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6.花の王国、冬の街

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memo:

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【ラヴェンディア・パンセ(17)】


淡い紫色の髪に、新緑の瞳。十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。実家から逃げ出してきた。


【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】


ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。

ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。

人と妖精とのハーフ。本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。

実は生活力がある。

「ーーそうだ、まずは君のご家族に挨拶にいかなければ」


 エリアルがほくほくした表情で言った。


 ドレスを着て彼の隣に並べる! と、ぶわりと体の中から熱が集まっていたが、あの北の大地を思い出してしゅんと体温が下がったような気がした。


 私は、この王国の北部、プチ・ウィンテルクシュで生まれた。






 いつだったか乳母が話してくれたのだが、私たちの暮らす国、ブルムフィオーレは、かなり特殊な文化を持っているらしい。


 生まれた女児に守護花名をつけること。また、それだけではない。


 神の御業なのか、王国は綺麗に四つに分かれているのだ。


 プチ・フリュヴェーラ(春の首都)は、王都とその近辺の街。この国でもっとも栄えており、一年中美しい花が絶えない場所だ。


 プチ・アウトゥリーフ(秋の街)は、年中過ごしやすい気候で、フリュヴェーラほどではないがたくさんの花が咲く。


 私が今暮らしているのがプチ・アスメル(夏の街)。ここは蒸し暑く、雨も多くて暮らしにくい。花は少ないが、緑が豊かな場所だ。


 そして、生まれ故郷がプチ・ウィンテルクシュ(冬の街)。


 この大陸で唯一雪が降り、それ以外の時期もとにかく気温が低く、霜が降りるため、ほとんど花が咲かない閉ざされた場所。


 この王国で一番見下されている土地だ。





 ブルムフィオーレ王国は、他国からは「花の王国」と呼ばれている。


 花の生産量が多いだけではなく、すべての物事が花を中心に回っているからだ。


 フリュヴェーラ()アウトゥリーフ()アスメル()ウィンテルクシュ()





 この国では、この順番で「尊い」とされている。


 判断材料はたった一つ。花の豊富さ、多さだ。


 つまり、わが故郷、ウィンテルクシュは最下層。見放された土地と呼ばれている。


 それどころか百年ほど前までは流刑地だった。


 花が咲かない、雪に閉ざされた辺境。ーーそれを一変させたのが、ベリィこと、魔道士エリアルだった。


 彼の研究で、どんなに寒くても耐え、雪をかぶっても咲き続ける「雪菫パンセ」が生まれた。





 パンセのすごいところは、素人でも新種を作れることだ。


 異なる性質を持つパンセ同士を受粉させ、その種を植える。その中から「こんな花をつくりたい」と思う特徴を持つものの種を取り、育てていく。


 これをくり返すことで、さまざまな色、大きさ、形状のものが生み出される。


 今では、たった一つの「パンセ」という品種でありながら、国内のどの花よりも多くの形や色を誇っている。







 いつからか貴族の間で、変わったパンセを作ることが嗜みとなった。


 それをさらに超えて熱中し、パンセと改名までした伯爵が、王都での生活を捨てて、辺境の地へ移住した。


 ーーこれが私の先祖だ。

 私の名前は、ラヴェンディア・パンセ。

 パンセ伯爵家の長女ーーだった人間である。





 だから、ムスカリ爺にこの屋敷を紹介されたとき、私は歓喜した。


 妖精魔道士エリアルはもともと尊敬する人だった。


 はじめて会ったとき、自分よりほんの少し年上に見える美しい人に、たぶん、恋をした。


 ともに過ごすうちに、言葉が少なく、人とほとんど関わらないながらも、目の前の相手をよく見て、伝わりにくい気遣いをする不器用さをかわいく、愛おしく思うようになった。





 私は、妖精魔道士エリアルを、ベリィを、愛しているのだと思う。



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memo

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【ムスカリ爺さん】

エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。


【ソレイユ】

ラヴェンディアの乳母。


・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。


・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。


・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている。





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ラベンダー! 植物図鑑

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パンセ(Panse)


ビオラをもとにした架空の花。


・花期:冬(秋・春も気温が低ければ咲く)

・花言葉:「穏やかな幸せ」「あなたに尽くす」など

・別名:雪菫



ビオラが好きで、昨年は二十種類くらいを育てました。育種にも挑戦したものの、うまく種がつかず……。


切り花にしたり、押し花にしたりと、楽しみの多い花。自然にできた種をたくさん集めたので、変わり種が咲くのか楽しみです。

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