今日は優しく穏やかな一日
昨日、夕刻から買い物に出かけました。
新型コロナウィルスの蔓延から買い物時間を変えていて、夕刻はスーパーの人も少ない。
でも雨混じりの風が思いのほか強く。
吹き飛ばされそうになって、びっくりしました。
今日は昨日の荒天が嘘のように穏やかな日になっています。
なぜか、こういう穏やかな天候が少なくなった気がして、
昔は、もっと穏やかな日が多かったように思えます。
穏やかで、ずっと優しかったような。
昼下がり、パソコン前の窓を開けていると、近所の人の声が聞こえてきました。
少しとんがった声も聞こえる。
その声は興奮したようにも、怒ったようにも感じる声で、母親のようだけど、実際は怒っているんじゃない。ただ、小さな子にお母さんが注意しているだけ。
「ほら、もういい加減にしなさい。遊んでないで、手伝って!」
「ふふふ」
「だってね」
「ねぇ〜〜」
声は風にのって飛んできています。
でも、この周囲に小さな子ども達なんていたんだろうか?
近所の子どもたちは、いつの間にか大きくなって、いつのまにかちょっと大人顔をして歩くようになっています。
周囲の家に小さな子はいない・・・、と思う。
不思議に思って気まぐれから外に出ました。
ふいに子どもたちが、こちらに向かって走ってきます。
少年と少女のふたり連れは双子のように似ていた。
彼らは前方から駆けてきて、風を起こして通り抜けていく。
少女が叫ぶ!
「こっち、こっち」
小さな身体で少年は、少女のあとをおぼつかない足取りで後を追う。
「待って、待ってよ!」
風を追って疾走する姿は不思議なほど現実味がない……
子どもたちは昭和初期のような、珍しい格好をしていたからです。
おかっぱ頭の女の子に、刈り上げた髪型の男の子。
いまどき、風流な、いっそ新鮮に感じる姿で、私は思わず微笑みをうかべました。
黄色いチェックのちんちくりんのシャツにヒダスカートをはいた少女と、
少し大きめのダブダブのズボンをはいた少年。
いくつくらいだろうか。まだ、学校へ上がる前にちがいない。
ふたりは大声で笑い、それから、こちらをチラっと見ました。
はじめてこちらを振り向いた顔は、どこかで見たようななつかしさを感じて。
どこかできっと会っている。
それも家の近くじゃない、ずっと遠くのどこかで。
彼らはやせ細っていました。
満足に食事をしていないのだろうか。
それでも、笑いながら駆けていく。
と、空で轟音が満ち、低空飛行する飛行機が高度を下げた。
防空サイレンが鳴り響いています。
「戻ってらっしゃい!」
母親が悲痛な声で叫ぶ。
その声に、少女は立ち止まり、少年は聞こうとしなかった。
姉を追い越した少年は得意げに背後を振り返りました。
爆音がした。
少年のいた位置に火柱が立ち、そして、少女の顔が硬直して。
彼女の先には真っ黒に焦げた穴しか残っていない。
少年は消えました。
少女は一瞬で大人の顔になり、私を見たのです。
一陣の風が吹き抜け……。
少女の姿は風にゆらぎ、それから、すぅっと消えました。
後には風の音しか聞こえてこない、
美しい、初夏の香りが樹木から漂い、かたわらを過ぎて、去っていく。
……もうすぐ、終戦から76年。