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奇怪な境界  作者: 間和井
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第十二話 チームコグリと咲良の想い

 余り意味がなさそうなんで前書きに色々書くのやめようかと思いますた。

「露女ちゃん。いや、咲良ちゃんの方が良いかの?」

「露女で()いぞ、梅さん。それに、分かっておる」 


 久しぶりに顔を合わせた梅さんと談笑していると、この町の裏側、小さな路地裏から莫大な妖気が上がったかと思うと、それさえも上回る気が噴き上がった。


「行ってくるぞ」

「行ってらっしゃい」


 梅さんに別れを告げる。


「また今度じゃ」


 そして莫大な妖気と、もう一つの大きな気の塊の主が居るであろう路地を目指す。


 私はこの町が好きだ。

 だから、この町を荒らす奴らが大嫌いだ。

 先に上がった妖気は、その嫌いな奴らの代表格になっている。少年非行グループ「コグリ」のリーダー格、飛乃(ひの)のモノだった。

 アイツは根は悪い奴では無い筈なのに、五年前の隣国、雄桜ノ國との静かなる戦争。俗に言う「静戦」から、人が変わったような行動をするようになってしまった。

 グループの名前から分かる通り、狐等の人を化かす妖怪、それも少年少女を集め、弱い物を虐げるようになってしまったのだ。

 静戦で何が有ったのかは分からない。きっと、とてもつらい事が有ったのだろうが、暴力や犯罪は駄目だ。他人を理不尽に傷つけてしまう。

 私達の鎮守の森で死んでいた虫や動物の為にお墓を作ってくれた、あの心優しい飛乃がコンナニなってしまったのにはきっと理由がある。けれど、私とミズハは仕事として、ここ一帯の守護を火皇様から仰せつかっている。

 犯罪の常習犯になってる飛乃を簡単に許す事は出来ない。それに現行犯でなら捕まえなければならない。

 どうしてこうなってしまったのか。

 どうして飛乃は……






 ◆ ◇ ◆






 照準を合わせ発動された、その、魔術でも陰陽術でもないモノは、妖気を(はら)い落とす。

 狙われた男二人は、蒼い鬼火がこの世に顕現した一瞬で黒色に為り替わった。

 その在り方は、幻視の魔術の在り方に似ていた。しかしその術は決定的に幻視の魔術とは違う点を孕んでいた。

 それは何か。

 現実に顕現するかしないか。己の魔術で操るかどうかだ。

 幻視の魔術はこれから数瞬後起こる事や、望む結果にするためにしなければならない行動を視界に映し出す魔術。

 別名は(さと)りの魔術。または未来視の魔術とも言う。

 否、今そんな事は関係ない。

 壬空の行ったモノは、そんなちゃちなモノとは全くレベルが違うのだから。


 そう、壬空は幻視の魔術の工程から、望む事象を自らの力で引き起こしたのだ。

 ソレは驚異的な事。信じられない事。そして、あってはならぬ事。

 コイツは鬼であるオレとは違い、魔術や陰陽術なんかとは無縁の現世(うつしよ)でのうのうと過ごしていたのだから。

 

 壬空の起こした事象は現世の学者の言うところの蜃気楼(しんきろう)。その中でも、鏡映(きょうえい)蜃気楼と呼ばれる物を引き起こし、その上で陽炎(かげろう)と全く逆のことをしてのけた。

 そう、自分の視界のみにしか映らない幻想をこの世界に映しだし、視界に映る幻想を現実に変えた。

 幻想を現実に変えるのは、現世以外の世界では当然のことではあるが、何も無いただの白昼夢に近い物を現実にするのはそれ相応に修練を積まなければならない。

 しかも、壬空が使ったのは焔。

 それはこの國を代表する者、火皇の扱うモノだ。

 男共を一瞬で焼いた蒼炎の鬼火は、子供を怯えさせる。それだけでなく狂喜をもった笑い声を聞き、怯えるだけではなく、身体が動かないようだ。

 壬空はと言うと一通り笑い、あの術を使った代償として痛み出した両目を押さえている。あそこまでの鬼火を作りだすのには、相当の量の気や魔力がいるだろう。そしてそれは、一点に集中させれば、使用者に薬で言う副作用を引き起こすのだ。あの鏡映蜃気楼の顕現は、相当な高威力だったのだろう。一瞬で、壬空の中の使用可能なエネルギーが殆ど消し飛び、代償として強烈な痛みを引き起こしている。

 そのため、仮面も元の有るべきモノ、壬空のオレの陽気に戻っている。

 眼球を押さえつけるその掌には、異常な程の力が込められている。

 これが魔力がまだあり、身体強化を施したままの状態だったのならば、壬空の眼は使い物にならなくなっていただろう。

 

「お、お兄ちゃんは、大丈夫なの?」


 不可解な術を使用し、笑い、その後目を押さえてうなっている年上の男に恐怖していた筈の少女がその男───壬空に顔色をうかがうように話しかける。

 だが、なおも壬空は痛みにうめき返事をしない。

 

「ねぇ、お、お兄ちゃん?」


 再度話しかける少女。

 オレは、さっきかららしくない壬空に頭の中で話しかける。


《なぁ、聞かれてんぞ》

「大丈夫だよ、ありがとう」


 壬空はオレにではなく、少女の方に言葉を返す。

 すると少女は息をのむ。

 顔をあげた壬空の目元には、血の涙が溢れ出ていたのだ。

 恐怖の表情を見せる少女に対し、悲しみの念を抱く壬空。

 心の中に寄生するようにして、今までコイツの中で生きてきたが、こんな事に悲しむ壬空は初めてだった。

 今まで父親に非常識な程の訓練を受けてきていた時よりも、この境界に来た時よりも、悲しんでいる。これまではきっと「非常識だ」「普通じゃない」と言って意識を逸らしていたのだろう。だが、これに限ってはそんな言い訳は聞かない。自分より小さな子供を怖がらせた事に、壬空は純粋に、罪悪感を感じているのだろう。

 

「あぁ、ごめんね。俺、怖いよな」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「うん、怖くないよ」


 その罪悪感をそのまま言葉にする壬空に対し、少女と、もう一人────少女を守っていた少年が大丈夫だと言う。それはきっと 強がりだろう。二人の男を一瞬で黒ずんだモノに変えた壬空は相当恐ろしい筈だ。だが、二人は大丈夫だと言ってくれた。それはきっと、壬空に活力を与えるだろう。


「……ありがとう」

「?」


 小さな声で呟いた壬空に疑問を表し首をかしげる二人。

 オレは不覚にも、その姿に少しだけ、本当に少しだけ、可愛いと思ってしまった。


「ぐ…、ぅ……!」


 男の一人─────ケンと呼ばれた方────が呻きをあげる。

 壬空は黒く焼けた身体では、そう簡単に意識は戻らないとでも思っていたのか、驚きをあらわにしている。

 コイツは妖怪の生命力を舐めているのだろうか。

 前回の夜行だって直ぐに去ったが、だからと言って弱かったわけではないのだ。

 壬空の事は狙わないと言っていたが、それさえも怪しいもんだ。


「なぁ、君達。お父さんとお母さんはどこに居るの?」 

《ククッ》

《なんだよ》


 余り聞く事の出来ない壬空の優しい声に、オレは含み笑いを溢す。

 人に気を使える程度に壬空は回復したらしい。

 それにあの男も回復し始めている。呻いたと言う事は止めは刺せていないと言う事。意識はほぼ無いに等しいモノだったから、妖気のもとになる妖怪は燃やしつくすモノだと思っていたが、やはり壬空は甘ちゃんだ。オレならば意識の有る無しに限らず闘った者の息の根は止めておくだろう。


「……いないよ。お父さんも、お母さんも……」

「僕も、そう」

「……そ、そうか」


「じゃ、じゃあ、家は?」

「家もない」


 未だ幼さの残る子供の放った言葉に、動揺する壬空。

 この二人は確実に、人間の子供だ。

 妖怪が多く居るこの國ならば、当然の事なのだろう。子供は二人とも、平気な顔で言ってのけた。

 父親が非常識だとは言え、平和な日本で育って来た壬空には稀な事だからだろうか、壬空は何を言っていいのか迷っているようだ。


「じゃあ、今日だけ、俺と一緒に来るか?」

《クククッ。お前、嫌いな親父と同じ事言ってるって分かってるのか?》

《……五月蠅い》


 ほんの少しの間、この子供二人の身の上を考えて、コイツは非常識な結論に達した。

 自分自身、女二人に養って貰っているくせに、更に子供を連れて帰ろうと言うのだ。

 その壬空の発言は、その父親が戦争孤児などに向けて来た非常識な愛情と、とても似ている。

 コイツは何時も親父の事を嫌いだと言っていたが、なんだかんだでやっている事はその模範なのだ。

 可笑しくて笑いを噛み殺すのが大変だ。


「うん! 私、お兄ちゃんと行く!」

「僕も、そうする」

「分かった。俺の今住んでる所に行くまで、未だ少し時間があるから何かを買って行こう」


 子供二人の回答は、コイツの親父が孤児にこの言葉を放った時と、殆ど変らなかった。

 そして、その回答を聞き、壬空は二人に言葉を続けざまに放ち、頭の中で現状の確認を始める。


 シュウシュウと音を立てながら、火傷やけどを回復させていくケンとホク。

 大凡おおよそ、後二十分程であの二人組の意識も回復するだろう。

 直ぐにここから出て、市場の人ごみに混じれるようにしなければならない。

 だが、その前に子供と自分の手当をしなければ。家に戻ればきっとミズハが治療してくれる。だがそれまで、こんな幼い子供に怪我をさせたままでは気分が悪い。

 壬空はそんな事を考え、自分のジャージの内側のシャツを引き裂いて、少年と少女の傷の手当てを開始した。


 そんな時、



「貴様等! 止まれ!!」



 ここ数日でもう聞き慣れ始めた怒声が、この路地に鳴り響いた。






 ◆ ◇ ◆






 巨大な気の元に迫るため、力を込めた足に蹴られた地面には亀裂が走っている。

 今はその巨大な気の影響で、まるで曇り硝子ガラスで視界を遮られた時のように相手を探れないが、ついさっき飛乃らしき妖気が消え、どこかへ去って行った事だけは分かった。

 後のこの気は一体何者の気なのだろう。

 何だか知っている様な気もするが、誰のだっただろうか。

 

 飛乃の仲間の珠尾タマオの者だったか、それともケンか、もしくはホクのモノか……

 解らない。あの集団には、覚醒をしていない巨大な気の持ち主が多すぎる。

 理由としては、片親が空孤クウコ天孤テンコと言う、場合によっては稲荷御前と言う名の神にも名を連ねる事の有る大妖怪で有る事が上げられるが、今のところ、その事は関係ない。

 しかし、本当に何か覚えのある気なのだ。

 通常の狐の妖怪では持ちえない驚異的な攻撃性。だが、挙がった名の中でこの気と似ている者は居無い。

 では、誰だ?

 何故覚えがある?

 

 何故、何故……。同じ言葉ばかりが、頭の中で蠢き続ける。

 考えていても始まらない。

 ほら、もうその巨大な気は近くに……


「何じゃ? 何故変わる? 何故陰と陽が混ざっておる?」


 目指す路地まで、四つ辻を後四つ残したところで、変化は起きた。

 ただ巨大なだけだった気が、方向性を与えられるように陰と陽で混ざり始めたのだ。

 

「……!」


 そして、方向性を与えられた太極の気は拡散し、集束する。

 初めは空気に混ぜ込むように広く、薄く。次に二つの並んだ球体へと、幻視の術を使う者のチカラの集束のように。


 ──── 一つ、二つ。四つ辻を過ぎる。次は八百屋の所。


 最後には、一瞬で爆ぜる。それが当然であるかのように。そして、ほんの少しの篝火かがりびを三つだけ残し、巨大な気は消え去った。

 脳裏を、悪寒がぎる。

 あの集団は、弱者を虐げる。これは実験なのかも知れない。もしかすれば、私の仕えるこの國に仇名すためのものかもしれない。

 そうすれば、何が有ったのかも知る事が出来ない。飛乃を、元に戻せない。


 ────八百屋の門、三つめを過ぎる。次は刃物屋の少し前。


 それは、とても悲しい。

 けれど仕事に、それも我が國の為。


 ────刃物屋が見え、門で右に曲がりながら声を出す。


 やるべき事は何よりも優先してやらねばならない。

 そう、例えそれがどんなに親しかった者であれ、罪人で有れば國に突き出す。それが私とミズハの仕事。

 だから、だから……


「貴様等! 止まれ!!」


 お前たちには、少しでも罪を侵しては欲しくなかった……!!






 ◆ ◇ ◆






 いきなり路地に来た咲良は気持ちのこもった声で、俺の方へ精一杯の怒声を出した。

 内面に似合わない小さな外見でのそれは、とても、痛ましい。

 ここ数日間で、この怒声は何回か食らっているが、まだ俺は慣れずほんの少しビクついてしまう。

 必死さは痛ましく思えるが、この声量はどうにか出来ないだろか、頭に少しキーンという耳鳴りが鳴っている。


 けれど、このまま固まっていても仕方がない。

 もうすぐ二人の応急処置も終わる。咲良が突然やって来たのも好都合だろう。

 

「なっ、なんじゃこれは……!?」


 この空間に漂う生物の焼ける匂いと目前の惨状から、先の大発火の片鱗を感じ取ったのか咲良は、眼を大きく見開いている。


「……ぅぅう……」

「アレは……!? 飛乃の仲間か?! 否、飛乃を知っているか、壬空」


 そして、奥を見て少しだけ遠くに有る‘蠢く黒い物体’を見つけた。

 ケンとホク。

 飛乃がそう呼んでいた二人だったモノだ。


「ああ、そうだ咲良。そいつらは飛乃とか言う男の仲間だ。さっき、こいつらに暴力を振るっていた、な」

「……あ、露女ちゃんだ……」


 何故か飛乃の事を言う時に悲しそうな表情を見せた咲良に、俺が見た事の一部を伝える。

 少年の方が何かを言っていたが、よく聞こえなかった。


「壬空。怒鳴って済まなかった。お前はこの惨状の原因や、そして何が有ったのかを知っているか」

「ああ……」


 知っているも何も、俺はその当事者だ。

 答えは、yesしかない。


「では、その一部始終を、教えてはくれんか、壬空……」

「ああ……」


 そう俺に頼む咲良の姿は、怒声を放った時の何倍も、可哀そうに見えた。

 そして、咲良には、俺に解る限りの総ての事を伝えた。

 更新です。間和井です。(名前要らん

 今回はなんか活動報告で煽ってましたが、出来ませんでした。


 起こす何かはまた次回です。(ああ、氷を投げないで、案外痛いんだから

 でも、大体私の言う「何か」って言うのは自己満足に近いのでそんなに期待はしない方が……(嫌っ! そんなおっきいの駄目っ! 痛っ アッーー!

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