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奇怪な境界  作者: 間和井
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第六話  緋色の花と血色の鎧

 蠢き、奪い取る【合成】の魔術式。夜行の腕を奪い取り、形成は良好。だが壬空は戦闘など知った事ではなく────

 響き渡る小鬼の悲鳴。

 ブチリ、という聞くに堪えない残酷な音。

 壬空の右腕から伸びた光陣。

 それは目前の武士の右腕を引き千切ると、それを巻き付けたまま元の形に戻ろうとする。

 だが、そんな事は不可能だ。

 元の形、それは完成した人間の腕に刻まれた幾何学模様。

 夜行の腕を巻いていては戻ることなどできはしない。

 だが、術式には十分な陰陽の気が蓄積されている。


 相反する現実と幻想。

 詰め込まれた陽気と陰気。


 魔術式は発動する。

 現世うつしよの物質を作りかえる機能を。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 






 一度きりの能力。


 一度きりの発動。


 それだけでいったい何が出来るだろうか。


 分解される二つの腕。

 それを包み、絡め取る【合成】の魔術式。

 

 再構成される〝一つ〟の腕。


 その腕は武骨で、それでいて力強い気配を放つ。


「あぁ、次は何を見せてくれるのかしら。私もこの目で視に行かなきゃ」


 期待に満ちた、ミズハの言葉。

 知識のみで知りえる西方の魔術を、自分のこの眼で視てみたい。


 ミズハの身体を縛るのは、彼女自身の知的好奇心。

 それは今を生きる者には、命取りだと知りながら────






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






 纏わり憑く幾何学模様の光は俺の視界を塗りつぶす。



「夜行様!」

「あの人間、陰陽師か!?」


 また、痛みだす右腕。


「いや、さっきの動きはそんなやわな奴らのもんじゃ無かったぞ!」

「あの術に警戒しろ!!」


 さっきとは何時の事だろうか。


 閃光に、視界が染まる。


「お前ら闘え! 夜行様をお守りしろっ!!」

「この光は何だ?」


 光り輝く幾何学模様は俺の右腕を蝕んでいく。


 脳裏をよぎるのは、始まりの記憶。

 夢の中、うろ覚えな記憶の断片。

 突如侵入してきた藍色の髪の見知らぬ少女。

 助けを求める一言。

 その少女の握りしめた右腕。


 理不尽の始まりは、右腕の痛みから。


 この森に来て、違う世界だと知った時も。

 意識を失い、起きた今も。


 光が収まり、視界が回復していく。

 目に入るのは、変わらぬ様子の片腕の武士と小鬼達。

 

「アイツ、夜行様の腕を!」


 そして、変貌へんぼうした自分の右肘から指先。

 先程までに比べ一回り以上も大きい。

 そして、鮮血にも似た真紅の手甲を付けている。

 

「吸収の術だと?」


 五人いる小鬼の中で、一際頭のよさそうな一人が疑問を口にする。

 すると他の小鬼達に、驚愕が走る。


「吸収……魔術か!」

 

 訳が分からない。

 魔術なんてもの、凡人の俺に使える訳もないし。

 そもそも存在自体今日知った俺にどう扱えと言うのか。


「退きましょう夜行様。

ここでは、勝つ以前に回復さえできません」


 数秒止まり、俺に背を向け小鬼たちの方へ帰っていく武士。

 小鬼たちは、片腕を奪われた夜行を護るように陣を組み俺を警戒する。 

 どうやって意志の疎通を行っているのか、本当に不思議だが、今はそんな事は関係ない。


「おい人間。貴様はこれで良いのか」


 さっきの頭のよさそうな小鬼が警戒しながら一言。


「何がだ?」

「我々は、貴様をいきなり襲った」


 そんな事か。

 

「ああ、いいよ。今後そう言う事がなければもっと良い」


 これで帰ってくれるなら、それ以上の幸運はない。


「そうか、夜行様どうしますか? ハイ。分かりました。

良かったな人間。お前の上質な気を持つ肉は惜しいが、諦めて他をあたるそうだ」


 肉? 肉を狙ってたのか!?

 恐ろしい。

 それに、どうやって食うんだアレで。


「あ、あぁ。 そうしてくれ」


 俺の返事と共に、霧のように成り消えていく夜行の一行。


 その直後。

 後ろの家の角から、ミズハがもの凄いテンションで駆けてきた。


「すっごいわ! 壬空さん。

貴方、死神を退けちゃうなんて。それに、その合成の魔術式なんか、西の中でも高度な術者にしか使えないって言う【合成】の魔術じゃないですか!」


 今日見てきた中で、一番無邪気で元気な笑顔。

 何だか少しホッとするのだが、こんな深夜に起きていて良いのだろうか。

 そろそろ二時を回るだろう。


「悪い、俺今メッチャ眠いんだ」


 武器を構えた敵が居なくなったからだろうか。

 安心して眠くなってしまった。


「そうなの。ここでの事とか、露女が慌ててた理由とか色々聞きたかったのに、残念です」 

「じゃあ、……それは明日な」


 突っ込みどころが有りそうな気がするが、それは置いておこう。


 そう言えば露女はどうしたのだろう。

 意識が回復してから、一度も目にしていない気がする。


 気づいて周りを見回してみると、

 発見。


「……なぁ、ミズハ」

「なんですか?」

「書くもんあるか?」

「ええ、すみふでなら私の部屋に。でも、何に使うんですか?」

「……俺んとこでの常識的な事、かな」


 数秒考え、そういう事にしておく。

 幸せそうに笑っている奴の顔への落書きなんか、当然の事だ。


「はい、じゃあ取りに行ってきます」


 走って戻るミズハ。

 何が可笑しいのかやっぱり笑っている。


「何だかなぁ」


 まったくもって不可解な場所に来てしまった。

 けれどほんの少し、ほんの少しだけ、今の俺は幸せだ。

 周りは笑顔に満ちている。






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






 壬空達が家に入った直後。

 先程までいた場所に、血色の綺麗なハナが一輪咲いていた。


 その花の名は彼岸花ヒガンバナ

 緋色で火色の悲願ノ花。

 その花は一体何を意味するのか。

 ハナは月の光に照らされて、孤独に一輪咲きくるう。


 


 この小説と言えるのかどうかといった私の作品に眼を通して頂き、有難うございます。

 次回は何時更新できるのやら……

 こんな私ですが、試験が終わり合格し次第週一更新に固定していきたいと考えております。

 それまでの間は、不定期で行くつもりですので、ご了承ください。


 それでは、また次の更新で。

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