05 政府の隠蔽と婚活
政府と言うものは、国民に支えられている。
民主主義は投票や支持によって。封建主義は被支配層によって。
よって、行政層への反感や暴動、パニックの発生により運営ができなくなるのだが、その要因の一つに、自国を脅かす脅威の存在がある。
政府は国民に支えられる代償として国民を守れなくてはならず、現存する全ての政府が軍事力や、他者の軍事力を引用できる影響力を持つ。
だが、自国の力では抗えない脅威が出現した時に、国民のパニックと共に政府に対する信頼は崩壊する。
『できるだけの事をやった』では、民衆は納得しないし安心もしない。
『助けられなかった』を『助けなかった』として、医者などを逆恨みするのと同じだ。
よって、政府の手に負えない存在が現れた時には、非合法な手を使ってでも『隠蔽』する。
しかし、情報隠蔽にも限界はあり、戦場カメラマンや生き残った兵士が居る限り情報は流れ、街中では目撃者が出る。
写真は残らなくとも証言は残るのだ。それらの全てを隠蔽する事は不可能だが、その報告が、あまりに現実離れした場合は他の隠蔽方法がとられる。
「どうやら、各地の戦争に介入している組織があるらしく、電磁パルス兵器とロボ風船、催眠ガスの大量投入により、我が国の国防活動を妨害している様だ」
全てを人為的な集団幻覚とする事で、【抗う事のできない介入者】ではなく【防衛可能な範囲の介入者】として、政府の威厳を守る方向に出ていた。
「その正体が何者かは調査中だが、対策には時間を要する。侵略者に対する攻勢は控え、準備ができるまでは防衛に注力したい」
政府の責任者が、こうは言っているが、水面下では停戦交渉が進んでいる。
両国のトップが、実質的に抗う事が出来ない脅威を認識している為だ。
片方の国では、虎の子としていた試作型レールガンすら敗北してしまったのだから。
好戦的な首脳陣が、不慮の死を迎えた事も重なって、和平交渉は順調に進むだろう。
こうして、世界で騒がれた大きな戦争の一つは終わったが、集団の殺し合いは、いつも世界の何処かで起きている。
大きいものは国家間の戦争から、国家内での紛争。
小さいものは暴力団の抗争まで。
彼等は、その多くにロボットを持ち込んで阻止しているのである。
実際、世界の各地で彼等は目撃され、UFOや幽霊の様な都市伝説として、扱われはじめた。
「中東にも【カートゥーンロボ】がでたらしいぜ」
「いや、あれは【ジャパニメロボ】って言われているらしい」
「【フライングヒューマノイド】の一種だろ、アレ」
マニアの間では、様々な噂が飛びあっているが、実力行使の改革を行いたい者や、デモを鎮圧したい権力者、地位向上の為に戦争をしたい軍人、武器メーカーなどにとっては笑い事ではない。
それが【向上心】だと教え込まれている彼等にとって、謎のロボットは【悪】でしか無いのだ。
対策や戦闘再開を軍上層部に嘆願しても、いつの間にか好戦派は姿を消し、既に和平交渉に移っていたので逆に制裁を受ける始末だ。
ロボットのパイロット達と同等の力を持つ【アウトキャスト】側も、貴重な【後継者】の一人を失った事で、接触を避けている。
いや、【アウトキャスト】側からも、UFOのアブダクションに似せた【間引き行為】を行う【模倣犯】が出るほどだ。
少しは隠蔽されているが、謎の怪光が田舎の村を襲い、住民の半数近くが行方不明になった事件が、実に十件近く発生している。
隠蔽が甘いのは、意図的らしい。
「模倣犯が出てると言う事は、アウトキャストも一枚岩では無いと言う訳か」
ロンドンの喫茶店でお茶を飲む四人の日本人が顔を突き合わせていた。
同じ組織の中に、敵対者の行動を真似る事を忌み嫌う者と、有効であれば何でも取り込む者とが混在する事はある。
その者達は対立はしないが、協力し合う事もないので、総合的な戦力は低下する。
「手法を変えても、あまり活躍し過ぎるのは隠蔽の手間が大変だし、既に、ある程度は戦争の抑止力にはなった」
「遠距離からとは云え、あまり映像や目撃者が増えるのは芳しくない」
「今のうちなら、催眠ガスと言う話も活用できるしな」
「そうだな、そろそろ日本へ帰るか」
彼等は、そろそろコノ方式での活動を休止しようと考えていたのだ。
むしろ、アウトキャストの行っているUFO人攫いの方が巧いと感じていたし、ロボットが活躍しなくとも間引きは行われていくだろう。
「日本でも、もうじき新しい伝染病が流行るらしいしな」
彼等は本来、【伝染病の為のワクチン投与】と称して、一般大衆への遺伝子操作をした結果として発生する凶暴化【狂化】や、肉体的変貌や能力変貌の【鬼化】の処置が主な仕事だ。
「とか言って、ゼータ5は彼女が心配なんじゃないのか」
「お前達も婚活をしているじゃないか!俺が知らないと思っているのか?」
「いや、それはそれで申請が大変で、行き詰まってるんだよ」
彼等の特殊能力は、遺伝子操作などをして【人間を捨てた】結果に得られたものだ。
ちょっと見の外観が人間と同じだからと言っても、その実際はカエルと人間程に違う。
一応は交配も出きるが出生率が低く、ほぼ異常児が誕生してしまう。
配偶者にするには、適性のある者でも、数か月から数年に及ぶ調整が必要となるのだ。
それに現在は、日本における遺伝子操作された使徒の数は12人と定められている。
婚活の為に、戦力にもならない使徒を増やす事は容認されていなかった。
「お前は良いよなぁ。相手は実戦型の自衛官で幼馴染みなんだろう?俺達は、二百年ほと待たなくちゃいけないらしい」
「まぁ、ゆっくりと探せばいいじゃないか。俺達は腐れ縁だし職場も一緒だから、百年単位でゆっくりやっていくがね」
彼等の寿命は、千年近くまで延長されている。
今回の様な【武力による戦争根絶】は、単なる余興だ。
間引きの仕事は、特に必要でも急ぎでも無く、『計画の効率が若干良くなる』程度の事に過ぎない。
彼等が手伝っている【計画】は、数千年単位で行われるので、急いでも意味がないのだ。
「今迄は【無責任な民主主義】に世界が移行してきたが、これからは権利に責任と義務が伴ってくる【封建主義】の世界だ。俺達の立場は、どうなるのかな?」
「そりゃあ、貴族様に仕える使用人さ。平民の中ではトップになれるから、こんな汚れ仕事もやって、評価をあげなくちゃならない。忠誠を示さなくちゃならないんじゃないか」
いくら【進化】したとは言え、元同族の人間を殺す事に迷いが無いほど、彼等の性格は解離も破綻もしていない。
それが自分達は勿論、人類全体の未来の為になると分かっているから実行できているのだ。
「じゃあ、意見の一致もあった事だし、日本に帰るとしましょうか?」
そうして、四人が席を立とうとした時だった。
大きな時空の歪みが、彼等の近くで起きたのを察知して、四人は動きを止めた。
「感じたか?」
「ああ!南西方向だ。イギリス国内だと思う」
「これは、召喚ゲートか?魔導書の物とも、南極の物とも異質だが、間違いなくゲートだ」
イギリスの南西方向には、古い巨石遺跡が集中している。
「これは、調べて帰るべきかな?」
「現地の味方に一任ってのが妥当なんだろうが、手ぶらで帰るのもナンだしなぁ」
四人の日本人の姿は、既にロンドンの喫茶店から消えていた。




