第十四話 HE☆N☆TA☆I
今回は、私にストレスがたまっていたのでしょう。
妙な作品に……
でもこれも、一つの展開ってことでどうにか。
なりませんよねぇ(;一_一)
ここは先程入った、咲良とミズハの守る鎮守の森とはまた違う、何か重みを持った森の中。
あの森には無い(訳ではないがここよりは薄い)何か尊い気配がここにはある。
それだけでなく、この森は紅い。
まるで今空を覆うアカ色の光のように、今は出していない緋々色金の輝きのように、赤いのだ。その理由は、この森に紅葉しか生えていないからなのだろう。
踏みしめる地面には落ち始めた紅葉がちらほらと見える。
顔をあげれば、必ず赤色が視界に入る。
赤、紅、朱、この森には赤ばかり。
何だか頭がくらくらしてきてしまう。
脳裏の何かが警告する。
ここは危険だ、と。
カラカラに、喉が渇き始める。
本能が察知する。
この赤は目に毒だ、と。
警告に逆らい、壬空は奥へ奥へと進んでいく。
目指す場所は決まっている。
今まで走っていたのもこのためなのだ。
ここで引き返しては意味がない。
確固たる意志を持って、赤き森の地面を踏みしめて行く。
数分が立っただろうか、少し遠くには広場が見えてきた。そこにはきっと祠があり、そこにこの地の守り神────土地神────が居る。
ならば目的地は直ぐそこだ。
この喉の渇きは、およそ直ぐに忘れてしまうだろう。
だが潤したいのだ、この渇きを。どうする、ここには水など無い。だが渇く、でも水は無い。
ならば、ナラバ新たに水を作ればいい。
思い至り、右腕の刻印を起動する。
先程の力の顕現によるものか、憑いている朱美や、契約した咲良の陽気も使える様だ。
今は壬空自身の気は殆ど皆無に等しい、だから繋がっている者の気を選別し、咲良の方から少量の気を汲み取る。
シン、と静まり返った森の中。
壬空の右腕の刻印が端から発光し、そこから陽気が溢れ始める。
折れていた肩が良くなったのは、きっと咲良の陽気のおかげなのだろう。そう思わせる程に優しい陽気だったのだ。
その優しい陽気を媒体に、新たな術を組み上げる。
想像するのは清流。
創造するのは、空中に浮き続ける少量の水分。
形状は円形の板。
解り易く言うなら、水の鏡。それを空中に生成する。
先刻の火焔生成では、この肉体の限界を超える量の気と魔力を使ってしまった。
赤い涙の原因は、それだったのではないか。
ならばそれを少量にし、使用する「気」又は「魔力」を一種類に絞ればいい。そうすればフィードバックは少量に抑えられるのではないか。
純粋な一種類、しかもその能力に特化した「気」ならば、あの方法でも行けるのではないか。
そう考え、壬空は先刻の術式に近い、生成する物を火焔から水鏡に変えただけのモノを行う。
まずは脳内の想像を、幻影として現実へと投射。
現れたのは、手のひらサイズの水らしきもの。その純度は高く、光を綺麗に映し、反射する。だがそれには実体がなく触る事は出来ない。
これに関しては、先刻の術も余りフィードバックがなかった。問題は次。
その実体無き幻影を、触れる事の可能な質量を持つ物体に造り変える。
ザックリと、削り取られていく咲良の陽気。
はっきりと顕現する水鏡。
直ぐにそれを口に含み、一気に飲み下す。
その作業の中。
一瞬だけ頭痛が起こる。
それは顕現の瞬間、陽気が削られた時。そして、最も集中を必要とする時。
だが今回、それは一瞬だった。
《アレ? 何で痛くないんだ?》
《それはきっと妾の気を使ったからじゃ》
瞬間的な頭の中での自問には、遠方からの他答が返ってきた。
子供二人と移動しているはずなのに良くやってくれる。
《妾の式銘は知っておるな?》
《アレか露女か》
《そう、それじゃ。式神の名には、大体五行のどれかに属する言葉が入っておる。
妾の場合は「露」じゃ。これは水の属性をあらわす》
《それで?》
《各式神は、その属性に合った特色を持っている。妾達で言うなら水の生成。その中でも治癒薬に関しては、最高級であるとも謳われているのじゃ。
それは、外的要因からの傷でも、魔術的要因からのフィードバックでも癒すほどじゃ》
《そうか、じゃあこれからは水飲むときは咲良の陽気で作った水を飲む事にする》
《まぁ、疲れるじゃろうが、良いぞ》
理解完了。
これは良い事を聞いたものだ。
これからは何度でも先刻の術を試す事が出来る。
あの術はフィードバックがキツイ以外は大体良い事づくしだ。
改良次第では化けるのではないだろうか。
あの時聞こえてきた、何者かの声のようなモノが気がかりだが、それは気にしていても意味がないだろう。
そう考え事をしながら、壬空は先へと進む。
あの声は何だったのだろう、意味は無いにせよ気にはなる。
《アレは朱美のじゃないよなぁ》
《アァッ!? いきなり変な呼び方で呼ぶんじゃねぇ! 不能にすんぞ!》
《ヒィ! それは嫌ぁぁぁあああ‼》
いつぞやの痛みが頭の奥底をよぎる。
女の子がそんな言葉を言っちゃいけません、と思いもしたが、それよりも自身の息子の安全が第一。
何だか気が立っている、お転婆な朱美ちゃんには話しかけない方が良いだろう。
そう判断し、壬空は森の奥への足の動きを速くする。
ずんずんと森の中での唯一の道を突き進んでいくと、広間が見えてきた。
そこを目指して、先の「ファーストキス事件」から走り続けて喉がカラカラになるまでになったのだ。
壬空は再び走りだす。
そして、最後の木の間を通った向こう側に在ったのは、この赤い森に勝るとも劣らない真っ赤な鳥居と、由緒正しい武家屋敷のように大きな祠。
祀られているモノの偉大さを他者に教えるためなのか、それともこの境界ならではの神いう存在との近さから成せる事なのか。
実際、現世のにも神社などは見かけるが、ここまで大きいものはきっと無いだろう。
これでは、まるで昔いたと言う日本貴族の家のように大きいのだ。
向こうの祠では、数人の人間が住む位は出来たろうが、ここまででは無い筈だ。
最近良く壬空が思い出す、何故かこう言った事に詳しいアノ友人なら異議を唱えるだろうが、それは置いておく事とする。
その祠を見た壬空は圧倒されている、訳でもないらしい。
荘厳なるその姿は何者にも畏怖の念を抱かせるだろう。だが、今の壬空はそれとは違う場所を見ているようだった。
その視線の先に有るモノは石碑。
現世で言う所の表札のようなものなのだろうか。祠の直ぐそこに立てられ、何か文字が書かれている。
その文字は古めかしく、石碑も風化し始めている。
だが、読めない訳ではない。
「土地神様、か。ヒノキ神、どんな奴だろう」
呟いた壬空の声は、森の中に木霊する。と思いきや、
『なんだ! この私の名を呼ぶのは何処のどいつだ!』
直ぐに祠の中からの籠った声にかき消された。
その声は男性的で、荒々しさを感じさせるモノだ。そして神の名を持つに相応しい程に、言葉の中にまでも絶対的な気の強さを感じる。
直後、圧倒的な陽気を孕んだ声の主は、音もなく祠より出てきた。
その姿は、まさに神域のモノ。
精神世界での朱魅夜の着物姿も美しかったが、それとはまた違ったベクトルで、たくましくも美しいこの土地の神の御姿。
日本特有の道着に袴と言う出で立ちは、男性の壬空には、畏怖と尊敬。女性の朱魅夜にさえも憧れと喜びを、与え、る……
「ヒノキの伯父様!」
筈だったが、その本来の有りようは、壬空の口から発せられた衝撃的な言葉によって捻じ曲げられた。
現在、壬空の顔に張り付いているのは満遍の笑み。
まるで仲のいい親縁のモノに向ける表情だ。
「伯父様だと? 私をそう呼んでいいのは我が愚弟の唯一の奇跡、あの姫だけだ。貴様のような、得体の知れ無い、男、に……?
もしや、憑いているのか? 黄昏の魅子よ。君なのか!?」
「ハイッ! 私です。朱魅夜童子です!」
確認の仕方がいささかオカシイ気もするが、それは現在どこかに吹っ飛ぶくらい衝撃的な事態により忘れ去られている。
壬空の意識は現在、あの精神世界に有る。
即ち、今壬空の身体を使用しているのはアノ朱魅夜童子なのだ。
あの、男のような口調で、初の登場時には戦闘狂のような雰囲気を醸し出していたアノ朱魅夜なのだ……!
壬空は現状についていけていないようで、いつものように投射されている映像をただ眺めているだけになっている。
視線の先の映像には、厳つい男に満遍の笑みをたたえ、思いっきり抱きつく自分の姿。
上方からは、「私、今まで大変だったんですよ……」等々、いつもの朱魅夜からは考えられない普通の女の子な会話の開始の仕方をしている声が聞こえる。それに対して、ヒノキ神はとても嬉しそうに、受け答えをしている。
まるで、典型的なお父さんっ子な娘と、子離れできない親バカの図である。
だがしかし、その娘役を演じているのは自分の体なのだ。しかも男は厳つい。それは相当壬空の精神に来るだろう。
それを証明するように、壬空は投射される映像を直視せず、両耳は手で塞いでいる。
今、境界で表に出ているのは少女である朱魅夜の方。
少年である明宮壬空は、内なる理の中、現実から逃避する。
要するに、今話しているのは朱魅夜と、ヒノキ神なのだ。
壬空が気をやっている間に、話はどんどん進んでいく。
それが悪い事なのか、良い事なのかはまだ分からない。
◆ ◇ ◆
壬空────の姿をした朱魅夜────は、ヒノキ神と一通り雑談を終えると、話を本題へと移した。
「それでですね、伯父様。今私が憑いているこの男なのですが……。解っているとは思いますが、旅人なのです。
モノは相談なのですが、この男を少しの間、この土地に住まわせてはいただけませんか? それと、この者の一霊四魂総てのの有り様も見て頂けると嬉しいのですが……」
いつもの荒々しい言葉使いとは真逆の、殊更丁寧な言葉使いでのお願いだった。
ヒノキ神の方は、お願いをし始めた瞬間から許可を出そうと言うほどに喜色をたたえた表情だったが、一応話は聞いてから、と言う事なのだろう。静かにしている。
「お願いできますか?」
一瞬陽気を出し、壬空の顔を朱魅夜の顔に見えるようにした朱魅夜。
ある意味卑怯である。
「と、当然だ! 待っていなさい、今すぐ準備をする!」
鼻を押さえながら言うヒノキ神。
彼がここの土地神である事が疑わしくなってくる。
ヒノキ神は言うと、祠の中へ走りこみ、何かガサガサやっている。
偶に聞こえてくる「これでも無い、これも違う」と言った何かを探している様なもの音はスルーして置く。
そんな時、朱魅夜の頭の中に、声がした。
《あ、あのさ、さっきの敬語は何? 何あの女の子らしい喋り方?》
《ハァ? 何だと? 当然だろ、あの方はオレの伯父君だ。女の子らしい、ってのも気にくわネェな。オレは正真正銘、お ん な だ!!》
混乱したような壬空のモノ言いに、腹立たしげに言い返す朱魅夜。
いつも通りに暴力的な言い方である。
《ウ、そ、そうか。ワリィ。お前女なんだったな、俺女心とか解んネェから、ホントワリィ》
《ま、まぁ、そんな謝んなよ。気持ちワリィから》
と、頭の中での会話をしているとヒノキ神が祠から何か小さな紙を数枚持ち、厳かに現れた。
がしかし、鼻に紙が詰められているため、厳かな雰囲気がブチ壊れている。
「さぁ姫よ、手をお出し」
ヒノキ神────否、もう変態と呼ぼう────は詰めた紙からさらに垂れる赤いモノを気にもせず、ハァハァ言いながら紙を持った手を差し出した。
《じゃ、交代~》
それに合わせ、朱魅夜は頭の中で声をあげる。
すると一瞬だけ右腕の刻印が輝きをあげ、
《ハァッ!? 俺やり方わかんネェよォ!》
精神するりとが入れ替わった。
その時、壬空の頭の中ではこんな声が聞こえてきていた。
────あんな鼻血を垂れ流している様な変態に女の子を近づける事は出来ません! 計画変更です! 交代ぃぃぃいいい!!
頭の中の正体不明の声は、女性の堤操には敏感なようだ。
変態は、現在進行形で接近中。
壬空の堤操は、一体どうなる!?
お久しぶりです間和井です。
最近は忙しく、余り執筆作業に取り組めないでいます。
次回も一週間以内に上げられるかどうか不安です。
出来る限り努力しますが、出来なかった時にはどうか、ご了承ください。