22. 妖精魔道士エリアル
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memo:
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結婚してから一年近く経った、夏。
実家にて←now
【ラヴェンディア・パンセ(17)】
淡い紫色の髪に、新緑の瞳。
実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。
十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。
冬の街プチ・ウィンテルクシュ出身。
実は酒が好き。
義弟によって「誰かに愛されるまで自信を持てない呪い」と「死ぬまで誰にも愛されない呪い」をかけられていた。(解けている?)
【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】
ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。
ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。
人と妖精とのハーフ。
本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。
夏の街プチ・アスメルの森に住む。
雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。
「あっ! ベリアル!」
名無しの魔法使いは、顔を輝かせた。
「……その名で呼ぶのはやめてもらおう」
「いいじゃんいいじゃん。ちゃんと覚えてるよ! エリアルでしょ?
でもあだ名は親愛の証! いちごっぽい頭とよく合っててかわいいしさ!
これで全員集合って感じだね! なんでも、俺たち三人って、偉大な魔法使いとか呼ばれてるんでしょ?」
「ーー三大魔法使いよ」
「もう、綿毛のは昔から細かいんだから……」
男は口を尖らせる。
「ベリアルさぁ、ずいぶん腑抜けたんじゃないの? いや、ここ五年ほどの結界はすごかったけどさぁ。……全然義姉さんを連れ戻す機会がなかったんだもん。
でも、なにか心配事でもあったの? 本当はあと三年くらい、完全体になるまで待つつもりだったんだけどさ、ぶれぶれの結界だったから、エンツィっちのうつわのままでもすぐに壊せちゃった!」
彼は悪意なく聞いた。
ベリィはなにも答えず、ソフィと私に向かって魔法を放った。
それはきらきらとした雪の結晶のような青い光で、私たちのまわりをドーム状に囲むと、氷のようにかちりと固まった。
「ふうん。今度のは精度が高いんじゃない? いい感じ」
男はにこにこして言う。
けれども、ベリィを上から下まで眺めると「んん?」と言いながら目を細めた。
「ーーねえねえ、ベリアル、なんかさ、背が伸びてない?」
ベリィがぴくりと眉を動かした。
動揺している証拠だ。現に、名無しの魔法使いが放った魔法に反応が遅れた。
「ーーベリィ!」
彼の魔法がベリィの頭を直撃する。私は思わず悲鳴をあげた。
ところが、彼がけがをする様子はなかった。
戸惑ってはいるようだったが、どこにも傷はなさそうでほっとする。
しかし次の瞬間、窓が割れたときのように、きらきらとしたなにかの破片、それも実体を持たないものが、部屋じゅうに飛び散った。
まるで鏡の割れたかけらのような……。
私ははっとする。そのかけら一つひとつに、私やベリィ、ムスカリ爺さんなどが映っているのだ。
求婚されたあの日の小さな結婚式、酒場で過ごしているところ……。
知らない顔もたくさんある。
ムスカリ爺さんによく似た、けれども豊かな髭を持つ男性。
それだけじゃない。
棺の中で眠っているのは、ムスカリ爺さん……?
泣きそうな顔で怒っているのは私……?
ソフィとベリィが同じ部屋で一心不乱になにかを調べているものも見つけて、ちくりと胸が痛む。
戸惑っていると、光の破片の中に、ひときわ大きな欠片を見つけた。
そこには棺の中で眠る老婆に縋って泣くベリィの姿が見える。
破片の中のベリィは、その老婆を前に、はらはらと涙を落としていた。
『ラベンダー……』
私の名を呼びながら。
「--記憶の欠片だわ」
隣にいたソフィがぽつりと言った。
私の傷はほとんど塞がっていたけれど、胸にぽっかりと穴があいたように、冷たいものが通り抜けていった。
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【ムスカリ爺さん】
エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。弟がいるが、すでに故人。
【ソレイユ】
ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。
褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。(本当は紫色の目)
母親が異国(砂の王国)の高位貴族(?)であり、祖母がパンセ家の令嬢。
実は魔法が使える。
ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。
【エンツィアン】
ラベンディアと同い年の義弟。
"望まれない子ども"(?)
薄紫の髪に、濃い紫の瞳。
ラヴェンディアに2つの呪いをかけていた。
【ソフィ】
ラヴェンディアの友人。金髪緑目、小柄だけどどこか妖艶な美女。
その正体は、三大魔法使いの一人「綿毛の魔女」。
【リグラリア先生】
ラヴェンディアの家庭教師だった人。老齢の魔法使いのような見た目。魔法マニア。気になることがあるとそちらに夢中になってしまうタイプ。
魔法は使えないが、知識は膨大。
・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。
・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。
・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている




