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3.誓いの儀

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memo:

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【ラヴェンディア・パンセ(17)】

淡い紫色の髪に、新緑の瞳。十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。実家から逃げ出してきた。


【妖精魔道士エリアル(見た目年齢17歳/実年齢約300歳)】

ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。

ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。

人と妖精とのハーフ(?)


【ムスカリ爺さん】

エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。


【ソレイユ】

ラヴェンディアの乳母。


・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。


・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。


 あの突然の求婚から結婚まではあっという間のことだった。


 でも、そうでなかったら、たぶん私は逃げ出していたと思う。私なんかが彼と釣り合うわけがないのだから。


 けれどもまさか、承諾した直後に結婚することになるとは、思いもしなかった。






 エリアルの突然の豹変に固まっていると、彼は今にも泣きそうに顔を歪めて「ーー結婚……してほしい」とふたたび言った。


 私はすっかり混乱して、頭の中が真っ白になっていたから、何も考えずにこくこくと頷いた。


 エリアルは破顔した。


 そして、私の手をうやうやしく取る。はじめて触れた彼の手は、ひんやりと冷たかった。


「“転移”」


 エリアルが呟いた。これまでに聞いた事のないような甘やかな声。


 涙が溜まったときのように視界がじゅわりと滲みだし、細胞が引っ張られるような不思議な感覚に襲われた。


 立っていられなくなり、ふらつき出した私の腰を、エリアルが支える。抱きしめられるような形になり、私の頭はますます沸騰した。





「ーー妖精魔道士……さま?」


 はじめて聞く声に、少しずつ意識が戻ってくる。


 気がつくとエプロン姿のまま聖堂の中にいて、目の前にはあんぐりと口を開けた神父が立っていた。


「今すぐに誓いの儀を」


「え?」

 神父は驚いて、エリアルと私との間で視線を行ったり来たりさせた。エリアルが一歩前に踏み出し、「……頼まれてはくれないだろうか?」と不安げに訊く。


「ーーは、はい! 喜んで!」


 神父は、両手と両足を揃えて出しながら、壊れたブリキ人形のような動きで駆けていった。


 彼の立ち会いのもとで、まるで夢を見ているかのようにぼんやりと誓いの言葉を口にし、優しい口づけをした。


 目をつむる暇もなかった。


 近づいてくる憧れの人の顔。まるで愛しい人を見るように目が細められたかと思うと、静かに目が閉じられた。


 まつ毛まで、ストロベリーブロンドなのだ。


 私は呑気にそんなことを考えていた。


 その後ろには教会の大きな窓が広がり、暮れていく空の薄紫色に爪のような月が浮かんでいるのが見えた。


 くちびるに、はじめての感触が落ちてきた。




 エリアルはそのまま私をぎゅうっと抱きしめていた。


 硬直したままの私の手から、神父がそっとお玉を取った。修道女が素朴なベールと野草の花束を持って駆けてきたときには、誓いの儀は終わっていた。






 こうして、ある夏の夜、唐突に私は妖精魔道士の妻となったのだった。






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ラベンダー!植物図鑑

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モブキャラクター、隣の奥さん:ウルティカ


◆イラクサ(Urtica thunbergiana)


・茎は四角く、葉と茎に刺毛がある。

・花言葉「根拠のない噂」など



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