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家?

「でも私、馬鹿だったのね……。あの時、『家の認識』を間違ってしまったの……」


 緑花が言う。


「間違った?」

「あの男を支える者たち……。この地に暮らし、あの男に魅せられた皆を『家』として認識してしまったのよ……」


 愚かだった……と、緑花は言った。


 座敷童が「家につく」と言った時、その対象は家族だ。

 一般的に家族と言えば数人、多くても十数人だろう。

 けれど緑花は、この地で最初の男と暮らしている者すべてを、家――家族とみなしてしまったのだと……。


「気がついたら、百人くらい守護していたわ……」

「え、百?」

「だって気がついたら弟子とか増えてて、その各々が家庭を持ったりするから……」


 そこで産まれた子などもすべて、家の一員として認識してしまったらしい。


「それは多すぎるだろう……」


 居るだけで自然に守護力が働き、人に幸運をもたらすとされる座敷童。

 だが、何の代償もなしに護られるわけではない。

 座敷童の力がその代償となるのだ。


 座敷童に家を護りたいという気持ちがあれば、そのために座敷童の力は自然と消費されていく。

 一般的な数の家族なら気にならない程度の消費だが、百人は多すぎる……。


「なんだってそんなことに……」

「仕方ないじゃない……。私、彼らと一緒だったんだもの……」

「一緒?なにが?」

「あの男に惹かれたってこと。あの男が持つ強い思いに惹かれ、支えたいって思った……。ここで暮らしていたものは皆そうだった……」


 同じ思いを持つ者達……。

 だから家族と認識してしまった――。


 座敷童は家族が互いに思い合う良の気を糧とする。

 緑花はこの地に暮らす皆を()の者として認識し、また祖となった男に惹かれたこともあって、その男に対する良の気を糧とするようになったのだと言った。


「だからちゃんと力は得ていたわ。それもかなり強い力だったのよ」


 そうで無ければ、こんなに危険で不便な場所に住む百人もの人間を、事故なく護りきるなんてできなかった。


「でもそれって、()なのか?」


 首を傾げるクロにスズメが言った。


「血の繋がりだけが家族ではないからな。婚姻や養子など縁あって迎え入れれば、血の繋がりなどなくとも家族であろう?」

「あー、まぁ、そう言うのはあるけど……」


 クロが思う家――家族とは違っている……。


「一つことに思いを同じくし、互いに思い合い、支え合って暮らしておったならそれは家族と呼んで良いのではないか?」


 というか……実際緑花は、そう()と認識していたのだから。


「うーん……そっか、ありなんだ……」

 

 そういえばここに来る前に、クロは他の座敷童を知らなさすぎると言われたが……。


「家っていう括りが、座敷童によって結構違うってことか……」


 そういえば紫鏡の家の認識も、クロとはかなり違っていた。

 まさか老女の思いの中にある家族を家と認識するなんて、思いもしなかった。


「あの男は良かった……。ちゃんと私を見ることが出来たし、声を聞くことも出来て、名前もくれた……」


 あの名をもらった途端、一気に力が引き上げられたんだと、緑花は嬉しそうに言う。


「緑花の名はそいつが付けたのか……」

「ええ、あの時自分の前にいきなり現れた私を見て、緑の花が咲いたみたいだって思ったんですって」


 だから緑花という名をくれた。


「私はあの男が見せてくれた糸が気に入ったから、その色をまねて衣を纏っただけだったんだけどね……」


 くふんと軽く照れたように笑う。


「緑花、よっぽどその男のこと気に入ってたんだな……」


 今の姿は茶の絣の着物。

 緑色が好きなんだろうに、敢えて違う色を纏うことに、緑花のこだわりを感じた。


 クロの言葉に緑花は肩を竦める。


「日の出の色より明るい赤、日暮れの色より優しい朱、山百合より美しい花――そんな素晴らしいものすべてを織り込んだ布をいつか作ってくれるって……。もし自分の寿命が足りなくなっても、いつかはきっと自分の後継となる者が作り出す……。そう言ったのに……」

「……置いて行かれた?」

「そういう事っ!」


 キュッと口元を引き締め、緑花は泉の湧水口を睨む。


「あの男以外は、数人がなんとなく私の気配がわかるかな?程度だった……。男は死ぬ直前まで、この地の守り神が泉を護っているから、この水を大切にしろ…って言ってたけど、そのことを信じる者は結局いなかったってことよ……」


 緑花はため息を付く。


「結構長生きだったのよ、あの男は……。百年ちょっと頑張って生きてくれたのよ……」

「へぇ!それは確かにずいぶん長命だな」


 いくら座敷童に護られているとはいえ、この地の様子からして、現代のように医療が発達していた時代ではないだろう。


「そうね……。大体五十年ほどの寿命が一般的だった頃よ」

「倍以上じゃないか!」


 凄いなーというクロに、緑花は目で泉を示す。


「ここの水のおかげよ」


 ああ…と納得する。


「なるほど……」


 温泉には飲用で体に良い効果があるものもある…と言うのは、結構広く知られていることだ。


「なかなかの万能選手だな、この泉!」

「枯れちゃったけどね……」

「……緑花が枯らしたわけじゃ無いんだよな?」

「竹は嫌いよ」


 もしかして――の思いで念のため確認するとしっかり否定される。

 やはり泉を枯らした犯人は竹で間違いないようだ。


「あの男が死んでから、ほんの数年で後の連中はこの地を捨てたわ」

「隠里とか言ってなかったか?」


 クロの言葉に、緑花は顔をゆがめ少し泣きそうな顔をする。


「ここで暮らしていた連中は、結局はあの男の染織の作品や技を、ほかの者に取られたくなくて集まってただけだったのよ……」


 男が死んだあと、弟子や家族の間で熾烈な跡目争いが起こったのだと言う。


「あの男が生み出す美しく気高い色の秘密はこの水――。だけどあの男はそのことを弟子や家族に教えていなかった。そしたら男の死後、残された者達は、男が残した書付をめぐって争いだしたの……」


 愚か者ばかりだったと緑花は言う。

 

「でもその書付って、男が年を取って色の配合が覚束なくなったから、取り敢えず書きつけただけだったの。それを秘伝書だとか言って……」

「どうしてそんな勘違いを……。てか、男はなんで水のことを教えなかったんだ?」

「あら、当たり前じゃないの」


 と緑花はクロに呆れた目を向けた。

 

「だって考えてもみてよ。あの男は自分で必死に調べ、散々歩き回ってここにたどり着いたのよ?ここに来てからも、納得いくまで何度も染めを繰り返していた……。雪が降る日や、氷が張る日にだってね……。そうやって見つけた知識を、どうしてたいして苦労もしてない人間に、ほいほい教えてあげなくちゃいけないの?」


 電車も車も電話もパソコンも図書館も無い時代――。

 どれほど苦労したことか……。

 ここにたどり着けるという、男の持って生まれた()ももちろんあっただろうが、それもきっと男の染織に対する執念が引き寄せたからだろう――。

 その末に得たものを、そう安々と誰かに教えようと思えるはずがない。


「けど弟子だったんだろう?」

「そうよ。ここで一緒に染めも織もやっていたわ。だから、()()()()()()でしょう?」

「あ、そうか……」


 本気でその道に進むと決め、真摯に向き合っていたのなら、自分で気がつけるはずのことだ。

 でも弟子だからと、教えてもらえることに甘えていては、気がつけるはずのことに気づけない……。


「あの男はここに初めて来たときに、一口飲んだだけで気がついたのよ。これだ!って……」


 自分の思う色を探して、本気で必死になっていたからだ。


「ここに住んで、己が師匠と崇拝した相手と共にここで活動していて……気がつけない方が悪いのよ」

 

 むすっとして言う緑花は、弟子の誰かは水に気がつくと思っていたのだろう。


「で、みんな出てっちゃったんだ?」

「ええ……。自分たちで独占したかったもの(祖となった男)が無くなっちゃったら、あえてこんな場所で暮らすことないって……」

「書付争奪戦はどうなったんだ?」

「妹の娘――確か姪だったと思うわ。その子が弟子の誰かと手を組んで、最終的に持って行った気がするわ」


 あんなもの持って行ったところで、ここの水が無ければ、思うような色を出せないのだけど……。

 そう言う緑花は、本当にその書付に興味はなかったようで、持ち去った者の記憶も少しあやふやだ。


「でも一応その後の様子は見に行ったんだろ?」


 向こうの水を見に行ったと言っていた。


「だって、約束があったでしょう?」


 『自分の寿命が足りなくなっても、いつかはきっと自分の後継となる者が作り出す』


「男は、自分の弟子たちを信じてたのかな……」

「知らない」


 ぷん!と緑花は言う。

 クロは、もし男が自分の弟子達を信じていたなら、己亡き後の希望を託して水の秘密を告げるんじゃないかと思った――。

 だとしたら、男の言う後継って……。


お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m

よろしければぜひまた続きを読みに来てください(o_ _)o))

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