魔王からの手紙
勇者の訃報を受けて、貴族全員城の王の間に集まりました。
それほど大きな国ではないため、貴族は3家族しかありません。
そのため、爵位のようなものは存在せず、貴族はすべて横並びになっており、それぞれ役割を司っています。
政治のゼオン家。
守護のネイカー家。
司法のクラーク家。
そして、全てを取り仕切る王族レインリー。
日本の三権分立とは違いますが、貴族がバランスを取り、王族が国を動かし、国が成り立っています。
といっても、小さな国なので、貴族はみな遠い親戚のようなものです。
とはいえ、親戚であっても、多少の確執はあります。
お父様は、発言力を強めるため、ワタクシをアディーラ兄様の婚約者にしたかったのでしょうが……。
エレノア様の姿も見えました。
はあ、今日もお可愛い。
たまりませんね。
家に持って帰って、撫で回したいくらいです。
エレノア様は、クラーク家なので、随分遠くにいます。
もっと近くで、お姿を堪能したかったのですが、一族で席が決まっています。
王が、席を立つと、話し始めました。
「みな、よく集まってくれた。もう聞いておると思うが、わが国の勇者ハーツが魔王に討たれた」
「勇者が……」
「なんということでしょう」
「おしまいだ……」
「ハーツが……」
ネイカー家の方から、特に大きな嘆きが聞こえてきました。
弟であるキラルが、王に質問しました。
「王よ。どうして兄が討たれたと分かったのでしょうか」
「魔王からその旨を書かれた書簡が送られてきた」
「それだけで死んだことには」
王は首を振り、辛そうに答えました。
「聖剣と共にだ」
聖剣は、この国の粋を集めて作られた最高の逸品です。
敵の手に渡れば、国の存続にかかわります。
そんな聖剣を勇者手放すのは、それこそ死んだときでしょう。
「今から魔王からの書簡を読み上げる」
3大貴族一同の前で、王が読み上げます。
『サンヴァ―ラはあなたの国の勇者から攻撃を受け、撃退いたしました』
改めて言われると、さらに会場にどよめきが広がります。
『こちらの正当な防衛行為ではありますが、あなたの国が我が国を攻撃する理由はなく勇者の独断でしょう。これからも今まで通りサンヴァーラはレインリーとの国交を希望いたします』
この言葉で、会場の緊張感が緩みました。
こちらが用意していた言い訳を魔王がくんでくれた形です。
『クラウドラの一時的な属国は解消しました。あとはよろしくお願いします。
魔王ニルナ・サンヴァーラ 代筆 財務大臣フィルク』
王が読み上げると、顔を歪めました。
お父様も歯噛みしています。
ただし、ワタクシも含めて会場のほとんどのものは、最後の言葉の意味がわからず首をかしげています。
隣に控えているミラーがしたり顔をしていたので、ワタクシは小声でききます。
「どういうことですか?」
「勇者を差し向けたことは不問にするということは、わかるな?」
「ええ、それはわかります」
「勇者は、国の軍隊一つ分に匹敵する。この国はその勇者を失った」
「その損失はわかりますわ」
「私の望遠の瞳だと、魔王の国は、今ストークムスという別の国との戦争準備中で、どうやらこちら方面にまで手を回せないようだ」
「えーと、地理はたしか……」
魔王国サンヴァーラとレインリーの間には、クラウドラという大国が間に挟まっています。
クラウドラは、サンヴァーラに攻め込もうとして撃退され一時的に属国にされたと聞いています。
「そのあとに、クラウドラを属国から解消すると書いてある。サンヴァーラはクラウドラを制御しきれないと思い手放したのだろう」
制御しきれない?
クラウドラはまだ戦争しようとしているのでしょうか。
ただ、一度、負けてしまったクラウドラが魔王国サンヴァーラに再度攻めるとは思えません。
ということは、他を攻めようとしている?
「さらに言えば、クラウドラがレインリーに対して何をしても、魔王国サンヴァ―ラは責任を取らないということだろう」
責任を取りたくない?
それの意味するところは。
「もしかして」
王はワタクシの至った答えを叫びました。
「クラウドラの侵攻に備えよ!」




