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8.ソレイユ・ロータスについて

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memo:

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【ラヴェンディア・パンセ(17)】


淡い紫色の髪に、新緑の瞳。

実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。

十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。

冬のプチ・ウィンテルクシュ出身。



【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】


ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。

ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。

人と妖精とのハーフ。

本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。

夏のプチ・アスメルの森に住む。

雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。


 乳母のソレイユ・ロータスは、裕福な商人の娘として夏の街に生を受けた。

 彼女の生い立ちは複雑だ。




 ソレイユは、ムスカリ爺さんの、弟の子ども。つまり姪である。


 しかし、彼とは欠片も似ていない。


 彼女の母は移民。

 海を隔てた遥か向こう、砂の王国サーブルザントで生まれた女性なのだ。


 世界中で貿易をしていたムスカリ爺さんの弟と惹かれ合い、そのまま駆け落ちのようにやってきたのだという。


 ムスカリ爺さんがはじめて結婚の報告をされたときには、すでにお腹にソレイユが居たらしい。





 生まれたソレイユは、この国では異端だった。


 母親譲りの褐色の肌に、エキゾチックな彫りの深い顔立ち。焦げ茶色の髪は、薄い色彩を持つ者の多いこの国ではほとんど見られない。



 ブルムフィオーレは花の王国だ。花のように淡い色や華やかな色が尊ばれる。


 今考えると、彼女が見放された街まで出てきたのは、容姿で苦労したからなのだろう。




 一方、彼女の母親の出身国である砂の王国では、暗い色、中でも黒はとても高貴な色なのだそうだ。


 そう考えると、チョコレート色の髪を持つ彼女は、彼の国の貴族の血を引いているのかもしれない。





 ソレイユが生まれたあとも、彼女の両親はいつまでも恋人のようだった。仕事で遠方に行くときには、必ず妻を伴っていた。


 ーーそうして、彼女が十にも満たないころ、嵐で船が沈んだことで、帰らぬ人となった。その後、ソレイユは、ムスカリ爺さんとその妻によって育てられたのである。





「伯父も伯母も、本当によくしてくれました。

 実の子と同じように育ててくれたと思います。ーーでも、だからこそ、私がここにいては迷惑をかけると思ったのです」


 いつだったか、ソレイユは寂しそうに言った。


「もともと、両親が私を伯父の家に頻繁に預けていることが、子どもながらに気になっていました。人ひとりを育てるのは大変なことなのに。それを身内に丸投げしてしまうなんて、と。

 ーーそういう負い目があったのかもしれません」


 成人した彼女は、伝手を辿って冬の街にやってきた。そして、パンセ伯爵家の侍女として働き始めたのである。




 伝手というのは、血筋によるものだ。


 ソレイユの祖母は、わがパンセ伯爵家の人間なのである。


 政略結婚を嫌がり、侍従とともに出奔。夏の街に居を構えて、ムスカリ爺さんとその弟を生み育てたと聞いている。


 ソレイユは、私の乳母であり、義母であり、そしてはとこでもある。




 ソレイユは、わが家で働きながら、結婚しないまま男の子を産んだ。エンツィアンと名づけられた彼の父親が誰なのか、私は知らない。


 そして、ほぼ同時期に生まれた私の乳母に抜擢された。


 子どもに関心のない実母よりも、母らしい思い出がたくさんあるのはソレイユのほう。


 私は、彼女がずっとそばにいてくれるものだと思っていた。それくらい、私にとって「母」と呼べる存在は彼女のほうだったのだ。




 ところが、実母が亡くなったあと、すべてが変わった。父である現パンセ伯爵が、強引に彼女を妻として召し上げたのだ。


 父は、ソレイユを愛していたわけではない。わが血族である彼女を、貴族令嬢として受け入れるのを拒んだのは父だ。移民の特徴を色濃く受け継いだその容姿を嫌っていたし、侍女として働く彼女を見る父の目はひどく冷えていた。


 だから、不思議だった。遠縁のソレイユの子どもが男の子だったからといって、丸ごとわが家に受け入れたのが。




「エンツィアンの目は、賢者の瞳だ」


「賢者の瞳?」


 その頃はまだ、私と会話をすることのあった父がうなずいた。


「いわば先祖返りのようなものだ。初代パンセ伯爵は非常に才気あふれる人間だった。彼は、なかなか見ない、深い紫色の瞳を持っていた。

 これを持つ者は、代々成功をおさめている」


 実際、ソレイユの息子ーーエンツィアンはとても優秀で、同い年の私よりもはるかにいろいろなことができた。はじめは反対していた周囲も、いつのまにか、エンツィアンこそが跡継ぎにふさわしいと讃えるようになった。


 その筆頭は父だった。実の娘である私よりも、屋敷でたまに見かけるエンツィアンのほうをかわいがっている節があった。


 それは、溺愛と言っても差し支えないくらいで、父はエンツィアンの望みならなんでも叶えた。


 血縁といってもかなり遠いというのに、不思議なくらいだった。


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memo

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【ムスカリ爺さん】

エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。弟がいるが、すでに故人。


【ソレイユ】

ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。

褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。

ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。


【エンツィアン】

ラベンディアと同い年の義弟。



・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。


・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。


・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている。

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