表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

26. たった一つの願い

------------------

memo:

------------------


回想編/ベリィ視点


ベリィとラベンダーの物語にお付き合いいただき、ありがとうございます!

物語はあと数話。


本日8月4日夜に完結予定です。


完結後も後日談や番外編を投稿予定です。


何を書こうかなーとだいたい迷っているので、この作品以外でもなにかあればTwitter(@Rinca_366)から教えていただけるととっても喜びます!



 それからは穏やかな日々だった。


 僕は、毎日ラヴェンディアと食事をともにするようになった。


 一緒に朝食をとりたかったので、夜の研究時間もほどほどのところで切り上げるようになった。


 家政婦と雇い主としてではなく、一人のかけがえのない友として接するようにした。


 彼女に教えを乞い、身の回りのこともひと通り自分でできるようになった。




 僕は愚かだった。


 彼女がどうして、あれほどまで僕にいろいろなことを教えたのか。ーーその日が来るまで気がつかなかった。


 毎日顔を突き合わせていたから。






「エリアル様。申し訳ないのですが、ピンクベリーを摘んできていただけませんか?」


 それは夏の夕方だった。ラヴェンディアが僕に頼み事をしたのは初めてで、僕は嬉しくなって庭に出た。


 空は珊瑚色で、同じ色に染まった雲がたなびいていた。


 このごろは、魔法だけに頼らず、自分の手でいろいろなことをしていたけれど、早く彼女に見てもらいたくて、風を操って籠のなかに僕の髪と同じ色の実を集めた。


 そうして戻ってみると、台所の床に、ラヴェンディアが倒れていた。





 そのとき、愚かな僕は思い出した。


 人間たちは、突然命を散らしてしまうこともあるけれど、こんなふうに髪が白くなり、肌の水分が抜けると脆くなるのだ。


 ムスカリがそうだったではないか。




「ラヴェンディア……?」


 ラヴェンディアは、うつ伏せになったまま、顔だけをこちらに向けた。


 その肌は真っ白で、生気が見られなかった。


「ーーエリアル様……?」


 困ったように笑った。その目から、ぽろりと涙が一つ落ちる。


「ああ、……こんな姿、見せたくなかったのに……」


「ラヴェンディア……!」


 僕は、目の奥から熱いなにかがせり上がってくることに気がついた。


 喉の奥が圧迫されたように苦しい。これは、ムスカリが死んだときと同じ感覚だった。


 ラヴェンディアは、苦しげに背中を上下させながら「最後に……」とつぶやいた。


「最後に、ひとつだけ、お願いしてもよろしいですか……?」


 僕は声を出すこともできずに、うなずいた。


「ラベンダー、と。

 私のことを、ラベンダーと呼んでくださいませんか」


 彼女は何度もゆっくりと瞬きをしていた。


 終わりのときが近いのだと気がつき、僕は首を横に振った。


 愛称を呼んでしまったら、すべてが終わってしまう気がしたのだ。


「お願いします……。義母以外、誰にも呼ばれたことがないのです。

 --私なんかのことは、そう呼べませんか?」


 結局、いつまでも自己評価が低かった。


 不安げに揺れる瞳を見たら、否やとは言えなかった。


「ーーラベンダー」


「はい、旦那様」


 ラベンダーはくしゃりと笑った。次の瞬間、ひどく咳き込んだ。


 口元を押さえた手には、血がべっとりとついている。


「ーーおなかがすいているのはだめですよ」


「うん」


「暗いところにいるのも」


「うん」


「寝ないでいるのも」


「ーーうん」


 "不潔なところにいるのも"ーー。


 いくら待っても、その言葉は返ってこなかった。







 そのときだった。


 ラベンダーの体がきらきらと光って、ぱちん、ぱちんと何かが弾ける音がした。




 同時に、エリアルの胸の奥から、強烈な感情が湧き上がってくる。


 そうして彼は初めて気がついた。


 ラベンダーに抱くこの思いには名前があるということ。


 それは使用人と雇い主としての情でもなければ、友人への親愛の情でもない。


 焦がれるような、それでいて穏やかな、愛情なのだと。



「ラベンダー……?」


 いつのまにか皺だらけになっていた小さな白い手が、どんどん冷たく固くなっていく。涙は後からあとから溢れてきて、止まらなかった。


「--ラベンダー!」







 屋敷の裏手にラベンダーの墓をつくった。


 魔法ではなく、手で掘ったら、真夜中までかかった。


 なにもかも放り出してしまいたかったけれど、なんとか厨房に立つ。


 ところが、保冷箱の中には、ラベンダーが作っていたらしい料理がたくさん入っていた。


 勘の鋭い彼女は、この日のことまで見通していたのかもしれないと思った。




 なにかが壊れたかのように、涙が止まらない。ただただ、瞳が川になったかのように絶えず流れ続けている。


 僕は、ラベンダーの遺した料理を泣きながら食べた。





------------------

memo:

------------------


【ラヴェンディア・パンセ(17→18)】


淡い紫色の髪に、新緑の瞳。

実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。

十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。

冬の街プチ・ウィンテルクシュ出身。

実は酒が好き。

義弟によって「誰かに愛されるまで自信を持てない呪い」と「死ぬまで誰にも愛されない呪い」をかけられていた。(解けている?)



【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】


ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。

ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。

人と妖精とのハーフ。

本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。

夏の街プチ・アスメルの森に住む。

雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。


【ムスカリ爺さん】

エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。

弟フォンダンがいるが、すでに故人。


【ソレイユ】

ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。

褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。(本当は紫色の目)

母親が異国(砂の王国)の高位貴族(?)であり、祖母がパンセ家の令嬢。

実は魔法が使える。

ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。



【エンツィアン】

ラベンディアと同い年の義弟。

"望まれない子ども"(?)

薄紫の髪に、濃い紫の瞳。

ラヴェンディアに2つの呪いをかけていた。

実は、三大魔法使いのひとり「名無しの魔法使い」の生まれ変わり。




【ソフィ】

ラヴェンディアの友人。金髪緑目、小柄だけどどこか妖艶な美女。

その正体は、三大魔法使いの一人「綿毛の魔女」。


【リグラリア先生】

ラヴェンディアの家庭教師だった人。老齢の魔法使いのような見た目。魔法マニア。気になることがあるとそちらに夢中になってしまうタイプ。

魔法は使えないが、知識は膨大。


【グ二ー】

パンセ家の元料理人。


【クロッカス】

ムスカリ爺さんの曽祖父。


・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。


・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。


・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている


・「時氷の魔法」

体の時を止める魔法。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ