20. 綿毛の魔女
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memo:
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結婚してから一年近く経った、夏。
実家にて←now
【ラヴェンディア・パンセ(17)】
淡い紫色の髪に、新緑の瞳。
実家から逃げ出してきた元伯爵家長女。
十三歳のころから、森の屋敷で住み込み家政婦として働いている。
冬の街プチ・ウィンテルクシュ出身。
実は酒が好き。
義弟によって「誰かに愛されるまで自信を持てない呪い」と「死ぬまで誰にも愛されない呪い」をかけられていた。(解けている?)
【妖精魔道士エリアル(見た目17歳/実年齢約300歳)】
ストロベリーブロンドに、色素の薄い青い目。童顔。
ラヴェンディアの雇い主。三大魔法使いの一人「叡智の妖精魔道士」。
人と妖精とのハーフ。
本名「ストロベリアルドベック・コプロスマ」。愛称「ベリィ」。
夏の街プチ・アスメルの森に住む。
雪の中でも咲く花「パンセ」を開発した。冬の街では英雄扱い。
義弟は、私が動けないように両手をきつく縛り、縄の先端を寝台に結んだ。
ーーもう、逃げられない。
まるで走馬灯のように、これまでの温かい暮らしが頭の中を駆け抜けていく。
ベリィには実家でのことは詳しく話していないのだ。いきなり消えたって、どこに行ったのかわからないだろう。
にやにやと嗤う義弟の手が迫ってくる。涙がぽろりと落ちる。
そのときだった。
なんの前触れもなく、義弟が吹き飛ばされた。
エンツィアンは、壁にめり込みそうなくらい強く全身を打ちつけた。
うめき声とともに、口から血を吐き、ぐにゃりと床にくずおれた。
「汚らわしい手で、わたくしの親友に触らないでくれる?」
聞き慣れたその声は、いつも酒場で会っていた友人のもの。私が勝手に嫉妬していたあの子の、少しハスキーな声。
「ソフィ……?」
私と目が合うと、ソフィはなにかをこらえるようにぎゅっと眉根を寄せた。
そして屈んで、きつく縛られた縄を切った。
「怖い思いをさせてごめんなさい。もっと早く気づけていたら……」
ソフィは、声を震わせている。
「--ソフィも、魔法が使えるの……?」
私の言葉に、彼女はしまったという顔をした。ややあって「黙っていてごめんなさい」とこぼした。
「でも、いつの間にここに……」
言いかけて、先ほど窓を開けた時、葉っぱや小さな綿毛が飛び込んできたのを思い出した。
ーー綿毛の魔女は、正義と縁結びの魔女。金の髪に新緑の瞳を持つ乙女。彼女は、蟻のように小さくなることができ、綿毛に乗ってこっそりと移動をするーー。
リグラリア先生が、そう話していた。
視界の端でなにかが動いた。
それは驚くほど速く、跳ぶようにこちらに迫ってきた。
闇の中できらりと光るものがある。その先には、ソフィの無防備な背中があって。
ソフィを突き飛ばす。
脇腹に、焼けるような痛みが走った。
「ラベンダー!」
それは、ソフィが初めて口にした私の愛称だった。
刺されたらしいことはわかったけれど、傷を見る勇気も、体力もなく、私はその場に崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れた私にソフィが駆け寄ってくる。
彼女は、私の痛む腹のあたりに手をかざした。痛みが和らぎ、傷口が編まれるかのように少しずつ治されていくのを感じた。
対するソフィは、額にじっとりと汗の珠が浮かび、美しい金髪が濡れて頬に張りついている。
彼女が魔法で治してくれているらしい。
私の思うように動かない喉が、ひっと音を立てる。
血を吐いて倒れていたはずの義弟がゆらゆらと蠢くように近づいてくるのだ。
そしてその髪が、毛先から黒く染まっていくのが見えた。
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【ムスカリ爺さん】
エリアル唯一の友を自称する筋骨隆々とした老人。病弱な妻を愛している。パンセ伯爵家長女の母親と、使用人の父親を持つ。弟がいるが、すでに故人。
【ソレイユ】
ラヴェンディアの乳母であり義母であり、はとこ。
褐色の肌、焦げ茶の髪、金色の目。(本当は紫色の目)
母親が異国(砂の王国)の高位貴族(?)であり、祖母がパンセ家の令嬢。
実は魔法が使える。
ムスカリ爺さんの姪で、成人したのをきっかけにパンセ家で働くようになった。
【エンツィアン】
ラベンディアと同い年の義弟。
"望まれない子ども"(?)
薄紫の髪に、濃い紫の瞳。
ラヴェンディアに2つの呪いをかけていた。
【ソフィ】
ラヴェンディアの友人。金髪緑目、小柄だけどどこか妖艶な美女。
その正体は、三大魔法使いの一人「綿毛の魔女」。
【リグラリア先生】
ラヴェンディアの家庭教師だった人。老齢の魔法使いのような見た目。魔法マニア。気になることがあるとそちらに夢中になってしまうタイプ。
魔法は使えないが、知識は膨大。
・ブルムフィオーレ王国の子どもは「正式名」と、愛称となる「守護花名」の二つの名をもらう。
・ブルムフィオーレ王国には、魔法を使える者はほとんど生まれない。三大魔法使いとして歴史に名を残す者たちがいる。
・ブルムフィオーレ王国は、四つの地方に分かれている。




