第七話 紅葉の日
幸せな笑顔に包まれて、壬空の顔には紅葉が二つ。作ったのは言うまでも無くあの人
翌朝、昨日放り出した薪割りをする壬空の頬には、奇麗な紅葉が出来ていた。
その紅葉マークを作りだした張本人は、これが当然とばかりにそっぽを向いている。
「痛ってえな。加減を知れよ。加減を」
薪割りをしながらも非難の目を向ける壬空。
その右腕は昨日の夜と同じように真紅の手甲を付けている。
『フンッ。妾の顔にあんな事をしおって、当然の報いじゃ』
向けられる視線もなんのその。
腕を組みあらぬ方向を見ながら、露女は反論をする。
『それにじゃ。……妾はお主がここに居る事を認めたわけでは無いからな』
何か悩むように眼を泳がせてから、壬空に告げる露女。
その表情は何かを隠している様にもうかがえる。
「そうじゃないでしょ、露女。名前を付けて貰っていないから居て欲しい、が本音でしょ?」
『なっ、そ、そんなことは無い! 絶対にないぞ!』
今朝は壬空と露女の二人と一緒に、小屋の裏側の薪割り場に来たミズハの言葉。
それに対し、敏感にも一秒足らずで赤くなって返事をする露女。
『絶対に無いのじゃからな、壬空。勘違いするでないぞ!』
睨みながら叫ぶ露女。
「お、初めて俺の名前を呼んだな、露女」
意に介した様子も無く、壬空は見当違いの返事を返す。
その顔はほんの少し嬉しそうだ。
『なっ、なああぁぁ……!』
名前、と言う言葉に反応し、既に赤い顔をさらに真っ赤にしてうろたえる露女。
「壬空さん、そんな事より昨日考えていたって言う名前、私と露女に教えて下さいよ」
『ミッ、ミズハ?』
露女は困惑したような顔をする。
「そうだな、良いよ。チョイと発想が幼いかもしれないけど、気にすんなよ」
ミズハに促された壬空は、割っていた薪と斧の二つを、台にしていた大きな切り株の上において言う。
「一応、昨日の夜寝る時考えたんだが────
◇ ◆ ◇ ◆
和風なミズハの家の中。
薪割りを終えた壬空は、ミズハに昨日聞きそびれたここ境界の事を聞いていた。
「……で、ここが昨日言った通り、彼岸ノ國です。司る五行は火、特色と言える良く取れる鉱石は緋々(ヒヒ)色金です。
この名前は先程も言いましたね。
壬空さんの右腕に憑いているモノを構成している鉱石の名です。
緋々色金と言うのは伝説でも謳われている最高位の鉱石で、とてつもなく高価な値段で取引されています。
で、それは置いておいてですね、壬空さんの使っていたあの魔術式なんですが────」
国の特色や名前云々(うんぬん)、今までの彼女の説明を、要約するとこうだ。
ここ境界には五大国と呼ばれる國やその他小さな国々が在り、その五大国と呼ばれる國には特徴として、陰陽五行が当てはめられるらしい。
知っているとは思うが陰陽五行、と言うのは木、火、土、金、水の五行と呼ばれるモノと、陰と陽の構成の事だ。
ここで言うと陰と陽は‘因’と‘妖’と言う字で書かれる事もあるらしいが、それは置いておく。
で、ここはその中で‘火’の國、五大国の中でも妖の気が一際強い国なんだそうだ。
他の国は陰と陽がそれ相応に均衡がとれた形になっているらしい。
その均衡のとれた国と言うのは、
最初に弐藍ノ國、これは少し陽のモノである妖怪や神様の方が強いらしい、ついでに言うと水を司る國なんだそうだ。
次に、萌葱ノ國、ここは平和で、陽のモノである妖怪や神様も、陰の者である人間と積極的に触れ合う訳では無いけれど共存しているらしい。ここは木を司っている國だ。
最後に、雄桜ノ國、この国は妖怪がそんなに多くなく、人間に支えられて生きているらしい。ついでに言うとミズハはここの人間が嫌いらしい。具体例を上げると、「ミーズハちゃーん!」とか言って飛びついてくる男が居てそいつが特に怖気がするから、とかなんとか言っていた。そいつはどこの三世だろう。
一応は、地を司る國らしい。
まだ出ていない二つの國は、均衡がとれていない。
その國は、一つ目が金を司る白銀ノ國。
ここは完全に人間が治めていて、陽の気が少しでも有る者は迫害されているらしい。
神様や妖怪、魔物は怖い。
だが、怖いからと言って、迫害する理由にはならないだろうに。
二つ目はここ、彼岸ノ國。
説明に関してはさっきのミズハの言葉の通り。
今まで横文字だと思っていた分漢字で書いて文字を教えてもらった時はビックリした。
まぁ、言葉が通じている時点で凄いと言うか、筆と墨がある時点で日本っぽいとかそんな感じだったからだろう。
そこまで違和感は感じなかった。
もう俺の常識はぶっ壊れたんだろう。
こんな話を整理している自分が普通な気がする。
『壬空。お主聞いてないであろう』
「い、否、聞いてるぞ咲良」
壬空が頭の中で今までの説明を整理していると、露女────改め咲良────が手を握ったり開いたりしながら鋭い指摘をする。
『ほう、では先程のミズハの説明をそのまま言ってみよ』
「え、えーと……」
「あー、聞いてなかったんですね」
半眼で睨んでくるミズハ。
居心地の悪い壬空。
「スンマセン。聞いてませんでした」
今日は下手に出ている壬空。
何故かと言う、と今朝の「露女に名前をあげましょう。ワーワーパフパフー」で歯の浮く様なセリフを吐いた為、咲良に腫れていない方の顔まで殴られたからだ。
今では、咲良の手が凶器に見えてくるほど強く。
腫れぼったくなった顔が痛そうだったが、今は完治している。
「じゃあ、もう一回話しますね」
ミズハはたまに壬空の常識とかその他、諸々(もろもろ)の事をぶち壊すが、基本良い人の様である。
咲良とは大違いだ。
たまに食べているキュウリが気になるが。
「あのさ、なんで偶にキュウリ食ってんの?」
「そりゃそうですよ。私は河童の血をひいていますから」
さも当然と言うような顔で言うミズハ。
こんな直ぐそこにとてもメジャーな妖怪が……
「ま、それは置いといて続けますね。
この世には先程も言った、陰と陽。それと、五行と言うモノがあります。
私たち境界のモノ達は陰を人間、陽を人知を超えた者として扱っています。
壬空さんの昨日行使していたいたモノは、ここでは魔術式と呼ばれるモノなんです。この國では魔術師よりも陰陽師の方が多いので昨日の小鬼さんたちは勘違いをしていましたが、私は一応区別がつきます。
本で、勉強していましたから。
その本に書いたあった事をそのまま言うと『魔術とはその身に刻みこむモノ。陰陽術とは自分から思い出すモノ』との事です。
そう言う事なんで、昨日のように使って見せて下さい」
目を星のように輝かせているミズハ。
そんな目で見られても、昨日の戦闘は知らぬ間に、しかも他人の意志で始められていた。
あの、魔術式とやらも勝手に発動していた。
「否、無理だろ」
顔を引き攣らせながらも否定の言葉を漏らす壬空。
「え~、良いじゃないですか~」
無理だと言った直後、ミズハの声が猫なで声に変わった。
これは一体どういうことだろうか。
視線を移し、咲良を見ると、「ダメだこりゃ」とでも言いたげに頭を押さえていた。
そして、一つ溜め息をつくと、
『さぁ、壬空が無理と言ったのじゃ。諦めるのじゃ』
そう言ってミズハの着物の襟首を引っ掴み、強引に家へと引き摺って行く。
「言いじゃな~い。減るもんじゃないし~。
私みたいに‘言霊’タイプかも知れないじゃな~い」
無言。
ズル、ズル、と引き摺られながらも愚痴をこぼす少女は、なんと言うか、とてもシュールだ。
今日は色んな事が解ったし、ミズハのなんとも言い難い一面も垣間見た。
さぁ、これからはどうしようか。
急ぎで書いてしまい、翌日になって修正中。
色々と駄目な私です。orz
言い訳までしているし……