03 ロボット談義
彼等が現れてから既に数日経っている。
この戦争に介入した人数は四人。
共に巨大な飛行体から圧倒的な力で蹂躙をしていた。
「どうだ?アウトキャストからの抵抗は有るか?」
「こちらゼータ11、今のところは無いな。てか、これだけ大規模に魔素収集をしてたら、周辺の密度が低くてゲート開くしか無いっしょ!」
「コチラもゲートを使っている関係上、これ以上空間断絶を弱くするのは、この地域のデメリットにしかならないからな」
「先に使った者勝ちって訳だ」
【アウトキャスト】とは、彼等の組織と同等な能力を持つ者の敵対集団だ。
そして、この物理的に不つりあいな力は、彼等の体内で展開中の魔方陣を通して常世国から供給されている。
【アウトキャスト】側も、その能力を有しているが、空間を越える魔方陣の狭い範囲での使い過ぎは、両空間の境い目を不安定にし、現世の物体や生物が常世国に引き込まれる現象を引き起こす。
原因不明な事故や、行方不明の一部は、この不安定な空間が原因と言われている。
こうして魔方陣を使っている彼等も、距離を開けて干渉を抑える努力をしているのだった。
「しかし、そのデザインは大丈夫なのかゼータ3?丸っきり【バル○リー】じゃないか?我々の出どころが知れるぞ」
「巨大ロボットと言えば、コレだろう!合理的な変形とデザインで世界中に広まっているぞ!お前こそ変身前の大魔○じゃないか!ゼータ5」
「いや、これは埴輪を元にデザインしたんだ。埴輪は世界中に存在するしな」
「あっちは【ジャイア○トロボ】、それに【ガ○ダム】か?アレは!」
「みんなグダグダだな」
彼等は、この作戦に参加するにあたり、好みのデザインの躯体を使っている。
要員の一人が懸念する通り、彼等の出身は【日本】だ。
あまりに、現実離れした存在だが、そもそもゴーレム技術を元に作った躯体に構造等は存在せず、構成素材も主に力場だけなので、大きさもデザインも意味が無い。
「ははははは、見ろ!人がゴミのようだ!」
「いや、貴重な人的資源に成るんだ。不適合者以外とリストの人間は殺すなよ」
一部の物理法則を改竄して放った魔法攻撃【サンダーアロー】は、ビジュアル的にもビーム攻撃に見える。
実際の光線兵器はパルス波にしないと破壊効率が落ちるので、肉眼では殆んど見えないが、コレは雷の流用なので空気に干渉し、見る事ができる。
そして、彼等が殺している【不適合者】とは、遺伝子的に彼等の目的にそぐわない者だ。
ただ、そんな不適合者にも、今は生きている方がメリットになる者も居るので、地域の担当者から【殺さない不適合者】のリストを貰って、この【遊び】の許可をもらっている。
彼等の能力をもってすれば、地下に隠れている者の外観から遺伝子構造まで読み取り、隔壁や床越しにピンポイントで脳を撃ち抜ける。
「撤退を開始したら、必要以上に殺す事は無い。現地の使徒から仕事を取り過ぎるのも悪いしな」
「遊び過ぎて、他の地域での認可が降りなくなると厄介だから、ほどほどにするさ」
【不適合者】の遺伝子を残していれば、【適合者】との婚姻により、将来的に【適合者】の遺伝子を汚染する。
この地域の担当者も、不適合者を排除したいが、事故などとして殺すのにも限界はある。
多少は適合者の犠牲も出るが、戦争に乗じて選別する方法を認可したのも、著しく効率が良いからだ。
「兵士達は、武器が使えなくて驚いているだろうなぁ」
数キロに及ぶ抑制フィールドは、範囲内における物理的な電子機器の磁気と共に、50度以上の発熱を阻害している。
電子機器の大半が使用不能になる他、火災を含む銃弾などの発射や起爆、ミサイルや戦闘機の推進力、燃料を使う全てが無効になるのだ。
それでも戦闘するには、棍棒や刃物による接近戦、超高度からの自由落下質量弾や、昔の鉄球を飛ばす砲撃を範囲外から行うしか無い。
当然、彼等の乗機は、それらを使って動いてはいないし、魔法による攻撃は物理法則には従わない。
「しかし、面白い事を考えたな、ゼータ5」
「いや、うちの上司が『人間は平和だ人命第一だと言うのに、なぜ戦争ばかりやっているのか』と、新聞を見ながら言っていたんで、昔のアニメを元に【武力による戦争根絶】って奴を実践してみたくてね」
その上司と言うのが、人間ではないので、人間の習慣や概念などが通じない事を、メンバーは知っていて頷いた。
「まぁ、俺達の目的は【戦争根絶】じゃなくて【人材保護】なんだけどね!」
「その古いアニメでも、実は戦闘が目的ではなかったんで、そう言った意味でも二番煎じなんだけど」
「なるほどね」
攻撃を続けながら、彼等は他愛の無い会話を続けている。
既に人間の能力を越えてしまった者にとっては、会話をしながら歩く程度の事でしかない。
「でもさぁ、再現してみて良く分かるよ。ビームサーベルなんて、この世界の物理法則じゃあ無理って事が。芯を持たせて帯電させたり、先端に反射板を付けなきゃ、単なる光線砲になっちまう」
そうやって、彼が振って見せているビームサーベルは、魔法によって炎や稲妻を切先側から柄に向かって放っている物だ。
「ロボットも、この質量を重力下で動かすのは、素材的にも無理がある。先ずは維持フィールドジェネレーターか、慣性制御が必要になるよな」
彼等は、躯体の構成と維持に物質ではなく、主に力場を使っている。
だから、重量は数キログラムしかなく、エネルギー供給をやめれば崩壊する。
「こうやって考えると、ロボットアニメって、空想科学物語りじゃなくて、既存の物を強化する幻想 Strengthen fantasy だよね」
現実以上に軽くて強固な物質。
有り得ない程の高エネルギーを内包し、それを活用できる科学技術。
『こんな強い物があれば、こんな活躍ができるのに!』と言う妄想が爆発しているのが、SFの世界だ。
そんな話をしていたので、警戒が疎かになっていたのだろう。
突然の飛来物が、空を舞うロボットの半身を吹き飛ばした。
「大丈夫か?イレブン」
「大丈夫だ。質量の三割を吹き飛ばされたが、コックピットへの直撃は避けた」
このロボットの全ては、操縦者によって構成と維持が支えられている。
操縦者さえ無事ならば一時的に形が崩れただけで、修復も可能だし何の問題もない。
「およそ百キロメートル離れた所からの魔法を含めた質量弾攻撃か!」
「たぶん、レールガンの類いだろう。既に防御も固めたようだ」
百キロメートルとは、富士山から東京駅を狙う様な距離だ。
この様な遠方からのピンポイント攻撃など、人間には無理だが、アウトキャストの主要メンバーなら可能だろう。
「後継者か?使徒か?」
「奴等の使徒はレベルが低い。だから後継者だろうな」
召喚された悪魔と呼ばれる【精霊】達は、能力特化しており、オールマイティと言う訳ではない。
その内でもアウトキャストの【精霊】達は、比較的に能力の低い者が多い。
だが、その子である【後継者】達の能力は、この世界では万能に近い。
精霊や後継者に忠誠を誓う事で力を得た人間【使徒】は、後継者に次ぐ能力を持つ事ができるが、アウトキャストは、それほど高い能力を使徒に与えてはいなかった。
推測だが、アウトキャストの精霊は使徒に劣る面も有るので、反乱防止の為と思われる。
これらの情報から、ロボットの操縦者達は、レールガン攻撃の主がアウトキャストの【後継者】である推測を立てたのだ。
「一対四か!応援を呼ぶか?」
「ああ!今、依頼した。我々四人なら時間稼ぎくらいできるだろう」
【後継者】と【使徒】では、レベルが違いすぎる。
一対四でも勝てないのは、彼等にも解っているのだ。
「魔素の流れに集中しろ!相手が一人とは限らない」
「分かった、俺が捜索する」
一人がロボット形態を解き、球体の様になって上空へと上昇していった。
百キロメートルなど、彼等にとっては短距離走だ。
「敵は・・・列車に積まれたコンテナから砲身?列車砲か!」
発射位置を逆算して該当地区に到着すると、線路上で停止している貨物列車が見える。
それが牽引する貨物コンテナの一部が開いて、砲身が見えていた。
「クラブKの擬物の様だな」
【クラブK】とは、ロシアから2012年頃に発表された【クラブ型巡航ミサイル発射システム】で、普段は貨物列車や貨物船舶に積まれる民間用40フィートコンテナに偽装した物だ。
そのクラブKの様に、列車の貨物コンテナに偽装したものを二台分連結して、レールガンの長さに対応しているらしい。
勿論、その長さと容量では現代科学を駆使してもレールガンのパワーも能力も活かせない。
だが、そこに事象変更の魔法が加われば、話は違う。
「これは以外と厄介な相手だな」
ロボット達は、遠巻きに列車砲を取り囲んだのだった。