表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日は優しく穏やかな一日

作者: 雨 杜和

 昨日、夕刻から買い物に出かけました。

 新型コロナウィルスの蔓延から買い物時間を変えていて、夕刻はスーパーの人も少ない。


 でも雨混じりの風が思いのほか強く。

 吹き飛ばされそうになって、びっくりしました。


 今日は昨日の荒天が嘘のように穏やかな日になっています。


 なぜか、こういう穏やかな天候が少なくなった気がして、

 昔は、もっと穏やかな日が多かったように思えます。


 穏やかで、ずっと優しかったような。



 昼下がり、パソコン前の窓を開けていると、近所の人の声が聞こえてきました。


 少しとんがった声も聞こえる。

 その声は興奮したようにも、怒ったようにも感じる声で、母親のようだけど、実際は怒っているんじゃない。ただ、小さな子にお母さんが注意しているだけ。



「ほら、もういい加減にしなさい。遊んでないで、手伝って!」

「ふふふ」

「だってね」

「ねぇ〜〜」


 声は風にのって飛んできています。

 でも、この周囲に小さな子ども達なんていたんだろうか?


 近所の子どもたちは、いつの間にか大きくなって、いつのまにかちょっと大人顔をして歩くようになっています。


 周囲の家に小さな子はいない・・・、と思う。


 不思議に思って気まぐれから外に出ました。


 ふいに子どもたちが、こちらに向かって走ってきます。


 少年と少女のふたり連れは双子のように似ていた。

 彼らは前方から駆けてきて、風を起こして通り抜けていく。


 少女が叫ぶ!


「こっち、こっち」


 小さな身体で少年は、少女のあとをおぼつかない足取りで後を追う。


「待って、待ってよ!」


 風を追って疾走する姿は不思議なほど現実味がない……


 子どもたちは昭和初期のような、珍しい格好をしていたからです。

 おかっぱ頭の女の子に、刈り上げた髪型の男の子。


 いまどき、風流な、いっそ新鮮に感じる姿で、私は思わず微笑みをうかべました。


 黄色いチェックのちんちくりんのシャツにヒダスカートをはいた少女と、

 少し大きめのダブダブのズボンをはいた少年。


 いくつくらいだろうか。まだ、学校へ上がる前にちがいない。



 ふたりは大声で笑い、それから、こちらをチラっと見ました。

 はじめてこちらを振り向いた顔は、どこかで見たようななつかしさを感じて。


 どこかできっと会っている。

 それも家の近くじゃない、ずっと遠くのどこかで。


 彼らはやせ細っていました。


 満足に食事をしていないのだろうか。


 それでも、笑いながら駆けていく。


 と、空で轟音が満ち、低空飛行する飛行機が高度を下げた。

 防空サイレンが鳴り響いています。


「戻ってらっしゃい!」


 母親が悲痛な声で叫ぶ。


 その声に、少女は立ち止まり、少年は聞こうとしなかった。

 姉を追い越した少年は得意げに背後を振り返りました。


 爆音がした。


 少年のいた位置に火柱が立ち、そして、少女の顔が硬直して。


 彼女の先には真っ黒に焦げた穴しか残っていない。


 少年は消えました。


 少女は一瞬で大人の顔になり、私を見たのです。


 一陣の風が吹き抜け……。

 少女の姿は風にゆらぎ、それから、すぅっと消えました。


 

 後には風の音しか聞こえてこない、


 美しい、初夏の香りが樹木から漂い、かたわらを過ぎて、去っていく。


 

……もうすぐ、終戦から76年。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 雨の短編は、キレがいい!!! としか。 今は言えぬ。なぜなら。 悔しいからです(笑) 佳品です。 おもわず、レビュー書いちゃったよ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ