4.エリアルの真名
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キャラクターや設定紹介が増えてきたので、ヒーロー&ヒロイン以外の情報はあとがき部分に載せることにしました!
前話までの内容を反映しています。
【ラヴェンディア・パンセ(17)】
淡い紫色の髪に、新緑の瞳。十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。実家から逃げ出してきた。
【妖精魔道士エリアル(見た目年齢17歳/実年齢約300歳)】
ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。
ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。
人と妖精とのハーフ(?)
「妖精魔道士エリアル」が本名ではない。
それを知ったのは、誓いの儀を終え、転移魔法で森の屋敷へ戻ったあとだった。
すっかり冷めてしまった夕食を向かいあって食べながらーーはじめての経験で私はすっかり上の空だったーー珍しく彼は饒舌に話をした。
これまで、彼はもちろん、私も言葉を発することがないため、この屋敷はいつも静まり返っていたのである。
ぽつりぽつりと自分のことを教えてくれるエリアルに相づちを打ち、ときに質問をしてみていると、私はまるで、自分が彼の家族になれたかのような錯覚を覚えた。
ーー形式上はすでに家族なのだけれど、現実味がなかった。明日目を覚ましたら、終わってしまいそうな。
教えてもらったことの中で、もっとも衝撃的だったのは、彼の名がエリアルではないということ。
彼の真名は「ストロベリアルドベック・コプロスマ」という。
名門貴族であるコプロスマ侯爵家に連なる血筋だが、母親が妖精だということで、二百五十年年前に戸籍から消されている。
その後、英雄と呼ばれるようになった彼に、実家の者が近づいてくることもあったようだが、彼は森での自由な研究生活をやめるつもりがなかったようだ。
「す、ストロベリアル・ルドベック様……?」
私は言い間違いに気づいて羞恥に染まり、彼は珍しく目を細めて、笑みをこらえているようだった。
舌をかみそうなこの長い名前は、妖精式の名づけ方。
ただし、本当の名前は人間には発音できない音で、そこに近い音の響きを当てはめたのだという。
妖精の名づけには決まりがあり、名前の最後に花の名を加えるらしい。守護花名と少し似ている。
ルドベックは夏に咲く大輪の花だ。
さまざまな色があるけれど、そういえば、ムスカリ爺さんの家の花壇に、ベリィの髪と同じ色をしたものがあったように思う。
栗のように大きな赤茶色の花芯から、淡いピンクの花びらがドレスのように垂れ下がっている。
彼の名はもしかすると、いちご色のルドベックの花、なんて意味なのかもしれない。
「この真名は、ムスカリ坊も知らないことだ」
私の思考を読んだかのようにベリィが言った。
「ーー君にはベリィと、……その、……愛称で呼んでもらいたい」
自分だけが特別になったような嬉しさを感じた。そして、それを恥じた。
こんな仄暗い優越感のような気持ちを持つなんて。妻というのは、きっともっと清廉で、相手を丸ごと受け入れられるものなのに。
「"だから、あなたはだめなんだ”」
脳内に誰かの声が響く。--私は、この才気溢れた人の妻に、ふさわしくない。私なんかがそう呼ぶなんておこがましい。
でも、目の前にいる人の、これまで見たことのない、柔らかな視線が。生まれてからたった1人にしか呼ばれたことのない愛称を呼んでもらえたことが。
そっと背中を押してくれる。
「ーーベリィ」
私が絞り出すように言うと、彼は満足そうに笑った。
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【ムスカリ爺さん】
エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。
【ソレイユ】
ラヴェンディアの乳母。
・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。
・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。