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24. 時氷の魔法

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memo:

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回想編/ベリィ視点

 ラヴェンディアは、ひどく自信のない娘だった。


 十三という年齢にしては大人びており、賢そうだったが、いつもなにかに怯え、失敗するとひどく自分を責める。


 器量も決して悪くはない。


 それどころか、垂れ目がちの瞳は愛らしく、鼻や口もこぶりで、おそらく見目が整っているほうなのだろうと思った。





 貴族だったというから、ラヴェンディアの働きぶりには期待していなかったが、彼女はなんでもできた。


 乳母や使用人が仕込んでくれたのだという。




 それだけではなく、もともとの気質なのだろう。


 こちらが求めていることを読み取ったかのように先回りして、居心地のよい、研究しやすい環境を作ってくれているのが伝わってきた。


 たとえば、昼食は必ず片手でつまめるものにしてくれた。


 必要なこと以外は干渉せず、しかし、仕事は完璧に仕上げる。



 さらに、どうやら僕の体調や考えていることがなんとなくわかるらしかった。


 眠りたくない夜にはブラックコーヒー、疲れている夜にはハーブティーを用意してくれる。


 控えめな性格でいつも緊張していたが、僕を見る目はいつもきらきらとしていた。


 ごくたまに見せる笑顔に、心が揺れることがあった。


 だが、それはすぐにじわじわと消えていく。






 何年か経った。ラヴェンディアはすっかり大人になった。


 ここに来たときよりはふっくらして、髪も艶やかになった。

 笑顔も増えた。



 ある日、ラヴェンディアのことを嗅ぎ回っている小物を見つけた。

 記憶を改ざんしておいた。



 ある夕方には、害意を持って屋敷に近づいた者がいることに気がついた。


 結界は何重にも張ってあり、ラヴェンディア、ムスカリ、そして僕以外が触れるとわかるようになっている。


 とりわけ、害意を持つ者が近づくと、僕だけに聞こえる警鐘がなるように設定してあった。





 ラベンダーと同じ色の髪をした男は、にやにやと笑いながら結界を撫でていた。


 僕は、背中から魔法を打ち込んだ。

 男はこちらに気づいていたが、あえて攻撃を受けたようだ。不可解だった。


 そのとき、()()()()()()()()()()()がした。なにかはわからなかった。



 男はにやついた顔のまま固まっていた。見た目は氷に包まれているようなものだ。


 僕はそれを、森の奥の泉に沈めておいた。


 殺すつもりは無い。


 いつか、誰かに見つかれば魔法を解除してもらえるだろう。






 僕が使ったのは攻撃魔法ではない。開発中の魔法だ。時氷(ときごおり)の魔法という。


 対象の体を氷のような鉱物のような、透明の膜で覆う。


 その中では、死ぬことなく、時が止まった状態になる。






 ムスカリの曽祖父であるクロッカスが、治療法のない病が原因で亡くなったのをきっかけに思いついたものだ。


 治療法が見つかるまで体の時を止めておくことができないだろうかと考え、試作した。


 それ以降は、幸いラヴェンディアを狙ってくるような者はいなかったのだが、ーーある晩、ムスカリが死んだ。


 老衰だった。







 僕は部屋に閉じこもり、何日も研究を重ねた。時氷の改良版だ。


 体の時を止めて、動けるようにする。僕の不老に近いものを考えた。


 それからどれくらい経ったのだろう。僕は、床に突っ伏していた。


 研究は遅々として進まない。


 体の時を止めるだけでなく、意識も保てるようになった。だが、これでは失敗作だ。


 そこから先が進まない。


 胸の中にぽっかりと穴が空いたような感覚があり、ーーはじめて、この体を呪った。


 それでもなんとか這い上がり、苛立ちを覚え、机に並べたものをすべてはたき落とす。


 紙が舞い、硝子の割れる音がした。





 そのとき、ばたばたと階段を駆け上がってくる音がした。


 足音の主は、カーテンを強く引いた。


 真っ暗な部屋に、光が差した。




【ラヴェンディア・パンセ(17→18)】


淡い紫色の髪に、新緑の瞳。

実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。

十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。

冬の街プチ・ウィンテルクシュ出身。

実は酒が好き。

義弟によって「誰かに愛されるまで自信を持てない呪い」と「死ぬまで誰にも愛されない呪い」をかけられていた。(解けている?)



【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】


ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。

ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。

人と妖精とのハーフ。

本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。

夏の街プチ・アスメルの森に住む。

雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。


【ムスカリ爺さん】

エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。

フォンダンがいるが、すでに故人。


【ソレイユ】

ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。

褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。(本当は紫色の目)

母親が異国(砂の王国)の高位貴族(?)であり、祖母がパンセ家の令嬢。

実は魔法が使える。

ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。



【エンツィアン】

ラベンディアと同い年の義弟。

"望まれない子ども"(?)

薄紫の髪に、濃い紫の瞳。

ラヴェンディアに2つの呪いをかけていた。

実は、三大魔法使いのひとり「名無しの魔法使い」の生まれ変わり。




【ソフィ】

ラヴェンディアの友人。金髪緑目、小柄だけどどこか妖艶な美女。

その正体は、三大魔法使いの一人「綿毛の魔女」。


【リグラリア先生】

ラヴェンディアの家庭教師だった人。老齢の魔法使いのような見た目。魔法マニア。気になることがあるとそちらに夢中になってしまうタイプ。

魔法は使えないが、知識は膨大。


【グ二ー】

パンセ家の元料理人。


【クロッカス】

ムスカリ爺さんの曽祖父。


・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。


・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。


・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている


・「時氷の魔法」

体の時を止める魔法。

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