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奇怪な境界  作者: 間和井
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第八話  アケミヤの夢

家の中に引き摺られていくミズハを見送り、思考にふける壬空。そんなこんなで寝てしまい、夢の中には朱い鬼。壬空は一体何をする?

 木々の茂る鎮守の森。

 日本なら、そろそろ十時くらいだろうか。

 陽光が温かく、気分が良い。


 その後方は、とてもシュール。

 家の中まで引き摺られ、その中で『いつもいつも……』と、定型になっているらしい咲良さくらの説教をくらっているミズハ。

 悪戯いたずらっ子よろしく、家の中から「え~」とか、「でも~」といった声が漏れてくる。

 

「ミズハって、あんな奴なんだ」


 第一印象が大人しいと言うか、丁寧なといった感じだったため、大きな衝撃を受ける壬空。

 今日はもう驚かないだろう、と思っていた矢先、いきなり驚いている自分に少しため息を吐く。 


「まぁ、人それぞれか……」


 好きなものなんて、と思い、来訪二日目にして定位置になっている薪割り用の株に歩み寄る。

 ほんの少しだけ、右腕の重い甲手こてわずらわしい。

 秋を思わせる落ち葉を踏みしめ、三メートル程歩く。

 壬空のひざくらいの高さの広い株に、切れ目に気を付けながら座る。


 薪は一応ここにあるのは全部割っといたし、家に入るのも説教の最中、入れば気まずい結果が待っている。

 なら、少しだけ、この重い甲手を外しても良いだろう。

 そう考え、外そうとする壬空だが、一行に外れそうにない。


「アレッ? 外れない」

 

 踏ん張れど踏ん張れど、甲手は抜けそうに有りません。

 仕方なく、壬空は婆さんを呼びに家へ帰り……


「なんで、大きなカブ?」


 ほんの少しふざけたところで、頭をよぎるミズハの言葉。

 喜々とした表情と共に、聞かされた「魔術と陰陽術」の事。

 

 使えるのだろうか。

 ミズハは、言っていた。

 魔術は身に刻まれ、陰陽術は、思い出すモノ。

 俺にも、使う事は出来るはずだ。そう考える壬空は更にミズハの言葉を思い出す。

 

 ‘言霊コトダマ’タイプ、とはどう言うことだろう。

 言霊とは、言うにれいと言う感じを付けた言葉で、その言葉自体が力を持ったモノだと、中学時代の友人が自慢げに話していたのを思い出す。

 アイツは今、どうしているのだろう。


 そんな事を考えながら、フラフラと頭をらす壬空。

 

「眠い」


 少しくらい寝てても、あの二人なら起こしてくれるだろう。

 思い、座っていた株から降りて落ち葉の上に寝転がる。

 すぐに力が抜けて、寝息を立て始める壬空。


 ────大莫迦野郎おおバカヤロウ

 

 頭の奥底で、あざけりの言葉が、聞こえた気がした。



 

 

 

 ◆ ◇ ◆ ◇






 夢を視る。

 嫌いなな夢。

 幼い頃よりの、渦を巻く幻想。

 

 暗い、くらい夕暮れの空。

 散り散りの鱗雲ウロコぐも。閑散とした赤黒あかぐろい大地。

 生贄を捧げる為に作られたかのような、石造りの祭壇。

 その祭壇には、きらびやかな装飾をした人影がひとつ。

 肌は、咲き誇る桜に似た薄桜色。それを彩る髪はうるしのように美しく、つややかな長い黒色。まとうのは、鮮血せんけつを思わせる妖艶な紅い着物。それには、所々につゆの様な模様があしらわれている。

 

 とても、美しい人形ヒトガタ

 

 だが、一対の異物が、ソレが人間ではないと主張する。

 額のから突き出す一対の鋭い‘角’。それは人間には要らない。必要無い。

 それは蛇足だ。完成された美術品に、ど素人が手を加えたようなモノ。

 要するに、その人型は人では無いのだ。

 

《来たか、先祖返りの大莫迦野郎が》


 黄昏の陽光に照らされ、密かに嗤う、あかい鬼。

 黒い髪をなびかせて、座る姿は華のよう。

 だが、その唇から漏れる言葉は辛辣しんらつだ。


 薔薇バラの花を思わせる、その朱鬼あかおには祭壇から下を見下ろしている。

 その視線の先には、平凡な青いジャージを着た、黒髪の少年────明宮あけみや壬空みそらが立っていた。

 壬空は薔薇の朱鬼を睨みつけ、忌々しそうに口を開く。

 

「お前、何者だ?」

《オレは鬼だと言っただろう、お前の脳は鳥以下か?》


 凡庸でありがちな質問と、毒舌を交えた異常な回答。

 

「ああ、そうか、あの時の奴か。

けど、ならどうしてお前はここに居る? 何で俺の、夢のカタチは変わってるんだ?」


《勘違いするなよ、これはオレ個人の心象風景だ。

お前なんかのカタチの無い醜い幻想ゆめと、同じにするな》


 繰り返される質問と、口汚い返答。

 見上げる壬空は、訳が解らなそうな顔を、上から見下ろしている朱鬼は、嫌そうな顔をしている。


《それとお前、さっきからやってる事が莫迦らしいんだよ。

お前の身体は陰気が有り余ってるんだ。それを流せば外せんのに何を踏ん張って甲手を外そうとしてるんだ。

 今のオレの妖気でも、形を変えられるんだぞ。

 魔術式まで憑いてるお前が出来ない訳がねぇんだ》


 莫迦らしい。

 そう一言付け加え、朱鬼は祭壇から軽やかに飛び降り、壬空の付けている甲手を手に取る。

 すると、今まで肘から指先まであった甲手が怪しい光を放ち、巨大な扇子のような形をとったり、盾や、槌、最終的には、頭のほとんどを覆う朱い鬼面の形になった。


《おら、どうした。阿呆アホみたいな顔して》


 驚愕する壬空を莫迦にして、鬼面を差し出す朱鬼。

 

《速く取れよ》

「お、応」


 鬼面を押し付ける朱鬼。

 壬空は不思議そうな顔をしながら、それを受け取る。


《それと、お前は陽の気も操れんだから、オレの陽炎カゲロウも使えんのに、何で昨日使わなかったんだ?

 敵が勝手に帰るなんて事は、今後あり得ないんだからな。視てるオレの方がハラハラしたぞ》

「陽炎ってなんだ? それに、陰気とか陽気とかは?」


 意味を予測できない訳ではないが、知らない単語に困った顔をする壬空。

 それに対して、朱鬼は呆れた顔をする。


《……先代はそんなことも教えなかったのか》

「どうした?」


 声が小さすぎて、壬空には聞こえない。

 そんな壬空には目もくれず、拳を作り、朱鬼はしゃべりだす。


《もう良い……。わざわざ口で教えるのも面倒だ。

 大体の事は感覚で出来るように、この、ん────鮮血の鬼面に、記録しておく。

 仮面の形にして顔に付ければ、大体の事は出来るだろうから。

 てか、今の内に付けちまえ》

「なっ! ちょっ待っ」


 壬空の手もとの朱い鬼面が淡く光る。

 それを朱鬼が奪い、壬空の顔に上からかぶせる。

 以外にもその鬼面は完全に壬空の顔にフィットした。

 朱鬼は、とってもイイエガオ。

  

《よし、あとはお前もオレに聞く事も無いだろ。さ、帰れ》

 

 そんな一言の後、壬空の身体が足元から消えていく。

 すりと壬空は焦ったように言う。 


「最後に言うの忘れてた」

《何だ、早くしないと消えるぞ》

「俺は壬空、お前は?」


 突拍子もない質問。

 正式に名乗るのは気が引けるが、


《オレは……》

 

 まあ、良いだろう。


いやワレは》


 教えてやろう。

 朱鬼は、大仰な素振りで言い放つ。

 

 壬空は、もう腰まで消えてはいるが、静かに聞いている。


酒吞童子シュテンドウジ茨木童子イバラキドウジが娘、朱魅夜アケミヤ童子である。覚えておくが良い》

 

 朱魅夜童子は言い切り、背を向ける。

 明宮壬空はその背中に、感謝の言葉。

 速い事に、もう首までが消えてしまった。


「ありがと。じゃ、また今度、か?」

《来るんじゃねぇ》


 再会の口約束を、心底嫌そうに、朱魅夜童子は切って捨てる。



 



 ◆ ◇ ◆ ◇






 浮遊感と、少しばかりの怠惰感。

 いつものように目が覚める。

 目蓋が上がり、見えたのは、


「壬空さん!」

「どわぁぁぁあああ!!」


 至近に映るミズハの顔。

 トスッと言う音。

 飛び起きる壬空はの顔に憑いた鬼面の角が刺さったのだ。

 

「痛い……!」

「ご、ごめんミズハ。大丈夫か?」


 刺さった角を抜き、額を押さえてうずくまるミズハ。

 

「だ、大丈夫です。そうじゃなくて、ご飯の時間ですよ。壬空さん」


 気づいて、腹の虫が鳴く。

 

「そうだな、腹も減ったし飯食うか」


 感覚で面を外し、分解する。

 背中に、悪寒が走る。


「そうですね、そしてその後、説明会です」


 イイエガオ、何時も皆、イイエガオ。


 その後、俺には悪い事。


「ああ、そうだな」


 鬼面の事に、興味津々ミズハさん。

 俺は寝てても起きていました、要するに疲れてます。


『速くせんと、飯が冷めるぞ!』


 一息吐き。

 家の中から聞こえてくる、良の声に、ご飯はどんなのモノなのか、と思いを馳せる、壬空であった。



今回は特になしです。

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