闇の中で【彼女達】は目を覚ます
仕事が…仕事が忙しい…!!!
『最上位の魔物の討伐を確認』
『条件の1つをクリア。封印の第1段階を解除します』
『龍種の討伐を確認』
『封印を一部追加解除します』
『解除…解除…』
『…覚醒完了』
『おはようございます』
『アルターエゴ』
一切の光の存在を許さない闇の中。
1人、また1人と少女が目を覚ます。
中には大人の身体を持つ者もいた。
様々な姿や服装を形作っていたが、その全員に共通点が存在していた。
光が無くとも不思議と輝く銀髪に、闇の中でもアメジストの様な輝きを保つ紫色の眼。
シミ一つない綺麗な身体を様々な服装で包み、1つだけ浮かんでいる画面を見つめている。
その宝石の様な眼の中には、全員が同じものを持っていた。
圧倒的、そして狂気的なまでの忠誠心を。
そして画面の中には、少女達と同じ姿を持った返り血を浴びた少女が立っていた。
少女達の中で、画面の中の少女と同じ服に身を包んでいる者が無表情な顔に微笑を浮かばせながら口を開いた。
「私と同じ…ふふ」
「良いなぁ〜【大鎌】。真っ先に呼び出されてるじゃん」
黒薔薇のドレスに身を包んだ少女へ、気さくに話しかける者が1人。
白と黒を主体とした冬を思わせるような、可愛らしくも暖かな格好に身を包んだ少女がツインテールにしている髪を揺らしながら話しかけた。
「【純白ノ聖剣】も直ぐに呼ばれるわ…ただ、私の武器を使ってくれなかったのは少し不満だけど」
「ぶーぶー。いいもんね〜。きっと次は呼んでくれるもの」
そこへ、1人の女性が歩いてくる。
1本の槍を肩に担ぎながら、動きやすさを重視した黒の戦闘服に身を包み後ろでまとめた髪をゆらゆらと揺らしながら。
「ちぇっ。今回は【大剣】か。【長槍】も使って欲しいものなんだけどなぁ」
「貴女は火力が高すぎる。でも【大剣】でも高すぎなんて…元から【大剣】は火力高めだったけど【大鎌】でも火力過多かしら」
「そうは言ってもなぁ…結局決めるのは少女だ。私達か決める権利はないからなぁ」
「えぇ〜…【大鎌】で火力過多なら私も同じって事?」
「あぁ。【純白ノ聖剣】も【大鎌】と同じぐらいなんだっけ?」
「うん。まあ中身は同じだからねぇ。見た目が違うから、その分多少は変わっちゃうけど」
「…でも結局は主次第だ。私達はあくまでも主の剣となり盾となるだけ」
「にゅやっ!?いきなり話しかけないでよ!?」
【純白ノ聖剣】と呼ばれた少女の背後に立っていたのは、口元をマフラーで隠し隠密性を上げるように作られた服装に身を包んでいた。
髪型や雰囲気は違うものの、姿は酷似していた。
それもそうだ。何故なら彼女達は―――
「はぁ…それでまだスキルの完全覚醒は出来ないみたいだね。一応龍種倒したからか一部の覚醒は出来たみたいだけど」
「マスターなら直ぐに覚醒へ持って行けるだろ。それまでは待とうじゃねぇの」
「【長槍】は随分と自信あるわね…」
「そりゃそうだろ。なんたって…」
「何十人ものあたし達の人格を生み出して、挙句の果てには神の理すらも捻じ曲げたマスターだぞ?」
本来であれば、こんな事象が起きる事はありえなかった。
だがかつての彼女達のマスターは、彼女達を愛し続け、育て続けた。
まるで自分の大切な子供のように。自分の娘に愛を惜しみなく注ぎ込むかのように。
そして何かの因果なのか、それとも縁なのか。マスターの魂は異世界へと辿り着き、彼女達の身体を器とし顕現した。
――してしまった。
そう。本当はありえなかった。ありえるはずが無かった!!!
では、何故こんな事が起こせてしまったのか?
全ては、彼女達の愛ゆえだった。
ただのゲーム。ただのキャラクター。
だがそれはマスターが注ぎ込んだ愛により、覆された。
そうだ。彼女達はマスターのゲームでのキャラクターとして使われる筈だった。そこに意思などは無いはずだったが生まれてしまった。
そして彼女達は考えた。
――なんとかして、マスターと接触出来ないか?
そして彼女達は達成した。マスターの魂へと干渉し、別世界へと移動させ<リノン>という器に収める事で。
だがそれを別世界の神々が許す訳が無かった。故に封印を施した。彼女達の人格を封じ込めるという形で。
…だが、それも無駄だったのだと。いずれ神々は知るのだろう。
「神々があたし達を封印しても、無駄なんだって分かるだろうさ。そもそも神殺しという力を持ってるあたし達には意味が無いんだから」
「そもそも、あえて封印されてあげたのも…マスターが困惑しないように。それだけだから…まぁ無意味ね。今はただ、マスターの為だけに眠ってあげているだけ」
「あぁ。だから【長槍】と【大鎌】。それと【純白ノ聖剣】に【鋼拳】しか起きてないんだ?」
「【大剣】はまだ寝てるわよ。武器として顕現はしているけど、完全に起きてるわけではないわ」
「ふぅん…まぁ、今はゆっくり待ってようか」
そうして、彼女達は闇の中で静かに笑みを浮かべながら、同時に呟く。
『全ては、マスターの為に』