが、この惑星が【元の姿に戻る】時に、大崩壊(カタストロフ)が起きる件に協力しようと考えておるのじゃ」

「【大崩壊】?【大絶滅】じゃないんですか?」


 寝耳に水だったのは重蔵と茜だけだった様だ。

 シシスは頷いている。


 (いにしえ)の人類が分断した現世と常世が、その効力が尽きて一つに戻る時が来る。

 その時に【魔素】が充満する他にも【物理法則】が元に戻るので人間を含む多くの生物が環境変化に耐えられず死滅すると言う話は、重蔵も茜も聞いていた。

 その為の【生体改造を行うワクチン接種】であり【新型病魔の流行】、【不適合者の始末】だったのだ。


「今回、長谷川を外したのは、彼の寿命より先の事を告げて要らぬ不安要素を与えたくないからよ。元々、大絶滅も大崩壊も、彼の死後の事だからね」

「それで、長命になった我々には教える訳ですね?」


 グレーティアの説明に、シシスが理由を付け加えた。

 長くとも百年くらいしか生きない長谷川に比べ、生体改造を受けた重蔵と茜は千年以上生きるのだ。

 重蔵達との違いは特殊能力だけではない。


「元々は大崩壊の時に、一時的避難として火星や月への移動を考えていたのだけど、グレーティア達が協力してくれるなら、より良い方法へと準備ができそうよ」


 かねてより、米国に続いて月着陸を目指した中国の動きがあったり、NASAが火星の開発移住構想を発表したりしている。

 シシスたち精霊が、それに手を貸せば大きく躍進するのだろう。


 今までは聞いていなかったが、一応はシシス達も大崩壊への対策を講じていた様だ。

 だが、得意分野の違う者が増えれば選択肢も増える。


「協力するのは、統合後の領有権や人間の支配権の入手が目的ですか?」


 簡単に考えれば、対立して領有権などを奪う者の方が理解しやすい。


 グレーティア達が所属する北欧神話のエルフ族、アールヴヘイムに住む白妖精(リョースアールヴ)達のメリットは何なのか、重蔵には理解できなかった。


「確かに、権利の入手も大切じゃが、それ以上に此のままだとどちらも損失が大きいからのう」

常世(アストラル)界側に損失?」


 重蔵にも茜にも、なぜ大崩壊が起きる地球側に来るのか、イマイチ理解ができていない。

 元々の地球の構造から、統合が終わってから崩壊した地上側に接触すれば良いのではないかと考えたのだ。


「地球は二つに切り離されて、これから再び繋がろうとしておる。例えるなら飛行機じゃが離陸より着陸の方が危険だと知っておるかのう?」

「あぁ、そう言う事ですか」

「どう言う事なの?重蔵!」


 納得したらしい重蔵に、理解が及ばなかった茜が解説を求めた。

 陸上自衛隊勤務だった茜にとって、飛行機は得意分野ではなかったのだ。


「元の地球は、地上側と天界側が巨大な柱の様な物で繋がっていた。分裂の時にソレ等の多くが折れた上に、統合の時に地上と天界が衝突して表面や生態系が崩壊する可能性が有る訳だよ」


 地球と言う惑星が崩壊する訳ではない。

 だが、その表面や天界側の組成や双方の生態系が粉々になる事態は発生する。


「理解が早い様じゃな?ある程度は状況を聞いておったか?これで、二つの存在による両方からの干渉で、より安定した【ドッキング】が目指せるというわけじゃよ」


 常世側も、当初は退避する予定だったのだろう。

 だが、一部の者が占有権を求めて現世へと移った事で、崩壊を抑えた【ドッキング】を目指すらしい。

 もし駄目でも、当初の惑星外避難を実行すれば良いのだ。


「火星への移住とか夢物語りだと思ってましたが、可能でも人数は限られますよね?」

「その為に精霊を間引きしたし、人間も選別をするのよ」


 シシスから聞いた話でも、彼女の親を含む精霊は72柱召喚する事が可能だった。

 だが、半分程度が精霊自身によって阻止されたり始末されようとしている。

 人間も不適合者は廃除している。


 既に退避の為の間引きが行われていたのだ。


「重蔵達には、使徒は兎も角、敵勢精霊と後継者の排除に手を貸してもらわないといけないわよ。あなた達の座席を確保する為も」

「【手助け】で良いのですよね?『玉砕覚悟で相手を押さえろ』とか言わないで下さいよ」

「【使徒】に、そこまで期待していないし、貴重な配下を無駄にするつもりも無いわよ」


 重蔵達の主人は、外道ではない様だった。


月曜日と木曜日に更新予定。

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