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07 協力者

 ソロモン王が悪魔/精霊を使役したと言う魔術書ゲーティアでさえ、複数の王が登場している。

 つまりは精霊の世界も統一されている訳ではないのだ。


 基本的に神々の物語りには戦いが存在し、幾つかの種族や派閥が存在する物が殆んどだ。


 そして、その派閥などの中でも意見や行動が統一されているとは限らない。




 東京に帰った賀茂重蔵(ゼータ5)が拠点であるビルでまみえたのは、いつもの仲間と異邦人だった。


 応接セットに座る見慣れぬ少女とシシス。シシスの後ろに立つ山根茜と長谷川雄一だ。


「我が名はグレーティアールアンドリュース・ガードルフ。長いのでグレーティアか(ジー)さんで良い」

「御存知でしょうから必要は無いと思いますが、賀茂(かも)重蔵(しげくら)です。て言うか、幼女なのにジーサンなのかよ!」

「この肉体に憑依したのは手違いだが、そもそも本来の我等に性別は無いのじゃがな?」


 シシスの方を見ると、頷いている。

 既に魔力の見える重蔵には、この幼女が先日見た様な精霊の憑依体である事が分かるが、シシスが敬意も払わず、敵対行動もとっていないので扱いに迷っていた。


「しかし、手違いですか?貴女方の様な高位の存在が?」

「ああ。アストラル界から憑依の候補者を見付ける事はできるが、詳細までは無理じゃ。本来の目標じゃった女は、ネックレスにイヤリング、結婚指輪と銀製品を多く身に着けていたので魔力の集中が難しく、隣で手を繋いでいた次席候補の娘に憑依したと言う次第じゃ」


 憑依体質や憑依後の適性など、親子間で遺伝する要因は多い。

 更には母親への憑依失敗で浪費した力でも、容積の小さな子供だから憑依の為の体質変更も成功したのだろう。


「では、【銀】が魔力を防ぐのですか?」

「いや、金に電気の伝導率が高い様に、銀は魔力の伝導率が高いので、アースとして働く事があるのじゃ。それも使い方次第ではあるのだが」


 ロザリオを含む宗教用品には、銀を使う事が多い。

 ドラキュラや狼男が銀製品を嫌うのも、比較的メジャーな情報だ。


 アンテナの様な突起物は、雷に対する避雷針としても役立つが、逆に放電の端子としても使われる。

 昔の伝承に、魔除けや呪い避けに銅貨を口に咥えるというものがあるが、庶民には銀貨が貴重だった故の代替品だったのだろう。


「ちょっと待って。『そもそも性別は無い』って事は、シシス様はどっちなの?」

「勿論、雌雄同体だけど?」

「じゃあ、男でもあるって事ぉ?」


 山根(やまね)(あかね)の動揺は、いまだ人間であった時期にシシスとはクラスメイトであり、更衣室などが同じだった事を思い出しての事だった。

 ユダヤ系聖書のアダムも、エバが造られるまでは(イシュ)でも(イシャ)でも無かったのだ。

 神世においては、人間にも性別など存在していない。


「憑依体や、我々の親の様に魔法書(グリモワール)で妊娠して産まれた者には性別が残っているけど、本来の我々に性別は無いのよね」

「まあ確かに、【精霊】とか【神】ってのに性別があるのは人間の勝手な解釈かも知れないけど」


 例えば、天照大神は男神か女神かは、いまだに決着がついていない。

 この疑問については重蔵も不思議に思っていた。


「魔力の使えるコノ身体になってから思うんですけど、人間と精霊って元々から生態系が違うんじゃないかと」

「まだ知らされておらぬのか?爬虫類と鳥類は兎も角、魚類と両生類、あと哺乳類。勿論人間もじゃが、元来は精霊と同系の祖先から派生しておる。人間を含む地上の生物の多くは地上用に遺伝子改造した種族なのじゃぞ」


 神話では、確かに多くの生物を神々が作り出しているか生んでいる。

 特に人間は神々に似せて作られたという記述もある。


 現代科学でも地球の高等生物の遺伝子は、組み換えしやすいようにイントロンと言う接合部が多数含まれている。

 人間では遺伝子要素の25%がイントロンだ。


 そして50%以上が無駄な遺伝子の繰返し文でできている。

 人間と言う存在が、神話の通り神々によって改造され(つくられ)たのであれば、まるで【数合せ】の様に無駄な構造が80%前後も人間の遺伝子には存在している。


 神話において神々と人間との間に子供が作られる話が多々あるが、交配の為に神々と人間の遺伝子の数合わせをしているのならば合点が行く。


「祖先が同系だから生体改造が可能で、酸素を消費しなくても呼吸ができる様になっていんですね?」

「お前達【使徒】も、我々【後継者】も、今では魔素でも酸素でも呼吸ができる様に遺伝子操作している。当然、酸素だけの場合はエネルギー効率が落ちるがな」


 遺伝子調整の内容が重蔵と違う茜は、話についていけなくて首をひねっていたが、肉体的には感じる変化がある事を思い出した。


「遺伝子操作の後、重蔵に対する感情が変化したのも、そのせいなのね?肉体的には男と女だけど、遺伝子的には私も重蔵も性染色体が【XXY】になっているものね」

「茜とも肉体的に求め合うよりも、精神的な結び付きに重きが移った様に感じるな」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ここで【性別】について考察しよう。


 一般常識としても、作業や能力の専門化や特化は、能力の向上を促す。


 これは社会や会社のみならず、道具や生物、その内臓にも言える。

 特に、生物が多細胞化した目的も、これに尽きると言われている。

 おなじ数の単細胞生物が集まったコロニーよりも一体の多細胞生物の方が、攻撃も防御も移動能力も勝るのだ。


 この様にメリットのある多細胞化だが、良い事ばかりではない。

 機能を特化し、それ以外の生命維持機能を他の細胞に依存してしまっているが故に、一部の欠落が全体の死に繋がる事もある。

 人間で例えるならば、全体の1%にも満たない脳幹の細胞1グラムの崩壊で死ぬ事もあるのだ。

 そして、一度特化した細胞は、容易には能力の変更ができない。

 できたとしても、膨大な時間とエネルギーを必要とするのが現在の生物の限界だ。


 さて、人間を含む多細胞生物の多くが性別を持つ。


 魚類のクマノミや植物の銀杏の様に雄雌は有るが、状況によって性転換する存在だ。


 先に述べた様に、専門化の利点は能力の向上である。


 高等生物の場合は生殖機能の分化が、その社会的分業にまで及び、更なる安定化に繋がっている。

 動物によっては、天敵に襲われた際に雄が戦ったり囮になり、雌が隠れて子供を守るなどの傾向がある。


 現在科学では未だに証明されていないが、古来より聞く【魔力】と呼ばれる異質なエネルギーシステムを持つ生態系が存在しているとして、元より高機能、高エネルギーを持つかも知れない彼等に【性別】は必要だろうか?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まぁ、性別の事は置いといて、グレーティア様はアールヴヘイムから来た方ですよね?俺はついさっき、そこから来たベン・フレイって方と一悶着(ひともんちゃく)あったばかりなんですが?」

「アールヴヘイム?そう言う認識か!如何にも同郷だがファーストコンタクトが芳しく無かった様じゅのう。儂等(わしら)の中にも血気盛んな者は居るでな」


 重蔵が見たベン・フレイが若い男性だっただけに、のじゃロリ幼女に【血気盛んな】と言われるのは違和感がある。


「先ずは、私の無知を御許し下さい。グレーティア様の御名前は、北欧神話系なのですか?」


 相手の思う世界観に合わせるのは、下の者としては当然だ。

 重蔵の知覚も、上位の存在に対しては有効ではない。


 元現代陰陽師としての重蔵には、先の敵対者の時の様に該当する知識がなかったのだ。


「そんな事か?気分じゃよ!現世の人間は多くがそうなのじゃろう?名前に縛られるなど流行遅れ(はやらん)じゃろうよ」

「左様ですか」


 重蔵は知識不足でなかった安堵の溜め息をついて、シシス達の後ろ側に回り込んだ。


「それでグレーティア様の御用件は何なんでしょう?」

「なに、【抜け駆け組】である汝等には思うところも有るが、いろいろと御互いに協力体制を取れぬかと相談しておるところでな」


 現世と常世の結合/統合は避けられない事だが、それをより安全に行おうとしているのがグレーティア達であり、それとは関係なく現世側の領土や領民の確保に【抜け駆け】しているのがシシス達なのだそうだ。


 シシスは勿論、留守番を頼んでいた茜や長谷川も頷いている。

 当然だが、上層部のバチカンも否定はしていないのだろう。


「シシス様達が御納得であれば、使徒である我々に異論などありません」


 主の建て前上は引き下がったが、実は重蔵は納得した訳ではない。

 いつでも戦いに参加できる様に、秘かに魔素を収集して力を蓄えていった。


「飲み込んだか?そうじゃな。理由も分からずに納得は無理か?シシス殿達には話したが、重蔵殿にも詳しく話さねばならぬな。一つは、お主等(ぬしら)側のアストラル界から転移する方法は、魔導書(グリモワール)を使い、媒介者の同意が有っての生殖機能利用じゃが、儂等のは道具も同意も無い無理矢理の憑依じゃ。例え憑依に適した肉体であっても、抵抗や失敗もある」

「まぁ、無理矢理精神を乗っ取ろうとすれば、トラブルも有るでしょうね」


 憑依初期の自覚症状として、人格分裂症の様な状態となり、被験者は混乱する。

 病院に行ったり、薬を飲んだり、狂ったり自殺したり。

 更には特殊能力を持ったまま、狂った人間の精神だけが残ったりする。


「で、その失敗した中途半端な状態を放置したり他の者に始末されるよりは、我々同胞が葬ってやりたいと思ってな。地元の者や先駆者(シシス)達と協力体制をとるのが賢明と判断した訳じゃよ」


 グレーティアの説明は合理的で納得のいくものだった。 

 ワクチンに因らない鬼化や狂化を、関係者が始末してくれるなら、重蔵達も手間が掛からないで済む。

 その為に情報提供したり、法的組織的な融通を利かせるくらいは重蔵達が同行すれば軽いものだ。


「しかし、あっちではかなり面白い事をやって来たのね?重蔵」

「俺は偶像程度で驚かそうと思ったのですが、他の日本人が調子に乗りすぎまして」


 戦争の妨害に行ったのが、ロボット大戦になってしまった事は、シシスの耳にも入っているらしい。

 重蔵自身は埴輪をベースに、世界各地にある遺跡の人形要素を加えて、神聖な存在を主張したかったのだが、他の者は主旨を勘違いして、いや、歪曲解釈して遊んだ様だった。


「まぁ、あからさま過ぎたから逆に、宇宙人がテレビ電波を傍受したんだろうとか、日本に敵対する国が日本の介入に見せ掛けようとしたとかの方が、ソノ筋には信じられているみたいだから問題ないけどね」


 悪魔と呼ばれた者や、その使徒の仕業と言う真実よりも、宇宙人や陰謀説の方が現代人には受け入れられやすいのだった。


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