26. たった一つの願い
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memo:
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回想編/ベリィ視点
ベリィとラベンダーの物語にお付き合いいただき、ありがとうございます!
物語はあと数話。
本日8月4日夜に完結予定です。
完結後も後日談や番外編を投稿予定です。
何を書こうかなーとだいたい迷っているので、この作品以外でもなにかあればTwitter(@Rinca_366)から教えていただけるととっても喜びます!
それからは穏やかな日々だった。
僕は、毎日ラヴェンディアと食事をともにするようになった。
一緒に朝食をとりたかったので、夜の研究時間もほどほどのところで切り上げるようになった。
家政婦と雇い主としてではなく、一人のかけがえのない友として接するようにした。
彼女に教えを乞い、身の回りのこともひと通り自分でできるようになった。
僕は愚かだった。
彼女がどうして、あれほどまで僕にいろいろなことを教えたのか。ーーその日が来るまで気がつかなかった。
毎日顔を突き合わせていたから。
「エリアル様。申し訳ないのですが、ピンクベリーを摘んできていただけませんか?」
それは夏の夕方だった。ラヴェンディアが僕に頼み事をしたのは初めてで、僕は嬉しくなって庭に出た。
空は珊瑚色で、同じ色に染まった雲がたなびいていた。
このごろは、魔法だけに頼らず、自分の手でいろいろなことをしていたけれど、早く彼女に見てもらいたくて、風を操って籠のなかに僕の髪と同じ色の実を集めた。
そうして戻ってみると、台所の床に、ラヴェンディアが倒れていた。
そのとき、愚かな僕は思い出した。
人間たちは、突然命を散らしてしまうこともあるけれど、こんなふうに髪が白くなり、肌の水分が抜けると脆くなるのだ。
ムスカリがそうだったではないか。
「ラヴェンディア……?」
ラヴェンディアは、うつ伏せになったまま、顔だけをこちらに向けた。
その肌は真っ白で、生気が見られなかった。
「ーーエリアル様……?」
困ったように笑った。その目から、ぽろりと涙が一つ落ちる。
「ああ、……こんな姿、見せたくなかったのに……」
「ラヴェンディア……!」
僕は、目の奥から熱いなにかがせり上がってくることに気がついた。
喉の奥が圧迫されたように苦しい。これは、ムスカリが死んだときと同じ感覚だった。
ラヴェンディアは、苦しげに背中を上下させながら「最後に……」とつぶやいた。
「最後に、ひとつだけ、お願いしてもよろしいですか……?」
僕は声を出すこともできずに、うなずいた。
「ラベンダー、と。
私のことを、ラベンダーと呼んでくださいませんか」
彼女は何度もゆっくりと瞬きをしていた。
終わりのときが近いのだと気がつき、僕は首を横に振った。
愛称を呼んでしまったら、すべてが終わってしまう気がしたのだ。
「お願いします……。義母以外、誰にも呼ばれたことがないのです。
--私なんかのことは、そう呼べませんか?」
結局、いつまでも自己評価が低かった。
不安げに揺れる瞳を見たら、否やとは言えなかった。
「ーーラベンダー」
「はい、旦那様」
ラベンダーはくしゃりと笑った。次の瞬間、ひどく咳き込んだ。
口元を押さえた手には、血がべっとりとついている。
「ーーおなかがすいているのはだめですよ」
「うん」
「暗いところにいるのも」
「うん」
「寝ないでいるのも」
「ーーうん」
"不潔なところにいるのも"ーー。
いくら待っても、その言葉は返ってこなかった。
そのときだった。
ラベンダーの体がきらきらと光って、ぱちん、ぱちんと何かが弾ける音がした。
同時に、エリアルの胸の奥から、強烈な感情が湧き上がってくる。
そうして彼は初めて気がついた。
ラベンダーに抱くこの思いには名前があるということ。
それは使用人と雇い主としての情でもなければ、友人への親愛の情でもない。
焦がれるような、それでいて穏やかな、愛情なのだと。
「ラベンダー……?」
いつのまにか皺だらけになっていた小さな白い手が、どんどん冷たく固くなっていく。涙は後からあとから溢れてきて、止まらなかった。
「--ラベンダー!」
屋敷の裏手にラベンダーの墓をつくった。
魔法ではなく、手で掘ったら、真夜中までかかった。
なにもかも放り出してしまいたかったけれど、なんとか厨房に立つ。
ところが、保冷箱の中には、ラベンダーが作っていたらしい料理がたくさん入っていた。
勘の鋭い彼女は、この日のことまで見通していたのかもしれないと思った。
なにかが壊れたかのように、涙が止まらない。ただただ、瞳が川になったかのように絶えず流れ続けている。
僕は、ラベンダーの遺した料理を泣きながら食べた。
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memo:
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【ラヴェンディア・パンセ(17→18)】
淡い紫色の髪に、新緑の瞳。
実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。
十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。
冬の街プチ・ウィンテルクシュ出身。
実は酒が好き。
義弟によって「誰かに愛されるまで自信を持てない呪い」と「死ぬまで誰にも愛されない呪い」をかけられていた。(解けている?)
【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】
ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。
ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。
人と妖精とのハーフ。
本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。
夏の街プチ・アスメルの森に住む。
雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。
【ムスカリ爺さん】
エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。
弟フォンダンがいるが、すでに故人。
【ソレイユ】
ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。
褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。(本当は紫色の目)
母親が異国(砂の王国)の高位貴族(?)であり、祖母がパンセ家の令嬢。
実は魔法が使える。
ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。
【エンツィアン】
ラベンディアと同い年の義弟。
"望まれない子ども"(?)
薄紫の髪に、濃い紫の瞳。
ラヴェンディアに2つの呪いをかけていた。
実は、三大魔法使いのひとり「名無しの魔法使い」の生まれ変わり。
【ソフィ】
ラヴェンディアの友人。金髪緑目、小柄だけどどこか妖艶な美女。
その正体は、三大魔法使いの一人「綿毛の魔女」。
【リグラリア先生】
ラヴェンディアの家庭教師だった人。老齢の魔法使いのような見た目。魔法マニア。気になることがあるとそちらに夢中になってしまうタイプ。
魔法は使えないが、知識は膨大。
【グ二ー】
パンセ家の元料理人。
【クロッカス】
ムスカリ爺さんの曽祖父。
・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。
・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。
・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている
・「時氷の魔法」
体の時を止める魔法。




