ゲームのシナリオ新解釈
ワタクシは、レースが繊細に施された上質な紫のドレスに着替えてから、レインリー城に向かいます。
「ところで、お前は前世の記憶があると言っていたが本当なのか?」
ミラーが歩きながら聞いてきます。
「ええ、そうですよ。思い出したのは最近ですわ」
きっかけは、よくわかりません。
なにか唐突に思い出しました。
ミラーは顎に手を当てながら考えます。
「転生という奴か。私は何度もこちらの世界に来ているが、そんな奴初めてだぞ」
「そうなのですか? てっきりよくあることだと。ゲームだと一般的です」
「お前の基準は全部ゲームとやらなのは、どうにかならないものか……。それで、どうして死んだのだ?」
さすが悪魔。
結構、ズケズケ聞いてきます。
別に話して困ることではないため、答えました。
「歩きスマホをしていたら、トラックに轢かれました」
「スマホも、トラックもよくわからぬが、なんとなく自業自得な気がするぞ!?」
「ただの自分の不注意ですね」
「おおい!」
「ワタクシ二度と歩きスマホはしないと誓います」
「死んでから誓っても意味ないだろう」
「まあ、ゲームの世界に転生できたのです。結果オーライですわ!」
「あのな。だから、この世界は、お前のいうゲームとやらの世界ではなく」
「黙りなさい」
ワタクシはミラーを一喝しました。
ミラーの妄言は、ワタクシにとっては不愉快です。
ミラーは渋々別の話題に切り替えます。
「……まあ、いいが、お前の願いは、そのエレノアとやらが幸せになるでいいのだな」
「はい。もちろんですわ」
「私は悪魔だ。お前の願いを魂と引き換えに叶えるが『幸せ』という曖昧な言葉では、魔術が使えぬ。なにか案はあるのか? 結婚させればいいのか?」
「エレノア様はすでに第一王子アディーラお兄様と婚約していますから、メインルートにはすでに入っています。ほっといても結婚します」
エレノア様は、ゲームでも一番人気の第一王子アディーラ(日本版は、王子風イケメン生徒会長)と婚約済み。
国の王妃になれるのです。
ルートとしては申し分ないでしょう。
「なら何をするんだ?」
「はあ、馬鹿ですか。あのですね婚約というのは、政略結婚。そんな結婚はむしろ人生の墓場。不幸以外なにものでもありません」
「結婚を阻止すればいいのか」
「本当にだめですね。第一王子と結婚するのですよ。女にとっての一番の願いです。それを阻止してどうするのですか」
ワタクシの回答に、ミラーの顔が、クエッションマークでいっぱいになりました。
「さっぱりわからぬぞ? どうすれというのだ?」
本当に悪魔は人の心のなんたるかをわかっていない。
「ただ結婚すればいいというものではないということです。困難を二人で乗り越えてこそ、愛が深まるというもの、それに必要なのが」
「悪役令嬢なのか?」
「その通りですわ」
ミラーもようやく理解できたようです。
障害が高ければ高いほど、それを乗り越えたとき愛が深まります。
ただ婚約して、結婚するなど、一切スパイスの入っていないカレーのようなもの。
つまらないことこの上なしです。
恋愛ゲームに悪役は必要です。
悪役がいないのであれば、ワタクシがなるしかありません!
当然の帰結です。
「シナリオはこうです」
ワタクシは、元のゲームを西洋風ファンタジー海外版にアレンジしたシナリオをミラーに説明します。
「ワタクシが、あなたの力をつかい、王、第二王子、騎士団長を魅了して、国をまるごと篭絡します。そして、自由気ままに国のお金を使いまくり、国を傾けます。ワタクシの悪事に気づいたエレノア様は唯一正気の第一王子を頼ります。そして、ワタクシに立ち向かうエレノア様と第一王子。二人は、力をあわせて愛を育みながら、私を追い詰める。そしてワタクシはあなたに魂を奪われることによって苦しまずに断罪されるということです。完璧な作戦ですわ!」
ワタクシの解釈に、不備などあるはずがありません。
悪役を倒してこそ、幸せのスパイスであるカタルシスが得られるというもの。
ワタクシを処刑して、幸せな家庭を築き上げる推しベストペアの姿を妄想します。
たまりませんね。
最高ですわ!
だというのに、ミラーは顔をしかめていました。
「うむ。悪魔の私が言うのもあれだが、かなり頭がおかしいと思うぞ。今までの契約者で、魂を奪われることまで、計画に盛り込んできた者などおらぬのだが……」
ワタクシは、呆れて言いました。
「あなたは魂が奪えればなんでもいいでしょう」
「いやだから、それは契約者が必死に願いを言い、それを受けた私が『魂を奪えればなんでもいい』と言うから悪魔感が出るのであって、契約者側が進んでいうセリフではないのだが」
グチグチ言うミラーを睨め付けて、ワタクシは言いました。
「つべこべ言わず、ワタクシに従いなさい」
「はあ、まあ、ふう……承知した」
全く文句の多い悪魔です。
一応、一つ重要なことをミラーに確認しておかなければなりません。
「それでミラー、あなたは魅了の魔術は使用できるのですか?」
それができなければ、作戦が台無しです。
「それならば可能だ。どんな男もあなたの虜にして見せようぞ」
ミラーは、得意気に言います。
ワタクシも一安心しました。
「よかったですわ。もしできないと言ったら、目的地を王城から、ゴミ捨て場に変更するところでした」
「……やめてくれ」
「では、ゲームのシナリオ通り、王と第二王子、騎士団長を魅了してしまいましょう」
話しているうちに、城が見えてきました。
さて、ゲームスタートです。
盛大に国を傾けてみせましょう!