ゲームの世界大改造
ワタクシは、城をでたあと、必要なものを詰めたバッグをミラーに持たせていました。
「さて、次の作業に移りましょう」
「うむ? 何をするのだ?」
ただシナリオは、問題ありませんが、他にも修正しなければいけない場所があります。
それは……。
王都すべてです!
「ゲームの中の景色は、もっと素敵でしたわ」
今いる、この広場にも、噴水があったはずです。
ワタクシは、ベンチに腰掛けミラーからスケッチブックと鉛筆をうけとりました。
ゲームの背景を思い出しながら、紙に噴水を描いてみます。
本当は、前世で使い慣れたペンタブが欲しい。
ちらりと、ミラーを見ます。
「はあ~」
ため息がこぼれました。
映像魔術すら作れないミラーにペンタブやタブレットなどを生み出せるわけがありません。
「おい。今、失礼なこと考えただろう」
失礼なことではなく、事実です。
ミラーを無視して、ワタクシはどんどん描き進めていきます。
「ん~こんな感じだったはずですわ」
噴水の絵がかきあがりました。
SNSにあげれば、軽く1000程度は、いいねがもらえる出来映えです。
「おまえ、絵うまいんだな」
覗き込んできたミラーが唸りました。
悪魔も、ワタクシの絵の良さがわかるぐらいの美的センスはあるようです。
「公式からの供給が足らず、二次創作をしておりましたから」
「二次創作?」
よく分かっていないミラーに説明してあげます。
「簡単に言うと、ゲームのキャラクターを使用して、自分の解釈を拡張する行為のことです」
ミラーは、ワタクシの回答にげんなりしました。
「うん。なにもわからんな」
ワタクシは、エレノア様の絵を書き足します。
尊い……!
2章のあのデートシーンを思い出すようです。
パソコンだったら、レイヤー分けなどできて、便利だったのに……。
今回は噴水が、よく見えなければいけないため、渋々ささっとエレノア様を消して、噴水だけに戻しました。
「とにかく、この公園には、この噴水があるべきだということです」
「うん? よくわからんが、魔術で噴水をだせばよいのか」
ミラーが勝手に魔術を使おうとするので、睨みつけました。
「そんなことに、命を使っていたら、いくら命があっても足りません」
今から、王都を何百と修正しなければいけないのに、一つ一つに寿命を使っていられません。
「眉2mmを修正するのに、寿命をつかって、噴水を出すのをためらう理由がわからぬぞ」
エレノア様の美の為ならば、命などいくらでも捧げる所存だということがわからないようです。
「あなたなどの力など使う必要はないということです」
それに、噴水程度なら、どうとでもなります。
「どうするのだ?」
ワタクシは、ミラーの持っている袋の中から札束を取り出して扇子のように広げてみました。
「金の力を使うに決まっていますわ」
◇ ◇ ◇
ワタクシは、王都の工務店を訪れました。
「さあ、大工のみなさん、ご機嫌うるわしゅうございます!」
ワタクシは、景気よく扉をあけ放つと挨拶しました。
こういうものは、勢いが大切です。
なんだなんだと大工のみなさんがワタクシの方を見ます。
なんでこんなところに貴族がいるのかと囁き合っています。
ワタクシは、何も気にせずに、先程描いた噴水の絵をみせました。
「みなさんには、公園に噴水を作っていただきます!」
ワタクシはさらに大きな声で宣言しました。
「さすがに、貴族様でもなあ。王の指示書がなければ……」
棟梁のような人が、代表して恐る恐る答えてきました。
「なにをいっているのですか。誰もただでやれなど言っていないでしょう」
ワタクシは、ミラーに持たせていた袋の中から、札束を取り出すと、机の上に叩きつけました。
大工たちは、見たことのないお金の量に、目を瞠ります。
「これは前金です。きっちり仕事をこなせば、この十倍はお金を払います!」
大工たちの目の色が明らかに変わりました。
「……十倍!」
金の力は、偉大です。
「さあ、きっちり仕事をこなしなさい」
「はい、喜んで!」
大工たちは、機敏な足取りで仕事に取り掛かっていきました。
◇ ◇ ◇
工務店をあとにすると、ミラーが聞いてきます。
「あのお金はどうしたのだ?」
「王に色目をつかってもらいました」
「お前なぁ」
ミラーがなぜか呆れています。
ワタクシの寿命を使ってまで、魅了したのです。
できるだけ有効利用するに決まっています。
ワタクシは、完成するであろう。
噴水の前で、愛をささやきあるエレノア様とアディーラ王子。
最高です!
あの二人が、この場所で愛を深めるのです。
妥協など許されるはずがありません。
「さあ、次にいきますわよ!」
ワタクシは次の目的地へと向かいました。
王家御用達の花屋です。
「さあ、花屋のみなさん、ご機嫌うるわしゅうございます!」
大工の時と同じテンションで、花屋に乗り込んでいきました。
「レ、レティセル様、本日はどういったご用件で」
店長のお姉さんがでてきました。
たまには来るので、顔なじみではあります。
いつもは、花束一つお願いする程度ですが、今日は違います。
「城に薔薇の庭園を造りますわよ」
「て、庭園?」
「城に庭園が必要ですわ!」
薔薇の門を通り過ぎて、花が咲き乱れるところで愛をささやきあう二人。
素敵すぎます!
ワタクシの夢想が暴走はじめます。
ワタクシは、花屋のお姉さん方の前で鉛筆をだすと、少女漫画のように花に囲まれたエレノア様とアディーラ王子を絵に描いて見せます。
「これを、現実に実現させましょう!」
店長は、目を輝かせましたが、すぐに気落ちしたように目を伏せました。
「レティセル様、流石に元手がなければ……」
「お金はあります!」
ババーンと、お金を両手にひろげてみせます。
「さすがです。レティセル様、お金があれば、実現できます!」
花屋のお姉さんは、ワタクシと同じ乙女の心を極めし者です。
ワタクシと一緒になって、うっとりとしました。
「やります。やらせていただきます」
ものすごい勢いで、道具と資材をかき集め始めます。
突撃する勢いで、城に従業員たちと走っていきました。
◇ ◇ ◇
ワタクシは、お金を扇子にして、はためかせながら街中を歩きます。
「まだこんなにもあるのか?」
「ハルーにも色目をつかっていただきました」
「おおい!」
「もはや王族はワタクシの傀儡、なんの問題もありません」
「なんの問題もないというか、大問題を起こしているんだが」
ゲームのキャラクターが、ゲームの進行のために努力する事が問題なわけありません。
「ワタクシには、見えます!」
「な、なにが見えているというのだ」
「四六時中見ていたゲームのステータス表示が見えます!」
「魔力も覚醒していないのにか!?」
「さすがは、ゲームの世界ですわ。きっちりアイテムにレア度が表示されて見えます!」
「なにを言っているんだ。幻覚だろう」
ミラーがなにか言っていますが、知ったことではありません。
ワタクシには、世界の良し悪しがはっきり認識できます。
ゲームの世界にいるならば、すべてをウルトラレアにするために頑張るに決まっています。
「ふふふふ、さあ、鉛筆をくださいまし」
ワタクシは、ミラーから、鉛筆とスケッチブックを受け取ると、猛烈な勢いで、描いていきます。
「ああ、溢れてきます。次々とアイデアが!」
どれだけ夢想し、どれだけ描いたことか。
それを実現できるなんて、なんと素晴らしい。
これがゲームの世界!
「これがゲームの強制力なのですわ!」
「だから、そのゲームとやらに寄せにいってるのは、おまえなのだが!?」
「こんなに散財したのは、初めてです! しかも、他人の金とか最高です!」
「おおい。目的とか関係なしに、お前悪いやつだろう」
「富み、名声、力、この世のすべてを手に入れた悪役令嬢、それがワタクシです!」
「おおい。もはや私必要か!?」
すべてはエレノア様の幸せのため!
さあ、さらなる悪事に身を染めましょう!




